流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第76話.希望求めて

 黒い雲は休むと言うことを知らないのだろうか。雨は治まる様子を見せず、人の居ない世界を強く叩いていく。遠くの方で黄色い光が見えた。数秒後に轟く引き裂く様な音。それが静まったのを確認して、オリヒメは最後に付け加えた。

 

「と言うことじゃ。ソロは単身でムー大陸に向かった」

 

 これで自分が伝えれらることは全部だ。義理息子が死地に向かったと聞かされ、あかねは心穏やかではいられないだろう。きっと恐ろしい言葉が返ってくる。今は窓の外に目を向けてこちらを見向きもしていないが、鬼が乗り移ったような顔をしているはずだ。なにより、この沈黙が重苦しい雰囲気を作っている。

 生半可な精神の持ち主ならとっくに逃げ出している。だがオリヒメは両足を床に縛りつけたかのように動こうとはしなかった。どんな報復でも受ける覚悟ができていたからだ。そうでもなければあんな卑怯な真似はしない。ソロと元世界のスバル……あかねの息子二人を利用するなんて。

 あかねが息を吐きだした。ついに来る。平静を装った顔の下で緊張を走らせる。だが、彼女が聞いたのは驚くほどに柔らかい問いかけだった。

 

「オリヒメさん……知っていますか?」

「……なんじゃ?」

 

 戸惑いを隠そうとしたが、少しだけ声が上ずってしまった。それに気づいているのかは分からないが、あかねは落ち着いた声で続けた。

 

「太陽って、なんのためにあると思います?」

 

 ソロの言葉を思い出した。だがここは「知らぬ」と答えた。

 

「太陽があるのは……希望を与えるためです」

「……良い言葉じゃの」

「スバルの受け売り何ですけれどね」

 

 あかねの視線が僅かに上に動いた。

 

「だから、見えなくっても良いんです。この真っ暗な雲の向こう側に、確かにそれはあるんですから」

 

 雲はより一層色を濃くしている気がする。不安を増長させるこの闇も、あかねにとっては大した問題ではないのだろう。

 

「だから、私は信じています。あの子達なら絶対に帰ってきてくれる……って」

 

 オリヒメは何も言わなかった。外の雲からあかねの背中に目を移す。少し押しただけで折れてしまいそうな細いそれを見て、目を閉じた。

 

 

 駆け上がる。石階段を蹴飛ばし、上へ上へとロックマンは駆け上がる。階段の先から赤い影が出てきた。エランドだ。またかと思いながらもエランドの左肩にバスターを放った。思った通り、エランドは左手に持った盾でエネルギー弾を防いだ。

 バスターを撃つために足を鈍らせた僅かな時間、その間に数歩前に進み出ていたブライがエランドに足払いを放った。バランスを立て直そうと両手を広げるエランド。僅かに見えた胸に、距離を詰めていたロックマンの剣が深々と突き刺さる。このまま剣で引き裂いてやってもいいのだが、ロックマンは跳び上がって、エランドの顔を両足で蹴飛ばした。 蹴飛ばされたエランドは、後ろにいた他のエランドたちを巻き沿いにして倒れていく。空中で身を翻すロックマンの眼下では、待ってましたとばかりにブライが右手を地面に叩きつけた。ブライバーストが折り重なっているエランドたちを粉々に砕いていく。

 ブライの隣に着地し、頷き合う。そしてまた階段を駆け上がっていく。

 オリガ・ジェネラルを下し、ムー大陸の内部へと突入したロックマンとブライ。途中で飛び出してくるエランドたちを退けながら、二人は屋上を目指していた。そこに奴は居るのだ。このIF世界を破壊した……この世界の絆を根絶やしにしようと企む絶望の太陽がいる。確実に近づいてくる決戦の時を前に、ロックマンは生唾を飲み込んだ。そんな緊張も隣を見れば薄まってくる。

 元世界では決して相容れぬ仲であり、生涯のライバルともいえる存在が……ソロが居る。こちらの世界の彼はスバルと同じ思想の持主であり、絆は大切なものだと語ってくれた。彼の信念が本物であることは、オリガ・ジェネラルとの戦いではっきりと証明された。初めて会ったときこそ戸惑ったものの、今は肩を並べて走っていける。いや、背中を預けたっていい。

 

「ソロ、必ずアポロン・フレイムを倒そう!僕と君で、この世界に本物の太陽を取り戻すんだ!」

「……スバル」

 

 頷き返してくれる。そう思っていたのだが、意外にもソロはぎこちない顔をした。

 

「お前はこの世界の住人じゃないんだ。無理しなくていい。俺が……」

「今更何言ってるんだよ! ここまで来て、引き返すなんてできないよ。それに僕の世界にだって関係あることなんだ。僕も行くよ!」

「……ああ」

 

 ソロがようやく頷いた。2人が意志を確認し合うのを待っていたかのように、階段の上で出口が顔を見せた。あの向こうが最後の戦いの場所。スバル、ウォーロック、ソロの三人は高まる戦意に任せて屋上へと飛び出した。

 灰色の雲が彼らを出迎えた。それほど遠くない頭上には綿のような雲の海。足元は長方形に整えられた石群の床。屋上庭園と言ったところだろう。周りには何らかの紋様が刻まれた石柱がずらりと整列している。その前方には……ラ・ムーがいた。見た目は元世界のものと変わらず、石像の形をしている。上半身しかないそれの胸元に、奴は……アポロン・フレイムはいた。

 聞いていた話の通り、一目見た印象は太陽の化身と言ったところだろう。だが人に励みを与えるものではなく、見る者全てを飲み込むような暴力的なものだ。

 体はとてつもなく大きく、二メートルは超えているだろう。オリガ・ジェネラルより少しばかり低いようだが、それでも見上げるような高さだ。長い手足が更に威圧感を増しているように思える。

 

「……お前が……アポロン・フレイム?」

 

 屋上の中ほどまで進んだところで、ロックマンはようやく言葉を口にした。アポロン・フレイムの黄色い目がロックマンへと動いた。目が合っただけで、胸の奥に鋭いものが走る。そんなアポロン・フレイムの目はブライへと移動していた。

 

「やはり貴様が来るか、ソロ」

「アポロン……お前を止める!」

 

 ブライソードを召喚し、剣先を向ける。白く光るそれを前にして、アポロン・フレイムは鼻で笑って見せるのだった。

 

「そいつと一緒にか?」

 

 蔑むような視線がロックマンに送られた。ウォーロックが当然のように噛みつく。

 

「けっ、人を品定めするような目で見てんじゃねえよ」

 

 だがアポロンはウォーロックに構うつもりはないらしい。一瞥するとすぐにスバルへと問いかけた。

 

「貴様、異世界の人間だな。我が部下たちと違ってFM星人達に心を売り渡していないようだが……貴様も絆が大切と謳う者か」

 

 部下たちとはツカサ達のことだろう。スバルの体に熱いものが駆け巡った。

 

「スバル、耳を貸す事は……」

「そうだよ、僕は絆を大切だと思っている」

 

 相手にすることは無いと言われても、そんなことできない。湧きあがる衝動を抑えることなんてできない。

 

「アポロン・フレイム……なんでお前は絆を嫌うんだよ。なんで僕たちの世界にまで進攻しようとしてるんだ」

 

 これはどうしても訊いておかなければならない。ツカサたちを巻き込んでまで、なぜ異世界侵略などと大掛かりなことまでしようとしているのか。

 熱く問いかけるスバルに対して、アポロンは冷めた声で答えた。

 

「くだらないからに決まっている」

 

 スバルの眉が僅かに跳ねた。

 

「絆に満たされた世界など、存在していると思うだけで不愉快なのだよ。だからワレは異世界をも侵略する。辿り着いた世界に絆が無ければそれでよし。あるのならば徹底的に破壊する。それを繰り返すだけだ」

 

 とんでもなく非道で大それたことを、アポロン・フレイムは平然とした表情で語って見せた。手が震えたことをスバルは自覚した。戦慄したのだ。奴の思想に。

 いったい何があればここまで絆を憎めるのだろう。元世界のソロも相当なものだったが、目の前の男と比べれば可愛いものに思えてしまう。

 

「そんなこと……お前にさせはしない」

 

 それを止めようと進みだしてくれるのがこの世界のソロだった。スバルも彼に続いて前に踏み出す。

 

「僕たちの世界に手なんて出させない」

「ついでに世界も救ってやろうじゃねえか。このロックマン様がな」

 

 ウォーロックも鼻息荒く宣言して見せた。彼もスバルと同じ思いらしい。

 

「既に転送に必要なエネルギーはラ・ムーに溜まっている。加えて、既にワレらの意識は統合されている。お前達に勝ち目はない」

「それでも、俺は諦めない!」

「アポロン、僕らは屈しない。お前が虐げた絆の力で勝って見せる!」

「そうか。ならば……止めて見せるが良い!」

 

 アポロン・フレイムが言うと同時だった。ラ・ムーの上空に黒い渦が展開し始めた。今は辛うじて目視できるほどの大きさだが、徐々に大きくなっている。転送の準備が始まったのだ。

 

「来い、全てを灰塵に滅してくれる」

 

 アポロンが手に炎を召喚した。

 

「行くぞ!」

 

 ソロが走り出す。スバルが続く。最後の戦いが火ぶたを切った。

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