精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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83話 暖かい人たち

「このツィーゲっていう小さくて丸い葉っぱの集まりが匂い消しになる、ます」

 

「ふむふむ、ツィーゲね。覚えたわ」

 

「まるくてイイね。気に入った。ごーかく」

 

「よし、どんどん刈り取ろう」

 

 タロとシキたちは薬草採取の依頼を受けて、タクティス子爵領の領都近郊にある森へとやってきた。

 服は綺麗で汚したらまずそうだし自分にやらせるのだろう。

 そう思っていたタロだが、すぐに考えを改め反省する。

 

 シキ、リファ、エルの三人は、最初こそ用意したナイフで慎重にツィーゲを刈り取っていたが、すぐに慣れてタロと同じ採取スピードになった。

 いや、薬草採取だというのに三人は籠のひとつも持っていないのだから、タロ任せにするつもりだと思われても仕方ない。

 

「タロも籠があると動きにくいよね? 容量には余裕があるから籠ごと預かるよ」

 

 シキは次元収納というものを持っていた。

 タロも名前くらいは聞いたことがあったが、現物を見るのは初めてだ。

 

 何の変哲もない巾着袋の口を籠に近づけると、籠が萎んだ風船のように皺くちゃに縮んで巾着に吸い込まれてしまった。

 大量に刈り取ったツィーゲも同じで、みるみるうちに吸い込まれて消えてなくなる。

 

「す、すごい」

 

 思わずぽかんと口を開けたまま見入ってしまう。

 そのことに暫くしてから気付き、タロは頬を赤らめながら採取を再開した。

 

「普通の冒険者は次元収納がないから大変ね」

 

「でも、次元収納はすごく高くて買えないって聞いたことがある、ます」

 

「あー、確か籠一個分の収納量でも、第三位階冒険者の一年分の稼ぎ分くらいするんだったっけ?」

 

 それを聞いてタロは眩暈(めまい)がした。

 第三位階冒険者向けの依頼書を冒険者ギルドの掲示板で見たことがあるが、一回分の報酬がタロの一か月分くらいの稼ぎだったのを覚えている。

 

 自分が一か月かかる稼ぎを、一年分貯めるには……。

 計算はまったくできなかったが、タロの眩暈は加速した。

 

「ちょっとタロちゃんフラフラしてるけど大丈夫? 疲れた? にぃに、休憩しよ」

 

「ち、ちが」

 

「そうだね。一服しようか」

 

 三人のリーダーはシキのようで、次元収納から見たことのない折り畳み式の椅子やテーブルが出てきて、あっという間に休憩スペースができあがってしまった。

 テーブルの上にポットが一つとコップが人数分置かれ、シキがポットを傾けると白茶色の液体がコップに注がれる。

 並々と注がれたコップからは湯気が立ち昇っていた。

 

「それも魔道具なの、です?」

 

「まあそんなところかな。ほらほら口調が硬いよ。いつも通り喋ってくれていいから。はいミルクティーをどうぞ。熱いから気をつけてね」

 

 シキに勧められて、タロは慎重にコップに口を付けた。

 生まれて初めての味覚に目が見開かれる。

 

「ふわ、あったかくて甘い……」

 

 口当たりは滑らかで、後からほんのりと甘みを感じる。

 紅茶にミルクと甘い何かが入っていて、とても上品な味わいだった。

 

 きっとお貴族様はこれを毎日のように飲んでるのだろう。

 美味しいものをご馳走になって嬉しく思う反面、日頃の自分の生活がいかに底辺かを思い知らされる。

 複雑な心境ではあったが、もう二度と飲めないかもしれないのでタロは飲むことに集中した。

 

 休憩を終えて採取を再開する。

 採り過ぎて薬草を枯らさないよう注意しながら、場所を移動して採取していると、

 

「あ、トチユカ」

 

「なあに、それ?」

 

「上質な霊薬の材料になる珍しい薬草。でも採取したらすぐに処理しないと効果が落ちるから取れない……」

 

「次元収納ならほとんど鮮度は落ちないみたいだから、採取しちゃう?」

 

「えっ、すごい」

 

 次元収納にそんな効果まであるなんて。

 トチユカは一見すると、ただ地面に刺さった一本の木の枝みたいな形をしている。

 

 タロはそれを傷つけないよう慎重に掘り出しシキへと手渡した。

 この一本だけでタロの一週間分の稼ぎになるだろう。

 

「タロちゃんは物知りだね。こんなの枯れ枝が落ちてるだけかと思ったよ」

 

「でも僕一人じゃ持ち帰れなかった」

 

「それは私たちも同じよ。次元収納を持っていても、トチユカを知らなければ持ち帰ることはできないわ。つまりタロちゃんの知識と次元収納、どちらが欠けても駄目ってことね。そう考えたらタロちゃんの知識だって、次元収納と同じくらい価値があるんだから。だから沢山の知識を持っていたご両親は凄かったし、タロちゃんに教えてくれたことを感謝しないとね」

 

 リファの言葉にタロの胸と目頭が熱くなる。

 既にタロの状況は三人に説明してあった。

 亜人嫌いな人を除けば、おおよそ同情してくれる身の上ではあるが、両親まで褒めてもらったのは初めてだ。

 

 前に見かけたお貴族様は凄く怖くて、タロが視界に入るとまるで汚物を見るような目だったのを思い出す。

 それと比べたらシキたちはなんて良い人なんだろう。

 

「リファさん……」

 

「うんうん、まるい耳を与えてくれたご両親に感謝」

 

「ちょっとそこなの~?」

 

 背後からこっそり近づいてエルが耳を撫でてくる。

 耳への異常な執着にタロは思わず笑ってしまい、その拍子に目尻から涙が零れた。

 

 三人の様子を少し離れた位置から眩しそうに眺めていたシキであったが、不意に表情を引き締める。

 そして自分たちの背後、歩いてきた道の先を睨みつけた。

 

「どうやらお客さんが来たようだ」

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