精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
午前零時、日付変更と共に外伝〈外征輝星たちの伝承詩〉が始まった。
「……何も起こらないな?」
同時に誕生日を迎えて十三歳になったシキが、周囲をきょろきょろと見回していると、拡張画面のメニュー欄が更新されていることに気が付いた。
〈ストーリー〉に外伝〈外征輝星たちの伝承詩〉が追加されている。
「マスター、〈ストーリー〉から選択することで外伝が始まります」
「ふむ。ということは選択しなければ始まらない?」
「はい」
それなら先に言ってよ。
などと言ってはいけない。
オルティエは実装されたシステムの説明はできるが、未実装の情報は知らないからだ。
ただストーリーの実装は初めてじゃないはずなので、選択式であることは知っているはずなのだが……。
シキはオルティエと出会った当初に言っていた、
「システム外の情報を開示する権限が私にはありません」
という言葉を思い出す。
オルティエたちの行動は制限されている。
背後から操る何者かがいるのだ。
「なら開始は夜が明けてからにしよう。暗いと不利になるかもしれないし、ウル姉の神託も日中たっだからね」
というわけでシキは一旦睡眠をとり、AM10:00に開始することにしたのであった。
アトルランの人々は基本的に日の出とともに起き、日の入りとともに眠る生活をしている。
この日の仕事も折り返しを迎えようとした時のことだ。
―――不意に空から、何か硬質なものが割れるような音がした。
直後に衝撃波が発生して地上の人々に襲い掛かる。
それは殺傷能力のない単なる空気の振動ではあったが、屋外で農作業していた人々だけでなく、屋内にいた人々の鼓膜をも震わせた。
驚いた人々が何事かと見上げると、雲一つない青空を穿ったかのように、ぽっかりと開いた黒い穴がある。
穴から何かが出てきた。
それを見たまま言葉にするなら、残骸で作られた星だ。
様々な金属や鉱石、構造物の残骸が集まってできている。
残骸の星はゆっくり穴から出てこようとしていたが、途中で黒い穴は収縮して消えてしまう。
そのため残骸の星の半分近くが消失に巻き込まれる。
一瞬で削り取られた摩擦エネルギーにより、三日月型になった星の断面は融解。
融解した残骸は火山のマグマのような赤黒い液体となり、断面から零れていた。
それらの余波が、今度は突風となって地上を襲撃する。
畑の農作物をなぎ倒し、
大通りに並ぶ屋台の屋根を吹き飛ばし、
外で遊んでいた子供たちを空へと攫った。
「きゃぁぁぁぁ」
屋根より高い位置に飛ばされた幼女が、恐怖で目を瞑る。
そのまま落下を始めた……かと思われたが、
「あれ?」
いつまでも落下する様子がなかったので、幼女が恐る恐る目を開ける。
すると体の下に半透明な盾があり、幼女の体はその上に乗っていた。
周囲を見回せば他の飛ばされた子供たちも同様で、水平に展開された半透明の盾の上に乗せられている。
盾はゆっくり降下し、子供たち全員を安全に地面に下ろすと消滅した。
「もう大丈夫ですよ」
盾を創り出した本人、アルネイズがぽかんとした表情の幼女の頭を優しく撫でる。
「皆さん、落ち着いて建物の中に避難してください! 建物の中なら安全です。また怪我をした人がいたら教えてください。私たち地神教の者たちが治療します」
その横ではウルティアが声を張り上げ、混乱している人々の避難誘導をしていた。
地神教の聖女らしい、堂に入った立ち振る舞いだ。
幸いにもそれ以降は突風が発生することもなく、怪我人も少数で大きな被害はなかった。
誰もが胸をなで下ろす一方で、空には残骸の星が浮かんだまま。
「シキ……」
大通りに陣取り怪我人の治療を終えたウルティアも、不安そうに残骸の星を見上げていた。
『メナスの出現を多数確認。各機迎撃せよ―――蹴散らしなさい』
『『『了解!』』』
オルティエの指示でスプリガンたちが空へと飛び立つ。
エンフィールド大樹海の上空に現れたのは、丸みを帯びた残骸の塊から腕が生えたロボットの出来損ない。
ショート級のメナスだ。
メナスはそのエネルギー量でランク付けされていて、下から順にショート、トール、グランデ、ベンティ、トレンタと分けられる。
このショート級の大きさはスプリガンの半分程度。
生えている腕は棒を繋ぎ合わせたような、チープな作りをしていた。
足は生えておらず、空を飛ぶためにブースターが背面に二つ付いている。
歪な丸い体の中央には赤く光る
シルエットだけ見れば愛嬌がなくもないが、メナスは人類の敵である。
生身の人間が遭遇すれば、そのチープな造りの腕で握りつぶされてしまうだろう。
突如出現したブラックホールから現れたトレンタ級のメナス。
ブラックホールの縮退に巻き込まれ体の半分を持っていかれたが、下位のメナスを生み出す空母としての機能は失われていなかった。
〈Mission1 メナスの侵攻を阻止せよ wave1/3〉
シキの視界に映る拡張画面にはそう表示されていた。
今いる場所はエアスト村に設置した〈指令室〉。
シキにはよくわからない端末やモニターが多数並び、正面にある一番大きいモニターには小型情報端末のカメラ映像が流れている。
遥か上空に浮かぶ残骸……いや、機械仕掛けの彗星であるトレンタ級から出撃し、降下してきた無数のショート級。
それを〈SG-065 リューナ・ヘルカイト〉、〈SG-066 セラ・トゥー・クロス〉、〈SG-070 エイヴェ・サリア〉、〈SG-071 シアニス・エルプス〉の四機が迎撃していた。
全員がアサルトライフル 〈メタリア AKX160〉を装備し、等間隔に並び戦線を維持しながら発砲する。
シアニスの構えた銃口から撃ち出された33.5×215mm弾が、ショート級の胴体に着弾。
易々と貫いたが、若干動きが鈍るだけであった。
『あれれっ、手応えないです!』
『どうやら中身はスカスカのようね。コアを潰すしかないわ』
リューナも自分に向かってきたショート級へ銃弾を浴びせ続ける。
衝撃でよろめき、火花を散らし、体が千切れながらもリューナに迫るショート級。
瞬く間に装弾数30発のマガジンが消費され、空になる寸前で体内のコアに銃弾が命中したようだ。
機能を止め、単眼の光が失われたショート級が落下していく。
『対象に遠距離武装なし。これなら殴ったほうが早いかしら?』
『コアの位置は個体ごとにバラバラ。それに隙間だらけの体が銃弾を逸らす役目をしていて、それなりに攻撃を浴びせないとコアまで届かないわね』
リューナとセラの所感を聞いて、シキが指示を出す。
『みんな、地上への影響を減らすために、メナスは上空で確実に倒しておきたい。殲滅速度が間に合う間はそのまま銃撃で対応してくれ』
Break off Online 製の武器で倒されたものは、1分で死体が消失してゲーム内通過の
つまり上空で倒してしまえば自由落下の途中で死体は消失するので、地上への影響は抑えられた。
人間サイズのものが自由落下すると、空気抵抗を受けながら1分でおよそ3km落下する。
それを考慮したうえで、スプリガンたちの戦線は上空5kmの位置に展開していた。
シキのメニュー画面には〈Mission1 メナスの侵攻を阻止せよ wave1/3〉と表示されている。
wave1/3 ということは、
これまで以上にゲームっぽくなったなぁ。
そう思うのと同時に、自分たちを影から操る存在を意識せざるを得ないシキであった。