精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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50話 【審議中】

「それで君たちはあの麗しい精霊を見てどう思うかね?」

 

「どうと言われましてもねえ……」

 

 スティーブに雑に話を振られて、リックスは困り果てた。

 一体どこから論ずれば良いのか。

 途方に暮れているとリーゼロッテが助け船を出してくれた。

 

「相変わらず魔素を一切感じませんので、あれが本当に精霊なのか、どういった原理で攻撃しているのかというのは議論せず、純粋に戦闘能力について評価致しましょう」

 

「ではそうしようか。まずあの驚異的な速さでトレントを貫いた攻撃だが、あれは魔術 《石弾(ストーンバレット)》のようなものだろうか」

 

「速度と威力、共に《石弾》を上回っていますし、魔術構成も詠唱もなしに連続して放っていました。魔術というよりは加護の力と捉えた方が良いかもしませんねえ。例えば〈雲割き〉の飛ぶ斬撃のような」

 

「斬撃ではなく槍の突きのようなものを飛ばしていると考えると、しっくりくるかもしれませんわ。ただ連続して放てるのは七回までのようです。都度手に持った武器? から何かを交換しておりましたので」

 

「的確に魔核を撃ち抜いていたのも気になる。通常トレントは枝を切り落として無力化して、ようやく本体の魔核を攻撃できるのに」

 

 スティーブ、リックス、リーゼロッテで議論しているところにウルティアも加わった。

 

「ほう、地神教の聖女殿は魔獣にも詳しいのか。トレント相手に槍のような点の攻撃では枝を切り落としにくく、剣による線の攻撃の方が有利だ。しかし魔核を的確に狙えるなら、貫通力のある点の攻撃のほうが有利に働くな。トレントを無駄に傷つけない分、素材も効率よく回収できそうだと思ったが……」

 

 全員の視線がシキに集まる。

 

「理由は分かりませんが、私の精霊が倒した魔獣の死体は消えてしまうのです」

 

「なんですのそれ。意味がわからなさすぎますわ」

 

「ただしあくまでトドメを刺した場合のみなので、手負いにして皆さんが倒す場合は死体が残りますよ」

 

「シキさん、貴方はどのくらい精霊と意思疎通できますの? 会話はできますの?」

 

「直接会話はできないです。ただ私の言葉はある程度理解できているみたいで、命令には従ってくれます。ね? オルティエ」

 

 もちろんバリバリに会話できるので、今言った内容は視察団向けのカバーストーリーだ。

 本来であれば個人の戦闘力を他人に教えることはしない。

 手の内を明かせばそれだけ周囲に情報が伝わり、敵対した時に不利になるからだ。

 

 ただし今回はシキが樹海の奥からやってくる魔獣を撃退できる力があるかどうか、見極める必要があるため例外となる。

 とはいえ手の内をすべて明かす必要もない。

 要は魔獣を倒せる力を証明できればよいのだから。

 

 シキが呼ぶと空からオルティエが降ってきて、シキの背中にしなだれかかってくる。

 そして愛おしそうに頬ずりしてきた。

 視察団へのアピールを免罪符にスキンシップが過度になっている気がするが、皆の前なので拒絶するわけにもいかず。

 

 なされるがままのシキである。

 シルファのような小柄で幼い妖精ならまだしも、オルティエのような妙齢の美女が少年に頬ずりする光景に一同は若干引いていた。

 

「リ、リーゼロッテ様は精霊と会話できるのですか?」

 

「そこからですのね……普通は精霊と契約すると念話で会話できるようになりますわ」

 

「へえ、そうなんですね」

 

 誤魔化すように話題を振ったシキであったが、念話とはスプリガンでいうところのボイスチャット機能みたいなものかと推測する。

 スプリガンは精霊ではないわけだが、この世界の事象に当てはめるなら精霊が一番近いのだろう。

 

「ですから私とシルファは遠く離れていても会話ができます。やっぱりシキさんとオルティエは通常の契約とは違うようですわね。精霊は複数いると聞いていますが、何体いますの?」

 

「十二体です」

 

「「じゅっ!?」」

 

「まあそれくらいの数がいなければ、この広大な樹海から魔獣の侵攻を防ぐことはできまい」

 

「精霊と契約するには恒久的な魔力の譲渡が必要です。手練れの精霊使いでも多くて三体。通常の契約で十二体もの精霊と契約したら、魔力が足りなくて干乾びちゃうね」

 

「その通りですわ。それに魔力を分散させて契約すると行使できる精霊の力も弱まります。だから私はシルファと専属契約を結んでいますわ」

 

 何ならスプリガンの個々の負担を減らしたいので、人員はもっと増やしたいシキであったが、既存メンバーの猛烈な反対により実現していない。

 

「オルティエの戦闘能力は第一位階冒険者に匹敵する。もしかして他の精霊も同じくらい強いの?」

 

「他の精霊はオルティエみたいにはっきり見えないし、強さは同じかちょっと弱いくらいだと思うよ、ウル姉」

 

「第一位階冒険者パーティー二つ分ですか。国を救う英雄としてはやや物足りないですね」

 

 これまで黙っていたアルネイズが初めて口を開く。

 第一位階冒険者は国に数名しかいない。

 つまり第一位階冒険者で編成されたパーティーも国に一つか二つだけということになる。

 

 もしウルティアの神託通りシキが救国の英雄ならば、常駐戦力と比較しても同等から倍程度というのは確かに心許ないかもしれない。

 まあ実際は換装式汎用人型機動兵(スプリガン)器の戦闘力があるので、提示した戦力の十倍はくだらないのだが。

 

 果たしてウルティアに神託を下した神は、シキの戦力の全貌を把握しているのだろうか。

 

「アルネイズ!」

 

 シキが考え事をしているとウルティアが声を荒げる。

 背の高いアルネイズを見上げるように睨みつけていた。

 

「随分と上から目線だな〈高潔なる盾〉殿は。己の実力に相当な自信があると見える」

 

「事実を言ったまでです。シキ少年の実力を評価するのに、私の実力と比較する必要もないでしょう? 当然比較して頂いても一向に構いませんが」

 

「聖女殿が見出した〈高潔なる盾〉殿の強さは、加護によって生み出された穢れをも弾く堅牢な盾にあると聞く。だが亀のように守ってばかりでは敵は倒せないぞ?」

 

「何者にも打ち砕かれない盾があるということは、敵をいくら屠っても壊れない戦槌があるのと同義。つまりやりようはあるということです」

 

「ほう……」

 

「皆様、喧嘩している場合ではありませんわ。あちらを御覧になって」

 

 シルファを飛ばして周囲を警戒していたリーゼロッテがある方向を指し示す。

 晴れた青空の向こうに黒い点が三つある。

 それは高速でこちらに近づいているようで、みるみるうちに点が大きくなり、すぐに正体が明らかになった。

 

「あれは……ワイバーンか!」

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