精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
「ねぇシキ。オルティエ様が姿を消していても、シキには見えてるよね。いつもそばにいるの? 息苦しくない? アルネイズだってもう少し気を遣うよ?」
「まるで私が気を遣えないみたいな言い方ね、ウルティア」
「気を遣えるならシキの肩から顔を生やして意地悪をしないと思うの」
「これは意地悪じゃないわ。マスターを守るための適切な対処よ」
言い合いの喧嘩を始める二人。
驚きのあまり出遅れていたシキが声を荒げる。
「ちょっと待ってよ! 非表示のオルティエが見えるってどういうこと」
「ヒヒョウジ?」
「あっ……姿を消しているって意味ね」
「マスター。呼称:ウルティアに内包する神力の割合が2.5%から6.5%に増加しています」
「その呼称ってやめて。なんだか人扱いされていないみたい」
「客観的事実に基づいた表現です。何故なら神力というのは、外様の神が纏う魔力と性質は同じですから」
「へぇ、地神教の聖女に向かってそういうこと言うんだ。世界を敵に回すつもり?」
「私はマスターの僕。私はマスターの手足。私のすべてがマスターのもの。マスターの敵であれば外様の神も創造神も関係ないわ」
「シキを巻き込まないで。シキだってこの世界の人間よ!」
ウルティアの昂りに合わせて体から魔力が溢れ出る。
周囲の空気がひりつき、赤い瞳に黄金の輝きが混ざり始めた。
それは畏怖を覚える神々しさで―――。
「ウル姉」
「ぴゃ」
迸る神気は、シキがウルティアを抱きしめると霧散した。
怒りで紅潮していた頬が、別の理由で更に赤くなる。
「ウル姉、俺はウル姉の敵にはならないよ。さっきウル姉にも幸せになって欲しいと言ったばかりじゃないか」
「う、うん」
すっかり茹で上がり硬直したウルティアを椅子の背もたれに預けると、シキは振り返った。
そこには腕を組んだオルティエが浮かんでいる。
懺悔室は狭いため、立体映像でできた体の後ろ半分は壁の外にはみ出していた。
ウルティアを見つめる表情は険しい。
「オルティエ」
シキは椅子から立ち上がりオルティエの手を引く。
体が壁から出てきて全身が懺悔室の中に収まったところで、オルティエを抱きしめた。
「!!?」
「いつもありがとう。戦闘力ゼロな俺だから、オルティエたちと出会っていなかったらレドーク王国は滅んでいたし、母さんも助けられなかった。感謝してもしきれないよ。本当にありがとう」
「マスター……」
シキが自分から抱きつくのは珍しい。
前世持ちで中身は大人なので、単純に恥ずかしいのだ。
抱きつかれるのは諦め……慣れてしまったが、自分から行くのは心理的ハードルが高い。
身長差もあるので、シキが抱きつくとオルティエの豊満な胸に顔を埋めることになる。
それでも今回行動したのには理由があった。
シキとスプリガンたちの関係は歪だ。
スプリガンたちの親愛を受けて、シキはそれに応えている。
本来なら長い年月をかけて育まれるそれを、マスター権限を得た瞬間から得てしまっていた。
親愛に至る過程を飛ばしてしまっているため、お互いの理解が足りていない。
そのせいでブレイル獣王国では、大惨事になりかけた。
言わなくても想いは通じる。
わかりあえるなんていうのは驕りだ。
だからあれ以降、シキはこれまで以上に感謝の気持ちを言葉や行動で表すようにしていた。
「ウル姉には孤児の頃から世話になってるし、エンフィールドの発展に貢献もしてもらってる。だからどうか、俺たちの仲間として認めてくれないかな」
「別に私はウルティアを敵視しているわけではありません。ただ客観的事実を述べただけで……っ」
オルティエは見上げるシキの顔を見て言葉を詰まらせる。
恥ずかしさを堪えるように瞳を潤ませていたからだ。
庇護欲を掻き立てるその表情に、オルティエが抗えるわけがない。
「そんな顔をするのはずるいです、マスター」
「え、いや、そういうつもりじゃ」
「でも甘えてくれるのは嬉しいです。もう少しこのまま……」
「ああっ、精霊様だけずるい。私も混ぜて」
「ごふっ」
復活したウルティアが背後から勢いよく抱きついてきて、暫くサンドウィッチ状態になるシキであった。
「それでウル姉、いつから見えてたの?」
「はっきりと見えるようになったのはエンフィールドに来て、神託で光景も見えるようになってからかな」
狭い懺悔室を出た三人は、礼拝堂のベンチに座って話を続けている。
礼拝堂の祭壇には、地母神の彫像が祀られていた。
王都の本神殿からわざわざ移設したもので、エンフィールド辺境伯家を重要視していることが察せられる。
「はっきりと? じゃぁはっきりじゃなかったらもっと前から?」
「マスター、ウルティアは王都の冒険者ギルドで初めて会った時から、私の存在を感知していました」
「まじで」
「これまではぼんやり気配がわかるくらいだったの」
それが何故はっきりと見えるようになったかといえば、先ほどオルティエが言っていた内包する神力の割合が原因だった。
「つまりウル姉の神力が増したからなのか。そもそも神気ってどういうもの?」
「名前の通り、神の力が含まれている魔力のことだよ。普通の魔力にはない性質を持っているの」
「その性質の一つで精霊が見えるのか」
過去に戦った外様の神、〈無敗をもたらすもの〉こと呼称:ムハイも非表示設定のスプリガンを認識していた。
だからオルティエはウルティアにも呼称を付けていたのか。
本人にはわからない皮肉のはずだが、ウルティアはちゃんと察していた。
迂闊なことを言って傷つけないようにしなければ。
シキは気を引き締める。
「あれ、てことはもしかしてオルティエ以外も見えてる?」
「空に浮かんでるゴーレムや柱みたいなのでしょ。うん、気づかないふりをしてた。シキがいつか、きーーっと話してくれると思ってたから」
「そっかぁ、見えてるかぁ」
来たる外伝に備えて、信頼のおける人物には伝えるつもりではあったのだ。
もちろんそこにウルティアも含まれていた。
「ウル姉の神力が増したから神託の性能も上がった?」
「逆だよ。神託を受け続けたから、神気が増して器としての性能も上がったの」
ウルティア曰く、神託とは資質のある者だけが受け取れる神からのメッセージなのだが、資質があっても受け止める器が小さいと、器が壊れて神託が受け取れなくなるという。
「ボガードおじさんに教えてもらったんだけど、子供のうちに器が壊れる人が大半なんだって。一度壊れちゃえば二度と神託は受けられない。そして稀に私みたいに器が壊れずに成長する場合もある。でも器は壊れなくても心が壊れちゃうこともあるんだって」
「そりゃぁ一方的に謎の音声を強制的に聞かされてたら、心も病むよね」
「私の心が壊れなかったのは、私の話を聞いてくれたシキのおかげなんだからね」
「ウル姉……」
それなら懐かしい故郷のJ-POPを翻訳して歌った甲斐もあった。
などと思い頬の緩むシキであったが、ウルティアの続く台詞で表情が一変する。
「だからこれからもシキが一緒にいてくれるなら、亜神に
「……なんだって?」
「神託を受け続けて器が大きくなればなるほど、神に近づくの」