「へいらっしゃい!最近よく店に来てくれるなぁ?しかも今日はこんな天気だってのによ、へっ!オレっちは嬉しいぜ!」
世界の危機ですら何度も目撃しているので当然滅多な事では驚かない、そんな僕ですら動揺を隠しきれなかった燃堂……いや堂燃との出会いから3週間ほどが経つ。見た目や喋り方まで瓜二つな堂燃の存在を知り、最初の2回ほどは元の世界と何か繋がりが無いか確かめる為に来ていた。
だが観察の結論として特に関係は見つからず、堂燃はあくまでこの世界の一人間に過ぎないと分かった。恐らく海藤や窪谷須にそれ以外の僕が知る人物達のそっくりさんも同様にこの世界にいる可能性は高いが、彼らも違う友達に違う人生を歩んでいるはずだ。堂燃は年齢が違う事から性別が同一かすらわからないしな、束鳥(セクハラ女)とかいたら絶対関わりたくない相手だぞ。
これらの理由から積極的に探す必要はないと判断した、向こうも赤の他人が絡んできたら迷惑だろうしな?なので以降は純粋にリピーターとして店へ足を運んでいる。燃堂に散々連れ回されているからかラーメンに関しては多少舌が肥えている僕だが、ここのラーメンはかなり美味しいと感じるぞ。
……しかしまぁ、今日は行く予定なかったんだけどな。
「お?よく見りゃ後ろに小さいガキがいるじゃねーか」
そう言って堂燃が僕の後ろを覗き込むと、1人の幼女が怒り心頭で額に青筋を浮かべていた。
「ガキ呼ばわりするなんていい度胸じゃないか君、私はツクヨミ……言わば神に近い存在だよ。それを知っての発言なのかな?」
「ツケモノ……漬物の神ってすげーなオメー!」
「ツケモノじゃない!ツクヨミだ!!」
台風レベルの大雨が降り注ぐ悪天候な休日、しかしインドアな僕にはさほど関係はなく家でゆっくり読書をしていた所「こんにちはお兄ちゃん!会いに来たよ……って、黙って玄関のドアをそっ閉じしようとするのはやめてくれないかい。私も話があるのさ話がね、いやだから待ちたまえ閉めるな!?」といきなりコイツが現れて平穏な時間は幕を閉じた。そして、せっかく家に入れてやったのにも関わらず「石油王から貰った金があるのに随分地味な部屋じゃないか、もう少し内装にはこだわったらどうだい?」とか余計な口を挟んでくるので瞬間移動を使って外出し行く場所も特に思いつかないのでここに来たという訳だ。
席に着いて少しすると、注文した2人分のラーメンが運ばれてきた。いつもは賑わってるはずの店内も僕達以外に客はいない、それに店主の堂燃は厨房で作業している事から会話が耳に入る事もなく話をするには良い場所か。
「オレっち特性のスペシャル特別な醤油ラーメン、アホみたいなネーミングなのに味はしっかり美味しかったね」
それで、わざわざ休日でしかもこんな悪天候の日に一体僕に何の話があるんだ?
僕の問いに対し、ツクヨミは真面目な顔つきで答える。
「少し前に焼肉屋で会った黒川あかねという人物を覚えているよね」
……話は聞いていたし、それに実際会って数分足らずで僕が普通の人間とは違うという事に気づきかけていたんだぞ。後で記憶を消したものの忘れるわけがないだろう。
「話というのはその事さ、今日から数日後の今ガチの撮影中に彼女は共演者とあるトラブルを起こしてしまうんだ。とは言ってもね?トラブル自体は当人同士ですぐに解決したんだが、問題はその後なんだよ」
理屈は知らないがツクヨミは燃堂、兄に続くテレパシーが効かない人物。だから何を言おうとしているのか僕にも分からない。
「例の行動が原因で彼女は世間から沢山の中傷を受けてしまう事になる、それはもう酷いものを沢山だ。最終的に命を絶とうとまでしたんだよ」
……彼女はその、どうなったんだ?
「間一髪の所をアクア、彼に助けられてね。そこから今ガチの彼らも協力して、世間の印象を変える事に成功し危機を乗り越えられたんだ」
それを知って安堵したのと同時にとある疑問が頭に浮かんだ、それを向こうも分かっているらしく「本題はここから」と目で訴えてきた。
「それが正史の流れ……ただ、以前君に話したけどこの世界は元から大きく外れてしまった世界なんだ。正直アクア、彼を取り巻く事情すらかなり元と違っているからね。まず前提として復讐が存在しない、よって今ガチの結末も恋仲から変わるだろう。でも現に有馬かなを救っているし彼の根底は変わってるとは当然言わないよ?助けに行くはずさ、しかし本来行くはずだった焼肉屋が臨時休業で鉢合わせてしまったように。何かのほんの細かな差で間に合わなかったら黒川あかねは命を落としてしまう」
今ガチのトラブルはまだ起きてはいない、つまりツクヨミはそれを事前に防ぎたいのか……世界の変化は僕のせいである、だから当然それが理由で命を落とす事などあってはならないし助けるぞ。
だが一つ聞きたい、その件で彼女がアクアに好意を抱くきっかけとなるなら無くしてしまったら「いや彼の事だ、歴史の運命力やら何やらが働いて違う経緯で絶対好意を抱かせてしまうはずだよ。断言するさ、断言できるね」
……真顔で何か圧が凄いな、推測だが元の世界だと恋愛関係とか相当ごちゃごちゃしてたんだろうか?そんなタイプには見えないぞ。まぁそういうのは僕の対象外な話だし今は置いておく。
「彼と一緒に地獄へ落ちても構わないと言わせるほどの想いを変えてしまう、当たり前だが複雑な気持ちはあるさ。でも既にこの世界に地獄はもうなく悪い事の起きない幸せな世界であるべきだと思っているよ、そもそも彼女の命の危機というのもあるし……それに例えきっかけが違うとしてもきっと培われる想いは一緒だと私は信じてるからね」
僕にツクヨミが何を見て来たのはわからない、ただその強い気持ちだけは理解できる。
わかった、疑問はもうないぞ。彼女を助ける。
「……感謝するよ、ありがとう」
話もひと段落し、長く店に居座るのは悪いと思い席を立とうとすると堂燃がこちらへやってきてチャーハン二つをテーブルに置いた。これは注文してないぞ?
「オメーらが何をするかは知らねぇけどよ、誰かを助けようとしてるって事はわかるぜ?だからこのチャーハンはオレっちからのサービス!」
やはり、こういう所も燃堂と似てるな。自然と僕の頬が緩むのを感じた。だが対照的にツクヨミは苦い表情を浮かべており。
「この体でチャーハン追加はかなりキツいね……悪いが私の分まで食べてくれないかい?」
……頑張らないとな。
翌日、千里眼を使い街中を歩く黒川あかねの姿を確認した僕はさっそくその付近の監視カメラや人影のない裏路地へ瞬間移動し表通りへ移動。今現在彼女のすぐ後ろまで来ている。
(もっと目立たなきゃ、次の撮影で必ず)
ちょっといいか?
「……えっ?」
思考の渦にいたのもあり、声を掛けると彼女は驚いてこちらへ振り向いた。そして僕を見て目を見張っている。まさか。
(その姿勢、一見一般的に思えるけど明らかに他の人の比べて負担がなく身軽。アスリートとかでさえ比べ物にならない、それにその自然さから恐らく意図的じゃなく根本的な身体の構造からそうだよね。まるで重力に囚われてないみたい、私こんな人初めて見たよ?こういうの何て説明するんだろ。普通の人にはない特殊な力を持ってるとでも言えばいいのかな……いや考えすぎだよね)
……一言一句同じとは驚いたぞ、だが僕は当然記憶を消したりなんてもうしない。彼女と話をしに来たんだからな。