流星のロックマン Arrange The Original 2 作:悲傷
「ソロ、これ!」
目の前の少年は左拳を突き出してきた。無邪気な笑みでこちらをじっと見ている。ここに左拳を合わせろと要求しているのだ。アニメか特撮でやっていた友情の証とやらをやりたいらしい。
ソロは大いに戸惑った。自分に友達だなんて初めての経験だった。そして恐かった。彼が笑って裏切るのではないかと。
でも信じられる理由がある。さっき彼は助けてくれたのだ。いじめっ子たちから自分を守ってくれた。一緒に喧嘩してくれたのだ。ちょっぴり鼻血を流している彼を疑う理由なんてないじゃないか。
恐る恐ると左拳を前に出した。少年は自分の手を微動だにさせず、今か今かと目を輝かせている。ソロは思い切って拳を突き合わせた。拳の僅かな設置点から少年の体温を感じる。なんだか恥ずかしくなって目を逃がしてしまう。
「これでぼくとソロはともだちだよ!」
少年は笑っていた。太陽のように温かい、ソロは生まれて初めて笑顔を作った。
その少年は今、目の前にいる。黒い太陽となってソロの前に立ちはだかっている。自分に笑うということを教えてくれた少年は、右手に黒い炎を召喚して投げつけてくる。
悲鳴を上げる体を引きずるようにして、ブライは回避行動に移る。数歩走って勢いをつけると、倒れるように跳躍した。背後で炎が爆ぜ、余波が襲ってくる。
体を焼く痛みに歯を食いしばりながら、ブライは拳のオーラを撃ちだした。ブライの精いっぱいの攻撃。威力は並大抵のモノでは無いだろう。だがアポロン・フレイムは冷めた目で見ているだけだった。
彼の周囲で変化が起きた。炎のリングが現れたのだ。アポロン・フレイムの体に、二本のリングが斜めに掛けられる。一つは右肩から腰の左側に、もう一つは逆側から同じように。腹の前で交差したそれがブライナックルを受け止めた。拳とリングは身を削り合うように電波粒子をまき散らし、共に消滅した。アポロン・フレイムは何事も無かったかのように立っている。
「無駄だブライよ。これは電波障壁。孤高の証を受け入れた者にのみ扱うことができる、全てを拒む防御壁。ワレに貴様の攻撃が届くことは無い」
アポロン・フレイムの絶望的な言葉。それでもブライは立ち上がって走り出す。左の拳に先程よりも大きなオーラを溜めて、直接殴りつけた。だがそれも届くことは無い。炎の電波障壁が拳を受け止める。無論、アポロン・フレイムには傷一つついてやしない。
「お前は……」
ブライが言葉を漏らす。アポロン・フレイムは表情一つ変えずにブライを見下ろしている。
「心の繋がりだけじゃなく、全て断ち切ったとでもいうのか。その障壁で痛みを受けることも、誰かに触れることも……。俺との絆を完全に断ち切ったとでもいうのか?」
アポロン・フレイムは少しだけ目を細めた。左手が持ち上がる。ブライの目に希望が戻った。攻撃も手も届かない。でも、まだ言葉は届く。
だがそんな純粋な思いは簡単に消し飛ばされることになる。アポロン・フレイムは左手に炎を纏うと、それを地面に叩きつけた。
「トルネード・フレア」
炎の渦が巻き起こった。ブライを巻き込み、空へと持ち上げる。炎の旋風が容赦なくブライの体を壊していく。受け身を取る気力すらなかったのだろう、渦が消滅するとブライは地面に叩きつけられていた。
「そうだ、ブライ。ワレは全てを断ち切った。貴様など、ワレの野望を阻む邪魔な石ころでしかない」
アポロン・フレイムは背後を窺った。ラ・ムーに溜まっているエネルギー量を測っているのだ。
「ふむ、相当壊されたな。残念だが、転送にはまだ時間はかかりそうだ」
「なら……その……前、に……」
ブライは痙攣する身を無理やり起こした。今にも倒れそうな彼を見ても、アポロン・フレイムは無表情だ。
「俺が……お前を止める!」
ブライは駆け出した。手に剣を召喚して振り下ろす。それも電波障壁に阻まれた。それでももう一度剣を振り上げて、力任せに振り下ろす。数回切り付けても、電波障壁はびくともしない。アポロン・フレイムは小さい炎を撃ちだし、ブライを吹き飛ばした。
地面を転がるブライ。剣を杖代わりにして起き上がると、またアポロン・フレイムを斬りつけにかかる。そして電波障壁が剣を阻む。
きっと、自分はみっともない姿をしているに違いない。傍から見たら、無駄なことをしている馬鹿者にしか映らないだろう。お似合いの姿だと、自嘲気味に笑った。
襲われている人がいた。まだ生存者がいたのかと、駆けつけた。助けた相手がまさかスバルだとは思わなかった。異世界から来た彼と出会うだなんて、何の因果だろう。彼を招いたのは、本当にわびをしたかっただけなのだろうか。本当はただ話をしたかっただけなんじゃないだろうか。
だが、そのスバルは自分の知っているスバルではなかった。そう思い知らされたのは襲撃を受けた時だった。スバルは電波人間たちを前にして気分を悪くしていた。それだけ彼らの事を大切に思っていたのだ。ソロにとってはロクに知らない相手をだ。あまり意識していなかったが、スバルを乱暴に突き落としたのは嫉妬もあったのかもしれない。
それでもスバルは帰ってきてくれた。自分の元に駆けつけて、戦ってくれた。夢のようだった。でも少し違った。スバルが来た理由は自分を助けるためではなく、元世界で友達だった者達を止めるためだった。彼の目に自分は映っていなかった。
なぜ自分を見てくれないのだろう。それも今なら仕方ないと言える。
自分だってそうじゃないか。自分も元世界から来たスバルをちゃんと見ていなかった。自分の知っているスバルを重ねていただけだ。自分は元世界のスバルなんて必要としていなかったのだ。この世界のスバルじゃなくても良い。ただスバルと言う存在を近くに置いておきたかっただけだ。
なんて身勝手でみすぼらしいのだろう。元世界のスバルを巻き込んで、傷つけて……恨まれる理由は合っても、友達になる権利なんてないのだ。
自分の心の整理がついた。自分を嘲笑する声が漏れた。それは豪炎で掻き消される。アポロン・フレイムが……この世界のスバルが、自分を傷つけてくる。
「そう……だな、スバル」
自分は目の前のスバルも傷つけたのだ。代わりを置いて満足していたのだから。
ブライソードを支えに立ち上がろうとしたとき、パキンと音が鳴った。剣が折れたのだ。うつ伏せになったままブライは立ち上がろうともしなかった。それどころか電波変換すら解けてしまった。
「絆は人を傷つける」
光を失ったソロの目を見ながら、アポロン・フレイムは言う。
「君も、それを理解したんじゃないかな。ソロ」
ソロの目が動く。焦点の定まらない目に映ったのは、アポロン・フレイムではなくスバルだった。見間違いだったのかもしれない。アポロン・フレイムが右手を振り上げる。手には巨大な炎の塊……黒い太陽が生まれていた。
「これで、終わらせる」
あれを食らえば間違いなく死ぬだろう。冷静に受け止めている自分がいた。
「本当のお別れだ。さようなら、ソロ」
黒いサン・フレアが輝きを増した。ソロはゆっくりと瞼を閉じた。銃声が鳴り響く。アポロン・フレイムが僅かに悶絶し、サン・フレアが霧散する。驚きの目を横に向けるアポロン・フレイム。ソロは見た。そこから駆けてくる青い影を。
流星のように颯爽と現れた彼は2人の間に滑り込む。
「貴様……」
アポロン・フレイムが歯ぎしりを浮かべた。そうとうな怒りが涌きだしているのだろう、黒い炎が勢いを増した。
地獄のような業火を前にしても、彼の気は砕けない。スバルとウォーロックは目でうなずき合うと、バスターを向けた。怖じるとは無縁な力強い瞳を携えて。
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