流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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皆さま、長らく休載してしまい、まことに申し訳ございませんでした。
本日より連載再開とさせていただきます。

今回から始まるIF編は原作ゲーム「流星のロックマン2」の本編クリア後のシナリオが元となっております。
こちらのシナリオはボスラッシュややり込み要素がメインであり、ストーリーは合って無いようなものとなっています。

そのため、オリジナルの設定や展開ばかりが続き、今までの原作シナリオに沿ったものではなく、ほぼ完全なオリジナル二次小説となります。
そのため、原作ファンにとっては大きく好みが分かれる物語となります。

特に、あるキャラの設定で皆さんは私に物を投げつけたくなるでしょう。

それでも「読んであげるよ」という心の広い皆さま。
最後までお付き合いくだされば幸いです。


それでは、前置きが長くなってしまいましたが本編と行きましょう。
どうぞごゆっくりしていただければ幸いです。


IF
第65話.素敵な日常


 そこは最も雲に近い場所。天空に浮かぶ一個の城砦。大きさは島ほどしかないが、人は畏怖を込めて大陸と呼称する。

 灰色の雲に囲まれたその大陸の一角で、少年は剣を振るっていた。相手の剛腕を受け流して横に飛びのく。横から雷撃が割り込んでくるものの、そんな分かり切った攻撃に捕まるような彼ではない。悔しそうにしている首長竜を気にかけることも無く、頭上から降ってくるミサイルを掻い潜っていく。ゴリラがまた殴りかかってくる。だが大振りだ。もう見切っている。懐に潜り込んで一刀のもとに切り捨てると、首長竜に向かって疾走した。雷を綺麗に避けて首長竜の背中に飛び乗る。続けざまに首、頭と踏み台にして空へと跳躍した。ミサイルを放っていた赤い鳥の翼を切り捨て、返す刀で胴体を撃ち砕く。最後に、墜落していく鳥を蹴飛ばし、呆気に取られていた首長竜の頭をかち割った。

 三体の電波体が人間に戻っていく。それをよそに、少年は地面に飛び降りると同時に駆け出した。

 そう、自分はこれだけ戦えるのだ。まだ取り戻せる。だから認めない。

 炎が爆ぜた。身を焦がされながらも、剣を石造りの床に突き刺して、吹き飛ばされた勢いを無理やり相殺させる。床に数メートルほどの傷を作って、ようやく止まった。

 熱気とは別の理由で意識が朦朧とする。先ほどの光景が脳裏をよぎる。今までの人生の中で最も、いやこれから先にも無いと言い切れるほどの残酷な光景。

 悔しさを食いしばって眼前の光景を睨みつける。太陽が輝いている。その中央に佇む一体の電波人間。見間違いようなんてない。きっと、何回目を閉じても、何回見直しても、この現実は変わらない。もう分かっているのだ。でも、認めたくなんてない。

 

 自分が負けただなんて。

 

 屈しそうになる膝を、剣を握る手に力を込めて無理やり支える。それでも体は震えるだけで立ち上がってはくれない。

 周囲の様子を窺う。一人の女性が少し離れたところに座り込んでいた。目に光は無く、人形のような表情をしている。悪態をつきたくなった。自分の中にある黒いものを全てぶつけたい衝動に駆られる。何をしているというのだ。この事態を引き起こしたのは彼女だというのに。

 女性の顔がゆっくりと上に向いた。少年も気づく。灰色の雲の中から、数十体にも及ぶ浮遊体が飛び出してきた。それらは少年と女性に目もくれず、太陽のような電波人間へと向かっていく。

 電波人間は動じる様子もなく、両手を空に向けた。業火が空を焼いた。数十体の電波体の悲鳴もろともだ。炎が笑っている。

 惨劇に少年の目が震える。体は自然と動いていた。剣を手に炎へ向かって斬りかかっていく。それを阻む者がいた。戦車のような巨体で少年を弾き飛ばした。

 地面を撥ねていく少年。彫像の一つにぶつかり、電波変換も解けてしまう。その時、彼の胸元から音が鳴った。それはとても小さくて、少年ですら微かに聞き取れるぐらいのもの。心を折るには充分すぎた。恐る恐ると胸元に手を伸ばす。大切なものが……ペンダントが砕けていた。

 手が震えてくる。壊れてしまったそれに指先で触れる。二つに割れて、中の機械が零れ落ちた。

 なおも空を焼く太陽。その隣で笑う戦車のような電波人間。空を見上げているだけの女。踊り狂う炎と、辺りに満ちる無数の断末魔。そして少年の手に握られた敗北の証。

 少年の泣き声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「困難に挑むのは良いことだ」と偉そうな人は口にする。スバルもそれは正しいと考えている。今まで幾つもの困難に挑んで来たし、乗り越える度に強くなれた。

 ただ今だけはこう言いたい。別に逃げてもいいんじゃないかな……と。

 世の中には向き不向きというものがあって、その人には乗り越えられないものだってあるのだ。避けたっていいじゃないか、諦めたっていいじゃないか……と。熱っぽい頭がふらついた時、隣から引き裂く様な声が聞こえてきた。

 

「だ、か、ら! なんで答えがそれになるのよ!」

 

 ご存知、ルナの怒鳴り声である。喉にメガホンでも備わっているのかと思わんばかりの大声が耳を貫く。不運なことに今日は一段と切れが増しているらしい。そんな彼女と一緒の部屋にいるなんて拷問でしかない。それも自分の為ではなく、自分と彼女の間にいる少年の為なのだからやってられない。

 

「え、えっと……」

 

 頭を抱えているのはゴン太である。ブラウズ画面を開いて、タッチペンを片手にうんうんと唸っている。

 

「こ、こう!」

「違うって言ってるでしょ!!」

 

 またルナが怒鳴った。スバルを紙切れのように吹き飛ばしそうな勢いだ。少し足元をふらつかせながらスバルは宙を仰いだ。何でこうなったのだろうと数日前の記憶をたどる。

 そう、あれはスバルが退院した日の事だった。彼を温かく迎えてくれたのは、夏休みの宿題と言う素敵な現実だった。あの一連の事件と入院の間、まったく手を付けていなかったのである。

 普通なら現実逃避して旅にでも出るところだが、そこは真面目で優等生なスバルだった。「最後までやり遂げる!」と鉄の意思を固めて挑もうとした。その矢先だった。ルナから集合をかけられたのは。ゴン太の家に来いと言われたとたん、もうオチが見えた。無論、ルナ様に逆らうなんてできるわけもなく、こうしてゴン太の宿題を手伝う破目になったのである。

 

「何回、違うって言ったら分かるのよ!」

「ひ~ん!」

 

 スバルは大きくため息を吐き出した。泣き出したいのはこっちだ。何が嬉しくて機嫌の悪いルナと同じ部屋に閉じ込められなくてはならないのだろう。それもゴン太のせいでだ。

 ゴン太に勉強を教えるなんて自分じゃ無理だ。お願いだから開放してくれ。少なくとも太鼓のように鳴り響くルナとは別の部屋にしてほしい。その念が通じたのか、そっとドアが開いた。キザマロが小さい体をさらに小さくしている。

 

「スバルくん、交代しましょうか?」

「お、お願い……」

 

 ゾンビのように手をだらりと垂らしながら部屋を後にした。休憩室と言う名のリビングに行くと、ツカサが眠そうな目でブラウズ画面を見つめていた。

 

「ケケケ、お前もツカサに負けじと良い面してやがるな」

 

 テレビを見ていたウォーロックがゲラゲラと腹を抱えた。ゴン太の家だというのに随分なくつろぎようである。文句言いたげな目をしながら深々と椅子に腰かけた。

 

「……あ、戻ってたんだ?」

 

 数秒も経ってからツカサが気づいた。徹夜しているわけでもないのに、目の周りにクマができている。

 

「疲れてるね?」

「うん、まあね……」

 

 ツカサの目が横に動いた。皆まで言わずともゴン太への不満がそこに出ていた。同感と思いながらツカサのブラウズ画面に目をやる。裏側からでも分かるほどびっしりと文字が敷き詰められている。

 

「読書?」

「うん。気晴らしに」

「何の本読んでるの?」

「えっとね……簡単に言うと、主人公がパラレルワールドに行く話」

「パラレルワールド? なんだそりゃ?」

 

 聞きなれない言葉にウォーロックが食いついてきた。ツカサは笑いながらウォーロックに説明する。

 

「パラレルワールドって言うのは『もう一つの可能性の世界』って意味だよ」

「……って言うと?」

「う~ん、どう説明しよう?」

 

 目でスバルに助けを求めてきた。スバルも難しい顔をして説明をする。

 

「人っていつも選択を迫られているよね。その選択の結果で未来は変わる。

 例えば宿題をすると始業式の日に怒られない未来が、やらないと怒られる未来があるよね」

 

 ルナの怒声が聞こえてきた。ゴン太とキザマロの悲鳴も混じっていたが聞かなかったことにした。

 

「当然だろ。それがどう関係するんだ?」

「選択をした時、世界は枝分かれして『もう一つの選択をした世界』が存在しているのではないか? それがパラレルワールド」

「……ほ~」

 

 多分、分かっていない。

 

「すっごく簡単に言うと、『この世界と似て異なるもう一つの世界』ってこと。詳しくはネットで調べて」

「……おう」

 

 ウォーロックが小さく返事をした。対してツカサは目を少しだけ輝かせていた。

 

「パラレルワールドって面白そうだよね。たくさんあるらしいけれど、どんな世界かな?」

「……ツカサくんは信じてるんだ?」

「スバルくんは信じてないの? 結構好きそうだと思ったんだけれど」

 

 ツカサが意外そうに尋ねてきたので、スバルは肩をすくめてみせた。

 

「宇宙の物理法則すら科学技術で計算できる時代だからね。パラレルワールドは非科学的すぎるよ」

「そっか、スバルくんってそう言う人だよね」

 

 科学が大好きである一方、非科学的なことにはあまり興味が無い。それがスバルなのだとツカサは思い出すように言った。

 ちょうどその時、ゴン太の部屋から怒鳴り声が聞こえてきた。家が数センチほど傾いた気がする。開放されるのはまだまだ先のことになりそうだ。

 

 

 ルナの声が柔らかくなったのは、もう日が傾き始めた頃だった。

 

「皆、ご苦労様。これで全員の宿題は終わったわね」

「は、はい……」

 

 全員が力の無い返事をした。ゴン太のみならず、キザマロとツカサの頭からも湯気が出ている。もちろんスバルもだ。ウォーロックだけが愉快そうに笑っていた。

 

「じゃあ明日、朝7時に展望台に集合しなさい。ゴン太、寝坊しても置いて行くわよ」

「は、はいいいい!」

 

 ゴン太が大きな体を反り返らせた。

 

「スバルくん、ミソラちゃんとの連絡はお願いするわね?」

「うん、この後電話するよ」

「そう、なら良いわ。じゃあ、解散!」

 

 ようやく待ちわびた号令が下りた。玄関先で見送るゴン太に手を振り、スバルたちはそれぞれの方角に帰宅していった。

 

「やれやれ、やっと解放されたな」

「ロックは何もしてないじゃん……」

 

 ぼやくように言いながら、この時間にしては明るい空を見上げた。まだ頭がボーっとする。

 

「おい、忘れないうちに電話したらどうだ?」

「あ、そうだね」

 

 頭を横に振って気を引き締めると、ミソラに電話をかけた。忙しい彼女の身を考えると、メールの方が良かったかもしれないと遅れて気づいた。でも杞憂だったらしい。

 

「やあ、ミソラちゃん」

「スバルくん、久しぶり~」

 

 ハードスケジュールをこなしているとは思えないぐらい元気なミソラが画面に映った。少しだけ疲れが吹き飛んだ。

 

「明日の件なんだけれど……」

「大丈夫、さっき最後の仕事が終わったよ」

 

 ミソラの言葉を聞いてスバルはホッと息を吐きだした。ゴン太の宿題を手伝ったかいがあるというものだ。これで全員参加ができる。

 

「良かった。明日の海水浴は皆で行けそうだね」

 

 そう、明日は皆で海に行くのだ。夏休み中はあのような事件があったため、最後の思い出作りにとルナが提案してくれたのである。ミソラも無理なスケジュールを組んで日程を合わせてくれている。

 

「ゴン太くんがお寝坊しなかったらね~」

「それ一番ありえそうで笑えないよ」

 

 そう言いながらも笑ってしまった。ルナから雷を落とされているゴン太が目に浮かぶ。

 

「明日7時に展望台だけれど、早いかな?」

「スバルくん、忘れてないかな? 私たちには電波変換があるんだよ」

「ミソラ、電波変換は移動の道具じゃないのよ」

 

 画面向こうからハープの呆れた声が聞こえた。普段から酷使されているのだろう。

 

「それよりミソラ、早く宣言しなさい」

「え! い、今?」

「今しないでいつするのよ」

「え……あ、うう……」

 

 なにやらミソラが顔を赤くしている。フードを引っ張って必死に顔を隠そうとしているようだが、全然隠れていない。

 

「あ、あのね……スバルくん」

「は、はい!?」

 

 いつの間にか画面に見入っていた。

 

「あ、明日……ね」

「うん……」

 

 物凄く緊張しているらしい。いったい何を言い出すというのだろう。前かがみになって身構えてしまう。

 

「と……とび……」

「飛び?」

「と……と……」

 

 目が明らかに上に向いて何かを見ている。どうやらハープがカンニングペーパーを見せているらしい。

 ミソラが頭を振った。そして、とうとうその言葉を口にした。

 

「と、とびっきりの、み、み、水着姿を! 見せてあ、あげる……から。た、楽しみにしていてね?」

 

 最後は消えそうな早口だった。彼女の言動と挙動を見てスバルは首を傾げた。

 

「水着? 変なこと言うなミソラちゃんは。海に入るんだから水着になるに決まってるじゃん」

「……う……うん、そう……だね……」

 

 ミソラが明らかに落胆した。画面越しだというのに、彼女の周りにはどんよりとした青い空気が漂っている。小学生のスバルには、女性の水着姿と言う海最大の魅力が分かっていないらしい。

 

「ごめんなさい、ミソラ。ちょっと早かったみたいね」

「おい、どうしたんだハープ?」

「ねえ、今のはどういう意……?」

「あんたたちは黙ってなさい!!」

 

 画面にハープの顔がでかでかと映った。目の瞳孔が開いている。

 

「……はい」

「……おう」

 

 二人そろって大人しく閉口した。

 

「……あれ? スバルくんって今、外にいるの?」

「うん、帰宅中」

 

 近くを走っていった車の音で気づいたらしい。

 

「あ、じゃあそろそろ切るね?」

「そうだね。また明日」

「明日ね~」

 

 名残惜しそうにしながらミソラが電話を切った。スバルもスターキャリアーをポケットに押し込む。

 

「結局、ミソラは何を宣言したかったんだ?」

「さあ、何だろう? そんなことよりも、僕は『パンツ破り』の方が気になるな」

「ああ、ゴン太とキザマロが言ってた『男専用の必殺技』か。どんな技なんだろうな」

 

 たぶん、ウォーロックが思い描いている必殺技とは別物だろう。尋ねてもツカサは苦笑いするだけで答えてくれなかったし、ルナに至っては顔を赤くするだけだった。あの時の微妙な空気は思い出すだけでも笑ってしまう。

 唐突にスバルが足を止めた。ウォーロックも釣られて停止する。

 

「スバル?」

 

 スバルは何も答えない。別の世界を眺めるような、遠くを見つめる目をしていた。

 

「……夢みたいだな」

「何がだ?」

「今こうしてることが」

 

 ウォーロックはそれで理解した。スバルは四、五カ月前のことを思い出していたのだ。

 

「委員長と、ゴン太と、キザマロと一緒に学校に行って、ツカサくんとも友達になれて……ミソラちゃんとは時々だけれど、会って遊びに行くことができて……」

 

 ウォーロックも当時のことを振り返った。

 

「あの時のお前は引きこもりだったな」

「否定はしないよ。学校には行ってなかったからね」

 

 それでも、ミソラと出会えてブラザーになれた。

 ルナ達やツカサが学校に迎え入れてくれた。

 だから、スバルはこうして笑っていられる。

 

 当たり前のように。

 

「僕は笑えているよ、父さん……」

 

 胸のペンダントを握り締めながら、父のいる空を見上げた。ウォーロックも同じくオレンジ色の空を見上げる。彼の表情が変わったのはその時だった。

 

「スバル、あれ見えるか?」

「あれ? ……何も見えないよ」

「じゃあ、電波か。ビジライザーをかけてくれ」

 

 額にあるサングラスを下すと、スバルは目を細くした。空の一点になにかある。黒くて平べったい……あれは渦だろうか?

 

「なにあれ?」

「スバル、いっちょ調べに行くぞ」

 

 言い終わる前にもうスターキャリアーに入ってしまった。決定事項らしい。でも気になるのはスバルも一緒だ。スターキャリアーを掲げて合言葉を唱えた。

 

「電波変換 星河スバル オン・エア!」

 

 青いヒーロー、ロックマンに変身して、ウェーブロードを駆け上がった。

 これが新しい戦いの始まりと知るのは、ほんの数時間後のことである。




ちなみに、パラレルワールドの存在はロックマンシリーズの公式設定です。
ライト博士……EXEでいう光正博士(光熱斗のお爺ちゃん)が
ロボット工学を研究したのが、初代ロックマンシリーズであり、
ネットワーク技術の重要性を唱えたのがEXEシリーズです。

その後、初代ロックマンシリーズはX、ゼロ、ZX、ZXA、DASHシリーズと枝分かれし、
EXEはこの流星のロックマンシリーズへと繋がっていきます。

ロックマンシリーズって、実は奥深い設定があるんですね。
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