精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
これまでのシキの人生において【吟遊神の加護】は役に立たなかった。
波瀾万丈な人生の中で、求められていたのは戦闘能力に直結する加護だったからだ。
加護の種類は千差万別で、日常生活において便利なものも多々あった。
例えば【鍛屋神の加護】なら金属の品質の目利きができたり、鍛冶技能が向上したりする。
【裁縫神の加護】なら刺繍が得意だったり、ファッションセンスに恵まれたり。
【薪水(炊事・家事の意味)神の加護】なら料理や掃除が得意だったり、味覚が鋭かったり、指に摘んだ塩の分量が正確にわかったりする。
同じ神でも加護の内容は個人差が激しい。
加護の強さも同様だが、人生に影響を及ぼすほどの強い加護の持ち主は少なかった。
おおよそ人口の一割だと言われていて、大半の人の加護は個性の域を出ていない。
また本人と加護の相性も重要だ。
「私は【水神の加護】持ちで、水中で息が二十分ほど続きます。まぁ水が苦手で泳げないので、まったく役に立たないのだがね」
そう言って音場楽団の楽長、ギルバート・ファルタンは頭をかいた。
「辺境伯、貴方は強い【吟遊神の加護】を持ち、自らリュートで弾き語りするだけでなく、独創的で心に響く曲を生み出すこともできる。これは加護と本人の特性が嚙み合わなければ生まれない奇跡。是非ともレドーク王国中、いや、大陸中に貴方の曲を広めたい。だから音場楽団に加わってはくれないだろうか」
「すみません。入らないです」
「な、なぜだ!? 辺境伯も音楽は好きだろう? 酒場で聴いていてわかる。あんなに楽しそうではなかったか」
「好きは好きですけど、あくまで趣味の範疇なんですよ。心に響く曲なのは日本で実績があるやつを耳コピしてるからで……っと、なんでもないです。あと単純に音楽活動する時間がありません。辺境伯なので」
「加入は今すぐでなくても構わないが……せめて楽曲を使わせてもらえないだろうか。もちろん使用料は支払う」
「え、著作権的なものとかあるんですか?」
異世界だし無法地帯だろうなぁと思っていたシキだが、意外にも音楽には著作権と似た決まりがあるという。
「貴族の作品は認められた者しか演奏できず、使用料を払うのが暗黙のルールだ」
「あー、音楽だからではなく貴族のものだから。ってことか」
「その通り。もし流れの吟遊詩人が勝手に貴族の曲を盗んで酒場で演奏し、報酬を得たことが発覚すれば、盗まれた貴族の裁量によって裁かれるだろう」
「どうやって盗んだものじゃないと証明するんですか?」
「演奏者に家紋を施した何かを渡すのが一般的だ」
「ふむ……正直なところ、音楽でお金を取りたくないんですよね」
音楽活動は無料ではできない。
吟遊詩人や楽団ならそれが仕事なのだから、生活費を稼がないといけなかった。
他人の褌でお金儲けはちょっと違うかなぁと思うシキである。
貴族の作品であることを隠して権利を放棄するのはもっと駄目だ。
「あ、別に吟遊詩人や楽団を否定しているわけじゃないですよ。単に俺個人の考えですので」
「わかった。では無料公演にする。もちろん使用料は払おう」
「いやいや、駄目ですって。それ勝手に決めたら絶対楽団員に怒られるやつですよ」
「そ、それでもっ。私はあの素晴らしい曲たちを演奏したいのだ」
ギルバードの見た目はナイスミドルだが、中身はかなり音楽バカなようだ。
涙目になりながらシキに訴える。
「辺境伯、この世界に娯楽は少ない。特に平民には。何故なら生きるのに精一杯だからだ。音場楽団は平民向けにもコンサートを開いている。辺境伯ならわかるだろう。酒場で音楽を聴いている人々の笑顔を。どうかあの笑顔を大陸中に届けることを、許してくれないだろうか」
「うーむ……それなら……うーん」
シキは悩んだ結果、公演は有料、利用料の受け取りにも応じることにした。
ただし公演料は適正であること。
使用料は公演した地域の孤児院に全額寄付すること。
要は公共の利益のためなら使用OKとしたのだ。
元から金儲けが目的ではなかったので、ギルバードは快諾。
ナイスミドルはスキップしてルンルンで帰っていった。
「音楽かぁ。もうすこし状況が落ち着いたら力を入れてもいいかもね。アイドルとかまだ存在していないだろうし」
「アイドルといえば、こんな衣裳もありますよ」
「ふわぁっ」
なんて言うからオルティエの衣裳が変わるかと思いきや、一緒にいたエキュースの体が発光した。
急だったので本人も驚いている。
光の中から出てきたのは、まさにステージアイドルのようなフリル付きドレス姿のエキュースだった。
ベースはタータンチェック柄。
スコットランドの伝統的なバグパイプバンドが履いているあのスカートだ。
そこにフリルや細かい刺繍や宝石が追加され、煌びやかさが増していた。
前世は特にアイドル好きではなかったが、それでも美少女のステージ衣装は破壊力がばつぐんだ。
エキュースは日本人よりスタイルが良く顔立ちも整っている。
だからアイドルよりニチアサ魔法少女のほうが近いかもしれない。
「おお、いいね」
「……っ」
普段にない注目のされ方をして、恥ずかしさの余り顔を真っ赤にして俯くエキュース。
「背丈の近いルミナにも着てもらって、二人で無表情のまま踊ってもらいたいなぁ。ちょっと創作意欲が湧いてきたかも。まぁ全部耳コピなんだけどね」
というわけでルミナを呼んで、急遽二人組アイドルを結成してもらった。
急だったにも関わらずルミナはノリノリで、エキュースは最後まで恥ずかしそうにしていたのが印象的だ。
ちなみに二人の歌唱力は普通だ。
一番下手なのがアリエ。
ぼえ~~といった感じである。
一番上手いのがプリマ、次点でエイヴェ。
こちらはプロ顔負けの歌唱力だ。
皆歌うのは好きなようだが、残念ながら Break off Online の〈ショップ〉にカラオケ端末やボックスはなかった。
魔術具でカラオケ端末を作れないかな。
もし魔術具を作る錬金術師に会うことがあれば相談してみよう。
そう思うシキであった。
数年後、音場楽団は大陸随一の楽団として名を馳せることになる。
楽曲は市民の心を楽しませ、利益は地元に還元されるのだというのだから、シキ・エンフィールドの名声は加速度的に高まっていく。
また音場楽団だけでなく、地神教には聖歌にぴったりな某アニソンを提供する。
こちらも数十年以上の歳月をかけて、大陸全土に広がっていった。
「そういえば珍しくオルティエは着なかったね。アイドル衣装」
「さすがに私には似合わないと思いましたので……」
オルティエに瑕疵はない。
ただ大人の美女との相性が悪いというだけである。
「ううむ、確かに―――」
「それでも、着てもいいですか?」
「えっ」
ルミナとエキュースを返したあと、二人っきりになってから着てもらった。
…
……
………
「これはこれで特定の層に刺さりそうだな……?」