乙女ゲー世界は喪女には厳しい世界です   作:白身魚定食

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ダンジョンに潜り慣れてる喪女

「やあ、はじめまして。ブラッドと言います。我が婚約者さま」

 

 スカした挨拶をバッチリ決めて、悦に入る紫色の長髪を靡かせる美丈夫……というほど鍛えてる体ではないけど、均整の取れた体型の男子。行動の端々から分かる。『コイツ、ナルシストだな』と。

 

「ステファニーです。はじめまして」

 

 無愛想にならない程度に微笑みつつ挨拶をする。さすがに顔合わせの席でいきなりケンカ腰になるのもどうかと思うので、いちおう様子見だ。

 

「噂と違って見目麗しいお嬢さんではないですか」

 

 ほらきた。

 この手のタイプは空気が読めないのが多い。本人は褒めてるつもりなんだろうけど。

 

「うふ♪ 噂というのは存じ上げませんが、お褒めに預かりまして恐縮ですわ」

 

 王都の高級レストラン、そこの一番グレードの高い部屋での会食である。さすがの私も簡単にはキレたりしないのですよ、おほほ。

 

「そうですか。女だてらに鎧を駆って空賊退治やモンスターの駆除に駆け回る女騎士、伝説のアマゾネスの再来とも呼ばれておりますよ」

 

 ……ピキッ

 

「すでに実戦を経験しておられるというのも凄いですよね。ご自分の配下の騎士たちは居ないのかと、もっぱらの噂です」

 

 コイツ、ある意味天才的だな。

 これだけ人の琴線を触れる言葉を垂れ流せるというのも凄いと思うよ。

 

「学園に入る前の嫡出子が自ら戦場に駆り出されるとは、領軍は如何様になっているのか。興味深いですねえ」

「は、はあ」

 

 コイツの凄いところは、この言葉を本当に嫌味で言ってないという所だろうか。本気で感心しているように聞こえる。

 

 いや、腹の底では笑っているに違いない。そこまで腹芸が出来るということなのだろう。

 

 

 

「オフリー伯爵の考えが僕には理解出来ませんよ。こんな可愛らしいお嬢さんを危険に放り込むなど。あの人、実は人でなしですか?」

「うるさいわ、ボケェッ!」

 

 おっと、脊髄反射で返してしまった。

 

 まあ、取り繕う必要も無いしいいか。

 

「父が人非人とか領軍が無能とか言われるのは看過できません」

「いや、そこまでは言ってないのですが」

「ほぼ同義でしょうに(ギロリ)」

「!」

 

 顔を凄ませて睨むと、彼は少しだけたじろぐ。

 

 このステファニーちゃん、可愛い顔してるけど凄むと迫力ある……というよりはキツい印象になるんだよね。

 美男子で女性からこんな罵倒を言われたこと無いだろうから、面を食らっても無理は無い。

 

 ちょっと言葉がキツすぎたかな? 私は諭すように話す。

 

「私は自分の意志で鎧に乗って、空賊やモンスターを狩ってるんです。家の方針とか領軍が足りないとか、そんな理由じゃありません」

「……そうなのですか」

 

 すると、彼は感心したような素振りを見せた。信じてくれたらしいけど、随分素直だな。

 

「実は、私も実戦には出てみたいのですよ」

「? そうなされば良いのでは?」

 

 不思議なことを言う。

 やりたいならやればいい。大貴族フィールド家の嫡男なのだから、それを憚る者は居ないだろう。

 

「母がね、反対するのですよ」

「ああ……」

 

 そういえばこの世界は女性の権威のほうが強かったか。うちは母は死別してるし後妻も居ない。父を説得出来れば反対するものは誰も居ないのだ。

 

「こう見えても魔法に関してはちょっと自信有りましてね。王立学術院での判定では最高ランクを得ております」

「ほう、それは凄いっ」

 

 王立学術院での模擬試験で最高ランクというのは、将来的には筆頭宮廷魔術師などが嘱望されるレベルだそうだ。ちなみに私は上の下くらい。

 

「それなら相当お強いのでしょう。今度模擬戦でも一つ如何です?」

「は?」

 

 ワキワキと言ってみたけど、向こうはぽかんとした顔。あ、そうか。この世界の女はあまり戦わないんだっけ。

 

「……あなたはその、変わっておりますね」

 

 少し笑ってそう言ってくるブラッド。確かにカッコいいのは認めるけど。

 

「女だてらと侮られては困ります」

「ああ、そういうことではなくて……まるで同性と話しているような気になってきました」

 

 元より女である自覚が薄かったので、このステファニーであってもそれは変わらない。まあ、褒め言葉として受け取っておこう。

 

「セバーグ伯爵家のグレッグとは旧知の間柄なのですが……彼もちょくちょく出歩いてて。少し羨ましかったのです」

 

 グレッグ……あのツンツン頭か。確か実戦主義で近距離も中距離もそこそこ出来るタイプ……だったと記憶している。攻略サイトでも一番使いやすいとは書いてあったけど、難点もあった。

 

『実家のせいか、メンテを怠るとすぐに戦力がガタ落ちする。資金力を高めてさえいれば、という条件付きの使いやすさ』

 

 グレッグの難点は装備品がすぐに壊れるというものだった。鎧にしても武器にしても弾薬にしても、すぐに枯渇するのだ。だから主人公(ヒロイン)の収入が安定してないとすぐに使えない状態になる……ひょっとしてセバーグ伯爵家って貧乏?

 

 ちなみにゲームにおいて王太子に次いで資金力が高いとされるのはこの男の家だ。何せ国境近くの盟主なのだからその下の子爵や男爵などの下位貴族にも影響力がある。

 

 そんな家の跡取りなんだから、実戦に出たいというのに難色を示されるのも無理はない。とは言え、実力を示さないと付いてくる部下たちにも示しがつかないというのもあるのだ。だから、いずれ実戦はやらなきゃならない。

 

「セバーグ家の嫡男様とお知り合いなのでしたら、ご一緒にダンジョンにでも潜ってみては如何です?」

「学園に行ったら必修だから無理に行かなくても、と言われたよ」

「……慎重派でおられるのですね、辺境伯夫人は」

 

 言いたいことは分かるけど、心配なら護衛でも何でも付ければいいのだ。何も二人で潜れとは言ってない。それにダンジョン自体は王都以外にもあった筈。何せ、うちの領地にもあるくらいだし。王都程の価値はなくても、魔石や鉱石なんかは採れるから領内の経済に貢献してるのだ。

 

「うちの領地のダンジョンなどは手頃ですよ?」

「ダンジョンがあるのですか? オフリー家の領地には」

「え、ええ」

 

 あれ? そっちの領地には無いの? 私はそれが普通だと思ってたんだけど、どうやら違うらしい。

 

「王都以外には辺境の、ほぼ枯れたものしか無いと言われてます」

「そうなのですか……」

 

 余計なこと言っちゃったかな? けど、王国には申請はしてあるはず。そういうところは抜け目ないですからね、うちのお父様は(自慢げ)

 

「しかし、なるほど。それは良いことを聞きました。近い内に伺っても宜しいでしょうか?」

「え、ええ?」

 

 なんだ? 食い付き良過ぎないか、コイツ。

 

「婚約者様の領地へ赴くのは、別に問題はありませんよね?」

 

 ああ。理由として、ね。

 母親が文句を言えない状況なら問題ない、と。

 

 なるほど。

 

「分かりました。日程が決まりましたらご連絡下さい」

 

 

 

◇◇

 

 

「いやー、ここがそうかぁっ! 腕が鳴るぜ」

 

 パシン、と拳を叩き合わせるツンツン髪の少年と、涼しげに笑う長髪の少年……。あの会食から一週間後に、この二人はわが領地へとやってきていた。

 

『行動力あり過ぎない?』

 

 貴族の行動力とは思えないくらいフットワークが軽い。領地貴族は何だかんだと動きが遅いのが特徴だ。そして、宮廷貴族はそれより遅い(笑)

 

 二人とも側付きは三人ほどしか連れていない。そのうち戦えそうなのは一人ずつで、残りは近侍だろう。

 

「後はお若い方々でね」

 

 まるで見合いの席のような事を言って、お父様は早々に帰ってしまった。

 

「おう、俺はグレッグだ。よろしくな」

 

 ニカッと笑うツンツン頭。悪ガキっぽい感じで貴族らしさが足りないけど、そこがいいという女子も多かったのだろう。ちなみに私的には『子供っぽいなぁ』という感想。まあ、まだハイティーンにもならない子供なんだから、そりゃそうか。

 

「すみませんね。話したら急かされまして」

「それは、構いませんが」

 

 どうやらフットワークが軽かった理由はグレッグのせいらしい。

 

「じゃあ、行ってみようか」

 

 すでに準備は万端。グレッグは楽しみで堪らないという感じだし、ブラッドの方もワクワクしてるようだ。

 

 子どもの引率でもしてる気分になる。まあ、そんな事は前世も含めて無かったけど。

 

「では、行きましょうか」

 

 目の前にあるのは、何度も潜ったことがあるダンジョンだ。危険はあるけど、潜りすぎなければ大したことはない。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 ゲーム的に言えば、ダンジョンというのは経験値と資金を稼ぐ場所だ。ここから採れる魔石や鉱石などは経済物資としての価値があり、蔓延るモンスター達は経験値となる。

 

 モンスターに関しては、実は結構普通に表にも出てくる。とは言え、強い個体は浮島自体に張られる防御結界によって入ってこれないし、出ても来れない。

 一般的に人間が暮らす領域には弱い個体しか出てこないし、それらは魔力の弱い一般的な兵士でも十分に対処出来る程度の強さしか無い。

 

 だが、ダンジョンの中となると話は変わってくる。

 

「ジャイアントアント、三匹接近」

 

 鉱物的な殻を持つ大きなアリ。序盤に良く出てくるモンスターである。放っておくと勝手に増えていくから“養殖”というやり方でレベルを上げるにはやりやすい、と攻略サイトには書いてあった。

 

「アンタは下がってな」

 

 グレッグが槍を振って前に出るので譲ることにする。お手並み拝見だ。護衛の人たちには危険になるまで手は出さないように厳命している。貴族の子供の実績作りなのだから彼らが倒しては意味が無い、からね。

 

 槍を素早く突き出し一匹目の顎を貫くグレッグ。ブラッドは私の横で杖を掲げた。

 

「これでもくらえっ!」

 

 お? TTYFか。懐かしいなあ(前世テーブルトーク経験者)

 彼の唱えた魔法が強烈な光の玉となってもう一匹を撃ち貫く。少し過剰な威力だったね。

 

「ほい」

 

 腰だめからの抜き撃ちでもう一匹の頭を撃ち抜く。回転式の拳銃だけど魔力が込められているので普通に威力は高い。

 いちおう接近戦も出来るけど、護衛の人たちが焦るのであんまりやらない事にしてる。ちなみにその時は小剣を使う。

 

「やるじゃん、お嬢さま」

「グレッグ様も一撃とはお見事です」

 

 グレッグが気安く褒めてくるからこちらも軽く返す。

 

「ぼ、僕も一撃でしたよ?」

「お前の、完全にオーバーキルだろ。勿体ねえぞ」

「うぐ」

 

 ブラッドの言葉にグレッグは結構シビアに返す。まあ、確かに。

 

「もう少し魔力を絞っても倒せましたね。その辺りの加減も、追々分かってくるでしょう」

「むう……そうだね」

 

「ジャイアントアント、前方より四匹」

 

 新手がきたので今度はフォーメーションを変えてみる。

 

「次は私が前に出ます。グレッグ様、お下がりを」

「まだまだイケるぜ?」

「魔法の方も試しておくべきでは?」

「まあ、そうか。そんなら頼む」

 

 グレッグは剣豪クリスと違って魔法の方もそこそこに出来るキャラだ。バランスの良さが彼の売りである。

 

「じゃあ、僕も銃に変えてみよう」

 

 ブラッドが背中から大型のライフルを取り出す。私の使う拳銃よりも取り回しは難しいが威力や継戦能力は高いので好む人も多い。

 

 私は小剣をスラリと抜くと前へと飛び出す。魔力を剣に宿すとうっすらと輝きを帯びる。

 

「はっ!」

 

 ジャイアントアントの弱点は首。胴体と頭の接合部に刃を立てるとストンと頭が切れて落ちる。接近する別の個体が噛みついてくるけど、軽くステップを踏んで躱す。

 

「ギャッ」

 

 後ろに居る個体が口から蟻酸を吐いてくるけど、これも避ける。攻撃パターンはだいたい把握してるし、この程度は当たっても防御魔法で止められる。

 

「おらっ!」

 

 槍から炎の球を出して攻撃してくるグレッグ。後衛の個体に命中して動きを止めた。ブラッドの銃がもう一体を撃ち貫き、粉々にする……ブラッドは魔法にしろ銃にしろ威力過剰だなぁ。

 

「ていっ!」

 

 残った前衛の個体の側面から小剣を突き刺し、首を落とす。被弾ゼロだ。

 

「鮮やかなもんだ。結構やるな」

「何度も戦ってますからね」

 

 楽しげにそう言ってくるグレッグ。

 表裏が少ないのもいいところだ。

 

「む、むう。僕も倒しましたよ?」

「だからお前のは威力高過ぎんだよ。勿体ねえなあ」

「撃ち洩らすよりはいいですよ、グレッグ様」

 

 実際に撃ち洩らして危ない目に合う事は多い。敵は確実に仕留めるべきだし、そのためにはケチってはいけないとは思う。

 

 すると、グレッグがこちらに向いてニカッと笑った。

 

「様なんて要らねえよ。グレッグでいいぜ。俺も呼び捨てにするし」

 

 お。

 気のいいアンちゃんぶりが出てきましたね。

 

「なら、グレッグさんで如何です? さすがに呼び捨ては色々と憚られますので」

「しゃあねえなあ。ブラッドの婚約者に馴れ馴れしくすんのは良くねえし。なあ、ステファニーさん?」

「……ぼ、僕は呼び捨ていいよ?」

 

 ブラッドがそう言ってくる。

 なんだ、対抗してくるとか可愛いところあるじゃん。

 

「そういうわけにもいきませんよ」

 

 それこそ親密になり過ぎだし。

 

「ブラッド君、でいいですか?」

 

 少しだけお姉さんぶって言ってみると。

 

「……ああ。いいよ、それで」

 

 屈託のない笑顔で答えてくる。

 ……なんだよ、カッコいいじゃん。

 

 

 

 

 それから六時間ほどダンジョンに潜っていたら、二人はへとへとになって護衛の人たちに肩を貸されていた。

 

 体力無いなぁっ!

 




ダンジョン探索に慣れ過ぎた人と一緒にしてはいけません(笑)
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