精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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85話 うち領地の子にする

「止まれ! ……なんだそれは?」

 

「人攫いです」

 

 丸太に括り付けられた男たちを、街の門番が唖然とした表情で見つめている。

 このアトルランという異世界では犯罪者に人権はない。

 なのであの場で殺していたとしても何の問題もないし、自ら手を下さず拘束放置して魔獣の餌にしてもよい。

 

 しかしタロの前であまり残虐なことはしたくなかったのと、余罪があるかもしれなかったので、こうしてわざわざ街まで運んできたのであった。

 どうして丸太に括り付けたかといえば、それが手っ取り早いからである。

 

 気絶している男たちを叩き起こして縄で縛って歩かせてもよかったが、素直に言うことを聞くかも怪しかった。

 幸い力持ちが三人いたので、伐採した木に男たちを括りつけて運ぶくらい造作もない。

 ただそう思っていたのはシキ、リファ、エルだけのようで、タロはもちろん門番たちも引いていた。

 

「よし降ろそう」

 

 神輿のように丸太を前方をシキ、後方をリファとエルが交代で担いでいたのだが、その丸太を地面に落とす。

 地面とぶつかった衝撃で、丸太の上に抱きつく体勢で拘束されていた男たちが目を覚まし悲鳴を上げた。

 

「うぎゃあああああ」

 

「いてえええええ」

 

「こ、ここはどこだ?」

 

 男たちはリファとエルの攻撃であちこち骨折していて、当然治療もしていない。

 文字通り骨身に染みる痛さであろう。 

 

「このまま憲兵に引き渡したいのですが」

 

「丸太はいらないのだが……」

 

「あ、はい」

 

 憲兵に男たちの身柄を引き渡し、丸太は次元収納に偽装したストレージボックスで回収する。

 引き摺られるように詰所へと連行される男たちは俯いたままで、シキたちの方を一度も見なかった。

 

 これは後日聞いた取り調べの結果だが、男たちはタクティス子爵領に来たばかりで、シキたちの素性を全く知らなかったという。

 もし数日前からタクティス子爵領にいたなら、リティスとの決闘やスースの百人組手を見て、シキたちの異常性にも気付き襲ってこなかったかもしれない。

 

 逆に言えばシキたちは見た目だけならいい獲物なのだろう。

 また男たちにはそれなりに余罪があったようで、減刑を条件に他にも誘拐を自白したそうだ。

 この世界にも司法取引のようなものがあるんだなあと、シキは感心する。

 

 人攫いを引き渡して、シキたちは冒険者ギルドに戻ってきた。

 

「お疲れ様でした。すぐに清算しますか?」

 

「はい、お願いします」

 

 ローナに報告しその足で冒険者ギルドの奥隣りにある解体場へと向かう。

 そこで解体用ナイフを研いでいたバケットの指示で、採取した薬草を作業台の上に並べていく。

 

「すごい量だなおい。お、トチユカもあるじゃないか」

 

「わあ、こんなに入ってたんだ」

 

 タロも普段は自分の籠に収まる分しか採取しないので、作業台に(うずたか)く積み上がった薬草を見て目を丸くしている。

 しかし驚くのはまだ早かった。

 

「案内のお礼だけど、薬草の買い取り額を四等分じゃなくて、タロと俺達で折半にするってことでどうかな」

 

「……………え」

 

 シキたちを案内したことによる冒険者ギルドからの追加報酬、更にシキ提案の割り増し分配。

 これらを合わせてタロに支払われた報酬は、実に普段の稼ぎの一か月分であった。

 

「おーい、タロ。帰ってこいー。いたずらしちゃうぞー」

 

 本人が思考停止していることをいいことに、エルがタロの丸い耳を撫でまわす。

 

「……はっ、こ、こんなにもらえない」

 

「いいのいいの。タロちゃんには薬草の知識も教えてもらったし、このくらい普通だから。よし打ち上げしようご飯食べよ。もちろん奢るよー」

 

 ショックから立ち直りきれていないタロを、リファが冒険者ギルドに併設されている酒場へとずるずる引き摺って行く。

 席に座らされ、あれよあれよという間にテーブルに料理が並び、飲み物も行き渡る。

 ちなみに全員ミルクだ。

 

「「「乾杯~」」」

 

 最初のうちは動揺して料理の味もわからないタロであったが、次第に落ち着いてくる。

 タロが酒場の料理を食べるのはこれで二度目。

 昔一度だけ家族で食べたことがあった。

 

 両親が健在だった頃も決して裕福とは言えなかったので、初めての外食が嬉しくてその時のことは鮮明に覚えている。

 楽しい記憶が蘇ったはずなのに、タロの両目からは涙がぽろぽろと流れた。

 

「!? タロ、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫……。父ちゃん母ちゃんと食べに来た時のことを思い出しただけ。こんな僕に優しくしてくれてありがとう、です。報酬も一杯もらっちゃった。明日からまた一人でも頑張れる」

 

 シキたちとは今日だけの関係で、明日からはまた一人で生活していく。

 そう思うと寂しさでまた涙が零れるが、彼らとは住む世界が違う。

 だから諦めなければならない。

 

「それだけどさ、もしよかったらうちの領地に来ない? このタクティス子爵領の隣にあるエンフィールド男爵領って言うんだけど、今開発を進めたいんだけど人手不足なんだ」

 

「え? でも僕なんかいても役に立たないよ」

 

「そんなことないさ。薬草の知識が豊富じゃないか。エンフィールド男爵領の奥には樹海があるんだけど、そこにも色んな薬草が生えているから植生を調べてもらいたいんだ。もちろん護衛に俺達や冒険者を付ける。両親との思い出の家までは無理かもだけど、家財道具なら次元収納で運んであげるよ」

 

「……ほんとに行っていいの? 本気にしちゃうよ?」

 

「うん、タロが欲しいんだ」

 

 シキの吸い込まれるような黒い瞳に見つめられて、タロは赤面して俯いた。

 そして意を決して顔を上げる。

 

「お願いします。僕を連れてって、です」

 

「やったー。今日からタロはうちの子だ」

 

「おめでとー、タロちゃん!」

 

 エルとリファに左右から抱きつかれ、撫でまわされてタロがもみくちゃになる。

 三人とも嬉しそうに笑っていた。

 

 シキとしてもみなしごの亜人という境遇のせいで、タロの才能が埋もれてしまうのは許せない。

 それに何よりもエルとリファに友達ができたのが嬉しかった。

 

「よーし、腹ごしらえも終わったし、大衆浴場に行ってさっぱりしようか。タロ、一緒に入ろうぜ」

 

「えっ」

 

「「ダメ」」

 

「え、なんで」

 

「「ダメったらダメ」」

 

 この瞬間まで、タロが女の子だと気づいていなかったシキである。

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