精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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276話 そういえば悪役令嬢だったわ

『えー、というわけで俺の半生を改めて説明すると、二歳の頃に母さんと生き別れ、その直後に人攫いに誘拐された。売られた先がガスレット子爵家。暫く軟禁されたけど四歳の頃に隙を見て脱走。スラム街の孤児を経て孤児院に入った。そして八歳の時に再び誘拐される。この時の実行犯がトラステン男爵家。俺は他の誘拐された子たちと一緒に国外に売られそうになったけど、偶然居合わせたエリン母様と協力してトラステン男爵家を倒した。この時にガスレット子爵家が指示役として関与したと疑われたが、証拠不十分で罪には問えなかったんだ』

 

 先程泣いてしまった照れ隠しもあって、シキの説明は早口だった。

 

『今回ジルクバルド第一王子からの情報で、ガスレット子爵家の背後に邪人の吸脳鬼がいることがわかった。俺は邪人や外様の神から〈大敵(アークエネミー)〉と認定されているらしいので、もしかしたら最初の誘拐から狙われていた可能性もある。その辺りをはっきりさせるには、暗躍している吸脳鬼を捕まえないといけないけど、どうかな? オルティエ』

 

『現時点で屋敷周辺に配置している小型情報端末に反応はありません』

 

 オズワルドたちの状態からして、吸脳鬼が関与していたのは間違いない。

 ただ現在も関与しているかは微妙なところである。

 吸脳鬼同士は情報共有できるようなので、ベリーズ討伐と同時に撤退しているかもしれない。

 

 ジーナとガスレット子爵家当主の会食は滞りなく終わった。

 今回の訪問目的は、ずばり一般奴隷の買い付けである。

 

 シキ・エンフィールド辺境伯が国交のない隣国、ブレイル獣王国の親書を持って凱旋。

 王族は国交樹立のための南部開拓を決定し、各地の貴族に支援を求める声明を出す予定だ。

 

 声明はこれからなので、ガスレット子爵家には先んじて伝えたことになる。

 ここで労働力としての奴隷を格安で進んで提供し、王族に恭順を示すのであれば、昔からある違法奴隷疑惑は追及しない。

 

 名誉回復のチャンスだぞ。

 ジーナは会食の中で貴族言葉を使い迂遠にそう伝える。

 ガスレット子爵家当主の答えは「適正価格で売りましょう」だった。

 

 まぁ想定内だ。

 表向きは国に貢献するためと謳ったとしても、格安で奴隷を提供をしてしまえば、違法奴隷疑惑が真実であったと認めるようなもの。

 

 じゃぁ普通に買うから明日奴隷を見せて頂戴。

 奴隷のリストがあるから、わざわざ見なくても……。

 

 当主は難色を示したが、商品は自分の目で見て買うとジーナは突っぱねた。

 ジーナが直接出向くのはもちろん、違法奴隷を見つけて物証を得るためである。

 

『今夜、動きがあるかは微妙かな』

 

『監視は我々に任せてマスターはお休みください』

 

『うん、わかった。プリマも頑張ってね』

 

『任せて』

 

 今回のゼーレの中の人は〈SG-069 プリマ・グリエ〉だ。

 パワードスーツ〈GGT-117 ゼーレ〉は全身を覆うタイプで、着用者の体格に合わせて内部構造も調整される。

 変声機能でイケオジボイスになるため、口調にさえ気をつければ誰でもゼーレになれるのであった。

 

『ところでジーナさん、なんでそわそわしてるんだろう? やっぱり襲撃されるかもしれないから緊張してるのかな?』

 

 シキが小型情報端末の映像を見ながら首を傾げた。

 あてがわれた居室にジーナがひとりきり。

 

 ティオとアリスは隣接する部屋で待機。

 ゼーレは部屋の扉の前で仁王立ちして警護に当たっていた。

 ジーナはベッドのふちに座ったり立ったり、歩き回ったりとせわしない。

 

『主君、ジーナはゼーレの夜這いに期待している。何度か護衛してるけど、毎回こうなる』

 

『ええ……護衛中に何を期待しとんねん』

 

 ゼーレは王都での活動を増やしている。

 活躍することで、主であるシキ・エンフィールド辺境伯の名声を高めるためだ。

 

 そう言われるとジーナの表情はどこか物憂げで色っぽい。

 身に着けているネグリジェもスケスケで、見えてはいけないものが見え……

 

「シキ、まさか精霊の力でジーナ様の部屋を覗くなんて、いけないことはしてないわよね?」

 

「あっはいすみません」

 

 そういえばエフェメラにもボイスチャットは繋いだままであった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜は何事もなく過ぎて朝を迎える。

 ジーナは遅めの朝食を取ってから、ガスレット子爵の館を出発した。

 付き添いはオズワルドと部下が数名。

 

「ジーナ様。労働力となる奴隷は農奴として使っています。ですので我が子爵家の運営する商会の会頭と合流した後は、何ヵ所かの農場を回ることになります」

 

「もちろんわかっているわ。順番に案内して頂戴」

 

『奴隷っていうと檻に入れられて、買われるのを待っているイメージがあったけど、改めて考えるとそれって無駄だよね。タダ飯食らいになっちゃうし』

 

『奴隷の用途にもよりますが、中には礼儀作法や技術の教育を受ける奴隷もいるようです』

 

 シキはエンフィールドの屋敷に戻って、引き続きジーナたちの動向を監視している。

 コンスタンティンは王城で公務、エフェメラはその付き添い兼護衛だ。

 

 脳内に声が響いても邪魔だろうから、二人へのボイスチャットは切ってある。

 決してエフェメラの小言を敬遠しているわけではない。

 ないのだ。

 

 一つ目の農場に到着すると、先回りしたオズワルドの部下により、奴隷は整列させられていた。

 南部開拓向けの奴隷ということで、開墾に特化した体力自慢の奴隷が揃っている。

 なんてことはなく、意外と小柄な人物や女性もちらほらいた。

 

「この女は土いじりが得意な魔術師でして、〈隷属の円環〉で《土変化》の魔術だけ使用を許可し、伐根や整地をさせています」

 

 奴隷だから全員が〈隷属の円環〉を付けているというわけでもない。

 一般奴隷は契約に則り働いているのだから、いちいち反抗したりはしなかった。

 

 そんなことをすれば犯罪奴隷に落とされる。

 ただし魔術師や強力な加護持ちのような、買い主に危害を加える可能性のある者は例外だ。

 

 ジーナを見ても奴隷たちの反応は薄い。

 今より環境の悪くなる南部開拓だと聞くと、顔を顰める者すらいた。

 

 女魔術師は土いじりが得意という割には、ローブからはみ出す勢いで、腕輪やネックレスをじゃらじゃら付けている。

 奴隷らしからぬ派手な格好だ。

 彼女も露骨に顔を背けて明後日の方向を見ている。

 

 ああそうか。

 魔術主体で本人が実際に土に触るわけじゃないから、そんな恰好でも別にいいのか。

 などとシキは内心で勝手に納得する。

 

 女魔術師は興味なさげに自分の髪を指先で弄んでいた。

 その様子を見てジーナは機嫌を悪くするどころか、不敵な笑みを浮かべている。

 ジーナが顎で指図すると、オズワルドが用意していた文言を読み上げた。

 

「南部開拓はレドーク王国の威信をかけた普請である。これに貢献した者は国王陛下の名において褒美を授ける。奴隷であればその身分から解放し、開拓地での市民権が与えられ、十年間の人頭税の免除、そして役人としての仕事が約束されるであろう」

 

 こうかはばつぐんだった。

 奴隷から解放されるだけでなく、免税に加え役人というポジションまで与えるというのだ。

 

 奴隷たちの態度は豹変。

 大声でジーナへのアピール合戦が始まった。

 

「俺を連れて行ってくだせぇ。馬車馬のように働くぞ」

「あっしなら一日三本の木を切り倒せます。だからどうか!」

「てめぇ嘘つくな! 精々一本だろうが。俺なら伐根込みでいけます!」

 

 ちなみに奴隷解放はともかくとして、市民権、免税、役人ポジションは開拓地の領主であるアートリース伯爵とこれから調整となる。

 つまり現時点では空手形だ。

 

 更に言えば貢献の程度も定員も名言していない。

 だから最悪対象者がいなくても嘘とは言えないのだ。

 

 貴族ってずるい。

 

「お姉様! 私は《土変化》以外に《水作成》や《発火》も使えます! お望みであれば夜の奉仕もしますからぁ」

 

 女魔術師の爆弾発言に周りの奴隷たちがぎょっとした。

 あれだけうるさかったのに、一瞬で静寂に包まれる。

 

 そんな彼らの様子をジーナは無言で観察していたが、すぐに背を向けて立ち去った。

 慌てて再開した奴隷たちの必死な声がジーナの背中に浴びせられるが、立ち止まらない。

 取り出した扇子で隠していたジーナの唇は、愉悦で弧を描いていた。

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