僕の名前は斉木楠雄、超能力者である。テレパシー、サイコキネシス、透視、テレポートなど使える能力を数えあげればキリがない。神にだってなれるこの力だが、決して万能ではなく人生にとってはむしろ足かせである。僕はそんな超能力を嫌い、できるだけ使わずに平穏な暮らしを望んで……まぁこれは昔の事だ。アイツらと出会い、少しだけ自分自身を受け入れられた気がする。
この騒がしい生活も存外悪くないのかもしれないな。
「放課後だってのに、窓に手ついて何黄昏てるんですか斉木さん」
僕に話しかけてきたこの男は鳥束零太、語る必要はないクズ変態だ。
「俺の説明適当すぎじゃないっスか!?寺生まれのイケメンTとかあるでしょ!?」
ギャーギャーうるさいなコイツは、実際お前のエピソード大体そんなんだろう。今だってテレパシーで脳内ピンクが嫌というほど伝わってくるぞ。
「いやー斉木さんが超能力取り戻したって話は本当だったんですね、まぁ隕石防げるのなんて斉木さんしかいないっスけど」
コミックス勢しかわからんだろその話、本誌最終回は僕の超能力についての有無は曖昧で終わったんだぞ……メタツッコミが過ぎるからさっさと本題に移れ、話ぐらいは聞いてやる。
「最近めっちゃハマってるアイドルがいるんですよ、童顔な割に胸がデカくてエロかわとか最強じゃないっスか!」
僕は帰るからな。
「いやさっき話聞くって言いましたよね斉木さん!?」
バカ(鳥束)の話を聞くつもりなどサラサラない、そんな事より今は大切な用事があるんだ。毎度ラーメン誘ってくる燃堂の誘いを何とか断ってまで手に入れたいものがある、僕にとって最大の癒し。それは。
「お買い上げありがとうございましたー」
特売品のコーヒーゼリー24個入りセット、チラシで見つけた本日限りの品だ。僕は才虎のように金持ちではないし、バイトすらしていない。お世辞にも金銭面で余裕がない高校生にとっては天の恵みといっていいだろう。
超能力を取り戻し、また以前のような日々が戻ってきた中で。数少ない至福のような時間、帰ったら早速食べるとす……は?
……おそらく1秒すらなかったうちに、周りの景色全てがガラリと変わった。この僕ですら呆気に取られて何が起きたのか理解できない、自分で能力を使った覚えはないぞ。なら誰かの超能力か?鳥束や相ト以外に幻覚を見せる能力者でも新キャラで登場する展開はやめてくれ。近くにその人物がいるかもしれないと思い、辺り一面見渡すとである一枚の看板に目が止まった。何故かというとあまりに違和感があるからだ、そこに書かれていたのは。
2010年とその横にB小町ドーム公演、そう書かれた宣伝パネルだった。こんな体験には覚えがある、前に突如20年前の過去に飛んでしまい若い頃の父さんと出会い色々あった事。あのときと同じ時間跳躍時の変な感覚。
これは幻覚じゃなく……もしかしなくても僕はまた過去に来てしまったのか?
「い、いらっしゃいませー」(何だその頭のアンテナ、痛い電波野郎かよ)
……現代では僕の見た目への認識をマインドコントロールで違和感持たないように改変しているから、過去ではそういう反応でも仕方ない。とりあえず僕は一旦落ち着いて情報整理をするため、喫茶店に入ることにしたのだ。
席に座り、タイムスリップにはついてこれなかったコーヒーゼリー24個達を悔やみながらカフェラテとコーヒーゼリーを注文した。
僕は喫茶店に入るまで1時間ほど街を練り歩き、人々のテレパシーを聞いて数々の疑問に二つ確信を持つことができた。一つ目は、今いるここが僕のいた世界とは別の世界であるという事実。心の声には僕の知る2010年と情報があまりにかけ離れており、漫画雑誌の話なんかもこちらに存在しない作品ばかりだ。
そして二つ目は一つ目と繋がってくる、前回過去に飛ばされたときはその後現代に戻れはした。まぁバタフライエフェクトが起きてそれはそれは大変な世界になってたが……今回の場合はそもそも戻ることすらできない。先ほどから何度も試しているがダメで、まぁその理由については薄々わかってきたぞ。
「カ、カフェラテとコーヒーゼリーです」(キッッッモ)
ふむ、世界が違ってもコーヒーゼリーは美味い。味に免じてお前の心の声には目をつぶってもいいな……話を戻すか、先に上げたのと違い確信ではないがどうしてこの世界に来てしまったのか思い当たるフシがある。
それは僕の力の暴走によるもの、最近力を取り戻したばかりで本調子じゃなく。自分でも制御しきれないときが何度があった、今回の世界移動なんてのは超能力のバグにより引き起ったイレギュラーなのかもしれない。まぁとりあえず考えてるだけでは何も始まらない、外を見て周り帰る方法を探すしかないな。
「お会計1100円でーす(はよ帰れ)」
会計時も店員から内心で罵倒されつつ、喫茶店から出ると(アイ……待ってろよアイ!必ず殺してやる!)
僕は咄嗟にその声が聞こえた方向へ振り返った、男を透視で透かしてみれば服の内側にナイフを隠し持っているのが見えて……わかっている。彼を止めればバタフライ効果が起きて、未来がめちゃくちゃになることを。だが人間というのは頭ではわかっていても、心は止められない生き物。
僕は念動力を使ってナイフを動かし地面へ落とした。
「きゃああああああ!!」
「通り魔かコイツ!?」
「な、何でナイフが落ち……騒ぐんじゃねぇお前ら!静かにしないとガッ!???」
超能力で彼を気絶させたので、後は通報を受けた警察が来るだけだろう。本来の死を変えてはいけない、燃堂父と過去で会ったときもわかっていたじゃないか僕は。心のどこかであの決断を後悔していたのか?
元の世界に帰るどころか、別世界でバタフライ効果を発生させてしまうなんてな。まずこの世界の未来を何とかしないといけないのか、だが時間移動すら現状できない状態なのが腹立たしい。理由は過去へのタイムスリップや別世界への転移は超能力の暴走によるもので、僕自身コントロールができ……
「2023年もあっという間に春だよなー」「ホント早いわー1年あっという間じゃん」
ないんだ、急に飛ぶのは心臓に悪いぞ?やれやれ。しかも2023年という事は僕は別世界とはいえ未来に飛んだというわけか。今まで過去から現在に戻れても、そこから未来にいけた事など一度もないんだが……恐らくこれも超能力のバグだろう。
流石の問題のデカさに頭が痛くなった僕はベンチに腰掛けた、とりあえずさっきと同じようにテレパシーで歩いてる人々の心を読むしかないか。
(ママ、家に帰ったらアイがいる生活ホント何年経っても最高すぎない!?)
……アイ?
「……えっ?」
ふと漏れた僕の言葉に、ちょうど目の前を通り過ぎようとしている左目に星を宿した金髪の少女が振り返った。