流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第52話.ムー大陸の守護神

 見渡す限り石の山。

 ここに来た大抵の者はそう思うだろう。床も建物も、全てが赤のような、茶色のような石で積み上げられている。煉瓦というには武骨で不揃い、岩と言うにはいささか小さい。ある程度研磨された石としか言いようのない石でこの町は造られていた。

 長い間海の底に眠っていたからだろうか。住民を雨風から守っていたであろう家々は朽ち果て、大小の穴が空いてしまっている。その中の一つは、巨大なハンマーか何かで打ち壊されたかのように、壁一枚が丸ごとなくなってしまっている。その断面を指でなぞりながら、ハイドは大きく息を吐き出した。

 

「これがかつて世界を支配していた、ムー大陸のなれの果てですか……」

 

 辺りを見渡しながら、散歩するように歩き始める。コツコツと革靴とステッキの音が響き渡る。

 

「かつて、ここでは千……いえ、万を超える数の人々が行き来していたのでしょう。私には見えますよ。目を閉じれば、活気に満ちた商店街で買い物をする当時の人々の姿が……」

 

 ハイドは目を閉じて立ち止まった。海から引き上げたばかりの魚を売る親父に、値切ろうとする主婦。アクセサリを身に着けて優雅にふるまう美女に、それを口説こうとする男性。

 絵に描いたような繁栄を、この都市は築いていたのだろう。

 

「しかし……」

 

 足元の道路に視線を落とした。ちょうど足を引っかけてしまいそうなほどの小さい穴が空いている。視線を前方に移せば、それが無数にある。大の男数人が落ちてしまいそうな深い穴もあれば、クレーターのような浅くて広い跡もある。

 

「無常……」

 

 首をゆっくりと横に振った。彼も脚本家の端くれだ。彼なりに感じるものがあったのだろう。

 ハイドは町を後にし、一際大きな建物を目指すことにした。あそこはこの町で……いや、ムー大陸で最も重要な場所。王宮であって祭壇である場所……神が坐する場所だ。

 

 

 王宮の荒れようもひどかった。ここも例に漏れず、時間という概念の中で荒廃していたようだ。元は整然としていたであろう王宮内を観察しながら、ハイドは中に進んでいく。

 町で見た道路と違い、床には綺麗な長方形に切り取られた石。壁には剣を携えた兵士の像……ロックマンとの戦いで投入したエランドが無数に配置されている。他にも今まで見た電波体の銅像が建てられている。猿のような電波体、イエティ。首長竜のようなブラキオ。赤鷹のコンドル。自分の相棒であるファントムもだ。

 それら全てが瓦解していた。無事といえるような銅像は一つもなく、中には体の上半分がなくなってしまっているものまである。

 

「これも歴史が見せる美……と言うべきなのでしょうか」

 

 銅像の首を丁寧に床に置くと、最後の階段を登り始める。出た場所は屋上だった。見上げるとミルキーウェイを中心とした無数の星灯りが、永い眠りから覚めたムー大陸に降り注がれている。

 スターキャリアーで時計を確認する。アメロッパ時刻で夜の12時。オリヒメが宣誓したのは明日だ。今から22時間後、オリヒメの最後の計画が始まる。

 

「オリヒメ様の計画も最終段階ですね」

 

 屋上の端……もっとも開けた場所に歩み寄りながら、ハイドは声を掛けた。そこにいた人物は目の前にある巨大な銅像から、ハイドに目を向けた。

 

「そうだ。お前にも最後まで働いてもらうぞ」

「もちろんですとも。特に、ロックマンを倒すのはこの私です。私がロックマンを倒し……ンフフフフ」

 

 含み笑いをするハイドをよそに、エンプティーは再び巨大な銅像を見上げた。

 

「ハイド、今のうちに説明しておこう。これが我々の目的だったものだ」

「これが……ですか?」

 

 ハイドはエンプティー斜め後ろに立って見上げた。高さは五メートルほど。顔は円錐状。肩は四角く、そこからはアンテナのような巨大な棘。腕は細長く、手の指は鉤爪のようになっている。

 

「これはなんでしょうか? 見たところ、ムー大陸の人々が神のように崇めていたであろう、ただの銅像のようですが?」

「その通り、ムー大陸の神じゃ」

 

 背後から声が聞こえた。声の主を瞬時に理解したハイドは、反射的に顔を伏せて横へと飛び退いた。

 

「オリヒメ様」

 

 対して、エンプティーは落ち着いていた。彼はハイドと違って、オリヒメの顔を正面から見ているようだ。ハイドは近づいてくる足音に気を狂わせそうになりながら、ただ傷だらけになった床を見つめていた。

 オリヒメとは簾越しにしか会ったことが無い。彼女はそれだけ絶対の存在であり、ハイドが顔を合わせるなど恐れ多いことこの上ないのだ。そんな崇高なオリヒメが目の前にいる。顔を上げれば、その顔を拝見することが出来る。そんな誘惑に駆られながらハイドは必死に瞼を閉じた。

 

「ハイドや、(おもて)を上げよ」

「……は?」

 

 オリヒメが言った言葉を理解できなかった。自分に向けられることはないであろうと思っていた言葉を言われた気がする。聞き間違いではないだろうか。

 

「今……なんと?」

「何度も言わせるでない。面を上げよと言ったのじゃ」

 

 体が震えてくる。心臓が痛い。ハイドは顔を下に向けたまま激しく首を横に振った。

 

「で、ですが……私のような者がオリヒメ様のお顔を拝見するなど……」

「良い。妾の素顔を見ることを許す。それでもお主の気が許さぬというのなら、命令じゃ。面を上げよ」

「……ハハッ、では……」

 

 ハイドは恐る恐ると顔を上げた。星空を背景に、オリヒメが佇んでいた。

 年齢は30歳ぐらい。目は切れ長で鋭く、顔が白くなるほどの厚い化粧。だが決して醜さを隠すものではなく、彼女の美しさを引き出していると言える。

 服装は紫色を基調とした長い着物のような物で、それを纏う彼女は気高い人間であるという印象を与えてくる。

 

「この10年、妾は社会の裏に潜み、計画を練ってきた。万が一にでも、お主やソロが裏切り、妾の正体を世間に流し、計画を阻まれる事態が起きるのではないか……そう考え、今まで顔を伏せさせてもらった」

「……懸命な判断かと……」

 

 ハイドは声を上ずらせ、顔を下に向けた。

 

「しかし、お主は妾に対して確かな忠誠を見せてくれた」

 

 声を和らげながら、オリヒメがあるものをブラウズした。ハイドが献上した、三つのオーパーツだった。

 

「だからこそ、妾も応えることにしたのじゃ。妾の顔をお主に晒したのは、お主を同胞として認めた、せめてもの証と思うてほしい」

 

 なんとお優しい言葉だろう。少なくとも、ハイドには神の声だと感じたようだ。思わず立ち上がると、目尻に涙を浮かべて首を横に振った。

 

「いえ! そんな恐れ多い……いえ、何といえばいいのでしょう……? ああ、この素晴らしい気持ちを表す言葉が思いつきません! 今すぐにでも脚本に記したいのに!!」

「ハイド、脚本はしばし待つのじゃ。お主に妾の最後の計画を説明してやろう」

 

 ハイドの様子に軽く笑うと、オーパーツをエンプティーに渡して銅像へと歩み寄った。ハイドも後に続く。

 

「これの説明がまだじゃったな。これは"ラ・ムー"。ムー大陸に住んでおった者達が造り、神と祀ったマテリアルウェーブじゃ」

「…………え? 今、マテリアルウェーブとおっしゃいましたか?」

「ああ、それと似たような物じゃ」

 

 ハイドはもう一度、ラ・ムーを上から下まで観察した。どう見ても銅像だが、マテリアルウェーブに近いものでできているらしい。

 

「なぜこれが神と呼ばれていたか……見せてやろう」

 

 オリヒメはエンプティーからオーパーツ……ベルセルクを受け取ると、切っ先をラ・ムーの胸の部分に当てた。するとどうだろう。ベルセルクが溶けるように吸い込まれていった。

 

「え……?」

「言うたであろう? ラ・ムーもオーパーツも、マテリアルウェーブとよく似た物質でできておるのじゃ」

「あ……はあ、そうなのですか」

 

 ハイドが理解を諦めている間にも、オリヒメは作業を進めていく。ダイナソーが吸い込まれ、続いてシノビも溶けていく。三つのオーパーツがラ・ムーの体内へと吸収された。

 

「……始まるぞ」

 

 途端に地面が揺れた。ビリビリと細かい振動が起き、床に走っていた亀裂が軋みだす。

 

「力のバランスが悪いようじゃな。ラ・ムーよ!」

 

 オリヒメの呼びかけに答えるようにして、ラ・ムーの前にエアディスプレイが表示された。スターキャリアーのブラウズ画面とよく似ている。

 

「ムー大陸の浮遊にエネルギー20%。

 転送装置の稼働に10%

 残りは……電波体召喚じゃ」

 

 オリヒメが手早く操作する。と、揺れがあっという間に収まった。

 

「このとおり、ムー大陸が浮いておるのは、オーパーツの力を原動力にしたラ・ムーの力のおかげじゃ」

「なるほど、だから神と……」

「それもあるが……見よ!」

 

 オリヒメの視線の先を追いかける。だが何もない。ラ・ムーの眼前にはただ空気が広がっているのみ。

 いったい何だというのだろう。質問しようとしたとき、そこに一体の電波体が召喚された。何もない場所に、突然にだ。

 

「……これは……?」

 

 ハイドは古代のスターキャリアーを取り出し、交互に見比べた。目の前にいる電波体は、紫色の幽霊のような見た目をしており、白い仮面をつけている。

 

「似てい……いや、同じだ!」

「そう。お主の電波体と同じ……ファントムじゃ」

 

 このやり取りの間に、ラ・ムーの周りにさらに電波体が召喚されていく。イエティ、ブラキオ、コンドル、エランド……今までハイドが見てきた電波体が次々とだ。

 

「今までお主に渡してきた電波体は、古代の遺跡を探索して手に入れた貴重なものじゃった。だがそれも元を辿れば、ラ・ムーが召喚した電波体の一体にすぎん」

 

 オリヒメの説明の間に、電波体の数は3ケタに届こうとしていた。

 

「まるで軍隊ですね」

「その通り、この電波体たちはムー大陸を守護する兵士たち……ラ・ムーは半無限に兵士たちを生み出す守護神だったのじゃ」

 

 ハイドは深く息を吐き出した。これは敵うわけがない。ムー大陸が世界を支配したのは当然のことだと今なら言える。

 

「ハイド、転送装置の場所にこいつらを連れて行け。明日の計画の準備じゃ」

「仰せのままに」

 

 帽子を取り、芝居がかったお辞儀をすると、ハイドは電波体の軍隊を引き連れてその場を後にした。

 それを見送るオリヒメとエンプティー。ハイドが連れる列は途切れることが無い。最後尾……ラ・ムーの周りでは、今も電波体が召喚されては後に着いていく。

 

「エンプティーや」

 

 かろうじて聞き取れるような、小さい声だった。

 

「はっ」

 

 エンプティーの声も心なしか小さいものになっていた。

 

「怪我の様子はどうじゃ?」

「ご安心ください。もう大丈夫です」

「そうか……」

「……」

「してエンプティーよ」

「……はっ」

「少しだけ……お主の胸を貸してはくれまいか」

「…………お好きなだけどうぞ」

 

 エンプティーが両手を広げた。オリヒメはゆっくりと中に入り、崩れるように胸にもたれ掛かった。

 

「もう時期じゃ……もう時期……もう時期全てが終わる……いや、やっと始められるのじゃ……」

 

 オリヒメの肩は震えていた。それを抑えようとして、エンプティーは手を止めた。

 自分に、その資格は無いのだから。




ラ・ムーがマテリアルウェーブでできているというのはオリジナル設定です。

ちなみに、オーパーツがムーの遺産と言うのもオリジナル設定です。
ゲーム原作では、「それぞれの時代に存在するオーパーツ」という設定だけであって、ムー大陸との繋がりは一切書かれていません。
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