精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
〈妖星の落とし子〉
母たる
機械〈同胞〉の骸を手繰り寄せ、束ね、幾ばくかの生命が吹き込まれた。
張りぼての体に備わるのは、帰郷を願う母より教えられた仇敵の抹殺命令のみ。
母の元を旅立ったが最後、生命ある限り破壊を振りまく。
どんなに活躍しても、貢献しても、落とし子たちは決して母に見返りを求めない。
母の元へは帰らない。
何故なら、そのようなことは教えられていないのだから。
以上がメニュー欄にある〈図鑑〉に表示された、ショート級メナスのフレーバーテキストである。
これまでにもメナスと同じエネルギー反応を持つ外様の神と戦ってきたが、〈図鑑〉が更新されることはなかった。
取得済みの武装などは図鑑に記載があるが、エネミー枠としては〈妖星の落とし子〉が第一号だ。
なお外伝のメインストーリーの説明は一切ない。
ミッション表示と図鑑のフレーバーがあるのみ。
ストーリー説明は未実装なのか、
断続的に空から降ってくる丸みを帯びたショート級を、
『ショットガンとかどうかな』
武装をショットガン〈MLK:N4800〉に切り替えたシアニスが、ショート級をギリギリまで引き付けてからトリガーを引く。
銃口から飛び出した
多数の弾丸に分裂し散弾となってショート級を襲う。
アサルトライフルと同様に隙間だらけの体が散弾を逸らすが、ショットガンは点ではなく面の攻撃だ。
逸れた散弾の横を別の逸れた散弾が飛んでいるので、よほど偏った逸れ方をしない限りは面攻撃は成立している。
〈MLK:N4800〉の一撃目でショート級の前半分を吹き飛ばし、二撃目で跡形もなく粉砕した。
『あ、いい感じ』
『シアニス、ショットガンは効率が悪いわ。
『うっ、わかりましたぁ』
『そこまで節約しなくても大丈夫だよ? CRには余裕があるし』
ショート級撃破の報酬はゲーム内通過のCRであった。
外様の神を倒した時のように無償チップを期待したが、そうは問屋が卸さない。
『いいえマスター、余力があるうちは節約するべきです。楽をしてマスターが得られるはずの利益を失うなど許されません』
『くぅん……』
ボイスチャットの向こうでシアニスがしょげている。
見えないが、彼女から生えている犬耳と尻尾も力なく垂れ下がっていることだろう。
オルティエもシアニスが楽をしたがっているわけではないと理解しているので、助け舟を出した。
『ショットガンを使うなら一撃だけよ。一撃浴びせればコアが露出するから、近接武器で破壊すればいいわ』
『なるほど! 了解です』
シアニスは左腕のショットガン〈MLK:N4800〉はそのまま残し、右腕をアサルトライフルからプラズマブレード〈PLB-T776〉に切り替える。
〈PLB-T776〉は腕部装甲に装着するタイプのものだ。
先程と同様に近寄ってきたショート級に至近距離から散弾を浴びせると、赤く光る単眼と右腕を吹き飛ばす。
体の中心よりやや右下にあったコアが露出した。
その見た目は硬そうな宝石だというのに、心臓のように脈打っている。
シアニスがコアに向かって右腕を突き出す。
すると手の甲の根元付近から薄黄色のプラズマが円錐状に伸びてコアを貫いた。
体の前面を削られても動きを止めなかったショート級だったが、コアが破壊されると機能を停止し樹海へと落ちていく。
シアニス以外もこの戦法を取り入れ始めた。
セラは半円を描くような特殊な形状のブレード、プラズマショーテルを使用。
華麗なショーテル捌きでコアを斬り裂く。
リューナは可変型スプリガンで、竜の姿に変形できるが現在は人型だ。
竜形態の時は頭部パーツにもなる竜面の盾を、コアが露出したショート級に押し付ける。
すると竜面の顎が開き、コアを噛み砕いた。
エイヴェだけショットガンとアサルトライフルの二挺持ちを継続。
さすが狙撃の名手であった。
「ねぇオルティエ。もしショットガン一発に留めて、コアを破壊せずに放置したらどうなるかな? 見た目的には半壊しているからとても戦えそうにないけど」
「メナスは自己再生能力を有しています。コアを破壊しない限り、いずれ復活するでしょう」
「それは厄介だ。自己進化と自己増殖もしたりして」
「御明察です。上位のメナスにはそういった能力が備わっていた事例があります」
「うへぇ。それは当たって欲しくなかったよ」
その後も暫くショート級が湧き続けたが、スプリガンの敵ではなかった。
順調に倒していくと、メニュー画面が更新される。
『あっ、wave2 になった。みんな、気をつけて』
次に現れたメナスは、遠目には薄い布が漂っているように見えた。
近づいてきてもあまり印象は変わらない。
『
雲一つない青空の下を、菱形の巨大生物が泳いでいる。
〈妖星の落とし子〉のような機械が剥き出しの体ではなく、銀色に包まれていた。
太陽光を反射しているその独特な光沢は水銀のよう。
つなぎ目もなく、大きく水平に広がった胸びれの縁の薄い部分を波打たせて遊泳する様子は、本物のエイと変わらない。
『しかもでか……速い!』
シキはシアニスが展開し、自機を追従させている小型情報端末越しに戦場を見ていたが、エイの大きさはスプリガンの三倍以上あった。
それが高速で突進してくる。
狙われたシアニスは
『きゃうん!』
エイがシアニスの足元を通過した瞬間、何かにぶつかって弾き飛ばされた。
スプリガンには耐久値が存在する。
シキの視界に映るメニュー内のステータス画面でも確認ができ、〈SG-071 シアニス・エルプス〉の耐久値バーが一割ほど減っていた。
『細くて見えにくい尾で、すれ違いざまに攻撃されたようです。皆気を付けて』
『なら近づく前に仕留めます』
エイヴェが武装をライフル〈LR-017 RHODES〉に切り替え構えた。
スプリガンの戦線を突き破り、Uターンしようとエイが腹を見せた瞬間に発砲。
けたたましい銃声と共に弾丸が撃ち出され、見事にエイのど真ん中を貫き大穴を開けた。
『上手い』
『むぅ、手ごたえがありません』
シキは歓声を上げたがエイヴェの反応は渋かった。
それもそのはず、銃弾はエイの体に穴をあけたが動きを止める様子はない。
穴もすぐに塞がってしまう。
『エネルギー総量からトール級と断定。各員警戒よ』
〈妖星の落とし子〉と同様に、このトール級についても弱点を探る必要があるのであった。