精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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73話 知名度ランキング推定ワースト

 冒険者ギルドで登録する内容は、個人の簡単なプロフィールと血液情報である。

 冒険者証は簡易的な魔術具になっていて、血を垂らすことによって冒険者証と冒険者を紐付けすることができた。

 

 専用の針のような道具で指先を軽く刺し、滲んできた血を軍隊の認識票(ドッグタグ)に似た形の冒険者証に擦り付ければ完了だ。

 これでもし他人の冒険者証を奪って成り済ましたとしても、冒険者証に登録されている血液情報と照合すればすぐにわかる。

 その方法が気になってシキはローナに尋ねる。

 

「照合ってどうやってするんですか?」

 

「もう一度冒険者証に血を垂らすと登録された血だと吸収されますが、他人の血は弾くようになっています」

 

「おお、すごいですね」

 

 シキは自らの名前と第五位階と刻まれた銅色の冒険者証を手に持って掲げ、しげしげと観察した。

 冒険者登録は誰でもできる。

 

 日本のように戸籍があるわけでもないので、ルール上はアウトだが確認する術はないため偽名で登録する者も少なからずいた。

 シキとスースも素性を隠して名前のみで登録している。

 

 ここはエンフィールド男爵領の隣にあるタクティス子爵領にあるギルド支店で、エンフィールド男爵領の宣伝と偵察のためにやってきていた。

 

「早速魔獣の素材を売りたいのですが」

 

「畏まりました。今素材はお持ち……ですね。買取カウンターまでご案内します」

 

 シキが腰に付けたダミーの次元収納を見せると、ローナがギルド支店の奥隣りにある建物に案内してくれる。

 そこが魔獣の素材の解体場になっていて、倉庫のような建物の前の広場で体格の良い男が狼型の魔獣を解体していた。

 

「バケットさん、お願いします」

 

「おうよ。それじゃあこっちの台の上に出してくれ」

 

 まず手始めにストレージボックスから出したのはトレントの枝である。

 シキの脚くらいの太さ、背丈くらいの長さのものを五本並べた。

 

 初遭遇した時のトレントはすべてオルティエが倒しCRとなって消えてしまったので、これは後日シキがトドメを刺して調達したものだ。

 

「トレントの幹にしては細いが……いや待て、まさかこれは枝か!?」

 

「はい、そうです」

 

 やはりここまで巨大化した魔獣の素材は珍しいようで、視察団と同じような反応を見せた。

 バケットの隣のローナも目を丸くして驚いている。

 

「こんなでかいトレントどこにいたんだ! もし他にも沢山いたら大変だ。場所によっては大至急討伐部隊を編成しないとまずいぞ」

 

「それは大丈夫です。これはエンフィールド男爵領の奥にある樹海に生息している魔獣なので、どこかで被害が出るようなことはありません」

 

「エンフィールド男爵領? ああ、隣の領地のことか。そんな場所があったのか……いや、そういえば噂で聞いたことがあるな。王都に貴重な氷熊の肝が持ち込まれて、その出どころがエンフィールド男爵領だと。もしかして噂は真実なのか?」

 

「あ、そういえば男爵領に大規模な視察団が向かっていて、その中に王都の冒険者ギルドも参加していると先輩が言っていました」

 

 タクティス子爵領にとってエンフィールド男爵領はお隣の領地なのだが、バケットもローナも「そういえば」という枕詞がついてしまう程度の興味しかないようだ。

 

 これは宣伝活動を頑張らなければとシキは気持ちを引き締める。

 その隣では男爵領の知名度の低さが不服なのか、スースが不機嫌そうに腕組みしていた。

 

「それでその視察団派遣のきっかけになったのが王都で行われた御前試合で、男爵領の次期領主様があの〈雷霆〉と引き分けたって噂になっていましたね。なんでも次期領主様は黒髪黒目の少年で、とても美しい精霊を使役しているのだとか……あれ?」

 

 そこまで言ってローナはシキを見つめた。

 

 当初は偽名で冒険者登録しようかとも考えたシキであったが、後々偽名だとバレると禁止事項に触れてしまうのでやめた。

 かといって家名を名乗るとどこに行っても貴族扱いされて堅苦しいし、身動きも取りにくくなる。

 

 なので名前だけで登録することにした。

 犯罪絡みを除いて冒険者の過去や素性は詮索厳禁だ。

 

 自ら正体を明かさない限り貴族扱いされるのは拒否できるだろう。

 何なら「あ、お忍びなのかな」と思わせて多少忖度してくれるくらいの方が都合は良かった。

 

「次の素材はこちらです」

 

 ローナの視線を華麗にスルーして、シキが猪突牙獣(ラッシュ・ボア)の毛皮を取り出した。

 

「おお、でかいだけでなく状態がすごく良いな!」

 

 バケットはローナと違って目の前の素材に夢中になっていた。

 他にも何点か出して、すべて買い取りを希望したのだが……。

 

「どれもこれも規格外で状態も良いから、すぐには買値を付けられん。ギルド支部長や商業ギルドにも相談が必要だ。すまないが三日待ってくれないか」

 

「わかりました。三日後にまた来ますね。その間はいくつか依頼をこなしてみようか、スース姉さん」

 

「!? そうしようか、お、弟よ」

 

 いつまで経っても弟呼びに慣れないスースがぎこちなく頷く。

 ただ嬉しくないわけではないらしく、うっすらとだが頬が上気し口角が上がっていた。

 

 一応貴族のお忍び設定なので主従関係も隠してある。

 姉弟設定にできるのは同じ黒髪黒目のスース限定なので、他のコアAIたちも羨ましがっていた。

 

 ローナはシキがお忍びのエンフィールド男爵家次期領主だと判断して、すぐさま行動に移す。

 噂がすべて事実ならシキは将来有望なお貴族様だ。

 

 しかもまだ世間にはあまり知られていないので、今がお近づきになる大チャンスである。

 気の早いローナは脳内で思い浮かべた先輩に勝利宣言をした。

 

「それでは冒険者ギルドに戻りましょうか。私がお二人に適した依頼を提供させて頂きます。あともし宜しければ今晩お食事でも……」

 

「駄目だ」

「もちろんお姉さまも(最初は)ご一緒に……」

 

「駄目だ」

「あっはい。すみません」

 

 シキに付く悪い虫には敏感なスースが、ぴしゃりとローナをシャットダウンする。

 ローナの脳内の先輩はやれやれと首を横に振っていた。

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