精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
「えーっと、ガラテア様の邪魔になるから場所を変えようか」
「エンフィールド卿。すごく気になるので私も参加させてください。皆さん、暫く休憩にしましょう」
ガラテアは役人たちを退出させると、侍女に紅茶とお茶請けの準備を命じる。
人数分の椅子を用意したり、テーブルの配置を変えたりしている間に、エフェメラがウルティアたちと自己紹介をしていた。
「え、シキのお母さん……!?」
正体を聞いて急に緊張するウルティア。
何なら人類滅亡を叫んだ時よりも息が荒くなっている。
「既視感のある光景だなぁ」
「少なくともあと三回は同じ光景を見る機会がありますよ」
「ですよね……え、三回も? 誰?」
オルティエが想定よりも多い数を言ってきたので、シキは戦慄した。
お茶の準備が整うと、色々な緊張で乾いていた喉を潤したウルティアが説明を始める。
「神託があったの」
ウルティアは【地母神の加護】の
神託は突然頭の中で鳴り響く。
大半が意味のない音楽だったり、変な効果音だったり、ウルティアの知らない言語だったりするが、ごく稀に理解できる言葉が聞こえた。
それが神託である。
つまり理解できる言葉以外は不要なのだが、幼い頃のウルティアにとっては、すべてが忌まわしい幻聴でしかなかった。
幻聴が聞こえると訴え続けた結果、気味悪がった両親にウルティアは捨てられ、孤児となった悲惨な過去を持つ。
「神託で人類滅亡の危機を告げられたってこと?」
「ううん、見えたの」
「見えた?」
「ウルティア様はエンフィールド辺境伯領に赴任以降、加護の力が強まっているようです。神託により神の声だけでなく、様々な光景が見えるようになりました」
「音には慣れたから夜中に神託があっても寝ていられるけど、瞼の内側でぴかぴか光られたらさすがに飛び起きちゃうよ」
最初は夢だと思ったらしい。
しかし目が覚めても視界が幻覚で覆われ続けたため、新たな神託の形だと気が付いたそうだ。
「ラジオの次はテレビかよ」
「てれ?」
「なんでもない。つまり人類が滅亡するような光景を見せられたのか」
「うん。空から魔王が降ってきたの」
ウルティアが最初に視た光景は、視界に広がる森と雲一つない青空。
そこがエンフィールド大樹海であることはすぐにわかった。
何故なら目の前に特徴的な大樹、聖樹があったからだ。
高さが300mを越える聖樹には、大型魔獣の聖樹守りが住み着いている。
聖樹守りは白い羽毛に覆われた丸い鳥で、足は短くほとんどが羽毛に埋もれていた。
翼を広げると30m近くあり、本体だけでも15m程の丸くて白くてもこもこした塊だ。
一方で嘴は巨体に比べると非常に小さく、白い巨体の真ん中に黒い三角形がくっついているようにしか見えない。
シキの前世の知識を使ってその姿を説明するなら、巨大シマエナガである。
聖樹の先端に止まっている聖樹守りは、つぶらな瞳で空を見上げた。
空から何かが降ってくる。
赤い尾を引いていて隕石のようにみえた。
しかしそれが接近して大きくなるにつれて、四肢を抱えて体を丸めた人型の物体であることがわかった。
「その巨人は金属の破片や棒のようなものや、お城の壁の残骸みたいなのが集まってできていたの。縮めていた手足を広げると、巨人は聖樹の上空でぴたりと止まったわ。急に止まったせいか、体に引っかかってただけの金属片がぽろぽろと剥がれ落ちてた」
「ちょ、ちょっとストップ! 」
シキはウルティアの説明を大声で待ったをかける。
そしてオルティエの手を引いて執務室の隅まで行ってしゃがみ込んだ。
『オルティエ。ウル姉の言う巨人ってもしかして』
『メナスである可能性が高いです』
ウルティアの述べる巨人の特徴はメナスと一致している。
『もうすぐ始まる外伝と関連してると思う?』
『メナスと外様の神に類似性があることからして、十分ありえる話かと』
『ううむ。外伝は俺たちだけでこっそりやるつもりだったけど、当てが外れたな。まさか神託経由でネタバレしてくるとは』
「シキ? どうしたの?」
「ごめん、なんでもないよ」
どう見てもなんでもあるのだが、とりあえず追及は後回しにしてくれるようだ。
皆の訝し気な視線を一身に集めながらシキは席に戻り……何故かオルティエがついてこないので手を引きに戻る。
皆の視線が微妙にシキの後方にずれていた。
「おっほん、失礼。ウル姉、続きをお願い」
「……」
ジト目のウルティアが説明を続ける。
聖樹守りは巨人を敵と認識したようだ。
聖樹から飛び立ち、巨人と同じ高さまで浮かび上がると攻撃を仕掛ける。
白い翼で大きく羽ばたくと、無数の風の刃が生まれて巨人へと殺到。
しかし見えない壁に阻まれた。
風圧一つ通していないようで、先程のように脆くなった金属片が巨人の体から落ちることもない。
巨人が緩慢な動きで反撃する。
歪な腕を持ち上げると、聖樹守りに掌を向けた。
直後、掌から太陽を直視したような閃光が迸る。
「Chirrrrrrrrrrrrp!」
叫んだ聖樹守りの胸元には、いつの間にか大きな穴が開いていた。
ぐったりした聖樹守りが錐揉みしながら落下し、聖樹の枝葉の中へと消えたところで場面が切り替わる。
今度はレドーク王国の王都上空。
浮かぶ巨人が地上に向かって掌を向けていて―――閃光を放つ。
僅かに遅れて轟音と爆風が地上で巻き起こる。
その閃光の着弾点にあった王城は跡形もなく消失。
地面には底の見えない大穴が開き、衝撃波で周囲の建物も消し飛んだ。
巨人は断続的に腕を動かして王都全体を攻撃する。
こうしてたった数度、光が瞬いただけで王都は簡単に壊滅した。
圧倒的な破壊を前にして、人々に抗う術など何一つない。
巨人は自らが破壊した街並みに目もくれず、何処かへと飛び去っていく。
瓦礫と死体の山だけが残り静寂が支配する王都に、一人だけ生存者がいる。
崩れ落ちて一階未満の高さになった塔の頂上に立ち、長い銀髪を風に靡かせながら飛び去る巨人を見上げていた。
司祭が纏うような薄手のローブを着たその人物が、不意にこちらに振り向く。
紫紺の瞳が特徴的な妖しい女だ。
彼女は何か言葉を発した。
しかし声は聞こえず、艶やかな唇が動くだけで―――
そこでウルティアに下された神託は終わった。
衝撃的な内容に誰もが驚き口を閉ざす中、シキも同じく顎に手を当て考えを巡らせる。
最後に出てきた女は何者だ?
長い銀髪に紫紺の瞳という珍しい特徴は、偶然の一致なのだろうか。
彼女は一体何を言おうとしていたのか。
「シキ」
名前を呼ばれてシキはウルティアの顔を見る。
神託で視た王都の惨状を思い出し憂いているのだろう。
赤い瞳を潤ませながらシキに懇願する。
「お願い。ピーちゃんを助けて」
「うん、わかっ……ピーちゃん?」