精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~ 作:忌野希和
「そ、そういえば確か有償チップで購入できる武器にそんな名前があったよね」
「イエスマスタ―。これは〈ST026:レーヴァテイン〉の原型となった兵器です」
〈ST026:レーヴァテイン〉は Break off Online 製の兵器で、衛星軌道上から地上に向かって星間物質型弾体加速装置で攻撃することができる。
星間物質型弾体加速装置とは星間物質を超圧縮して生成した弾丸を加速装置で撃ち出す装置だ。
何度聞いても星間物質型弾体加速装置って長いなぁと思うシキである。
「地球のエネルギー七日分って凄いね。そのレーヴァテインはブラックホールよりも強力なの?」
「いいえ、星間物質型弾体加速装置は質量兵器の域を出ませんが、ブラックホールはその質量が重すぎるが故に発生する、すべてを吸い込む縮退星です。比較すると文字通り次元が違います。人類には過ぎた兵器と言えるでしょう。マテリアが発生させたブラックホールの本体である特異点は、砂粒ほどの大きさでしたがそれであの威力です。あと少しでも大きいブラックホールが発生していれば、地球をも飲み込んでいたでしょう。完全に人智を越えた制御できないエネルギーであり、それに頼るなんて愚か者のすることです」
「……っ」
「あ、あわわ」
自身の取った行動が非常にリスクの高いものだと改めて指摘されて、マテリアの表情が歪む。
赤い瞳に涙が溜まる。
抱きかかえられたままのシアニスはおろおろしていた。
「オルティエ……」
諫めるようなシキの視線を受けて、オルティエの心がささくれ立つ。
シキがマテリアに特別な感情を持っているわけではないのは把握している。
裸で抱きつかれようが、体の上で粗相されようが、
オルティエがマテリアに対して厳しいのは、敵味方の断定がつかず警戒しているからだとシキは思っているだろう。
それも間違いではないが、すべてでもない。
嫉妬心をあえて見せて武器にできるほど、オルティエも恋愛上手ではなかった。
マスターに自分の狭量な部分を見せたくないという乙女心だ。
いつまでもツンツンした態度を見せ続けて、ジェラっていることが悟られても嫌なので、オルティエはネタばらしすることにした。
「なお建造直後の試作機〈レーヴァテイン〉が正常に稼働するかは、70%程度の確率だったと言われていました」
「70%かぁ。絶妙に不安になる確率だ」
「それでも私の作戦よりは全然ましな確率だわ」
「でしたが後日、改めて〈レーヴァテイン〉状態を確認したところ、深刻な欠陥があり正常に稼働する確率は5%に引き下げられました」
「は?」
「ええ……」
絶句するマテリアとシキ。
結局のところ統宙歴317年の人類は、紙一重で絶滅の危機を乗り越えていたのであった。
「さすがに公表するのはまずいと判断したのでしょう。この真実は統企連のアーカイブの中でも機密中の機密です」
「それを先に言いなさいよ! てかなんで機密にアクセスできてるのよ!」
「先に言ったからなんだというの? 〈レーヴァテイン〉の件は結果論であって、無謀な策に飛びついた貴女が愚か者であることに変わりはないわ」
「それは、そうかもだけど……!」
睨み合うオルティエとマテリア。
険悪な雰囲気に耐えきれず、シキが何か話題がないかと探し、思いついたことを口にした。
「リスクがあったとはいえ、ブラックホールを創り出すなんて凄いよね。人類には扱えない代物なんでしょ?」
「あれは私だけの力じゃないの。メナスの戦艦にハッキングできたのは、ローレンツの協力があったからよ」
「ローレンツ? そういえばコックピットから出てきた直後にも聞いたような」
首を傾げるシキに対して、マテリアは説明を一瞬ためらう。
それをオルティエは見逃さなかった。
「マスターに説明できないやましいことがあるのね」
「やましくはないわ。ただ、信用してもらえるかどうか……」
マテリアは膝の上に乗せたままのシアニスを一度強く抱きしめ、深呼吸してから口を開いた。
「ローレンツというのは、今格納庫にいる人型メナスのことよ。彼は意思を持っていて、私たちに協力してくれたの」
メナスは様々な機械や構造物を寄せ集めてくっつけたような見た目の惑星外生命体である。
メナスはある日突然現れ、あらゆる機械と構造物を吸収、取り込みながら人類に襲い掛かってきた。
遭遇黎明期は人類の兵器ではメナスに対抗できず蹂躙され、世界の人口が三割以下にまで追い詰められる。
このまま人類の黄昏を迎えてしまうと思われた時、ようやく鹵獲したメナスの技術を使った人類初の人型兵器、
一転攻勢とまではいかなかったが、じわじわとメナスの侵略を押し返すことに成功した。
メナスとの戦いは何世紀も続く。
その歴史の中でメナスと交信、意思疎通できた記録は存在しない。
「メナスの協力ですって? やはり貴女、壊れているのね」
マテリアの告白を聞いたオルティエの反応は冷たい。
それはそうだろう。
仇敵であるメナスと協力関係にあると聞けば、正気を疑わざるを得ない。
銀の双眸は蔑みと怒りで満ちていた。
視線はマテリアに向けられたものだが、膝の上にいるシアニスが巻き添えを食らっている。
可哀そうなことに、怯えて耳を後ろに寝かせていた。
「やっぱりそういう反応になるわよね。でも真実よ。ローレンツの特異生存力場があったおかげで、私はブラックホールを通り抜けることが出来たんだから」
「特異生存力場?」
「簡潔に説明すると、因果律を操作して絶対に死なない力場を作る能力よ」
「何かむせそう」
「むせる?」
「ごめん、なんでもないです」
「人型メナスに特殊な反応はなかったわ。コアのエネルギー消耗も激しく、中にいた貴女を辛うじて生きながらえさせていただけ」
「特異生存力場を使ったせいで半分休眠状態なのよ。エネルギーが回復すればまた意思の疎通ができるようになるわ」
「ならその前に破壊しましょう。マスター、メナスは敵です。鹵獲機体として回収しましたが、意思を持った状態で復活する可能性があるのであれば、迅速に対処する必要があります」
「待って! ローレンツは本当に敵じゃないの。彼が起きたら私がちゃんと話をするから。きっとこちらに強力してくれるわ」
「駄目よ。破壊しましょうマスター」
「お願い、シキさん!」
「えーっと」
急に選択を迫られ、困り果てるシキであった。