精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
孤児のリーダーの少年は、綺麗な服を着たシキを受け入れようとしなかった。
どう見ても訳ありなので、トラブルを警戒したのだ。
それでシキはどうしたかというと、まず服を脱いだ。
そして「これを売って上納金にしてくれ」とリーダーに手渡す。
リーダーは「ジョウノウキン?」と言葉の意味がわからず首を傾げた。
シキが改めて「服を売った金をあげるから、一団に入れてくれ」と言うと、金に目が眩んだリーダーはシキの加入を許可する。
リーダーの迂闊さに仲間は反発したが、それも最初だけだ。
すぐにシキの賢さが発揮され仲間と認められた。
一団の仕事は主にゴミ拾いである。
スラム街とは王都中から様々な人や物が流れ着く場所。
いらなくなったものや、隠したいものが捨てられる。
そのゴミの中から価値のありそうなものを拾い、売って生計を立てている。
しかし全員が碌に計算もできないため、商人に売る時に金額を誤魔化されていた。
シキが指摘するまで誰も気づかず、騙されていたと知って孤児たちは激怒。
商人を襲撃しようとしたが、シキが説得してなんとか宥めた。
商売でやられたなら、商売でやり返せばいい。
これまでは拾ったゴミをそのまま売っていたが、種類ごとに選別したり、綺麗に洗ってから持ち込むようにした。
商品としての価値を上げたのだ。
また売る相手も選ぶ。
これまではスラム街にある闇市の商人にしか売らなかったが、スラム街の外へ足を延ばした。
金属は鍛冶屋へ、布は裁縫屋へ、怪しい薬は魔女のアトリエに。
最初こそ孤児ということで門前払いだったが、出来るだけ身なりを整え、礼儀正しく接すると次第に相手にしてもらえるようになる。
そうなればこっちのもの。
闇市の商人に買い叩かれていた頃とは、比べられない値段で買い取ってくれるようになる。
シキたちがすっかり売りに来なくなったので、闇市の商人が文句を言ってきたが、孤児たちは笑顔でそれをスルーしたのであった。
そのまま一団を乗っ取る勢いだったが、シキは立場を弁えてリーダーを支える参謀役に徹する。
この頃のウルティアは神託を幻聴だと思っていたし、一団の中では「心の病気を抱えた可哀そうなやつ」という扱いだった。
皆が孤児なので自身を捨てた親への恨みは強く、それが同じ境遇である仲間の団結をより強くする。
だからウルティアが見捨てられることはなかったが、幻聴に対してアドバイスできる者はいなかった。
夜中に突然頭の中で騒音が鳴り響いて飛び起きることもある。
そうなっても仲間の孤児たちからは「いつもの発作か」と同情されるだけ。
ところがシキは違った。
ウルティアが夜に飛び起きる度に外へ連れ出し、幻聴の内容がどんなものだったのか聞いてくれた。
決して問題の解決にはならない。
だが、誰かに悩みを聞いてもらえるというだけでも、ウルティアは救われた気持ちになった。
たまに音楽が聞こえてくることもある。
ウルティアがつたない鼻歌でそれを再現すると、シキがアレンジして歌詞まで付けて歌ってくれたりもした。
シキは【吟遊神の加護】を持っているので、そんなことができるのだろうとウルティアは思っていたが、実はそうではない。
それは偶然にも、シキが前世で好きだった曲だったのだ。
なのでアトルランの言葉に翻訳して歌ったのだが、ウルティアには知る由もない。
シキが即興でつけた(と思っている)歌詞は今でも覚えている。
果てしなく続く大地と 満天の星空
野に咲く花から溢れる 生命の息吹
季節は巡り 繰り返される命
僅かな時間の中で 人々は懸命に生きる
その時は「わぁすごい」くらいの感想しか出なかったが、地神教に入信してからは大地を司る地母神を称える歌のようにも思えた。
ふとした時に、ウルティアは今でもこの歌を口ずさんでいる。
ウルティアはシキに救われた。
いや、ウルティアだけではない。
孤児の一団はシキと出会わなければ、大人に騙され搾取され続け、近いうちに破滅していただろう。
いつまでも子供だけで生きていけるわけがない。
だからシキは地神教の孤児院に自分たちを売り込み、孤児全員を引き取らせたのであった。
その後ウルティアは地神教のボガード司祭に【地母神の加護】の力を見出され、神殿に引き取られる。
ここでようやく幻聴は神託であると判明した。
厳しい修行を乗り越え聖女となり、シキを迎えに行こう。
今度は自分が助ける番だ。
そうと思ったのに。
シキはウルティが孤児院を出た後に誘拐事件に巻き込まれ、最終的にエンフィールド男爵家の養子になってしまった。
更には精霊の加護を得てレドーク王国を救い、王族の姫たちとも懇意になる。
富、名声、力、そして女。
すべてを手に入れたと言っても過言ではない。
今更ウルティアの出る幕はなかった。
地神教としてシキを聖者認定して後ろ盾にはなっているが、何枚もある盾のうちの一つでしかない。
加護のせいで体は子供のまま。
これでは女としてシキにお礼をすることもできない。
シキが幸せなら、自分はその隣にいなくても構わなかった。
陰ながら支えることができるならそれでよかった。
でも……。
叶えてもらうような望みはない。
シキにそうはっきりと言われて、ウルティアの気持ちは深く沈んだ。
「俺は十分報われているよ、ウル姉」
「……ほんとに?」
「うん。昔から見てきたウル姉ならわかるでしょ? 俺がどんな性格をしているか。さっきウル姉が言ってた通り俺は小心者だから、周りが気になって仕方がないんだ。皆が辛い思いをしている中で、俺だけのほほんとしてるなんてできないよ。気まずくて」
さすがに赤の他人や、努力もせず施されるのが当たり前、というような態度の奴の面倒までは見ないが。
気まずいと付け加えて偽善者っぽくしたのは照れ隠しだ。
実際に偽善者なのかもしれない。
だがシキはそれでもいいと思っている。
それがただの自己満足だとしても、結果的に皆の助けになるならいいじゃないか。
やらない善よりやる偽善だ。
「皆の幸せが俺の幸せでもあるのさ。我ながらすごい胡散臭い言い回しだなこれ」
「じゃぁ、その皆の中に私は入ってるの?」
「もちろん。神託で音だけじゃなく光景まで強制的に見せられるようになっちゃったんでしょ? 目を瞑ってても駄目とかしんど過ぎるよ。むしろ俺がウル姉に出来ることはない?」
「そ、それならっ」
急に元気を取り戻したウルティアがシキの両肩をがっしり掴む。
そして顔を近づける。
燃えるような赤い瞳がどんどん大きくなり…………お互いの息がかかる距離でぴたりと止まった。
上がったテンションも一瞬で萎んでいく。
「ウル姉?」
「……はあ、シキ。私ね、もう一つ話すことがあるの」
「なに?」
「精霊様が見えるようになったの」
「うん? そりゃぁ見えるよね? ……あっ、それって」
「そうなの。