精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
現在のパーティは前衛がエフェメラとエリン。
中衛がシキとアルネイズ、アリエ。
後衛がウルティアとマニという構成だ。
もちろんオルティエもシキの背後に控えている。
新参者のマニだが、ウルティアやアルネイズとは意外と早い段階で馴染んでいた。
その理由の一つとして、マニがアトルランの人々と同じように、体に魔素を内包しているということが挙げられる。
創造神が造りしアトルランにおいて、魔素は万物に宿る。
ところが
なのでコアAIたちはカモフラージュのために、普段から魔素を強く発する魔術具類を身に着けて誤魔化している。
何故スプリガンであるマニが魔素を内包しているかだが、
「万物の真理は世界や次元が変わろうとも普遍じゃ。科学の発展と共に地球では失われてしまったが、かつてはあったということさ」
「へー、じゃぁマニも魔女狩りとかに遭ったことがあるの?」
「ふふーん、そんなもん返り討ちよ。皆殺しにしてもよかったが周りに迷惑がかかる。だからやってきた異端審問官の脳味噌を弄って、我を弱い薬師の娘と思わせて帰らせたのじゃ」
「えーこわっ」
などというシキとのやりとりがあった。
なお設定で非表示にすれば、マニの魔素すら周囲から認識されなくなる。
恐るべし Break off Online のシステム設定だ。
マニの扱う理術と呼ばれる地球由来の魔術も、アトルランの魔術の系統の一つとして認知された。
そして馴染んだ理由はもう一つ。
使い魔たちをけしかけたのだ。
と言っても言葉通り攻撃したのではなく、じゃれつかせる等の接待行為である。
人語を喋り自由に撫でさせてくれるともなれば、ウルティアだけでなくアルネイズもメロメロになった。
聖樹守りにも反応していたが、アルネイズはどうやら鳥好きらしい。
カラスの使い魔ヘカテを大層気に入っていた。
シキと出会った当初は対抗心を露わにしたり、自身の実力不足を悩んだりもしていたが、最近は落ち着いている。
心に余裕ができたようで何よりだ。
ウルティアはウルティアで、猫の使い魔セレネを抱きかかえ猫吸いをキメていた。
主の命令で逃げられないセレネは虚無の目だ。
かわいそうかわいい。
余っていた鼠の使い魔アルテは、シキが掌に乗せてエサのどんぐりを与えた。
アルテはこれでもかとどんぐりを頬袋に詰め込む。
かわいい。
というか普通の鼠は頬袋がない。
アルテが鼠は鼠でも、ハムスターに近い種類だとわかった瞬間であった。
さて、
前衛の母二人が強すぎる。
次々と現れる人型を模した果実はエフェメラが叩き潰し、絡め捕ろうとしてくる茨はエリンが斬り払う。
現状二人の殲滅量と喫肉薔薇の展開量は拮抗していて、囚われた冒険者まで辿り着くことはできていない。
だがこのまま削り続ければ喫肉薔薇の敗北は必至だ。
折角茨の壁の横幅が百メートルはあるのだから、囲うようにして襲い掛かればいいものを。
シキはそう思ったが、喫肉薔薇にそこまでの知性はなかった。
それでも中衛の出番があるかは怪しかったが。
第二位階冒険者で〈剣姫〉の二つ名を持つエリンが強いのはわかるが、エフェメラがそれに匹敵することにシキは改めて感心する。
二人は知り合って間もないが、すぐに意気投合していた。
息子としても嫁と姑……ではなく、実母と義母が仲良しなのは喜ばしい事である。
見事な連携で喫肉薔薇を削り続けていると、先方の動きに変化が見られた。
人型と棘の攻撃は継続しつつも、左右に展開されていた壁が中央に収縮していく。
そして囚われている冒険者たちの後方が盛り上がると、そこから巨大な花が出現した。
血を吸ったかのように真っ赤な薔薇だ。
その左右には茨が絡み合い束になってできた、丸太のように太い腕も付いている。
「おお、第二形態だ」
喫肉薔薇がその腕を振り上げ、叩きつけた。
狙われていた母二人は難なく躱したが、人型のいくつかが巻き込まれて地面に染みを作る。
「やっと〈真月の魔女〉たる我の出番か。理術でそのキレイな花をフッ飛ばしてやろう」
「ちょっと待って。フッ飛ばすのは花の部分だけで済む?」
「んや? 根切り(根絶やし)じゃが?」
「その根元に冒険者が捕まってるんだってば」
「ちっ、そうじゃった。主の領地で悪事を働くだけでなく足まで引っ張るとは、万死に値するが今回は大目に見て、双月は勘弁してやろう。母君方、そのまま引き付けておいてくれ!」
マニはそう言って真月の杖を構えると詠唱を始めた。
喫肉薔薇は激しく腕を振り回し続けているが、母二人には掠りもしない。
ただただ自身の体の一部である人型を巻き込み潰すだけだ。
「あ、シキ君。ちょっとまずいかも」
「ん?」
アリエが喫肉薔薇の花弁を指差す。
いつのまにか花弁の中央が開き、筒状の
柱頭は根元の
柱頭の先端がエフェメラに狙いを定めた。
それはまるで銃口を突きつけているかのよう。
「オルティエ!」
「アルネイズ!」
「「はい」」
二人が返事をした直後、ドンという空気を震わせる鈍い音が響く。
巨大な種が柱頭から撃ち出されたのだ。
それはもはや銃弾ではなく砲弾だったが、白と青の二枚の盾がエフェメラを守る。
まずアルネイズの【光輝神の加護】で生み出された光の盾に、喫肉薔薇の放った種が衝突した。
着弾の衝撃で人の頭ほどの大きさの種は砕け散ったが、光の盾は健在だ。
僅かに光が揺らいだ程度である。
なのでその内側に張っていた、オルティエのパルスシールドの出番はなかった。
ちなみに狙われたエフェメラだが、驚異的な動体視力で種の弾道を見極め、受け流す構えを取っていた。
仮に盾がなくとも、無傷とはいかないまでも致命傷にはならなかっただろう。
「おお、相変わらず凄い防御力ですね」
「あれから訓練をして形状を変えることもできるようになりました。円形にして
「まじで! 見てみたい」
「ですがこの場はマニ様に譲るとしましょう」
このやりとりの間に、マニの詠唱は完了していた。
真月の杖を喫肉薔薇に向ける。
「喰い穿て―――《
真月の杖の先端にある結晶が眩い光を放つ。
そこから何かが飛び出した。
最初は白銀の光が尾を引いて飛んでいるだけだったが、次第に光は膨らみ四足歩行の獣の形へと変化していく。
そして立派な白銀の狼の姿になると、空を駆けて喫肉薔薇へと襲い掛かる。
「Awoooooooow!」
巨大化した白銀の狼の顎が、喫肉薔薇の花弁に喰らいつく。
鋭い牙が花弁の上半分を喰い千切り、残った下半分は前脚の爪で引き裂かれた。
飛び退いた狼が光の粒子となって消えると、残ったのは無残にも花弁を失った薔薇の太い茎だけだ。
魔獣として死を迎えた喫肉薔薇は急速に萎れていく。
茨は枯れ落ち、人型は干乾び
茨に囚われていた魔獣の死骸や冒険者たちも解放され、その場で幾重にも積み重なった。
そこへ降ってきたのは、太い茎から噴出した赤い液体。
それはこれまでに捕らえた魔獣たちから吸い上げ、蓄えていた血液であった。
茎から滝のように血が噴き出し、河となり、魔獣の死骸を洗い流していく。
……助けた冒険者も一緒に流れていきそうになっていたので、慌てて回収するシキたちであった。