乙女ゲー世界は喪女には厳しい世界です 作:白身魚定食
自宅でパソコンを開きカタカタと作業を続けながらチャット画面を開く。もう寝てるかと思ったけど、アイツは起きてるらしい。
『ほーい』
「よ。連休満喫中の気分はどうだい?」
『最悪だよ、さいあく。なんでかゲーム漬けんなってるよ』
「おや。ゲーム嫌いじゃないじゃん」
少なくとも私よりはゲームは好きだったはず。それこそ飲み会や合コンよりもゲームを優先してた気がした。
『押し付けられたゲームだからモチベーション上がんねえンだよ』
「へ?」
ゲームを押し付けられるとは面妖な。
『妹だよ。あんにゃろ、ムズいの押し付けて海外でうぇいうぇいしてんだぞ』
「ああ、噂の妹ちゃんか」
わがままで要領がいい可愛くない妹、らしい。けど、一人っ子の身としたらそんなのでも羨ましいとは思う。
「そんならやめちゃえばいいのに」
『……俺さー。実家にまだ部屋あんだけど。妹のやつ、そこに自分の私物隠してやがってさ』
「?」
『俺がBL趣味だとお袋に誤解されてんの』
「ぶふっ!」
思わず吹き出した。悪いとは思うが、いい年した野郎にソレはないだろ。
『その誤解解いてやるとか言ってきやがって。お前のせいだろがっつートコ』
「なんともご愁傷さまだ」
それでも、その賑やかさは羨ましい。家に帰っても誰もいないし、実家に帰っても父や母は何かと忙しくて顔も合わせない事もある。
「そんななのに続けてるって。結構面白いの?」
若干、興味が湧いてきた。だけど、アイツからの言葉はなかなかにシビアだ。
『クソゲーだよ、クソゲー。難し過ぎて俺にブン投げてきたんだよ』
「どんななの?」
『乙女ゲー』
「へ?」
乙女ゲーで難しい……? というか男が乙女ゲーとかおかしくない?
話を聞くと、ミニゲームみたいなモードがものすごく難しいらしい。
『だいたい乙女ゲーなのに世界観が尖り過ぎなんだよ。剣と魔法の世界にモビルスーツみたいな【鎧】とか空飛ぶ【飛行船】とか、要素ぶち込みすぎだし』
「ははあ……」
確かによく分かんない。乙女ゲーと言うと主人公(女の子)が男の子たちを攻略していくもの、のはず。
『あと、男どもが弱えっ! 気が付くとすぐ死んでて草、ってカンジ』
それはバランスが悪いのでは?
『そんなわけで俺は課金してやってる』
「そこまでするんだw」
『まあ、小遣い程度だし。四の五の言ってらんねえんだ』
まあ、お母さんの誤解を解くのなら自分から違うと言えばいいのに。頭が回らないくらい疲れてるのか、妹ちゃんに甘いだけなのか、分からないけど。
「何にしても、根を詰めるのはよくないよ。何事もほどほどが一番だからね」
『ああ、まったくだ。俺これ終わったら死ぬほど寝るんだ』
「それ、死亡フラグw」
それから少し話をして。
チャットを切ったあとに少しだけ調べてみた。
「ふんふん……なるほど。面白そうかも」
アイツは課金ありきみたいなこと言ってたし。【ルクシオン】だっけ? それが一番強いとか言ってたけど。
「んん? 無いじゃん」
アイツの言った課金アイテムとやらは何処にも無い。さてはチート過ぎるからメーカーが削除したな。よくやるんだよね、こーゆーの。
「んじゃあ、この一番高いのにしとこ♪」
購入した飛行船は【ヴァール】。これも実は宇宙船のカテゴリーらしい。中身は探査船、とあった。戦闘目的の船ではないかもしれないけどデフォのものよりは強いに違いない。
鎧は少しシャープなフォルムの【ナイト】。名前、まんまだね。
しばらく進めてみると、アイツの言ったことが段々と分かってきた。ゲーム性もクソだけど、世界観がひどい。
女性上位とかいうレベルを超えた貴族女性による女尊男卑。狂ってるとしか言えない世界観において、主人公と攻略キャラの男の子たちだけは乙女ゲーとして成立している。このゲーム考えた人たちってたぶんそーとう歪んでるに違いない。
まあ、攻略チャートとかも出てるしキャラの攻略に関しては問題なさそうだけど……確かにこのミニゲームがひど過ぎる。ガチのシューティングレベルのゲームとか混ぜてくんなよぉ(笑)
『けど、チートアイテムのせいか簡単、かも』
デフォの船とかでやってないせいもあるけど、そこまでひどいとは思わない。まあ、私ってシューティングわりと得意だし。
『手伝ってあげてもいいんだけど、明日も仕事なんだよなぁ』
アイツの家に上がるのは別に気にしてない。何回かあるし、その時も妙なことにはならなかったし。
ま、要するに異性として見られてないわけだけど。……別に悔しくはないよ? ホントだよ?
ともかく。明日は仕事だから手伝えないけど、その次の日ならなんとかいけると思うんだ。お昼くらいに伺えばいいや。
そして。
アイツのアパートに行ってみると、そこには警察車両やら救急車やらが停まってて。
私は。
アイツがこの世からバイバイしたという事実を、知らされた。
◇
告別式には参加せず、会社の同僚一同として香典に名を連ねた。アイツの家族に会ってどうするのか。
肉体関係があったわけでもなく、恋愛感情があったわけでもない。ただの同僚よりは少しだけ近い関係、という微妙な距離を言い表す言葉が思い当たらない。
淡い恋心、とでも言うべきか。
それとも友情か。
その辺りも消化できずに、月日は過ぎてゆく。
私は体を患い、その寿命も残りわずかと告げられた。
ふと、昔立ち上げたゲームのことを思い出す。もうすでにスタンドアローンのため課金は出来ないし、ゲーム自体をやる気力も起きないけれど。
「懐かしいねえ……」
ごく僅かな期間の、あの在りし日を。
私は病床にありながら、ぼんやりと思い出していた。
◇◇
「どうした? ステフ」
私に声をかけてくる男性の声。
というか、お父様の声だ。
お父様?
ふと、疑問に思った。
わたしは、誰だ?
わたしは……ステファニー。
ライナー・フォウ・オフリーの長女であり、次期当主候補。
あれ? おかしくない?
私、日本人じゃなかったっけ?
「どうしたい? ステフ」
「あ、あの。お父様、ここはどこでしょう?」
「ははは。寝ぼけているのかい? ここはホルファート王国の王都のタウンハウスだよ」
……え?
私、転生しちゃってる?
もしかして。
子供用の椅子から飛び降り、窓へと向かう。窓の外に見えるのは中世的な街並み。
だけど、空には宙に浮かぶ大きな船や人型のロボットみたいなもの。お祭りのようで人々は賑やかに往来を歩き、時折花火が空を彩る。
「王都はいつも賑やかだけど、今日はお祭りだからね」
「おまつり?」
「今日は王立祭だよ」
段々と思い出してきた。
四歳の節目に受ける洗礼を受けに中央神殿のある王都まで来たのだ。せっかくなので王立祭の日程に合わせたという話だ。
もっとも、この王立祭の日に洗礼を受けられる子供というのはあまり多くはない、らしい。祭事を執り行なってるのだから、そちらに人手か取られているのだろう。
「お父様、街を眺めてみたいわ」
「そうだな。ヴァール、荷解きはすんだかい?」
「はい、滞りなく」
父親の声に答えるのは女性の声。見れば年若いメイドさんがこちらにお辞儀をしていた。
「ゔぁーる……?」
どこかで聞いたような名前だけど……どこだっけ?
私が頭を捻っていると、そのメイドさんがこちらに来て「失礼します」と一言言うとひょいと持ち上げてしまう。
わ、ほんとに子供だ、わたし。
目の高さが同じになると、彼女の顔がよく見えるようになる。白い肌に青と緑が交互にきらめくような髪。長さは肩口辺りまであって、大きな三つ編みで纏めている。年の頃は、まだ成人してないように見えるけど……この世界、労働基準法とか無いのかな?
「お出かけなさるならお着替えですよ、お嬢さま」
「お、おじょうさま?」
「はい♪」
言われ慣れない言葉に驚く私に、満面の笑みで応えるヴァール。
「どれ。私も着替えてくるか、ハンス。私の外出着を用意してくれ」
「はい、旦那さま」
部屋の外には別の人が居たようで、その人と共に部屋を出る父親。
「……ねえ」
「はい、なんでしょうか?」
「ほっぺた、つねってくれる?」
言葉の意味を考えあぐねてる彼女の頬をやわやわと触る。もちもちして良い肌触り。むむ、前世の私よりずいぶんいいなあ。
「あの、くすぐったいです」
「くす♪」
もじもじと笑うヴァールに、微笑ましくなる。なので、痛くないようにほっぺたをつまんでみた。
「こんな感じに」
「あの、いけません」
「なぜ?」
「旦那さまに叱られます」
ああ、そうか。
でも私が頼んでいるのだから問題は無い、はず。溺愛してる一人娘なんだから、ね。
「構わないよ。強くしてね」
「うう……」
ヴァールがおそるおそる手をやると、くいっと頬を摘んできた。
かなり弱いけど、ちゃんと触覚はあった。これは、ゆめじゃない。
「ほんとうに、転生しちゃったんだぁ……」
「?」
目を輝かせる私とうらはらに、ヴァールはよく分からないような顔をしていた。
神殿での洗礼は、意外とつまらないカンジだった。なんだろう、七五三のご祈祷みたい? 儀式ってどこも似たような感じになるのだろうか。
他にも何人か子供が来ていたのだけど、みんな私よりも高位の貴族の子女らしい。伯爵って、よく考えたら真ん中辺りだし。そんなに偉くはないんだろうね。
終わったらすぐに解散、というわけではないらしく。会食をするホールのような場所に通された。長テーブルに席を示す名札ときれいに立てられたナプキン。どうも食事ではなく、お茶をする感じらしい。
作法に関しては頭の片隅に記憶されていた。ヴァールが手ずから教えてくれていたのだ。間違うわけにいかない。
ウェイターの人が席を引くのに合わせてヴァールが私を抱えあげ、座らせてくれた。父親は当然自分で座る。
周りのことが気になるけど、きょろきょろ空見をするのは端ないので極力我慢する。正面にいる家族の子供と視線が合うけど、向こうも反応はしてこない。これが正しいマナーなのだろう。
すると、父親からぽそりと一言。
「ステフ、お辞儀を」
「は、はい」
父親が席を立ってそう言うので、私もそれに倣う。見れば、他の人たちもそうしていた。なんだろ?
「王妃殿下、王太子殿下の御入来です」
うわ。王妃と王太子って。一番偉い人たちじゃん? これは失敗してはいけない。きちんと父親を真似て不動の姿勢を取らないと。
二人が通り過ぎ、上座の席に座ると「楽になさってください」と王妃様のお言葉があった。
その言葉でようやく金縛りが解けた一同は、各々着席していく。もちろん、私たち子供は一人で降りたり出来ないからそのままだったけど。
「今日の良き日に、祝福あらんことを祈ります」
にこやかにそう宣言する王妃さま……あれ? 王様は居ないのかな?
まあ、よく見てみると両親揃って居る所は意外と少ない。そういうものなんだろうと、納得するしか無いか。
王妃様はとても若く、綺麗な人だった。その子供も当然のように容姿がいい。なるほど、これが格差社会というやつだね(笑)
それから後は、大人数でのお茶会のような感じになった。それぞれの卓で会話とかが弾んでいるけど、家の父親に話しかけてくる人は殆どいない。
あれ?
家のお父様、もしかして嫌われてる?
「さて。所用がありましてな。お暇させて戴くとしましょう」
父親がそう周りの人に言うと、心ばかりの言葉が掛けられる。ああ、これは嫌われてるな。間違いない。
『うちのお父様は孤立してるのかー。こりゃ大変そうだね』
とは思ったものの、こんな子供の身ではどうにも出来ないし。座った時と同じようにヴァールに抱えてもらって席を降りる。
『あ、せめて挨拶だけでもしておこう』
子供のやる事だし、大目に見てくれるだろ。
「皆さま。次のきかいにはぜひともお話しして下さいませ、ね」
と、微笑みながらカーテシーをする。スカートの裾が上がりすぎないように、注意してね。
「おお……」
僅かなどよめきが上がる。
父親も少し驚いている様子だった。
◇◇◇
「ヴァール。お前が仕込んだのか?」
「わたくしは何も……」
四歳といえばまだ教育を施すのも難しい時期である。じっとしてなさいとか言われても我慢できない子どもも多いはず。現に他のテーブルではちょこちょこと動いたり、勝手にナプキンを弄ったりする子供もいる。
そのくらいの歳なのに、拙いながらもカーテシーを決めた少女がいた。
『あれは……』
王妃はそこのテーブルに居た貴族から風体、構成から当たりを付けた。
『オフリー伯爵家……一人娘だったわね』
奥方を亡くした後に後妻も取らずに居た、今時珍しい良識的な領主貴族。
『面白いわね。チェックしておきましょうか』
「ははうえ、まだぁー?」
隣を見れば、少し鼻水を垂らした息子。手巾を取り出し鼻を拭いてやるとニッコリと笑う姿は、子供としては正しいがどこか不安にもなる。王族や上級貴族は親が自ら子育てをすることはあまり無い。乳母や教育係が別に添えられる。
『うちも、少しは見習わないと』
息子の周りの人間たちをきちんと見据えないといけないと、心に誓う王妃だった。
◇◇◇◇
タウンハウスとはいえ伯爵家のものは一般的な家とは違い、とても豪勢な作りだった。お風呂も、食堂も、前世では高級ホテルでしかお目にかかれないような物ばかり。
『お風呂はちょっと、恥ずかしかったけど』
一人で入るにはまだ小さいので、メイドのヴァールがいれてくれたのだけど……前世の記憶がある身からすると、なかなかな羞恥プレイだ。
「お嬢さま、本当にお一人で宜しいのですか?」
「うん。一人で寝られるよ。へーきへーき」
「……わたくしは表におりますので」
「ヴァールも寝ちゃっていいよ。隣の部屋でしょ? 用があったら声かけるから」
「は、はあ……分かりました。おやすみなさいませ、お嬢さま」
ぺこりとお辞儀をして部屋を後にするメイドさん。クラシカルなメイド服っていうのもいいもんだねえ♪
広いベッドに横になって、ようやく考える時間が出来た。
『ここ……もしかして。あのゲームの世界、なのかな?』
パッケージや前情報を集めるために見たウェブの記事では、あんな世界観だった気がする。飛行船に、鎧……王国制の国。どうも合致するところが多い。
『問題なのは……』
ゴロンとうつ伏せになる。枕に顔を埋めて、大きな声が漏れないようにして。
「わたし。アレ、クリアしてないんだけどっ!?」
アイツに言われて課金アイテム買って、ほんの少し、序盤も序盤の辺りをやったくらいだったんだよ?
事前知識としては余りにも乏しい状況でのゲーム転生とか……ハードモードじゃない?(汗)
「アイツが言ってた通りなら、男じゃないだけマシだけど」
女尊男卑がひど過ぎる世界なんだっけ。その割にはステファニーちゃんの記憶にはそんなにひどい様子は見当たらない……まあ、四歳児だとするとそんなに覚えてはいないのかもしれないけど。
「でも。楽しみっちゃあ楽しみだよね♪」
不安はあるけど、いわゆる親ガチャはまずまず成功してる気がする。
それに女尊男卑ということは男の子は選び放題ってやつ? あー、でも貴族だと政略結婚とかもあるだろうしなぁ。その辺も追々調べておかないと。
……ふと、アイツのことを思い出す。
会社の同僚で。
ゲームを愛好する同志であり。
そして、少し気になっていたひと。
今では顔もぼんやりとしか思い出せないけど……。
「あなたも、こっちに来てるの?」
その答えに答えてくれる人は、居るはずもなかった。
王立祭や洗礼とかは独自設定です。原作にはありませんのであしからず。