―――人が生きるにはどうしても理由が必要だと思うの
ベッドに取り付けられている機械から電子音が規則的に響く。
どこまでも機械的なそれは、まるで私の心を映しているかのようだった。
病室には窓がないことだけが不満だった。
この施設が地下にある以上、どうしようもないことではあるが。
私の腕には無数の切り傷が付いている。
覚えがないが、話によると自分自身で狂ったように傷を付けていたようらしい。
―――死んでいれば、よかったのに
枕元には私の好物と、新しいものに差し替えられたばかりの花瓶が置かれている。
送り主は簡単に分かった。不愛想に見えるが彼女は情が無い人間ではない。
「・・・」
何をするでもなく、ただ呆然と天井を見上げる。
その目からはとっくに光は失われていた。
―――ふと、自分の手を眺める。
手のひらには血液が大量に付着していた。
瞬きの間に幻であったかのように消える。
医者曰く、精神疾患の類であるそうだ。
しかし、手に広がる感触は消えてくれない。
もう一度瞬きをすると、血の感触が再び両手を覆った。
お前が犯した罪だ、と刻み付けるかのように。
私が彼を殺した。怪物になったから。優しい彼女にはできないと思ったから。怪物に
―――でも、彼は自ら槍を受け入れた。
そんなことはないと分かっている。偶然そんな気がしただけ、罪悪感が見せた幻、否定する根拠はいくらでも出てくる。
―――ああ、それでも私は考えてしまうのです。
もしかしたら人間に戻せたのではないか、と。
また日常が戻ってくるのではないか、と。
夢だ、そんなものは。
そんな未来は
「―――」
胸が締め付けられるような感覚と共に、両目から涙がこぼれる。
私は拭うことすら忘れてただ涙に溺れていた。
ベッドから這い出る。
数日間寝たきりだったせいか、起き上がるのも一苦労だ。
ベッドのシーツを破き、一本の簡易的なロープを手にする。
来客用の机を登って電球を外すと、ちょうど良いかけ口を見つけた。
私は何とかロープをかけると首にかける。
天井が高くて苦労したが、そのおかげでちゃんとできそうだ。
私は一思いに机から飛び降り、そして―――
―――ゴキッ
病院の廊下を少女が歩く。職場の先輩の見舞いのためだ。
医師が言うには、もう二度と戦えないそうだ。
身体ではなく、
それでいい、と私は思う。
彼女の優しさは戦場では毒にしかならないだろうから。
今日は差し入れとして彼女の好物に加え、人気の保養地について書かれた本を差し入れすることにした。彼女の今後の手助けになるだろう。
突き返されないか、という若干の心配と共に病室に辿り着く。
ノックをする。返事はない。
いつものことなので一声かけてから病室を開ける。
「―――は?」
天井から先輩が吊り下げられていた。
見舞い品だったものが手から零れ落ちる。
しかし、私は全く無視して呆然と彼女を見つめる。
死んでいる、まだ死んでない。
二つの相反する感情の中、よたよたと先輩に近づいていく。
手のひらに触れる。
いつか触れた熱はなく、蝋のように固く冷たかった。
―――死んでいる。
全身から力が抜け、その場にへたり込む。
「―――あ」
認めたくはなくて
「―――ああ」
信じたくなくて
「―――あああアアアアアアAAAAAAAAッッッッッッ!」
それでも現実は目の前に浮かんでいた。
―――だから、それが破綻した時点で私はこうなっていたの