精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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49話 GUNSLINGER LADY

 オルティエにトレントの群れが襲い掛かる。

 白黒のドレスを絡め捕ろうと殺到する枝を、轟く銃声が拒絶した。

 

 オルティエはその場から動かずに、二丁の〈アーク・ファルコン〉で枝を撃ち落とす。

 〈アーク・ファルコン〉は0.39マグナム弾を使用する大型拳銃で反動が大きい。

 

 両手でしっかり構えて撃たなければ、成人男性でも照準(エイム)がブレて肩を痛めてしまう可能性がある。

 それをオルティエは片手で扱い、連射し、一発も外していない。

 

 射撃の技術もさることながら驚異的な腕力だ。

 どうりでがっちり抱き着かれたら逃げ出せないわけだと、シキは同衾した夜のことを思い出す。

 

 大型の弾丸であるため、〈アーク・ファルコン〉の装弾数は七発しかない。

 ものの数秒で全弾を撃ち尽くすと、オルティエは両手の〈アーク・ファルコン〉からマガジンをパージする。

 

 銃底から空のマガジンがするりと抜け落ちたところで、シキがCRで購入した追加のマガジンがオルティエの正面、腰の高さの位置に転送された。

 オルティエはそのマガジンを銃底で叩きつけるようにして銃身に納める。

 こうしてリロードの完了した〈アーク・ファルコン〉が再び火を噴き、迫る枝を撃ち落とし続けた。

 

『マスターとの初めての共同作業ですね』

 

『初めてだっけ? そんなケーキ入刀みたいに言われても困るけど。というか購入したマガジンを〈アーク・ファルコン〉本体に直接転送しなくていいの? リロードの手間が省けるけど』

 

『この程度の相手ならリロードを挟んでも対応可能です。それに見学されている方々への牽制になります』

 

『あー、連続で撃てないように見せかけると』

 

『はい。ですので申し訳ありませんが、暫くお付き合いください』

 

『わかった。射撃効率が120%向上しそうな構えで格好いいから、見ていて飽きないよ』

 

『……! 何なら少し遠くにマガジンを転送して頂いても構いません』

 

 そんな飼い犬にフリスビーを投げるんじゃないんだから、と思いながらもわくわくしてちょっと遠くに転送してみるシキである。

 前方四メートル先、目線の高さにマガジンが転送されたのを確認すると、オルティエは空になったマガジンをパージしながら前方へ飛ぶ。

 

 空気中の分子で造形し投影された質量のある立体映像であるオルティエは、空を自由に飛ぶことができる。

 なので槍のように突き出されたトレントの枝を宙返りして躱すことも可能だ。

 

 そして自由落下を始めるマガジンに頭から突っ込み、通過し、振り向きざまにマガジンを銃底で叩きつけるようにしてリロード。

 躱した枝はオルティエを追尾してきている。

 

 背後には追加の枝が迫り、前後を囲まれた状態になってしまう。

 それでも冷静なオルティエはその場で回転しながら銃撃する。

 

 白黒のドレスのスカートが花弁のように広がり、射撃時に銃口の先端に出現する火(マズルフラッシュ)が華を添えた。

 前後の枝を撃ち落とし、包囲が緩まったところでオルティエは真上へ上昇する。

 

 三十メートルくらいの高さまで上がり見下ろすと、オルティエの下には密度の濃い森が生まれていた。

 これらはすべてトレントで、その数は二十体。

 

 周辺の森に点在していたものがすべて集まってきたので、逆に周囲の森は木々の密度が減っていた。

 トレントの外見は普通の樹木と変わらず、大きさも五メートルくらいのものから十数メートルのものまで様々だ。

 

 トレントが集まったのを見計らってオルティエは急降下。

 これから先は戦い方を変える。

 

 落ちてくるオルティエを複数の枝が槍衾となって待ち構えていたが、その間をするりと抜けて手近ににるトレント本体へと接近。

 銃口を幹に押し付けて引き金を引く。

 

 背後からそのトレントの枝がオルティエの細い腰に巻きつこうとしていたが、直前で動きを止める。

 そして二度と動くことはなかった。

 

 オルティエが銃口を幹から離すと、そこには貫通して向こう側が見通せる穴ができている。

 穴から見える幹の中心部付近は赤みを帯びていて、鼓動するかのように明滅していたのだが、すぐに明滅をやめて暗くなった。

 

 通常の樹木とトレントには二つ大きな違いがある。

 ひとつは密度で、トレントの方が遥かに密度が高く重量もある。

 これはトレントが根を動かして歩いたり、枝を伸ばして獲物を捕食するような動きに必要な、いわゆる筋肉の役目を果たしていた。

 

 もう一つは、幹の中に魔核(コア)があること。

 これがトレントを魔獣たらしめているもので、破壊されるということは死を意味する。

 密度だけでなく魔核の位置まで小型情報端末でスキャン済みなので、あとは集めたトレントを手早く倒すだけだった。

 

 同胞の死に頓着しないトレントたちは、オルティエに群がり枝を伸ばしてくる。

 躱した枝がトレントの死体に突き刺さり、その上を駆けるようにして次の幹へと向かう。

 

 叩き落そうと横から鞭のようにしなり飛んできた枝を屈んでやり過ごし、足場にしていた枝から飛び降りる。

 膝裏で器用に枝にぶら下がると、その姿勢のまま幹に向かって発砲。

 スカートが捲れる前に素早く枝から飛び降り、次の獲物へと向かう。

 

 オルティエは時に社交ダンスのように優雅なステップを踏み、時にポールダンスのように妖艶に枝に足を絡ませて攻撃を躱し、一撃でトレントを屠っていく。

 一度だけリロードを挟んだが、その時はまとわりつく枝を厚底ブーツで蹴り飛ばし、手首のスナップで受け流したりと格闘術めいた動きもしていた。

 

 銃声が響くたびにトレントが動きを止め、森のざわめきが収まっていく。

 最後の一体を倒したところで、森に静寂が戻ってきた。

 

 オルティエはシキの元まで戻ってきて頬にやさしく口づけをした後、戦況を見守っていたリーゼロッテたちに向き直る。

 

 スプリガンに倒された魔獣は死体が消失しCRになる仕組みとなっている。

 背後では倒した順にトレントの死体が消えていき、最後の一体が消えるタイミングでオルティエも一礼して消えた。

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