精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~   作:忌野希和

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97話 西側にいる人からするとこっちは東側

 オルティエが上位治療薬による不老不死化? を提案してきたが、シキは有償チップの希少性を理由にやんわりと断わった。

 

『今すぐである必要はありません。マスターの体が成長した二十歳頃に使用するのを推奨します』

 

「それじゃあそれまでは保留ということで」

 

 シキは八年後の自分に判断を丸投げした。

 スプリガンたちに寿命はない。

 

 志半ばで倒れない限り、年老いて天寿を全うするシキを看取ることになるだろう。

 定命なる者の宿命としてそれを、受け入れるか否かはスプリガンの個々の価値観次第だが、オルティエは後者のようだ。

 

 誰だって愛する者との別れは辛い。

 故にシキに対して永遠の命を求める心情も理解できるので、無下に拒否するのも躊躇われた。

 また既に一度死を経験しているシキなので、不死性に対する憧れがまったくないわけではないが……。

 

「割とあっさりこっちに来ちゃったからなぁ。老いや病気みたいに、少しずつ死が近づいてくるのを経験すると、より死を恐れるのかもしれないが」

 

『それでは上位治療薬については、マスターが成人する際に再び提案させて頂きます』

 

「えーっと、これまで通りエンフィールド家の盛衰を見守ってもらう、ってのじゃだめかな? 俺も含めて」

 

『それはもはや前提条件のようなものです。マスターは初代マスター以来の、実に332年ぶりの正当な後継者なのですよ? そんなマスターと一世代限りで別れを迎えてしまうというのは、余りにも無情ではないでしょうか』

 

「うっ、そう言われると苦しい。正当な後継者ってのがコミュニケーション、つまり言語の問題だけなら俺が将来の子供にしっかり教え込んで、代々引き継がせれば解決する?」

 

『マスター……』

 

 オルティエがいじけたように唇を尖らせる。

 

「違う、そうじゃない。って顔してるね……」

 

『マスターはいじわるです。どうしても只人のまま生涯を終えるというなら、証をください』

 

「証?」

 

『はい。証をくださるなら、私が育て繋ぐことでマスターを継いでいきます。あ、法令は遵守して4親等は離しますのでご安心ください』

 

「おーっと、いきなりエリン母様よりインモラルな話になった予感がひしひしとするぞ」

 

「精霊のお姉ちゃんどうしたの? お腹すいたの? このチョコのやつ食べる?」

 

 下腹部を両手で押さえて俯くオルティエを見て、純真無垢なキルテが心配そうにしている。

 

「よし、解散!」

 

 これ以上はキルテの教育によくないと判断したシキは、高らかに解散を宣言した。

 キルテを乗せて走り去るガルムを見送り目撃者が居なくなったところで、シキたちも〈ユニット転送〉を使ってエンフィールド男爵領へ瞬時に帰る。

 

 するとシキを探していたようで、男爵家の屋敷にウルティアとアルネイズが訪れていた。

 

「シキ!」

「どうしたの? ウル姉」

 

「また神託があった」

「あのラジオみたいな神託か……」

 

「らじ?」

「ううん、なんでもない。それで内容は?」

 

「それがね、前回と同じ〈東方より脅威現る〉なの」

「あれ、上位精霊のロージャがその脅威ってことで片付いたと思ってたけど、違うのかな?」

「どうやら違ったみたい」

 

 森人族の里を守護する地の上位精霊ロージャとは、間の悪い出会い方をしたせいもあり戦闘になった。

 ロージャはスプリガンがいなければこちらが全滅するほどの強さを有しているため、〈東方からの脅威〉で間違いないと思われていた。

 

「ウルティア様。上位精霊より脅威となるものが目の前にいるではありませんか」

「アルネイズ……」

 

 相変わらずアルネイズはシキのことを敵視している。

 最初は苛立ちを覚えたシキであったが、最近は「よくそんなに敵意が持続するなぁ」と感心していた。

 

 いい大人が子供相手にどうしてここまでムキになれるのだろう?

 直接聞きたいが聞いたら確実にキレられるので聞けないが。

 

「そもそも脅威が現れたからなんだっていうんだろうね? ただ気を付ければいいのか、排除しろなのか。脅威はロージャではなく他にいるから再び神託が降りたのか、それともロージャ以外に脅威が現れたのか。アルネイズさんの言う通り第一王女派以外の貴族からすれば、俺は確かに脅威だろうし」

 

 シキを挑発したはずが同意されてしまい、アルネイズが苦虫を噛み潰したような顔になった。

 別に揶揄う意図はなかったのだが、アルネイズの反応の良さにちょっと楽しくなってしまったシキである。

 

「もしかしたら樹海の奥から強い大型魔獣がやってくるかもしれない」

 

「確かにその可能性が一番高いかもね。わざわざ伝えに来てくれてありがとうウル姉。気を付けるよ」

 

「うん、それじゃあ帰る……っ」

 

 と見せかけてシキに抱きつこうとしたウルティアだったが、突如出現した光の壁に阻まれる。

 おでこを強かに打ち付けてしまい、ウルティアは痛みで涙目になりながらその場に蹲った。

 

「【光輝神の加護】を使うのはずるい……」

 

 こうしてウルティアの抱きつきチャレンジは失敗に終わった。

 自分のおでこに治癒魔術をかけて立ち直ったウルティアはプリプリと怒りながら帰っていった。

 

 さすがにやりすぎたと思ったアルネイズが何やら話しかけていたが、無視されている。

 さもありなん。

 

『マスター。リファから気になる報告が上がっています』

 

『え、何?』

 

『にぃに、タクティス子爵領で魔獣による被害が増えてるみたい』

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