流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第41話.絆は虚無に

「スバル、早く起きなさい!」

 

 そんな母親の声でスバルは目を覚ました。瞼を開ける前に、薄い布団が剥ぎ取られる。

 

「朝ごはん、できてるわよ」

 

 バタリとドアの閉まる音。もう部屋から出て行ったらしい。

 重い瞼をゆっくりと開ける。白くて高い天井。背中には柔らかいベッドの感触。窓の外からは夏の日差し。

 全てが暗く見えた。

 

「気分はどうだ?」

 

 スターキャリアーからウォーロックが出てきて語り掛けてきた。相棒の言葉にすら答える気になれないのだろう。

 身を引きずるようにしてベッドから這い出す。立ち上がろうとしたとき足元がふらついた。倒れるように手すりにもたれ掛かる。

 

「……大丈夫かよ……って、大丈夫なわけねえよな」

 

 野暮な質問したとウォーロックは頭を掻いた。スバルは何も言わずに一階へと降りて行った。着替える気にもならなかったため、とりあえずあかねの言うとおりに朝食を取ることにしたようだ。おそらく、ほとんど喉を通らなかっただろうが。

 

「重症……どころじゃねえな」

 

 

 10分もしないうちにスバルは戻ってきた。やはり何も食べる気にならなかったらしい。まだパジャマを脱ぐ気にもならないのか、ベッドに寝転んで動かなくなる。部屋は静かで、物音一つ聞こえやしない。

 しばらく様子を見ていたウォーロックはスターキャリアーからブラウズ画面を開いた。

 

「委員長からメールが来てるぜ。昨日はどうだったかって……」

 

 最後まで言う前に、スバルが体を起こした。と言っても活力あるものではなく、死体が起き上がったようなものだ。虚ろな目と猫背で歩く様子はゾンビと言われても仕方ないだろう。ようやくクローゼットの前まで進むと、力なくパジャマを脱ぎ捨てて、いそいそといつもの服装に着替え始める。

 

「お? 出かける気になったか」

「行くよ」

 

 今日初めてとなるスバルの声が、やっと聞けた。相変わらず元気とは無縁そうな様子だが、何らかの行動を起こしているのだ。とりあえずは良い兆しのはずだ。

 ビジライザーと流星のペンダントを首から下げると、スターキャリアーを手に部屋から踏み出した。あかねに「出かけてくる」とだけ言って、外に出る。彼が向かうのはルナが住んでいる高級マンションがある方向だ。今から昨日の結果を伝えに行くのだろう。

 そんなウォーロックの予想は軽く裏切られた。道が違う。マンションの方向ではない。

 

「おい、どこに行く気だ?」

「どこでもいいよ」

 

 その答えでようやくウォーロックも理解した。スバルが向かう場所はバス停だ。

 

「お前……」

「会いたくないんだ。今は誰にも……」

 

 文句を言おうとして、止めた。出かけるときのあかねとのやり取り。きっと、朝食でも母親に対してこんな態度をとったのだろう。ならウォーロックが言えることは何もなかった。

 来たバスの行き先も見ずにスバルはそれに乗り込んだ。ウォーロックはため息をつきながら窓の外を見る。ゴン太とキザマロが並んで歩いている姿が見えた。今からルナのマンションに向かうのだろう。当然スバルが来るものだと思っているはずだ。

 彼らに目を細めると、横目でスバルを見た。俯く彼を見て、ウォーロックはもう一度ため息を吐き出した。

 アナウンスが流れ、バスの行き先を告げる。スバルが顔を上げた。彼にとっては残酷な偶然だろう。

 このバスはロッポンドーヒルズへの直行便だった。

 

 

 時間はもう夜になろうとしていた。結局スバルは一日中ふさぎ込みながら街中を歩いているだけだった。活気のある声が飛び交う中で、一人孤独にだ。彼がしたことは、時々ベンチに腰かけたり、喉の潤いを癒すために水を飲んだりする程度。それ以外は生きているとは言えないような有様だった。

 ネオンが灯り始め、若干気温も下がってくる。それでもスバルが家路に就く様子は見られなかった。

 ふとスバルは眩しさに顔を上げた。大きな掲示板が光を灯したのだ。そこには大きく描かれたミソラの姿。

 

「ミソラちゃん……」

 

 たった一週間ほど前のことだ。ミソラとこの街に遊びに来たのは。色々な店を連れ回され、楽しい時間を共にした。この掲示板の下を通り、彼女の夢だって聞かせてもらった。

「大勢の人を笑顔にしたい」そう言っていた彼女が開く久々のライブ。それの広告となっているこの掲示板には、大きな文字で「中止」と書かれている。

 

「あんなに……嬉しそうだったのに……!」

 

 倒れるように、側にあったベンチに座り込んだ。別にこの場所にいたかったわけではない。むしろ離れたい。でも歩きたくも無かった。目の前のミソラは残酷なほど明るい笑顔をスバルに向けてくる。

 力の無い手でスターキャリアーからブラウズ画面開く。やはりそこにミソラの姿は無い。日付が目に入った。明日はミソラの誕生日だった。

 その時、スバルは唐突に現実を受け止めた。ミソラにブラザーを切られたということを。夢でも何でもない。もう彼女との絆は無いのだと理解したのだ。

 

「切っちゃダメだよって言ったのは……ミソラちゃんじゃないか! ……いつだって僕のブラザーだって言ってくれたじゃないか!」

 

 スターキャリアーが道に転がる。落としてしまったそれを拾おうともせず、スバルはベンチに全身を預けた。頭を背もたれに乗せて、空を仰ぐ。都会の空は眩しい。月も星も見えないほどに。

 

「おいスバル! ションボリモードもいい加減にしろよ!!」

 

 ずっと黙ってくれていたウォーロックが、とうとう口を開いた。

 

「おら、元気出せよ!」

「……無理言わないでよ……」

 

 答えはするものの、体勢を一切変えようとはしない。声も弱々しく、無理やり絞り出し様なものだ。

 

「初めてだったんだ……ミソラちゃんは、僕にとって最初のブラザーで、僕に変わるきっかけをくれた……大切な……そう、すごく……かけがえがなくて……」

 

 最後の方は消え入りそうなものになっていた。それっきり、スバルは何も言わなくなってしまった。ウォーロックもスバルに背を向けた。

 

 

 

 

 

 そんな彼らを見下ろしている者が一人。TKタワーの上で、彼は夜闇を背景にして衣をなびかせる。

 

「良い頃合いか」

 

 より強い都市風が吹きつけてくる。その中でエンプティーは両手を広げて見せる。

 

「手は緩めぬ……」

 

 エンプティーの手に紋様が浮かび上がり、白い光を放った。変化は彼の足元で起きた。黒いパネルの様なものが召喚されたのだ。中央には赤い模様が描かれている。

 それが光ると共に、電波体が召喚された。右手に長剣、左手に盾。そして頭はあれど顔の無い赤い体。かつてハイドがロックマンを罠にかけた時に使った兵士、エランドだ。

 パネルの数は二枚、三枚と増えていく。そこから色違いのエランドが次々と召喚されては町へと降りていった。音もなく、静かに。

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