精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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79話 泣いちゃった

 リティスの剣の才能は本物だ。

 〈剣姫〉エリンが言うのだからそうなのだろう。

 

 シキは何度かリティスと手合わせしたことがあるが、その時は実力に差がありすぎて強さがわからなかった。

 エリンとリティス、どちらと稽古をしても気が付いたら打倒されているような有様だったので仕方がない。

 

 しかし今ならわかる。

 体内に取り込まれているナノマシンがシキの脳内分泌に作用し、体感時間が大幅に加速する。

 

 一秒の出来事が十秒にも二十秒にも感じる世界を、リティスが真っすぐ突っ込んできた。

 加速した世界を認識できたとしても、その中を自由に動くことは出来ない。

 

 空気抵抗を捻じ伏せる膂力や、負荷に耐え得る強靭な肉体が必要だ。

 シキは装着しているパワードスーツ〈GGX-104 ガイスト〉の力を借りることにより、それを可能にしている。

 

 リティスの振り下ろした剣を受け流し、後方に飛んで距離を取った。

 

「本当に成長しているみたいね」

 

 藍色の目を僅かに細めてから、リティスが攻撃を再開する。

 流れるような連撃をシキはギリギリで受け流す。

 

 最近はエリンや剣術に心得のあるスプリガンたちと稽古をしていたので、なんとなくだがリティスの実力がわかる。

 エリンを姉と慕っていただけあって、太刀筋は似ているが軌道が素直だ。

 攻撃を左右に振って揺さぶってくるがその振り幅は小さかった。

 

 テニスのラリーで例えるなら「コートの端をあまり使わないのでボールを打ち返しやすい」だろうか。

 エリンの場合は右端から左端へ的確にボールを打ち分け揺さぶってくるので、こちらの体力の消耗も激しい。

 

 ナノマシンとガイストの力を借りてもエリンには勝てる気がしなかった。

 条件はあるものの第一位冒険者〈雲割き〉に模擬戦で勝ち越しているというのだから、母様は恐ろしい。

 むきになったオルティエがガイストの出力を無理に上げて、シキの四肢が千切れそうになった時は死ぬかと思った。

 

 シキは防戦一方だったが、体勢を崩すことなく受け流し続けていると、次第にリティスが焦り始める。

 その光景を見て野次馬冒険者たちも興奮し歓声が上がった。

 

「うおおおお! 凄いぞ弟君!」

 

「おいおい、リティス様って【剣神の加護】持ちで剣の腕だけなら、第三位階冒険者の上位に食い込めるよな? 互角に戦ってる弟君すごくね?」

 

「お貴族様なのがもったいないな。冒険者やればいいのに」

 

「リティス様と違って有能そうだしなあ。貴族社会から追い出されるってことはないだろう。むしろこれから発展するエンフィールド男爵領を引っ張っていかんとならんし」

 

「弟君であの強さか。ってことは姉御はもっと強いんで?」

 

「剣術だけならそうだな。だが弟……御屋形様の真の実力は精霊の加護にある。宮廷魔術師の〈雷霆〉と互角に戦うからな」

 

「おおっ、御前試合の噂は本当だったのか」

 

「剣術だけでも一流なのに精霊魔術は超一流なのか! リティス様とは大違いだな」

 

 妙にリティスのことをディスる冒険者たちが気になるシキであったが、本人は外野の声を聴いている余裕はなさそうだ。

 シキは相変わらず防戦一方だったが、リティスの攻撃の手が緩んだ時だけ反撃した。

 

 これによりリティスは一呼吸置く余裕ができず疲労が蓄積していく。

 エリンやスプリガンたちにしごかれていなければ、シキも反撃する余裕まではなかっただろう。

 

「くっ」

 

 リティスの繰り出してきた刺突をシキが弾くと、彼女は体勢を崩して左に傾いた。

 その拍子に脇腹が無防備になる。

 ついに生まれた明確な隙をシキは見逃さず剣を振るう。

 

 これはあくまで剣術を競う形式での決闘なので、お互いに事前に革鎧も着込んでいる。

 剣も刃を潰してあるので、胴体に一発当てるくらいなら大怪我にはならない。

 そのはずだが念のため、できるだけ力を抑えて剣を振るおう。

 

 そう意識した瞬間、シキの視界がが赤く染まる。

 一瞬斬られたのかと錯覚したが、違う。

 それはリティスが身に着けていた赤い外套が翻り、シキの視界を奪ったのであった。

 

「うわっ」

 

 不測の事態にシキは慌てた。

 視界が塞がれたまま剣を振って、もし手元が狂ってリティスを大怪我させてはまずいと攻撃を躊躇ってしまう。

 

 一方でリティスは躊躇しなかった。

 外套がシキの視界を塞いだのは偶然だったが、運も実力のうちと割り切る。

 崩した体勢のまま斜め前方へ踏み出し、振り向きざまにシキの胴体を斬りつけた。

 

『経験不足ですね、マスター』

 

 シキにだけその声が聞こえた瞬間、体の制御を奪われた。

 右足が床を強く蹴り、石畳を砕く感触と共に空中へ飛び上がる。

 

 リティスの斬撃を躱して着地したのは彼女の背後。

 剣を振り抜いた姿勢のリティスの脇腹に、今度こそ剣をこつりと当てた。

 

 静まり返った修練場が、野次馬冒険者たちの歓声に包まれる。

 

「うおおおおおすげえ! リティス様に勝っちまった」

 

「いやっっほおおおおう。リティス様がなんでも言うことを聞くぞおおおお」

 

『申し訳ありません、マスター。負けてしまうと話が拗れるので〈GGX-104 ガイスト〉をこちらで操作し、介入させて頂きました』

 

『いいや、ありがとうオルティエ。俺もまだまだ精進しないとだね』

 

 シキは周りに気付かれないよう小声でオルティエに礼を言う。

 そして剣を放り出し、床で女の子座りをしたまま俯いているリティスへと話しかける。

 

「リティス様、大丈夫ですか?」

 

「ふ」

 

「ふ?」

 

「ふええええええええええええん!」

 

 冒険者たちの歓声を上回る音量で、リティスは泣き出してしまった。

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