精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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78話 まるっとお見通し?

「シキ・エンフィールド! 貴方に決闘を申し込みます!」

 

 祝勝会の翌日、シキは冒険者ギルドに売った樹海の魔獣の素材の代金を受け取りに来ていた。

 通常の魔獣の素材より上等ということで、相場の五割増しということでホクホク顔のシキであったが……。

 

 ギルドの扉を勢い良く開けて現れたのは、シキより少し年上の少女だ。

 金髪をポニーテールにしていて、仕立ての良いシャツとズボンの上から丈の短い赤い外套を羽織り、腰には剣を差していた。

 

 背後には護衛騎士が二人控えていて、周囲の冒険者たちを視線で牽制している。

 少女はシキを発見すると藍色の目で睨みつけ、いきなり大声で宣言してきた。

 

「うげ、リティス様だ」

「また冒険者ごっこしに来たのか。無茶難題を吹っ掛けられるぞ」

「おい、よせ聞かれたらどうするんだ」

「普通に弟君の正体バラしちゃうのな」

「多分お忍びって知らなかったんだろう」

「頼むから姉御には絡まないでくれよ。大惨事になるから……」

 

 空気を読んだ冒険者たちがヒソヒソ話をしている。

 折角お忍びに付き合ってくれていたのに、申し訳ないなと思いながらシキは返事をした。

 

「リティス・タクティス様、ご機嫌麗しゅう。こんな所で会うとは奇遇ですね。リティス様も冒険者として活動しているのですか?」

 

「適当なことを言っても私は誤魔化せませんよ。シキ・エンフィールド。自領で上質な魔獣の素材が取れるなどと嘘をついて、王都から視察団を呼んだというではありませんか」

 

「……ああん?」

 

 シキの隣のスースの目つきが一瞬で剣呑なものになり、近くにいた冒険者が「ひっ」と小さく声を上げて遠ざかっていった。 

 

「その魔獣の素材を売りに来たんですよ。エンフィールド男爵領にはまだ買い取ってくれる冒険者ギルドがありませんから」

 

 真の目的は上質な魔獣の素材が取れることの宣伝である。

 だからリティスの難癖は否定しなければならない。

 

「まだ売っていない素材を持っているので見てみますか?」

 

「必要ありません。どうせ他所で手に入れたものを、自領から持ち出したと嘘を言っているのでしょう。お父様からそう聞きました」

 

『タクティス子爵領当主ダスティン。エンフィールド男爵領における国防の事実はないと、王都の宰相に欺瞞工作をした人物ですね。処しますかマスター?』

 

 皆がいる前なので返事はできない。

 シキは視線だけオルティエに合わせて首を横に振る。

 

「嘘だなんてとんでもない。既に視察団の皆さんにもエンフィールドの樹海に生息する魔獣の存在を確認して頂いています。どうしても信じられないのであれば、リティス様もエンフィールドへお越しください。私が樹海をご案内しますよ」

 

「その手には乗りません。そうやって私を誰もいないところへ連れて行って、口封じをするのでしょう?」

 

「そもそも視察団が既に男爵領にいるなら、魔獣がいなかったらすぐバレるよな?」

「しっ、黙っとけ。リティス様はちょっとおつむがあれなんだよ」

 

 再び冒険者たちが陰口を叩く。

 領主の娘に向かって酷い言い草だが、残念ながらシキも否定はできない。

 

 両親から溺愛されて育ったリティスは元気で素直に育ったが……少々素直に育ち過ぎた。

 素直なのは良いことなのだが、こうしてあることないことを全て鵜呑みにしてしまう。

 

 リティスは【剣神の加護】の持ち主だ。

 【剣神の加護】はその名の通り剣の扱いに限り、技能や膂力に絶大なる恩恵を得る。

 

 加護が性格に影響を与えたのか、生来の性格に合う加護が与えられたのか。

 リティスは子爵令嬢らしからぬお転婆令嬢に育ってしまった。

 どこかの誰かさんのように。

 

 隣の領地ということもあり、シキがエンフィールド男爵家の養子になる以前から親交はあったという。

 同じ加護を持つエリンとは仲良しで、エンフィールドまで来て一緒に剣の稽古をすることもあった。

 シキも稽古と称してリティスに木剣でボコボコにされたものだ。

 

 ところが最近は疎遠になり、久しぶりに再会してもかつての天真爛漫な笑顔は失われていた。

 こうなった原因はリティスの父親にあるのだが……。

 

「故に貴方に決闘を申し込みます。私が勝てばエンフィールド男爵家は過ちを認めて国に謝罪しなさい」

 

 現当主でもないシキにそんな権限はないのだが、言ってもリティスは理解しないだろう。

 ならばこちらも決闘で答えるしかない。

 

「わかりました。その決闘、受けましょう」

 

「代理人を立てて構いませんよ。そちらの女性は相当の手練れのようですし」

 

「いいえ、代理人は不要です。私が戦います」

 

「あら、昔稽古で私に手も足も出なかったことを忘れたのかしら」

 

「あれから私も剣の修練を積みました。ようやくリティス様に披露できそうです。最近は全然お会いできませんでしたから」

 

「それは貴方たちエンフィールド男爵家が! ……まあいいわ。冒険者ギルドの修練場を借りましょう。安心しなさい、命までは取らないわ」

 

 野次馬の冒険者たちを引き連れて、シキたちはギルドの中庭にある修練場までやってきた。

 中央にある石畳が敷き詰められたスペースに、シキとリティスは距離を取って対峙する。

 お互いに修練用の刃を潰した剣を構えた。

 

「そういえばそちらが勝った時の要求を聞いていませんでしたね。言いなさい。なんでも従うわ」

 

「それではエンフィールド男爵領に来てください。さっきも言いましたが魔獣の住む樹海をご案内しますよ。エリン母様もリティス様に会いたいでしょうから」

 

「エリン姉様……」

 

 エリンの名を聞いて悲しげに呟くリティス。

 何故彼女はここまでエンフィールド憎しになってしまったのか。

 

「スース、合図をお願い」

 

「承知しました。……はじめ!」

 

「修練の成果とやら、見せて御覧なさい」

 

 リティスは一足飛びで距離を詰めると、反応できていないシキの肩口に向かって剣を振り下ろした。

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