精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
「貴方の罪を懺悔なさい。地母神はきっとお許しくださいます」
「特にないです」
「………ないの?」
「ないねぇ」
喫肉薔薇から冒険者たちを救い、ギルドに引き渡した日の夜。
シキは地神教の神殿を訪れていた。
森人族の里へは明日改めて出発予定である。
待たせていた某狼さんはスプリガン経由で日程延期を伝え、一旦帰ってもらうことに。
お詫びに好物のシリアルバー(チョコ味)を進呈したら、口に咥えて嬉しそうにスキップしながら帰っていった。
四足歩行でスキップとは器用だなぁ、と思ったシキである。
さて、どうして神教の神殿を訪れたかといえば、何でもウルティアは話したいことがあるらしい。
普段はアルネイズを筆頭に神殿関係者を侍らせているウルティアだが、今はシキと二人っきりだ。
そして何故か懺悔ごっこをしていた。
「まさか懺悔室まであるとは思わなかったよ。前に来た時は礼拝堂で挨拶しただけだし」
「シキは地神教に聖者指定されているんだよ? もっと神殿に来て、私と一緒に活動してもいいと思うの」
「でもボガード司祭は肩書を渡しただけで、地神教としての活動はしなくてもいいって言ってたけど」
「むう」
シキがつれない返事をすると、壁の向こうから不満そうな声が聞こえる。
壁に付けられた格子窓がスライドすると、頬を膨らませたウルティアの顔が現れた。
本来は夜でなくても薄暗い懺悔室だが、ウルティアが《持続光》の魔術を唱えているので、不満そうな表情が良く見える。
ウルティアは十六歳だが、強力な【地母神の加護】の影響で体の成長が遅かった。
十二歳のシキと同じか、少し幼いくらいの見た目をしている。
精神が肉体に引っ張られているのだろうか。
ウルティアの子供っぽい言動には少し不安を覚えるシキであった。
「辺境伯領として地神教には多額の寄付をしている、ってガラテア様が言ってたし、ある意味聖者として支援しているとも言えるんじゃ」
「ちがうの、そうじゃないの」
ウルティアはぴしゃりと格子窓を閉めると、向かいの個室から出てシキのいる側に入ってくる。
懺悔室は電話ボックスくらいの狭い空間に、一人掛けの椅子があるだけ。
ウルティアはシキを押し退けるようにして椅子に座ってきた。
小さいお尻でぐいぐいと押されるが、お互いに子供なので辛うじて二人とも椅子に収まる。
「お母さんと再会できてよかったね」
「うん? うん」
親に捨てられた過去を持つウルティアの前ということもあり、ぎこちない返事になるシキ。
そんな反応を気にすることなく、ウルティアはぼんやりと天井を見上げたまま喋る。
「亜神ベリーズを倒してレドーク王国を救い、隣のブレイル獣王国からお母さんを助け出し、ようやく落ち着けると思ったら今度は魔王だなんて。嫌になっちゃう」
「だよねぇ。申し訳ないけど、協力してくれないかな。魔王はこっちでなんとかするから、領地の防衛を―――」
「だからそうじゃないの」
「ええ……?」
不服そうに再び頬を膨らませるウルティア。
何が違うのかわからず戸惑うばかりのシキ。
「シキは昔からそう。いつも周りのことばかり気にしていて、自分のことは後回し」
「そうかなぁ? そうは言っても対処しないと大変になるような出来事ばかりだったし」
「確かにシキにしかできないことが多いけど、そうじゃないものもある。今日の冒険者なんてほっとけばよかったのに。わざわざ領主が助けて罰を与える必要なんてなかった」
「うーん。まぁ、ね」
「領地をより良くするための行動なのはわかるけど、領主が予定を変えてまで助ける必要はなかった。あの冒険者たちは結界の外で死んでおしまい。他の冒険者が似たようなことをして問題になったなら、ボガードおじ……司祭の《噓発見》で裁けばいい。他の人にできることは、他の人に任せればいいの。誰にも彼にも手を差し伸べていたら、そのうち手がたりなくなっちゃうよ」
「似たようなことを誰かにも言われたなぁ」
大地を司り、慈愛に満ちている地母神を信仰するウルティアでさえそう言うのだ。
シキがいかに甘い性格をしているのかがわかる。
これは悪い意味で前世の倫理観が残っている影響だ。
「でも、誰でも助けようとするシキの優しさは、すごくいいことだと思う…………っこいい」
「え? なんて?」
「なんでもない。それでシキは魔王を倒して平和になったら、何かしたいことはないの? 望みはないの? あるならお姉ちゃんが叶えてあげる」
「ええ……?」
急にお姉ちゃんぶり、赤い瞳でじっと見つめてくるウルティアに困惑するシキ。
内容も漠然としていて困ってしまう。
「うーん、今のところ特にないかな」
「本当にないの? 我慢してない? こっそりお姉ちゃんに言ってごらん」
「いやだってさ、ぶっちゃけ辺境伯になっちゃったわけだし。これ以上何を望めっていうのさ」
「それはそうだけど……例えば、レドーク王国から独立して王様になるとか」
「めんどくさいからパス」
「毎日美味しいものを食べるとか」
「ウル姉も知ってるでしょ。セラやルミナの料理が王族の専属料理人顔負け、てか余裕で勝ってるくらい美味しいって」
「働かないで遊び惚けるとか」
「罪悪感で逆に心労がかさむよ?」
「貴族らしく女の子を侍らすとか。ぐぎぎ」
「何で苦悶の表情を浮かべているのかは知らないけど、普段の惨状を見てるでしょ」
「もう、わがまま言わないの!」
「ええ……」
何故か逆ギレしだすウルティア。
シキの肩に寄りかかり、頭をぐりぐりと押し付けてくる。
暫く続けていたが疲れたのだろう。
ぐったりしてから、ふうと息を吐いた。
「ごめん。こんなことを言いたいわけじゃないの。私はシキに幸せになってもらいたいの。だって、シキは沢山の人を助けたんだよ? それなのに報われないなんて、おかしいじゃない」
ウルティアがシキと出会ったのは九歳の頃。
親に捨てられ、スラム街でとある孤児の一団に混ざって生活していた。
そこにシキが現れたのだ。