流星のロックマン Arrange The Original 2   作:悲傷

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第78話.黒炎

 心臓が激しく動悸する。反するように体は冷たくなっていく。腕が震えてきた。足がかろうじて体を支えてくれている。これ以上見ない方が良いと頭では分かっているのに、目を離すことができなかった。立ち上がる人物を凝視してしまう。

 赤い長袖服に、紺色のハーフパンツ。何より特徴的な鶏冠のような癖毛。茶色い瞳に自分の顔が映る。それが不気味に細められた。

 

「一応初めましてって言っておこうかな。もう一人の僕……異世界の星河スバル……」

 

 目眩がした。頭の奥から引き裂かれる様な痛みが込み上げてくる。

 

「驚いたよ。君は絆を大切にしているんだね。僕がとっくの昔に捨てた、あんなくだらないものを」

 

 これを言うのが別の誰かならスバルは怒鳴り返していただろう。だができない。言っているのは星河スバルなのだから。

 

「なんで……お前が……」

 

 ウォーロックがようやく言葉を口にした。動揺から立ち直れていないようで、声は珍しく震えていた。

 

「なんでお前がこうなっちまうんだ。何があったんだ!?」

 

「止めて」と彼に言いたかった。訊きたくない。知りたくなんてない。また耳を塞ぎたくなった。そんなスバルの気持ちを知ったうえでなのか、IF世界のスバルは声高らかに語って見せる。

 

「説明するまでも無いよ。絆が大切? 嘘だね。僕はそれで傷ついた。苦しくって苦しくって、死んでしまいたいと何度も思った。でもアポロンと電波変換してから、それは段々と憎しみに変わっていったんだ。僕を傷つけたのは絆だけじゃない。絆は大切って騒いでるこの世界なんだって。だから全部壊したんだ。見ての通りね」

 

 幼児が無邪気に自慢するかのような話し方だった。

 

「でも、この世界のはもうほとんど壊したから、異世界に行くことにしたんだ。君を見て確信したよ。これから行くつもりだった異世界も絆を大切にしているんだろう? だから壊すことにするよ。そこにあるって思うだけで腹が立つからね」

 

 世界が傾いた。足が何かにぶつかって、肩を強打した。どうやら自分は倒れたらしい。スバルがスバルを見下ろしている。笑っている。

 

「スバル……」

 

 ソロが歩み寄ってきた。だがそれだけだ。手を差し伸べようともしてくれない。困惑した顔をしているだけだ。

 

「ソロ……友達ごっこは楽しかったかい?」

 

 IF世界のスバルの目が変わった。濁った茶色い目の奥に冷たい色が見て取れた。

 

「心の底から軽蔑するよ。僕の偽物を用意して……まるで人形遊びだね。そこまでして絆が欲しかったのかい?」

「ち、違……!」

 

 否定はしているものの、その口調には陰りが見えた。

 

「ラ・ムーもこんなふうにしてくれちゃって……。でも、まだ少しは使えるか。決めた。ねえ、もう一人の僕。僕は一人で君の世界に行くことにするよ」

 

 スバルの意識がはっきりと呼び戻された。目の前のスバルが元世界に行く。自分とIF世界のソロの2人がかりでも相手にならなかったアポロン・フレイムがだ。対抗できる者なんていない。

 恐怖がスバルを突き動かした。

 

「や、止めろ!」

「止めないよ。そうだ、どうせだからこれも使おう」

 

 IF世界のスバルはスターキャリアーを取り出し、何かのデータをマテリアライズした。スバルは思わず声をあげた。

 取り出されたのは黒い塊だった。人が思いつく限りの闇を閉じ込めたような、底の見えない不気味さ。それでありながら思わず見とれてしまいそうな魅惑を秘めている。形容しがたい歪な塊を手に、IF世界のスバルは笑って見せる。

 

「これは人の心の黒い部分が長い時間をかけてデータ化して、凝縮された物……孤高の証って言うんだ」

 

 IF世界のスバルの目に黒い塊が大きく映し出される。見とれているのだ。もう一人の自分が進んで受け入れようとしている。止めたいのに、体は動いてくれない。

 

「教えてあげるよ。これを使うってことはね。この世界のあらゆる人との絆を捨てるってことなんだ」

 

 ソロの顔色が変わった。それを嘲笑うようにスバルは懐から何かを取り出した。流星型のペンダントだった。首から取り外すと、ソロに向かって投げ捨てる。孤高の証が大きく脈打った。

 

「スバル!」

 

 スバルの横をソロが駆け抜けた。だが今更走ったところで間に合うわけがない。孤高の証は生き物のように口を開くと、IF世界のスバルを覆うように飲み込んだ。悲鳴が上がる。同時に黒い光が辺りを満たした。瞬刻の後、IF世界のスバルは電波変換を終えていた。

 アポロン・フレイムに変化が起きていた。体が黒色に変わったことに加えてもう一つ、周波数が跳ね上がっている。先ほどよりも遥かに。心なしか、空気が震えているようにさえ感じる。

 言葉を失うロックマンたち。アポロン・フレイムはただ一人、己の在り様に歓喜していた。

 

「フ、ハ……ハハハハ! 素晴らしい! 力が……これほどの力が!!」

 

 暴力的な笑みを浮かべて、アポロン・フレイムは手に黒い炎を召喚した。

 

「見せてやろう。今のワレはこんなことだってできる」

 

 黒炎が膨れ上がる。大きさは測れない。直径だけを目算してみても、アポロン・フレイムより大きいかもしれない。

 

「サン・フレア!」

 

 黒い太陽が振り下ろされた。

 圧倒的な暴力。本能が動くことを諦めていた。太陽を見上げていることしかできない。そんなロックマンの体が持ち上げられる。ブライがロックマンを抱えて、逃げているのだ。アポロン・フレイムに……IF世界のスバルに背を向けて。彼の手の中で何かが光ったのが見えた。スバルが捨てたペンダントだった。

 炎が弾けた。一瞬遅れて音が、そして爆風が2人を襲う。威力は本物だった。サン・フレアは床を砕き、この屋上庭園を破壊した。轟音を立てる瓦礫と共に、二人の体は宙へと放り出されていった。

 邪魔者の姿が消えた。雑音の無くなった世界で、アポロン・フレイムはこの上ない快感に身を委ねていた。

 

「圧倒的とは……このようなことを言うのだな」

 

 倒壊した一角は跡形も無くなっていた。石の焼き焦げた心地よい香りが辺りを満たす。

 

「これだけの力があれば、異世界を制圧することなど……」

 

 視界が大きく下がった。膝が床についている。体に力が入らない。手足が痙攣してくる。

 

「こ、これは……」

 

 そして体が縮んだ。電波変換が解けたのだ。

 

「まさか……力を使いすぎた?」

 

 どうやら孤高の証は単純に力をくれる都合のいいものではないらしい。考えてみれば当然だ。無限のエネルギーなどあるわけがないのだから。新しい力に酔いしれて、加減を怠ってしまったのが原因だ。

 

「休憩しないと……」

 

 適当な瓦礫に腰掛け、足を延ばす。いつ機能停止してもおかしくないラ・ムーを見上げてみる。頭上に展開される黒い渦は乱れていて、これもいつ消えるか分からない。もしかしたら、異世界へ行くことすら叶わないかもしれない。

 

「それはそれで仕方ないよね」

 

 思った以上に落胆は無かった。

 

「その時は、この世界をもっと壊したらいいんだ」

 

 そう全部壊してしまえばいいのだ。もう、彼が大切とするものは全て無くなってしまったのだから。




スバルの口調がアポロンのものに変わると、やっぱり違和感ありますね。
まあ、慣れてください^^;
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