何故か透視を感知してきた、覆面の筋肉男ぴえヨン。初めは鳥束や相トのような能力者かと思い、こちらに危害を加えてこようものなら石化させる事も一瞬考えてしまったほど警戒した僕だったが……「素顔は誰にも話しちゃダメだよ?」と忠告された後。何事もなかったかのようにぴえヨンはB小町SECONDとのコラボ動画撮影の話に戻り、宣伝の条件として出された「1時間ぴえヨンブートダンスについてこれれば素顔出してよし!」という馬鹿みたいな条件をルビーとかなの2人は真剣に取り組みクリアする事ができた。
「いやー凄い凄い、本当は編集して1時間やった事にしようとしたんだけどマジでガチったね。視聴者には伝わらん事だけどさ、やっぱ現場の人間は見てるわけで。僕は君ら好きよ」
(ルビー、大丈夫か?最中にテレパシーで聞いた情報でかなは普段から運動してるらしく今もまだ平気そうだが。君はかなりキツそうだ、もし倒れそうな程ならこの前のときのように復元能力で戻せる事もできるぞ)
ルビーは全身汗だくで息も完全に上がっており、顔も真っ赤なその姿を見て素直に心配からの提案だったのだが。
(……前は能力に助けられちゃったけどさ、私も今やアイドルだもん。だからこれぐらいでへばってられないよ、心配してくれてありがとね。でも大丈夫だよ!)
そう言ってルビーはまるで太陽のように輝かしい笑顔を浮かべ、僕にグッドサインを向けてきた……やれやれ。角に小指ぶつけたくらいですぐ復元を僕にお願いしてくる、そんな情けない父さんに1%でいいからルビーの根性を分けてほしいものだな?プライド捨てて靴舐める父さんに1%分けた程度では何も変わらなさそうだが。
それにしても安心したぞ、コラボ撮影も終わったし得体の知れないぴえヨンもこれで帰える事だろ(斉木君、この後ちょっといいかな?君とは色々話したい事があるんだ)
いや、ナチュラルに話しかけてくるの怖いからやめてくれないか?
超能力を失ったときは当たり前の事に驚きまくってたように、僕は不意打ちが苦手なんだ。もうあんなビックリ顔など二度と晒したくないし、ここはゲルマニウムリングでテレパシーを遮断させてもらうぞ。
「ボクの車の中でなら誰にも会話を聞かれる事はない、ここでならゆっくり話ができるよ」
僕は今、覆面を脱いで素顔を晒しているぴえヨンと車内で2人きりという状況に置かれている。素顔に関しての描写は禁止されてるから書けないぞ?悪いな。
「さっきも言ったけど、これは副社長に言われたから仕方なく受けた案件でね。まぁあの2人の根性にはボクも素直に驚かされたかな?本当に気に入ったよ」
僕は元から身体能力が人の数百倍はあるから、常人の感覚を理解できるわけではないが。そんな僕から見ても、2人が1時間もあんな覆面を被りながらあのダンスを踊りきった根性は関心するぞ……ってこの話今はいいだろ。さっさと本題に入ってくれ。
その言葉に対し、ぴえヨンは急かすのはやめてくれないかな?と苦笑いしながらも語り始めた。
「君はボクの事を何かの能力者とでも思っているんだろうけど、全然そんな大した存在じゃないよ。ただ己の筋肉を鍛え続けた結果、人よりちょっと強くなっただけだね」
……つまり、筋肉を鍛えただけで僕の透視やテレパシーを見破れるほどになったと言うのか。
「筋肉は全てを解決する、ってやつかな?」
訳が分からん意味不明な理論なのに、めっちゃドヤ顔するのやめてくれ。それにどんな素顔か描写できないせいで、ドヤ顔してても読んでる方にイマイチ伝わらないぞ。
正直面倒すぎて今すぐにでも車から降りたいと思っていた僕だったが、ぴえヨンの話はまだ終わってくれないらしい。というかむしろここからが本題で、先ほどまでのフザけた顔から一転真面目そのものになっていた。
「YouTuberぴえヨンになってから、ボクは強い存在を欲していたんだよ。この筋肉と対等に渡り合える人間をね?でもそんなの簡単にいるわけもない、もう半ば諦めていたんだけど……そこに君が現れた。ボクにはわかるさ、その見た目は筋肉質とはかけ離れているが本当は凄まじい力を秘めてると」
何だこのバトル展開は、頼むから僕を帰らせてくれ。
「君に挑めばボクは、ぴえヨンはきっと次の段階へ進む事ができる。それは年収や登録者って意味じゃないよ、筋肉の段階さ。だから斉木君、ボクと勝負してくれないか?」
……ドアにロックかかってる時点で、勝負受けるまで返す気ないだろ。
「勝負内容はシンプルに腕相撲、回数も1回のみだね。でもその1回に僕は全力の筋肉で行かせてもらうよ、だから君も全力を出してくれると嬉しいな」
全力だと?その場合ぴえヨンが一瞬で肉塊になってしまう大惨事になるぞ、僕がファンから殺される羽目になるからやめてくれ。
全力を出すことにしないと納得してくれなさそうなので、とりあえず形だけ頷いておいた。当たり前だが手を抜きまくるぞ……っておい、何でぴえヨンマスクを被ろうとしてるんだ。今は撮影じゃないだろ?
「ははっ、これ被るとやる気出るんだよ。ダメかな?」
もう勝手にしてくれ。
「よし、これで準備できたね。それじゃあ勝負といこうか!斉木君!」
やれやれ、本当に勝負する事になるとはな。しかし腕相撲か、接戦を演じてちょうどいいタイミングで負けさせてもらうとすっ!?
「……ふっ、油断は禁物だよ。斉木君?」
……チッ、何だこの力は。今完全に気を抜いて油断してたのもあるが、この僕がちょっとピンチだったぞ。
常人の筋肉など赤子の手をひねるようなレベルで余裕だが、ぴえヨンの筋肉は明らかに次元が違うな。何か気のようなエネルギーが全身から溢れ出てるし、鍛えただけでこのパワーまで達するなんて何故だ?理由がわからない。
「君のその顔、ボクがどうしてここまでの力を持ってるか不思議に思ってるね?」
当たり前だろ、まぁ大体今予想はついたがな。さっきぴえヨンは鍛え続けた結果と説明していたが、結局その力は能力によるもの。この世界にも謎幼女(ツクヨミ)や転生者がいるくらいだ、能力者がいても全然おかしくないだろう。
かなり確信を持った予想のつもりだったが、ぴえヨンはその大きい頭を横に振って否定してきた。
「違うよ斉木君、さっきも言ったがボクは能力者じゃない」
いや嘘だろ、どう考えても能力者じゃないと辻褄が合わないぞ?
「君が指にハメてる指輪、それでテレパシーを遮断できると言っていたね。指輪を取ってボクの思考を読んでごらん、嘘はついてないとわかるはずだよ」
不気味すぎてテレパシーを使いたくなかったが、仕方ない……まぁぴえヨン本人はそう言ってるものの結局は能力者に違いないはずなんだ。ああ、きっとそうだな?そうに決まってる。
僕はゲルマニウムリングを外した。
「ボクの思考を読んだ結果はどうだったかな、斉木君……って大丈夫かい?今試合中だよ」
力は入れてるから問題ない、それよりテレパシーを読んだ結果だが。嘘はついてない事がわかった。
つまり本当に鍛え続けた結果、ここまでの力を得たというわけで……いやワン○ンマンのサ○タマかコイツは?
「驚いてる反応を見るのは何だか楽しいね、そうだよ。前職から変わって覆面系筋トレYouTuberぴえヨンの活動を続け、ひたすら筋肉を鍛え続けた結果。ボクは人の域から外れてしまったんだ」
説明しながらもさっきより力を強めてきてるな、苦戦ではないが若干面倒なレベルだ。これは厄介だぞ、今回だけ作品のジャンル変わってる事も別の意味で厄介だぞ。
僕が色んな意味で頭を抱えたくなっている中、目の前のぴえヨンには何故か焦りの感情が浮かび始めてるように思えて。
「やはり君は強いな、今ボク的にはサラっと80%まで出力を上げたつもりなんだけど顔色すら変わっていないね」
力関係を面倒に感じさせた時点で、こんなの本当に例外だ。しかも能力ではなく自分でここまで行き着いたとはな、僕はちょっと前に超能力が一時的に消えた期間があったんだが。そのときの僕はポンコツそのものだった、だからぴえヨンは凄いと思うぞ。
「斉木君……どうやらもう出し惜しみは無しだね、ボクは100%の全力筋肉でいかせてもらうよ!だからお願いだ、君も全力を出してくれないか!」
ぴえヨンから溢れ出した気が車内を超えて、地面にまで伝わり振動しているのを感じる。おい、こんな戦いが周りにバレたらΨ難にもほどがあるぞ。
全力か、この戦いを1秒でも早く終らせたいのもあるが。ぴえヨンの気持ちに答えたいと思わなくもない……やれやれ。仕方ないな。
「ん?急に頭のヘアピンを外してどうしたんだのかナァァァ!!!?????」
ぴえヨンは敗北した。
「制御装置とは驚いたよ……君の本気は一体どれくらいのパワーなのかな?」
世界を3日で滅ぼせる程度とは絶対言えないぞ、まぁそれにしてもこの世界で制御装置を一瞬でも外す事になるとはな。外すと僕自身制御が効かないし、やるつもりもなかったのだが。
「楽しかったよ、ありがとう斉木君!それに今回の件でわかったけど。どうやらボクも筋肉もまだまだ精進していく必要があるみたいだね!」
……まぁ今回だけ特別だな、後筋肉に関してはもう十分だと思うぞ?