「……妹は100歩譲って目をつむってあげるわよ、でもマジシャンって何なの!?」
10秒で泣ける天才子役であり、ピーマン体操を大ヒットさせた女優有馬かな。どうやら彼女はこの状況が理解できないらしく完全に混乱している様子だった、いや本当に何で僕はここにいるんだろうな?ルビーからここに来てとメッセージが送られてきたから仕方なく来たが。場違いもいい所だぞ。
(あ、これもしかしてドッキリってパターン?オワコン子役と言われてる私にドッキリしかけるなんて、テレビ局も血迷いすぎよね……何か自分で言ってて悲しくなってきたわ)
僕は芸能界の事など微塵も知らないが、それでも哀愁漂ってる切なさは強く伝わってくる。さっきの寿さんの話には幼少期の子役時代しか出なかったし、その後人気が続かなかったんだろうか?まぁとりあえず今はルビーに理由を聞く方が先だ。
ルビー、マジシャンがいるせいで有馬かなはドッキリだと勘違いしてるぞ。そもそもどうして僕を連れて来たんだ?アイドルに関する話ならアクアとルビーの2人でいいはずだろ。
(た、多勢に無勢ってことわざがあるじゃん?ロリ先輩は因縁の相手だから味方は多い方が勝率上がるかなーって思ったんだ……)
勝率とかバトルじゃないだろ、というか話止まったら意味ないぞ?
アクアも有馬かなと同じ意見らしく、これを考えた妹に呆れた表情を向けていて。
「斉木、関係ないのに巻き込んで悪いな。有馬、話があるのは俺じゃなくてルビーの方だ」
「えっ?こ、これドッキリじゃないの?」
「……有馬」
「哀れみの目を向けるのやめて!?わ、私ドッキリじゃなくて今ホッっとしてるのよ!ちょっとワクワクしながらカメラ探したとかは決してないわね!」(正直久しぶりにドッキリかけられたかったわ)
事実も判明し思考が冷静になったのか、彼女はこの状況に改めて疑問を抱いた。ルビーから話があるだけなら、マジシャンがいる理由はマジで何だよと。
疲れた顔と目つきでこちらを見てきている。
「……結局アンタはどうしているわけ?」
そこに関してはいいだろ、とりあえず鳩でも触るか?今カバンから出すぞ。
「いや全然答えになってないでしょ!?てかホントに鳩出てきたし!?」
……悪いが、僕もこの状況が面倒になってしまったんだ。とりあえず知り合いの言葉を借りるなら、これはアメージングか?
「頭ではダメってわかってるのに、何で私はいつもこう!」
「よろしくね~先輩」
あの後、ルビーの説得というよりはアクアのごり押しで有馬かなはB小町SECONDに新メンバーとして加入した。やれやれ、テレパシーで彼女がアクアの事を好きなのはすぐにわかったぞ。それにしても、やはり僕に恋愛感情というのはよくわからないな。照橋さんといい、人を動かす力がある事はわかるが。
「……てかアンタも苺プロ所属のタレントだったのね、制服で同じ高校なのはわかってたけど」
斉木楠雄だ、僕も2年生だから君とは同学年だな。
「別に有馬やかなとか呼び捨てでいいわよ、一応後輩なはずのアクアも私の事を有馬呼びだしね」(アイツのはな、何か距離感近く思えて別に嫌じゃないけど!)
感情を表に一切出さず心の中でカオスってるタイプもいるが、かなは割と顔に出てしまう方らしいな。本人は冷静を装ってるつもりで、その顔は赤く表情の変化もわかりやすい。心の声が読めずとも、察しのいい奴ならすぐ気づきそうだ。それにしても寿さんから色々聞いた当日に、本人と知り合う事になるとは。今思えば完全にフラグだったぞ……有馬かな、10秒で泣ける天才子役か。
僕とした事がつい気が抜けていたようで、最後の部分を言ってしまったらしい。その言葉を聞いたかなは何故か急に上機嫌になり、ニヤニヤとからかうような表情を浮かべていた。
「あれっ!?あれーっ!?もしかしてアンタ、すました顔してるけど実は私のファン?」
……寿さんといいどうして僕はファン疑惑が生まれるんだろうな?違うぞかな、勘違いしないでくれ。
「さっき私が話しかけても、話題逸らしてマジック見せてきた理由がようやくわかったわ。あれはファンボーイとして照れ隠ししてたんでしょ?見た目からしてあんまり女子と話した事なさそうだし、それが憧れの対象な事もあって余計に緊張したのよね。でもそういうのはよくないわよ?」
おい、随分言いたい放題だな?その言い方だと僕がまるで恥ずかしがりやの思春期陰キャ少年になるじゃないか。冴えないのは認めるが、その捉え方はやめろ。ただでさえグラドルファンの設定が追加されてしまってる状態なんだぞ、このままでは本当に僕のキャラが鳥束を馬鹿にできない感じになってしまう。
今も僕の目の前で煽ってきている彼女を止める方法はないものか、正直かなりウザいぞ……いや一つ思い当たるフシがあるな?
「サインぐらいなら書いてあげても構わないけど、欲しいかしら?」
いやいい、それよりピーマン体操についての話を聞きたいんだ。詳しく教えてくれないか?
「……舐めた態度取ってスンマセンでした」
あのヘンテコさからして、今や本人にとって黒歴史になってるだろうとは思っていたが……ここまでだったとはな。すまない、僕も悪かった。
不毛な争いも終わり、かながルビーにアクアの次の仕事について尋ねた事で話題は今ガチ(恋愛リアリティショー)に変わった。2人はパソコンで番組の映像を見ており。
「アクアです!何かめっちゃ緊張するわーみんなよろしくね!」
「「いや誰!?」」
普段のアクアとのあまりの違いに衝撃を受けているようだった、確かに僕の知ってるイメージと別人に近いな?だが心の声を聴いたときアクアはこの番組に無理やり入らされたとPを恨んでいたぞ。まぁツクヨミが言うには元の世界でも番組に入るのは同じらしいが、改変後では復讐関連の取引ではなく純粋に顔の良さを気にいられた理由だけでぶちこまれてしまったらしい。
「お兄ちゃんあれだけ嫌がってたのに、結局オスなんだね」
……ルビー、言い方ってものがあると思うが。
(だって恋リアだるぅ、鏑木ざけんなって散々言ってたんだよ!?なのにいざ始まったら楽しんじゃってさ!ホントオスだよねー!)
あの映像は普通に演技だろ?言いすぎだぞルビー、アクアも誤解されて大変だな。
それにしても恋リアか、ここで重要人物らしいMEMちょや黒川あかねと関わりを持つんだな。僕も今映像に映っている2人の姿を見たが何故だ、理由はわからないが黒川あかねが妙に引っかかるぞ?
嫌な予感がすると言うべきか、彼女に追い詰められそうな気が……いや気のせいだな。この僕がそこまでピンチになる事などあり得ないはずだ。
そして数日後。
「B小町SECONDに2人目のメンバーができた事だし、ようやくアイドル活動始められるんだね!」
「苺プロという大手で、しかもユニット名が既にあるマジな感じでしょ。正直B小町があるのに、SECONDとかいいのかって思うけどそこは突っ込まないでおくわ。こんな状況だと、まぁ私もアイドルとしての踏ん切りつけなきゃいけないのよね……って楠雄はそこで何してるわけ?」
立てた100円玉の上にまた100円玉を立てて乗せた30枚分の高さのタワーを作っただけだ。
「いや30枚タワーって原理どうなってるの!?それにその100って文字が書かれた、ダッサいサングラスかけるのやめた方がいいわよ!?」
このサングラスで100円マンになれるんだぞ……やれやれ、僕としても苺プロに入ったのは不本意なんだ。でも一応タレントのマジシャンなわけだし形だけマジックの練習をな?こんなのサイコキネシスを使ってるだけの簡単なものだが。
カメラを持って部屋に戻ってきたミヤコさんは、僕の100円タワーを見て「やはり逸材ね」と嬉しそうに笑っている。かなはどうやら頭が痛くなってきたのか、トリックの種を考えるのはやめたようだった。
「踏ん切りがつかないのなら、実績を作りましょう。新人アイドルの下詰みと言えば、ひと昔前はビラ配りとか合同ライブが基本だったけど時代は変わってるのよ。今アイドルカルチャーの中心はネット、あなた達はまずネットで名前を売る所から始めましょう」
「YouTuberって事?ミヤコさんは苺プロのネットタレント部門マネジメントだもんね!流石!」
「苺プロは配信者も多く抱える事務所よ、ちょうどさっき協力してくれる人捕まえた所だから。色々教わるといいわ、じゃあ後はお願い」
僕はアイドルじゃないので、ただ近くにいるから話が聞こえてるだけだ。誰か入ってくるのか?Ψ難には巻き込まれたくないから、変わった奴はご免だぞ。
「おまたせ!」
「変質者だー!??」
思いっきり変わった奴じゃないか、かなの言う通り本当に変質者だぞ。ルビー、あれが誰か知ってるか?
(ぴえヨンだよ!小中学生に大人気、覆面系筋トレYouTuber!それと……あっ!?)
ルビーは何かに気づいたらしく、表情もワクワクを隠せていないほど興奮してる様子だった。
(斉木さんは透視でぴえヨンの顔見れるじゃん!どう?素顔はどんな感じなの!?)
まぁ見えてるが、どんな感じか説明するとな「そこの君!ちょっとこっちに来てくれるかな!」……は?僕か?
ぴえヨンは僕を手招きしていて、何なのか分からず面倒に感じたが一応そばに近づいてみると僕の耳元に小声で囁いてきた。
「……素顔は誰にもバラしちゃダメだよ?」
……こっわ。