精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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80話 ご近所トラブル

「……取り乱してごめん」

 

「落ち着いた?」

 

「…うん」

 

 シキとリティスは修練場の端にあるベンチに腰掛けている。

 リティスが貴族令嬢らしからぬ大声で泣き出してしまったものだから、シキだけでなく野次馬の冒険者たちも焦った。

 

 蜘蛛の子を散らすように修練場から逃げ出し、その場に残ったのは泣き続けるリティスと護衛騎士二人、シキとスースだけになる。

 それまでことの成り行きを黙って見届けていた護衛騎士たちも、さすがにリティスの大泣きには慌てていた。

 

 結局泣くだけ泣いた後、ようやくベンチに落ち着いたのであった。

 リティスは泣き終わった今も俯いている。

 

 ほとぼりが冷めたのを見計らって、元々修練場で修練していた冒険者たちが戻ってきた。

 その間暇だったスースは石畳の上で剣の素振りをしていたのだが、それを見て冒険者が手合わせを挑んだ。

 

 スースの実力はエリンの折り紙付きなので、そこらの冒険者では相手にならない。

 一方的に叩きのめされた冒険者であったが、どこか満足そうに地面に倒れていた。

 

 それを見た他の冒険者たちが自分もとスースに挑み、次々と返り討ちにされていく。

 気が付くと修練場には沢山の冒険者が戻ってきて、スースとの手合わせ待ちの列ができている。

 その光景をシキが百人組手みたいだなあと眺めていると、リティスが話しかけてきた。

 

「あのスースという人は誰? エリン姉様並みに強そうだけど」

 

「エンフィールド男爵領の樹海奥地にあるエアスト村の住人だよ。強い魔獣が跋扈する樹海で暮らしているだけあって強いよね。最近知り合って護衛を頼んでるんだ」

 

「樹海に強い魔獣がいるって本当なのね」

 

 どこかがっかりした様子のリティスが口にする。

 口調は昔のものに戻っていた。

 

「シキもいつの間に強くなったの? びっくりしちゃった」

 

「色々あったんだよ。ロナンドじいちゃんから正式に精霊の加護を引き継いでね。実力が上がったのもそのおかげさ」

 

「精霊……」

 

 精霊と聞いてリティスの表情に暗い影が落ちる。

 

「リティ姉、どうしちゃったの? 昔はよく遊びに来ていたのに」

 

「シキも知っているのでしょう? タクティス子爵家がエンフィールド男爵家をどう思っているか」

 

「精霊の派遣のことなら、じいちゃんとダスティン様との間で話はついているはずだよ。できないって」

 

 エンフィールド男爵家は盟約により332年もの間、樹海からレドーク王国へやってくる魔獣の侵入を防いでいる。

 国防が完璧過ぎた故にレドーク王国側に危機感はなく忘れ去られてしまっていたが、親交のある近隣領地となると話は少し違う。

 

 過去に一度、ロナンドはダスティン・タクティス子爵を樹海まで案内して、魔獣討伐を見せたことがあった。

 安全な場所から遠目に見学しただけなので、不可視の攻撃で木々が派手に倒壊するだけだったが、納得してくれたはずだとロナンドは言っていた。

 実際に納得したからこそ、精霊の派遣を断られて恨んでいるのだろう。

 

 魔獣の脅威というのは、何も樹海だけに限った話ではなかった。

 先日ゴードン達がリーフマンティスの群れに襲われたように、突発的な魔獣の被害は後を絶たない。

 

 そして一年ほど前、タクティス子爵領は異常繁殖した魔獣の対処に苦戦していた。

 子爵家の騎士団や冒険者たちを動員して討伐に尽力したが、領地の外れの農村で大きな被害が出始める。

 

 これ以上被害を出したくないダスティンはロナンドに助けを求めた。

 それが精霊の派遣だ。

 

 大型魔獣を屠る精霊の力を欲したダスティンであったが、盟約にある通り精霊は樹海の防衛のみに充てられる。

 そもそもロナンドでは精霊との意思疎通ができないため樹海から動かせない。

 

 だからロナンドは精霊の派遣を断るしかなかったのだ。

 その結果タクティス子爵領は少なくない犠牲を払いながらも、どうにか魔獣の数を減らし鎮静化させることに成功した。

 

「もしその精霊の力があれば、ラスティお兄様は大怪我をしなくて済んだかもしれない」

 

 リティスの兄ラスティは討伐部隊の陣頭指揮を執っていた際に魔獣の群れに襲われ、一命は取り留めたものの右足を失う大怪我をしていた。

 

「ロナンド様は精霊使いではない。国防の事実なんてない。そうお父様は言っていたけど、精霊はいるのね。なら樹海から動かせないというのも本当なのね?」

 

「うん。俺が引き継いで状況は少し変わったけど、ロナンドじいちゃんの頃は本当に動かせなかったんだ」

 

「……ごめんなさい。私はお父様の言うことを信じて疑わなかった。ううん、きっとお父様も私も、お兄様が酷い目に遭ったことを誰かのせいにしたかったのね。エンフィールド男爵家は何も悪くないのに。私、お父様を説得するわ。せめてもの罪滅ぼしよ。あ、もちろん決闘に負けたからシキの言うことならなんでも聞くわ」

 

「いやいや、何でもは色々とまずいから……」

 

『マスター。この件について伝えたい情報があります』

 

 シキの背後で浮いていたオルティエから話しかけられ、シキが耳を傾ける。

 

「ん?」

 

『王城で〈SG-061 リファ・ロデンティア〉が収集した情報の中にタクティス子爵家のものがあります。タクティス子爵は寄親のフロント伯爵家から、エンフィールド男爵家への攻撃をやめて懐柔するようにと指示が出ていました』

 

「んん?」

 

「どうしたの? シキ」

 

 ここに来て突然黒幕の存在が明るみになった。

 最初は寄親の指示でエンフィールド男爵家を攻撃していた?

 それで途中からは自らの意識に切り替わっていた?

 

「リティ姉、ダスティン様への説得はちょっと待ってもらえる? ちょっと調べたいことがあるから」

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