精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
人型メナスを鹵獲した直後、Mission1 の wave3 が始まった。
出現したのは丸い残骸こと〈妖星の落とし子〉と、エイこと〈妖星の遺子〉。
どちらも二度目の登場である。
前者はショットガンからの近接で。
後者はリューナが動きを押さえ込んでからの、プラズマ兵器の集中砲火で難なく撃破。
Mission1 が完了すると、少額だがクリア報酬として無償チップを獲得した。
Mission2 の開始タイミングも、メニューのストーリー欄から選択することで任意のタイミングで開始可能のようだ。
しかし今度は24時間のカウントダウンタイマー付きだった。
「上空に〈妖星の昴〉が待機してるし、そりゃぁ長く放置はできないよねぇ」
シキは地上に戻るとエンフィールド辺境伯領、及び大樹海の被害状況を確認する。
領内で多少の負傷者が出た程度で済んでいた。
ウルティアたち地神教の活躍があったようだ。
「引き続き地上の守りはウルティアたちに任せて、俺たちは外伝クリアに専念しよう。それで人型メナスの様子はどう?」
「スキャンの結果、敵性反応がないことは確認できましたが……」
機体は間違いなくメナスであるということ。
救難信号は人類が使用している公式のものだが、その識別シグナルは400年以上昔のものであるということ。
コックピット内の試験管の中で謎の少女が眠っていたこと。
ここまでが最初に遭遇した時点で判明していることだ。
人型メナスはエアスト村内にある格納庫に収容し、オルティエが中心となって調査しているが、その成果は芳しくない。
人型メナスは機能を停止した他のメナスと変わらず、人類が手を加えた痕跡がなかった。
コアに蓄えられたエネルギーは僅かに残っているが、それはコックピット内の少女の生命維持のみに使われている。
上空で少女のバイタルが低下していたのは、機体を動かすことにエネルギーを使用したため、少女へのエネルギー供給量が一時的に減ったからだろう。
そこまでは判明したが、何故人型メナスが勝手に動いたのか、何故人類である少女を乗せているのかは不明。
ただ少女の遺伝子情報をスキャンした結果、
「試験管を破壊して強引に中身を取り出すことは可能ですが、意識が回復する可能性は低いです。治療薬を使えば延命はできますが、生命維持だけなら現状のままでもよいでしょう」
たいした成果を得られず、オルティエは柳眉をハの字にしていた。
「お役に立てず、申し訳ありません。マスター」
「そんなことないよ。オルティエにはいつも助けてもらってるからね。ありがとう」
「マスター……」
感謝の言葉を受けて、頬を上気させうっとりするオルティエ。
その横でシキは人型メナスを見上げる。
全長は
コックピットがある胸元付近には、工業用ロボットとドローンによって
エアスト村という名の秘密基地を作った時点でこの格納庫も作っていたのだが、使用したのは今回が初めてである。
何故ならスプリガンたちは Break off Online のメニュー画面上で管理されており、直接的なメンテナンスが不要だからだ。
現在もファミレスの配膳ロボのような外見のロボットたちが、ぱたぱたと忙しそうに働いている。
そのような光景を初めて間近で見られて、わくわくが止まらないメカ好きのシキであった。
「もう安全なんだよね? 足場に登ってもいい?」
「はい、大丈夫ですよ」
オルティエはシキの両脇に腕を差し込んで、足場まで一気に飛び上がった。
人型メナスのコックピットはフルオープンになっている。
上下に開くタイプで、例の試験管のようなものが斜め上にせり出していた。
試験管は残骸のような配線やダクトが絡みついてて、中身は先端部分しか見えない。
そしてそこには眠っている少女の顔がある。
雪のように白くて長い髪が、液体の中で揺れていた。
「彼女は何者なんだろうねぇ。どうして試験管に入っているんだろう」
「可能性としては合成人間である彼女がメナスを鹵獲したか、その逆でしょうか」
「状況的にはどっちとも取れるよね。若干後者な感じもしないでも―――」
シキが少女を見上げながら喋っていると、どこからか「ピッ」という電子音が聞こえた。
「「ピ?」」
二人で首を傾げた瞬間、突如試験管が縦に割れた。
絡みついていた残骸は引き千切られ、中身の半透明の液体と少女が落ちてくる。
「うわわっ」
咄嗟に落ちてきた少女を抱き止めたシキであったが、半透明の液体は粘性を帯びていた。
要はぬるぬるしていたので、足を滑らせて仰向けに倒れる。
足場は格子状で隙間があるので、液体は下方へと流れていった。
その場に残るのはシキと抱きかかえられた少女。
「ごほっ、ごほっ。おえっ」
意識を取り戻した少女が、肺に入った液体を吐き出す。
顔に付着した粘性のある液体を手でぬぐい、目を開ける。
ルビーのような赤い瞳が自分の下にいるシキを見つめた。
「「………」」
暫く無言で見つめ合う。
少女が先に視線を外し周囲を見回すと、俯き肩を震わせる。
「えっと、あの……」
「やった! やったわ! 縮退から生き残ってやったわ!」
両手でガッツポーズを決めて喜ぶ少女。
「私の仮説は間違ってなかった。ブラックホールの先に出口はあったし、ローレンツの特異生存力場もちゃんと発動した。これを解析、転用できれば人類に勝機ありよ! ところでここはどこ? 君は誰? 何故横を向いているの? こっちを見なさいよ」
「だって……」
言い淀むシキに少女が首を傾げ、自分の体を見下ろしてようやく気が付く。
少女は全裸でシキに馬乗りになっていた。
年齢はシキより少し上だろうか。
体つきは年相応に丸みを帯び、女性らしい曲線を描いている。
少女から大人の女性へと変貌を遂げる過渡期、真っ只中であった。
「それでここは何処? 見る限り最新鋭の設備が整っているみたいだけど」
「いや、理解したなら隠すとかしようよ」
「今更恥ずかしいことなんてないわ。メナスに勝つためには倫理観なんて邪魔よ。こんなにいい施設にいるんだから、貴方も私みたいに見た目通りの年齢じゃないのでしょう? エグい実験や実験体だって見てきてるはずだわ。でもこうして生身の肉体に転送したのは久しぶりね」
そう言いながら自分の体を確認するかのようにまさぐる少女。
体にまとわりついていた液体が指先でぬらぬらと光っている。
「あの子には悪いけど、ちょっとぐらいいいわよね。ねぇ君、私と……」
「あ、それ以上はいけない」
「何が………ひっ」
ここでようやく少女はシキ以外の存在に気付く。
それらは強烈な殺気を放っていた。
「マスター、処しますか? 処しますよね? 処しましょう」
オルティエが大型拳銃〈アーク・ファルコン〉の銃口を少女のこめかみに突きつけていた。
怒りで引き金にかけた指が震えている。
「主君を惑わす不埒者には死あるのみ。オルティエ、腹を掻っ捌くから介錯お願い」
いつの間にか少女の背後にいたのは、忍者じみた行動が得意なプリマだ。
逆手に持った
「任せて」
「……あ、ご、ごめ……」
「ちょ、待ってよ二人とも。落ち着くんだ。俺は大丈夫だから」
「私たちが大丈夫ではありません」
「うっ、それはそうかもだけど」
少女が久しぶりに生身の肉体を手に入れたというのは事実である。
「あっ、あっ」
だから殺気に気が付くのが遅れたし、到底耐えられるものでもなかった。
極度の恐怖に晒された少女の顔は青ざめ、一瞬で限界を迎える。
「うっ……ひぐっ……」
少女の目からは大粒の涙が零れ、シキの腰のあたりに生暖かい感触が広がるのであった。