精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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270話 S.L.C

 エフェメラとスプリガンたちの自己紹介が終わったところで、エフェメラは王都に送り届けた。

 再会した日の夜だ。

 

 夫婦水入らずで好きなだけ燃え上がるといい。

 前世持ちというカミングアウトも、気を使って後回しにしたシキである。

 

 いずれにせよエンフィールド辺境伯領でのエフェメラのお披露目は、公表している転移のリキャストタイムである一週間後だ。

 その時にコンスタンティンも〈パイロット登録〉して、じっくり話し合うと決めた。

 

 シキは辺境伯の館で一泊する。

 今晩の同衾シフトは〈GS-202 マニ・ルーン〉。

 彼女をガチャで引き当ててから九日経つが、ようやく同衾シフトの最後尾まで回ってきたのであった。

 

「ついに初夜を迎えるのだな、我が主よ。はあはあ」

 

「だから言い方……てか一緒に寝るだけだよ。なんてったって全年齢版だからね」

 

「ぐぬぬ」

 

 不満げに唸るマニ。

 しかしベッドに入りシキを抱き寄せると、すぐに態度を変えた。

 

「わかったぞ、わかったぞ。一晩主を独り占めできるのが、この同衾の素晴らしいところだ。普段はオルティエ殿ともう一人が付きっきりだからのう」

 

 マニの加入により、エンフィールド大樹海の防衛ラインの人員に余裕ができた。

 これにより一名は丸一日休日を取れるようになったのだ。

 

 シキがマスターになる以前のコアAIたちは、換装式汎用人型機動兵(スプリガン)器のパイロットとして搭乗したまま332年間、防衛ラインを不眠不休で守り続けていた。

 

 生身の人間では不眠不休など不可能。

 しかし Break off Online というソシャゲのシステムがそれを可能にしていた。

 

 ゲームシステム上に生理現象や寿命、疲労や絶食による衰弱といった設定がないため、コアAIたちはそれらの影響を受けない。

 影響を受けないが、嗜む事はできるのだから不思議ではあるが。

 

 シキがマスターになると、CRによる機体強化、〈ユニット転送〉による転移が可能になりコアAIたちに余力が生まれる。

 樹海の北西部の岩盤を掘って作った秘密基地、通称エアスト村で寛いだり、シキと行動を共にするようになっていた。

 

 まだまだホワイトな職場とは言い難い。

 エンフィールド辺境伯領が発展し、人が増え戦力が整えば、スプリガンに頼らない新たな防衛ラインを作れるかもしれない。

 

 状況は変わりつつある。

 運営から告知のあった新シナリオ〈外征輝星たちの伝承詩〉。

 

 これが五十日後に始まるわけだが、その内容は一切が不明だ。

 場合によっては樹海の防衛に支障をきたすかもしれない。

 

 明日、オルティエに相談しないと。

 マニの柔らかい胸といい匂いに包まれながら、シキは眠りについた。

 

 

 

「ねえシキ。いくら貴方と契約している精霊様だからといっても、同衾はよくないと思うの」

 

「うん、まあ、そうだね」

 

 翌朝、シキはエフェメラから既視感のある説教を受けていた。

 オルティエに頼んでシキを起こしにやってきたエフェメラが見たのは、マニと抱き合って眠っている光景だ。

 

 都合十四人の美女、美少女たちとの同衾にシキは慣れている。

 いつもの日常の一コマだが、エフェメラには奇異に映っていたことだろう。

 

 あれ、こっちが起こしに行くつもりだったのに随分と早いな。

 昨晩は燃え上がらなかったのだろうか。

 シキはボイスチャットでリファに確認……はさすがにやめておいた。

 

 まだ眠っているマニを引き剝がして上半身を起こす。

 いつのまにかマニの使い魔たちもいて、烏のヘカテは窓の縁、鼠のアルテは枕元で眠っていた。

 

 猫のセレネが見当たらないと思ったら、足元の毛布が丸く膨らんでいる。

 もぞもぞ動いていて、かわいい。

 

「う……ん……」

 

 まだ寝ぼけているマニが艶めかしい声を出している。

 衣装ガチャのパジャマ(ネグリジェ)を着ていて、両方の肩紐がずり落ちているが、胸が露わになることは決してない。

 

 全年齢版の鉄壁仕様である。

 多分スカートの中身を覗いても、漆黒の闇になっているだろう。

 一昔前のゲームのようだ。

 

 スプリガンたちは自分の意思で脱ぐこともできないし、服が破損するような攻撃を受けても破れない。

 物理法則を完全に無視しているが、転移やストレージボックスがあるのだから今更である。

 

 だから同衾しても間違いが起こることは決してないのだが、エフェメラには理解できないだろう。

 絶体絶命のピンチ?

 否、チャンスである。

 

「ふわぁ、おはよう我が主。なんて清々しい朝……ふぁっ!? 主の母上殿!」

 

 目覚めたマニがベッドの脇で仁王立ちするエフェメラを見て、素っ頓狂な声を上げて胸元を毛布で隠す。

 まるで不倫現場を見られたような反応だ。

 

「こ、これは違うのじゃ、主の母上」

 

「いや、別に何も違わないけどね。うんうん、そうだよね。俺ももうすぐ十三歳だし、いつまでも子供扱いされるのもおかしな話だよね」

 

「マスター、何を仰りたいので……?」

 

 不穏な空気を察知したのだろう。

 オルティエがどこからともなく現れてシキに問いかける。

 

『みんなおはよう。いきなりだけど、俺は十三歳になったら一人で寝るから』

 

『『『『『!!!!!!!!!!!!!!』』』』』

 

「ぐおお、耳が」

 

 つんざくような抗議の声でシキの脳が揺さぶられる。

 これで三度目だというのに、うっかりしていた。

 

 とはいえ前回よりはボリュームは控えめ。

 同衾することに異常な執着を見せるのは、一部の変態とおませさんくらいだからだ。

 

 シキに向けられるスプリガンの愛情の形は様々である。

 一部のスプリガンだけが同衾できるのはずるい。

 だから自分も、くらいの感覚の者が大半だ。

 

「ああああ主、どうしてそんなこと言うのじゃ?」

 

「いやだって、実の母親がよくないって言ってるし」

 

「ぐぬぬぬぬぬ」

 

「で、ですがマスター」

 

「あと少ししたら、俺の二次性徴も始まるんだよね? ナノマシンで健康な肉体が保たれている割に、地味に遅くないか?」

 

「それは……」

 

「もしかしたら異性と同衾しているせいで俺が無意識に我慢してて、健全な成長を妨げているかもしれないよ?」

 

 そんなまさか。

 オルティエがシキの体を小型情報端末でスキャンする。

 身体情報を更新し、ホルモン分泌量の推移からシキの二次性徴の始まりを予測すると……

 

「当初より一か月、遅れてい、る」

 

 衝撃の事実にオルティエはその場に崩れ落ちた。

 体内のホルモン分泌の司令塔は、脳の奥にある視床下部である。

 つまり脳がホルモン分泌を拒否すれば、二次性徴が遅れる可能性は十分にあった。

 

「申し訳ありませんでした、マスター。私は、私たちは己の欲望を優先する余り、マスターの成長を阻害していたようです」

 

「え、いやそこまで深刻にならなくていいよ?」

 

 顔面蒼白で今にも泣き出しそうなオルティエに、今度はシキが慌てる。

 それっぽいことを言っただけのつもりだったが、的を射ていた。

 

「本日をもって同衾は終了します。マスターの健康管理に失敗するなんて、総合支援AIとして失格です。いかなる処罰でも受ける覚悟です」

 

「いやいや、ほんとそこまでじゃないから」

 

 別にシキだって同衾が嫌なわけではないのだ。

 スキンシップを求めるスプリガンたちを無下にもしたくもない。

 

 ただし心身の成長に合わせて、適切な距離感というものはあるだろう。

 親しき仲にも礼儀ありだ。

 

 同衾をすぐにやめる、やめないで揉めた。

 最終的に、シキが宣言していた十三歳の誕生日までということで決まった。

 オルティエへの処罰もなしだ。

 

 

 

 ちなみに同衾シフトの最後、マニの後ろにエフェメラもしれっと追加されていた。

 え、咎めておいてさすがにそれはちょっとずるくね?

 

 そう思わないでもないシキだが、十年間の母子の絆を取り戻すためと言われると……うん、まぁ。

 むしろ実母は別枠だからと、十三歳以降も同衾すると言い出さないだけ周囲に気を使っているかも?

 

 若干腑に落ちないが、受け入れるのであった。

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