精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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89話 そんな癖はありません

 シキだけに見えている Break off Online のメインメニューには様々な機能がある。

 〈ユニット〉〈部隊〉〈ガレージ〉〈設定〉といった項目が並んでいるが、その中に〈告知〉というものがあった。

 

 おそらく〈運営からのお知らせ〉に相当する項目だと思われるが、シキがこれを選択しても何も記載のない空欄のウィンドウが拡張画面に表示されるだけだった。

 オルティエに聞いても、

 

『はい。そちらは運営からの告知が表示される項目となります』

 

『運営って?』

 

『運営は運営ですが?』

 

 といった感じで Break off Online の世界観についての情報は事細かに説明してくれるが、ゲームシステムについては最低限度のことしか教えてくれない。

 普段はこれでもかと言うくらい尽くしてくれるオルティエたちだが、ゲームシステムのこととなると途端に塩対応になる。

 

 そのギャップで彼女たちがゲームのキャラクターであることを思い出し、一抹の不安を覚えるシキであった。

 とはいえ人間にだって触れてほしくない話題があるわけで、それと同じと考えればどうということはない。

 

 Break off Online はソシャゲだと思われる。

 何故断定できないのかといえば、シキの前世の記憶と照らし合わせて一番似ているのがソシャゲだからでしかない。

 もっと言えばオルティエたちは、ソシャゲを模倣してこのアトルランと呼ばれる異世界に落とし込まれた何か、だ。

 

 ソシャゲならば〈メインストーリー〉〈ログインボーナス〉〈デイリーミッション〉といった項目があってよさそうだが見当たらない。

 単に未実装なのか、この世界に落とし込む際に省かれたのか。

 

 その一方で〈ガチャ〉要素は充実している。

 スプリガン本体のガチャ、武装ガチャ、コアAIの衣装ガチャ、等々がシリーズや季節毎にある。

 何故か武装ガチャや衣装ガチャの一部は取得済みで、オルティエのドレス類がそうだ。

 

 ガチャはゲーム内通貨であるCR(クレジット)とは別の専用通貨を使う。

 無償チップと有償チップだ。

 

 集積回路のようなイラストアイコンのそれは、ソシャゲにおける課金要素であった。

 無償チップは不具合やサーバーメンテナンスが長引いたりすると、お詫びとして運営から配られるアレ。

 有償チップは課金して手に入れるのだろう。

 

 どちらのチップもある程度ストックがあるが、肝心の溜める手段が見当たらない。

 なのでチップの使用はCRと違って慎重さが必要だ。

 

 チップの使い道はガチャ以外にもあった。

 それは拡張機能と呼ばれるシステムで、先日スプリガンに実装した〈複座〉が当てはまる。

 拡張機能には三段階のグレードがあり、グレード1はCR、2は無償チップ、3は有償チップで実装できた。

 

 〈複座〉はグレード1。

 CRで簡単に実装できた割には有益だった。

 

『ふむ、それでこの〈ユニット転送〉というのを解放すると、樹海に配置してある小型情報端末(リーコン)の元へスプリガンを転送できると』

 

『はい。スプリガンの移動時間を考慮する必要がなくなりますので、仮に全スプリガンが遠く離れた王都にいたとしても、瞬時に樹海の防衛ポイントへ戻ることができます。マスターのお手を煩わせることになるのが心苦しいのですが……』

 

『そこは気にしなくていいよ。樹海防衛も小型情報端末さえあれば魔獣の侵入は察知できるわけだし。むしろ皆の自由時間が増えるから良いことだよね』

 

 スプリガンたちは樹海の防衛任務があるため、持ち場を離れる場合は他のスプリガンにフォローしてもらう必要がある。

 だからスプリガン同士も集まれても最大三名で、全員集合したことはない。

 

 コアAIのみなら全員集合も不可能ではない。

 しかし〈搭乗〉で帰る都合上、スプリガン本体は防衛地点に残しておかなければならず手間がかかった。

 

『あれ、改めて考えてみると、恐ろしくブラックな労働環境なのでは。というか労働の対価が……』

 

 〈ユニット転送〉はグレード3の拡張機能なので有償チップを使う。

 そのため実装を保留にしていたが、スプリガンたちの実情を再確認してシキが青ざめる。

 

『そんなことはありません! 我々の存在意義はマスターに尽くすことです。ですから仮にマスターに加虐性癖があったとしても問題ありません。大歓迎です』

 

『いや、問題あるよ? 歓迎しないでね?』

 

 相変わらずの一方的な愛の重さに戦慄するシキである。

 これを一方的でなくするためには、彼女たちの要望には極力答えなければならないだろう。

 

『〈ユニット転送〉があれば新たなスプリガンを一機お迎えするより、遥かに効率が良いのか。賢さが足りなかったなあ』 

 

『新たなスプリガンを拒むのは我々の我儘ですので、マスターがどうしても犬型のコアAIをご所望でしたら、ガチャを回して頂いて構いません』

 

 賢いオルティエなら〈ユニット転送〉の有用性にとっくに気付いていたはずだ。

 それでもシキが自ら気が付くまで提案しなかったのは、新たなスプリガンを迎える口実を奪ってしまうのを躊躇ったからだろう。

 そこまで配慮されているのに強行するほどシキは愚かではない。

 

『ううん、そこは皆の希望を尊重するさ』

 

 ただ、前世では動物を飼ったことがなかったので、犬型のコアAIにはちょっと憧れていた。

 白銀狼のガルムにお願いしたら撫でさせてもらえるだろうか。

 犬耳と尻尾を持つシアニスが撫でてもいいと言うのだが、女の子に付いている耳と尻尾を撫でまわすのはちょっと……。

 

『それじゃあ〈ユニット転送〉を取得するね。ぽちっと』

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