どこかの世界のエンディング   作:熊澤しょーへい

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―――人が生きるにはどうしても理由が必要だと思うの








No.■■ BEETLE/ごめんなさい

ベッドに取り付けられている機械から電子音が規則的に響く。

どこまでも機械的なそれは、まるで私の心を映しているかのようだった。

 

病室には窓がないことだけが不満だった。

この施設が地下にある以上、どうしようもないことではあるが。

 

私の腕には無数の切り傷が付いている。

覚えがないが、話によると自分自身で狂ったように傷を付けていたようらしい。

 

―――死んでいれば、よかったのに

 

枕元には私の好物と、新しいものに差し替えられたばかりの花瓶が置かれている。

送り主は簡単に分かった。不愛想に見えるが彼女は情が無い人間ではない。

 

「・・・」

 

何をするでもなく、ただ呆然と天井を見上げる。

 

その目からはとっくに光は失われていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ふと、自分の手を眺める。

手のひらには血液が大量に付着していた。

 

瞬きの間に幻であったかのように消える。

医者曰く、精神疾患の類であるそうだ。

 

しかし、手に広がる感触は消えてくれない。

もう一度瞬きをすると、血の感触が再び両手を覆った。

 

お前が犯した罪だ、と刻み付けるかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が彼を殺した。怪物になったから。優しい彼女にはできないと思ったから。怪物に堕ち(なっ)た人間はもとには戻せない。だから―――

 

―――でも、彼は自ら槍を受け入れた。

 

そんなことはないと分かっている。偶然そんな気がしただけ、罪悪感が見せた幻、否定する根拠はいくらでも出てくる。

 

―――ああ、それでも私は考えてしまうのです。

もしかしたら人間に戻せたのではないか、と。

また日常が戻ってくるのではないか、と。

 

夢だ、そんなものは。

そんな未来はおまえ(わたし)が断ち切っただろう?

 

「―――」

 

胸が締め付けられるような感覚と共に、両目から涙がこぼれる。

 

私は拭うことすら忘れてただ涙に溺れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベッドから這い出る。

数日間寝たきりだったせいか、起き上がるのも一苦労だ。

 

ベッドのシーツを破き、一本の簡易的なロープを手にする。

来客用の机を登って電球を外すと、ちょうど良いかけ口を見つけた。

 

私は何とかロープをかけると首にかける。

天井が高くて苦労したが、そのおかげでちゃんとできそうだ。

 

私は一思いに机から飛び降り、そして―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ゴキッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の廊下を少女が歩く。職場の先輩の見舞いのためだ。

医師が言うには、もう二度と戦えないそうだ。

身体ではなく、精神(こころ)に問題があるそうだ。

 

それでいい、と私は思う。

彼女の優しさは戦場では毒にしかならないだろうから。

 

今日は差し入れとして彼女の好物に加え、人気の保養地について書かれた本を差し入れすることにした。彼女の今後の手助けになるだろう。

 

突き返されないか、という若干の心配と共に病室に辿り着く。

 

ノックをする。返事はない。

いつものことなので一声かけてから病室を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天井から先輩が吊り下げられていた。

 

見舞い品だったものが手から零れ落ちる。

しかし、私は全く無視して呆然と彼女を見つめる。

 

死んでいる、まだ死んでない。

二つの相反する感情の中、よたよたと先輩に近づいていく。

 

手のひらに触れる。

いつか触れた熱はなく、蝋のように固く冷たかった。

 

―――死んでいる。

全身から力が抜け、その場にへたり込む。

 

「―――あ」

 

認めたくはなくて

 

「―――ああ」

 

信じたくなくて

 

「―――あああアアアアアアAAAAAAAAッッッッッッ!」

 

それでも現実は目の前に浮かんでいた。









―――だから、それが破綻した時点で私はこうなっていたの




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