精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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31話 遠赤外線パワー

 総合支援AIのオルティエは、空気中の分子で造形し投影された質量のある立体映像、という設定である。

 なので空中に浮かんでいるし、体温は低く触るとひんやりしていた。

 では他のコアAIたちはどうかというと……。

 

「ご主人様!あの屋台からすごく美味しそうな匂いがします。行ってみましょう」

 

 シキの手を握ってぐいぐいと引っ張るシアニスからは、しっかりと人の温もりが伝わってくる。

 

 イルミナージェ王女たちとの会談も無事に終了した。

 あとは余計なトラブルに巻き込まれる前に帰るだけだ。

 

 明日の早朝に王都を出発する馬車を予約した帰り道、シキはシアニスに()()()されたので王都の表通りを観光していた。

 

 観光するにあたりシアニスは〈表示〉状態になっている。

 目立つ軍服や犬耳と尻尾はフード付きコートを羽織って誤魔化し、旅の少女を装っていた。

 ちなみにエリンとは別行動だ。

 

 宿に引き篭もっていても令嬢が押しかけてきたら、王女を盾にして断らなければならない。

 外にいたほうが令嬢に遭遇しなくていいからとシキは快諾したわけだが、色よい返事を貰えたことによりシアニスのテンションは爆上がり。

 犬の尻尾が羽織っているコード越しでも分かるくらいに、ぶんぶんと振るわれていた。

 

 表通りから一本入ったそこは屋台街のようで、様々な食べ物が販売されていた。

 リードを引っ張られる飼い主のように、シキはとある屋台までずるずると連れてこられる。

 

「串焼き屋さんか。しかも炭で焼いているなんて本格的だね」

 

「いらっしゃい。なかなか鋭いな坊主……いやお坊ちゃんか? その通り、うちのこだわりはこの炭だ。ただの焚火で焼くよりもムラなく熱が通って、外はカラっと中はしっとり出来上がる。それに風味も良いぞ。高くはなるが他の店より絶対に美味い自信があるぜ」

 

 体格の良い中年店主が、シキの言葉を聞いて機嫌よく説明する。

 似たような店は他にもあるのだが、シアニスは小振りで可愛らしい鼻をすんすんさせて、真っすぐこの店へとシキを案内していた。

 つまりシアニスの鼻もここが一番と言っているわけで、味には期待できそうだ。

 

「それじゃあ四本ください」

 

「毎度あり! じゃあまず二本な。もう二本は今から焼くからちょっと待っててくれ」

 

 串焼きを受け取り、店の脇で二人して串焼きを頬張る。

 

「ん~おいひいっ。おいひいへふねもひゅひんはま」

 

「はいはい、ゆっくり食べてね。焼いてもらってるもう一本もシアニスのだから」

 

 それはファロウズと呼ばれる野生草食獣の肉で、一般的に出回っているものだ。

 食感は牛に近くシキも食べ慣れている肉だが、炭火焼きは今生では初めてだった。

 

「うお、懐かしい味だ。こいつをおかずに米が食べたいなあ。まあこの世界で米は見たことないけど」

 

『マスター』

 

 がっくり項垂れているシキに、空中に佇むオルティエ(非表示)が話しかける。

 

『糧食の中には白米もありますので、CRで購入可能です』

 

『……まじで?』

 

 Break off Onlineのメニュー画面から様々な物が購入できた。

 樹海で死にかけたテレーズを治した治療薬もそうだし、他にも拠点設備や糧食、工作機器などがある。

 糧食なんて軍事用だし固形の携帯食料だけだろうとスルーしていたのだが、シキは改めて品揃えを確認して驚いた。

 

『え、なにこれ。ちょっとした弁当屋さんじゃないか!』

 

 白米単体の商品もあれば、普通の肉や魚をおかずにした弁当などがある。

 どれもパック詰めのものを開封して付属のプレートに乗せる方式だ。

 

 さすがに幕の内弁当や丼ものはなかったが十分だろう。

 しかもプレートには発熱する使い捨ての謎のカートリッジが付いていて、米や弁当を温めることができるようだ。

 

『マスター、興奮しすぎて日本語で虚空に向かって話しかけています』

 

「おおっと、ごめん。こんな素晴らしいものがあったとは。糧食以外もリストは改めて確認したほうがよさそうだな。栄養面を考えるならこの世界の食べ物より優れているだろうから、もっと早く教えてくれてもよかったのに。てか普通に食べたかったぞ。なあシアニス」

 

 シアニスと会話している体でオルティエに文句を言うと、彼女はにっこりと微笑んだ。

 

『マスターの栄養はマスター登録と同時に体組織に同化させたナノマシンが完全制御していますので、何を食べても栄養は常に最善の状態を保っています。仮に一か月程度絶食してもナノマシン自体が栄養の肩代わりをしますので、健康状態を維持できますよ』

 

「ええ……」

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