精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
銀色のエイの形をしたトール級メナスが突っ込んでくる。
弾き飛ばし体勢を崩していたシアニスを再び狙っていたが、両者の間にリューナが割り込んだ。
竜面の盾を構え、正面からエイを受け止める。
スプリガンの三倍はある大きさのものが、戦闘機並の速度で衝突。
膨大な運動エネルギーが余波となって大気を震わせた。
周辺に散布されている小型情報端末がその煽りを受けて、シキの見ていた映像が一瞬途切れる。
復旧した画面には、リューナが見事にエイを受け止めた光景が映っていた。
盾の中心にある竜の顎が、エイの尖った頭部を咥え込んでいる。
エイは後退せず、そのままリューナを押し返そうとした。
そうはさせじとリューナはブースターを
ブースターから青白い炎が激しく噴き出し、リューナとエイの押し合いは拮抗した。
『今よ!』
リューナの合図に合わせて、他のスプリガンたちからの十字砲火がエイに向かって浴びせられる。
銃弾がエイの体に無数の穴を開けるが、穴はすぐに塞がってしまう。
まるで水面を打つ雨粒のようだ。
『液体金属みたいだ。ねぇオルティエ。スキャンでメナスのコアの位置は探れないの?』
『メナスは独自の
『でもムハイにチャフはなかったね?』
『はい。その理由は呼称:ムハイが、完全にメナスというわけではなかったからです』
『なるほどね。ならさっきみたいに効率の良い攻撃を探りながら戦うしかないのか』
『実弾でも削れてはいますが、効率は悪いようです。各員プラズマ兵器に換装を―――新しい反応がひとつ』
上空に新たな反応が現れ、スプリガンたちの意識が僅かにそちらへ傾く。
その隙を狙うかのように、エイが新たな動きを見せた。
密かに動かしていた細い尾が、リューナの足に絡みつき引っ張る。
すると拮抗していた押し合いに別ベクトルの力が加わり、バランスが崩れた。
竜の顎からエイの頭部が外れると、再び空を高速で泳ぎ出す―――尾にリューナを巻きつけたまま。
リューナはアサルトライフルからプラズマブレードに持ち替え、足に絡みつく尾を切ろうとしたが、オルティエに引き止められる。
『リューナ、少し待って。丁度良い重石だわ』
『待つのはいいけど、誰が重いですって?』
『スプリガンなんてどれも重いじゃない。強いて言えばアリエが一番重たいくらいよ。スプリガンでもコアAIでも』
『ちょっと! シキ君の前で何言ってくれちゃってるの~!』
地上で通常任務に当たっているアリエから苦情が入った。
その間にもエイは空を飛んでいるが、リューナを引っ張っている分だけ遅くなっている。
『少しは抵抗する?』
『いいえそのままで大丈夫。速度計算完了。エキュース、出番よ』
『はい。エキュース、行きまーーす!』
エイより少し離れた、斜め上の位置に新たな機体が現れる。
それは下半身が四脚の、まるでケンタウロスのようなシルエットのスプリガン。
〈ユニット転送〉された〈SG-067 エキュース・キャバル〉だ。
この有償チップを消費して手に入れた〈ユニット転送〉だが、決して万能ではない。
再使用まで十数秒のクールタイムが必要であるし、電波欺瞞細胞を持つメナスの周辺には転送できない。
だからエキュースの転送位置はエイから離れていた。
リューナが重石になっているおかげで、エイの速度に追いつけるようになっている。
減速させ過ぎると躱される可能性があるため、全速力にも関わらず速度が落ちている、という状態が理想であった。
なお非表示設定や当たり判定といったシステム設定も、メナス相手には通用しない。
それはそうだろう。
むしろアトルランの生物に対して有効なのがおかしい。
エキュースはレーザーランス 〈UM-74TGK〉を構えると、真下に向かって走り出す。
レーザーランス内蔵のブースターによる追加の推力を得て、水平に飛ぶエイに真上からぶつかっていく。
『えいっ』
青白く輝くレーザーランスの
しかも今回は銃弾のような小さな穴ではない。
体積のおよそ三割を削った穴が空気抵抗を大きく乱し、真っすぐ飛ぶことを不可能にさせる。
穴の開いた体では空気抵抗に耐えられず、エイの体は丸められた紙屑のようにくしゃくしゃになってしまった。
ここでようやくエイはリューナに巻きつけている尾の力を緩めて逃げようとしたが、その尾をリューナががっしりと掴んだ。
『今更逃がすとでも? エキュース、いいわよ』
『はい。いっきまーーす!』
天翔けるエキュースが折り返し、再度レーザーランスでエイを貫く。
丸まり密集していた分、先程よりもより多くの体積が削られた。
穴だらけのボロ雑巾のようになったエイは脱力。
樹海へと落ちていく。
『エネルギーの漏出過多を確認。今の一撃でコアを破壊したようです』
『おおー』
シキが一息ついて図鑑を確認すると、〈妖星の遺子〉という名前が増えていた。
『コア、どこにあったんだろうね。ってそれどころじゃないか。新手が来てるんだっけか』
『はい。画面に映します』
上空に向けられた小型情報端末の映像が、シキの視界に映し出された。
そこには残骸を人型にしたようなメナスが映っていて、ゆっくりとこちらに向かって降下してきている。
一応装甲がついているが部位ごとに種類はバラバラ。
軽量級や重量級用の装甲が混在していた。
駆動系や配線が剥き出しになっている箇所もあり、武装の類は確認できない。
『え、魔王? まだ Mission1 の wave2 なんだけどもう来るの?』
その姿からしてウルティアの神託に出てきた魔王と思われたが、
『それが、対象はメナスで間違いないのですが、同時に救難信号も出ています』
『へ?』
『しかも恐ろしく古いシグナルコードです。400年は前のものでしょう』
『それってどういうこと?』
『私も困惑しています……』
『救難信号が偽物で襲い掛かってくるとかない?』
『そういった事例はありませんが、可能性がゼロとは言い切れません。撃墜しますか?』
『でももしかしたら、コアAIみたいな存在が乗っている可能性もあるんだよね?』
『こちらのスキャンに対して、電波欺瞞細胞による妨害はありません……コックピット内に生体反応がひとつ。バイタルが著しく低く、危険な状態です』
『悩んでいる余裕はなさそうだ。よし、救助しよう。注意して接近してくれ』
シアニスとリューナが接近すると、その人型メナスは見計らったかのように減速。
リューナが背後に回り、羽交い絞めして人型メナスを固定した。
人型メナスからの抵抗がないどころか、胸部のコックピットハッチが勝手に開く。
まるで誘うかのように。
しかし何かに引っかかって途中で止まってしまった。
『シアニス、小型情報端末で内部を確認して』
『了解です』
正面に回ったシアニスが、小型情報端末をコックピットに滑り込ませる。
内部も外観と同様に様々な残骸や配管で埋め尽くされていた。
その中に、円筒状の物体が突き刺さっている。
それは巨大な試験管のようなもので、中は半透明の液体で満たされていた。
周囲の残骸に隠れてよく見えないが、何かが入っているようだ。
小型情報端末が回り込んで、一番中身が見えそうな角度へと移動する。
―――するとそこには、安らかに眠っているかのような、白髪の少女の姿があった。
*誤字報告ありがとうございます*