精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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295話 愉快な遠足の始まりだ

「ちくしょう、ふざけやがって。今に見てろよ」

 

「もう関わるのやめようぜ兄貴。折角あのお人好しの領主の小僧に見逃してもらったんだしさ」

 

「おい、あまり大きい声で言うなよ。聞かれたらどうする」

 

「てかこんな田舎、さっさと出やしょうぜ」

 

 酒場の隅のテーブル席でくだを巻いている四人組は、冒険者ギルドで断罪された男たちだ。

 大型魔獣を不正に結界内に誘導しようとして失敗。

 

 喫肉薔薇に捕まり、死にかけたところをシキたちに助けられた。

 本来なら喫肉薔薇に捕まった時点で見捨てられるし、知らなかったとはいえ領主に暴言を吐けば死罪もありえる。

 

 シキの寛大な処置に感謝し心を入れ替え、真面目に冒険者を……するわけがなかった。

 リーダー格の男、ゲイルはエールの入った木製ジョッキを一気に呷ってからテーブルに叩きつける。

 

「馬鹿野郎! 第五位階のまま他の冒険者ギルドに行ってみろ、いい笑いものだぜ。ムカつくが第四位階に戻るまではここを離れねぇ」

 

「じゃぁ真面目に冒険者するんで?」

 

「なわけねぇだろ。適当なカモを見つけるんだよ。毎日のように人が増えてんだ。カモだって増えてるだろうよ」

 

 第四位階に昇格するには冒険者ギルドへの貢献、すなわち一定件数の依頼達成と、試験官相手の戦闘試験をクリアする必要がある。

 依頼については採取、討伐、護衛の各種を十件程度こなすのが一般的だ。

 

 しかしゲイルたちの降格処分には、昇格へのペナルティも科せられているため、この倍は必要だった。

 ゲイルたちの実力はそこそこある。

 真面目にやれば第三位階冒険者に手が届くかもしれないほどだが、腐りきった性根が邪魔をしていた。

 

 新人冒険者を捕まえ、指導料と称して採取や討伐依頼の成果を取り上げる。

 商会に属しておらず後ろ盾のない行商人を脅して、依頼に含まれていない追加報酬を巻き上げる。

 いつも通りの手口でギルドへの貢献と金稼ぎをするつもりだ。

 

 ゲイルは王都近郊にあるフロント伯爵領のスラム育ちである。

 そこで様々な悪意の中を必死に生き抜いてきた。

 他の三人も親から虐待を受けたり、元奴隷だったり、故郷の村で差別を受けていたりと、それぞれに性格が歪んだ理由がある。

 

 同情の余地はあるかもしれない。

 しかし、他者を傷つけても良い理由にはならなかった。

 本人たちは野盗になっていないだけまともだとすら思っているが……。

 

 繰り返しになるが、ゲイルたちの実力はそこそこある。

 失敗したとはいえ、結界の外に出ることができたのだ。

 きっと1(・)0(・)0(・)回(・)に(・)1(・)回(・)は生き残れるだろう。

 

「カモは明日探す。今日のところは女だ、女」

 

 すっかり酔いが回り気分をよくしたゲイルは、近くのテーブルで食事をしていた青髪と緑髪の美女をナンパするべく、ふらつく足で向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「悪いことは言わない、彼女たちとは関わらない方が―――」

 

「なんだてめぇは。野郎に用はねぇんだよ。引っ込んでろ」

 

「そうだそうだ。俺っちより不細工なくせに出しゃばるんじゃねーぜ」

 

 親切心で言ったつもりだったのだが、敵意を剥き出しで言い返されてカシムは鼻白む。

 おまけに不細工と罵られた。

 

 前歯の欠けた小柄で小太りのおっさんに言われたくねーよ。

 ミレイユには断られたが、これでモテる方だっての。

 と喉まで出かかったが、大人なカシムは我慢する。

 

 冒険者ギルドの掲示板の前で依頼を物色していたら、不意に現れたフェリデアに拉致られた。

 エンフィールド大樹海の入口でゲイルたちと合流し、現在は結界の内側を歩いている。

 

 ゲイルたちの素性を知らない冒険者はいない。

 それくらい先日の降格騒ぎは話題になっていた。

 

 随分と甘い裁定だと思ったが、やはり裏があったのだ。

 そして自分が巻き込まれるとは……泣けるぜ。

 

「ようカシムゥ、お前の力が必要なんだ。だから手伝ってくれるよな?」

 

 今回もカシムに肩を回し至近距離で話しかけてくるフェリデア。

 もう死ぬような目には遭いたくない。

 

 そう誓ったはずなのに、またもやいい匂いと肩に当たる胸の感触に負けてしまった。

 悲しいけどこれが男の性である。

 

 しかも今回は美女がもう一人いた。

 翡翠色の髪をサイドアップにしていて、ちらりと見えるうなじの色気がすさまじい。

 

 彼女も辺境伯の親衛隊のひとりで、名をセラという。

 真っ赤な唇が妖しく弧を描いていて、野性的なフェリデアとはまた違う魅力がある。

 

 フェリデアと違ってスキンシップが一切ないのが残念だ。

 いやフェリデアの同僚だし……絶対碌な女じゃない。

 

 でも恐ろしいほどの美人だし……。

 それでもお近づきになりたいと思ってしまう、女好きな男カシムである。

 

 カシムと同様に二人の誘惑に負けたゲイルたちは、張り切って魔獣を討伐していた。

 なんでもフェリデアが納得する強さを見せつけたならば、言うことを一つ聞いてくれると約束したらしい。

 

 フェリデアが納得する強さ?

 正気かこいつら?

 結界の外で余裕で活動できるんだぞ?

 

 そうカシムは説明したが、ゲイルたちは聞く耳を持たない。

 やっかみからの妨害だと思われていた。

 

 この戦闘も余興みたいなものだ。

 美女に強い男アピールして、ちやほやされたいのだろう。

 効果はまったく出ていなかったが。

 

 最後は強引に襲い掛かるつもりなのだろう。

 ああ恐ろしい。

 

 先日は結界の外で大型魔獣相手に大暴れしていたのに、フェリデアの日に焼けた健康的な肌には傷一つなかった。

 普段相手にしている冒険者の女とは全然違う。

 

 きっと辺境伯が上位の治癒魔術や霊薬で維持させているのだろう。

 ドレスで着飾れば、さぞかしいい女になるに違いない。

 

 言動は野蛮な冒険者のそれと変わらないので、黙っていればという前提が必要だが。

 貴族である辺境伯の部下なのだから、実際にドレスを着る機会もありそうだ。

 

 セラはフェリデアとは対称的に日焼けのない真っ白な肌が美しい。

 こちらこそ深窓の令嬢……いや女王様と言われても納得できる容姿だ。

 獲物を見定める蛇のような視線に、ゾクゾクとした危機感を覚える。

 

 ゲイルたちは小悪党だ。

 冒険者としては下の下ですぐ音を上げると思いきや、これがなかなかちゃんと強い。

 

 何故か斥候役をやらされているカシムが魔獣の接近を知らせると、しっかり連携して倒している。

 真面目に冒険者をやってれば、いいところまで行っていただろうに。

 

「よーし、その調子で結界の外に行ってみようか」

 

「は? いや、結界の外はちょっと」

 

「まだ怪我も完治してないし」

 

 死にかけたことを思い出したのだろう。

 フェリデアの発言を聞いて、顔色を悪くしながら尻込みするゲイルたち。

 もごもごと言い訳している。

 

「おいおい、いい年した野郎が揃ってるのに情けないねぇ」

 

「こいつ……こっちが大人しく提案に乗ってやったってのに……おい」

 

 ゲイルが仲間に目配せをすると、フェリデアとセラを囲むように移動し始めた。

 オイオイ、こいつら死んだわ。

 

 セラはまだわからないが、フェリデアはゲイルたちなんて瞬殺できる実力者だ。

 結界の外に出るよりも愚かで危険な行為である。

 

「ゲイル、早まるな。無事に帰りたいだろう?」

 

「だからてめぇは引っ込んでろ。邪魔しないなら最後にいい目を見させてやっても―――」

 

「私たちに構ってる暇なんてあるのかしら」

 

「!? ゲイル、後ろだ!」

 

 セラが意味ありげに笑みを深めたのと、地面を揺らす振動を感じたのは同時だった。

 振動のする側に振り向けば、鬱蒼と茂った木々が揺れ、めきめきとへし折れる音が聞こえてくる。

 そして森から飛び出してきたのは、ヤドカリ型の大型魔獣だった。

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