精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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269話 やったね姉妹が増えるよ

「よ、ようこそいらっしゃいましゅた」

 

 開口一番に台詞を噛んだのは、エリン・エンフィールドである。

 ここはエンフィールド辺境伯領にある、最近完成したばかりの辺境伯の館。

 

 エンフィールドに視察団が到着し、開拓が始まっておよそ半年が経過。

 主要な建物のほとんどが完成し運用が始まっている。

 

 前世の知識を持つシキからすると相当に早い建築速度だが、異世界には異世界の、魔術や加護を使った建築ノウハウがあるようだ。

 またスプリガンの完璧な整地(ラプソディぶっぱ)も時短に一役買っている。

 

 王族との打ち合わせを終えたシキは、家族水入らずの夜を過ごしている。

 ということにして、転移でエンフィールドまで帰ってきた。

 目的はエフェメラとエンフィールド辺境伯家の顔合わせである。

 

「おお……その黒髪と黒い瞳、そして顔立ち。シキの母親に間違いない。エフェメラ殿、よくぞ無事に戻られた」

 

 シキの義祖父ロナンド・エンフィールドが感極まり涙を流す。

 その場に崩れ落ちそうになったので、シキが慌てて支える。

 

「じいちゃん、ほら椅子に座って」

 

「すまんのう。シキが本当の家族と再会できたことが、嬉しくて嬉しくて仕方がないのじゃ」

 

「言っておくけど、ロナンドじいちゃんとエリン母様だって本当の家族だからね」

 

「その通りです。ロナンド様、エリン様。私はエフェメラ・レドークと申します。私が不甲斐ないばかりに、シキと離れ離れになってしまいました。シキがこうして健やかに育ったのはお二人のおかげです。伏してお礼申し上げます」

 

「あっ、頭を上げてください。エフェメラ様」

 

 エフェメラが跪くと、開幕噛んでフリーズしていたエリンがようやく再起動。

 手を取って立ち上がらせた。

 

「たった一人で住んでいたカドナ村を守ったのですよね。不甲斐なくなんてありません。私も冒険者の端くれですので、尊敬いたします」

 

「エリン様は第二位階冒険者で〈剣姫〉という二つ名を持つと伺っています、そのような方から尊敬して頂けるなんて光栄です。是非お手並みを拝見したいですわ」

 

「でしたら一緒に樹海を巡りましょう。魔素が濃い影響で手強い魔獣が多いんですよ」

 

「まぁ、それは楽しみです。鈍った体の感覚を取り戻したいと思っていたの」

 

 不敵な笑みを浮かべる母二人。

 

「私のことはどうかエリンと呼び捨てにしてください」

 

「でしたら私のこともエフィと。あの、これはもしよければなのですが」

 

「なんでしょう?」

 

 躊躇いがちに聞いてくるエフェメラに、エリンが小首を傾げた。

 

「私の実年齢は二十八ですが、外様の神の〈奈落の呪い〉によって十年間封印されていました。なので私からすると十年前のことが、つい先日の出来事なのです。つまり気持ちはまだ十八歳といいますか」

 

「〈上位治療薬〉で母さんの体は当時の状態のまま再生したから、肉体年齢も十八歳で間違いないよ。自信を持っていいよ」

 

 年齢のサバを読んでいるみたいで後ろめたいのだろう。

 エフェメラが恥ずかしそうに俯いていた。

 

「どうりで若いわけね。それじゃぁ私が二歳年上か」

 

「はい。なのでエリンお姉様と呼んでもよかったでしょうか?」

 

「……!?」

 

「私は隣国エルワンの戦争孤児で、伯爵家に引き取られました。似たような境遇の子は他におらず、姉妹というものに憧れていたんです」

 

 ちなみにこのやりとりは王城でも発生している。

 エフェメラは正式にコンスタンティンと婚姻を結び、王族の一員となった。

 そしてフランルージュ、イルミナージェ、ラシールと姉妹の契りを交わして大いに盛り上がる。

 

 うっかり「え、お姉様にしては年齢が……」という感情を表情に出してしまったアレクサンドは、フランルージュに蹴られていた。

 夫婦仲がよろしいことで。

 

「シキの言う通り、私にとってもお二人は恩人であり家族です。ロナンドお父様、エリンお姉様と呼ばせて頂けないでしょうか」

 

 上目遣いでおねだりするエフェメラに、エリンは耐えられなかったようだ。

 握っていた手を引き寄せて、抱きしめながら宣言した。

 

「もちろんいいわ。今から私たちは姉妹よ、エフィ」

 

「ありがとう、エリンお姉様」

 

「エリンもあんなに緊張していたのに、あっさり打ち解けてしまったのう」

 

「だねぇ。まぁエフェメラ母さんとエリン母様って、結構似てるところがあるし、気が合うんじゃないかなとは思ってたよ」

 

 喜び合う二人を見ながら、ロナンドとシキが感想を漏らした。

 シキはエフェメラとカドナ村で暮らしていた、赤ん坊時代を思い出す。

 

 言い寄ってくる男には冷たかったが、それ以外では村人と積極的に交流していた。

 最たる例は隣の家のステナおばさんだ。

 エフェメラの戦争孤児という生い立ちから考えると、姉妹といった絆を求めるのは人恋しさの表れなのかもしれない。

 

 政争で仕方がなかったとはいえ、エフェメラを放逐したコンスタンティンに憤りを覚えるシキ。

 コンスタンティンは〈パイロット登録〉していないので、王城で留守番だ。

 

 転移の回数に制限がないことは、コンスタンティンには説明してある。

 ただし転移できるようになる〈パイロット登録〉には限りがあると伝えると、本当に必要になるまでは自分は登録不要だと辞退してきた。

 

 エフェメラを連れ帰ってわかったことだが、コンスタンティンは彼女にベタ惚れだ。

 クールな真顔こそ崩さないが、常にエフェメラのことを見ている。

 

 コンスタンティンは気難しい性格で、長年の幽閉生活によりコミュ障が加速していた。

 これはエフェメラのためにも強制的に〈パイロット登録〉して、あちこち連れまわしてやるか。

 密かにシキが企んでいると……

 

『ご主人様、おかえりなさい!』

 

 ボイスチャット上に元気溌溂とした声が鳴り響く。

 続いて上から突然少女が降ってきたので、シキが抱き止める。

 

「ただいま、シアニス」

 

 本日のエンフィールド大樹海防衛任務(シフト制)を終えて〈降機〉してきたのだ。

 お姫様抱っこされたシアニスが、嬉しそうにシキの首筋に顔を擦り付ける。

 

 シキの腕の隙間からはみ出た犬の尻尾は、これでもかとブンブン振るわれていた。

 完全にご主人の帰宅を喜ぶ犬である。

 

 最初の頃は何の前触れもなくシキに飛びつきオルティエに怒られていたが、現在はボイスチャットで事前に知らせるようにしていた。

 シアニスはひとしきりシキに甘えた後、ロナンドともハグをする。

 

 ロナンドからすればシアニスは孫のようなもので、可愛くて仕方がないのだろう。

 目尻を下げ好々爺モードだ。

 

 その次はエリンとエフェメラで、シアニスは愛嬌を振りまきながら近づく。

 二人からわしゃわしゃと撫でまわされると、嬉しそうに目を細めた。

 繰り返すが、反応が完全に犬である。

 

「あ、ついでに他のスプリガンも紹介しよう。エフィ母さんは迷宮で会った面子しか知らないだろうし。いいかな? オルティエ」

 

「はい、お任せください。こちらで防衛シフトを調整します」

 

「オルティエを含めて十三人いるんですって?」

 

「一人増えたから十四人かな。みんな大切な仲間だから、エリン母様と同様に姉妹だと思ってくれていいよ。シアニスもいいよね?」

 

「はい! もちろんです! ええと……エフィお姉ちゃん?」

 

「はうっ!?」

 

「わ、私は?」

 

「エリンお姉ちゃん!」

 

「はううっ!?」

 

 屈託のない笑顔でのお姉ちゃん呼びに、心臓(ハート)を撃ち抜かれたようだ。

 母二人は胸を押さえて悶えていた。

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