数日後の今ガチ撮影中に起きる共演者とのトラブル、本人達の間ではすぐに解決したもののそれが原因で世間から強い批判と中傷を受けて黒川あかね……黒川さんは命を絶とうとするほどに追い詰められてしまったらしい。元の歴史では間一髪の所でアクアに助けられ、そこから今ガチの彼らも協力して世間の彼女に対する印象変化に成功。
ただツクヨミ曰く「彼はこの世界でも助けに行くはずさ、しかし本来行くはずだった焼肉屋が臨時休業で鉢合わせてしまったように。何かほんの僅かな差で間に合わなかったら黒川あかねは命を落としてしまう」と言っていた、この話を纏めると今ガチのトラブルを起きさせないように事前に止めてほしいという事。
だからこうして黒川さんの前へ現れたのだが、困った事に何を話していいのか分からないぞ。一応芸能事務所に所属しているといっても何せ知識など殆どないしな?マインドコントロールを使えば一瞬で解決するけれどその方法は当然間違っている、ただ黒川さんは僕の予想以上を遥かに超えており。
(ううん、違和感に感じるのは姿勢だけじゃない。どう表せばいいんだろ、この人自身から溢れ出てくる何かが明らかに他の人とは違うかな……あれ?前にも私こんな事を考えたような気がするけど多分気のせいだよね)
何故か消した記憶の違和感にまで気づき始めている有様、ツクヨミが真顔であの優れすぎな観察眼と推理力はヤバいと話していた意味が分かるぞ。やれやれ、ぴえヨンといいこの世界の住人はどうなっているんだ?推しの子はオカルトあれど能力バトル漫画じゃないだろう。
そんなツッコミを入れている最中でもこちらを訝し気に見つめてくる黒川さんだが、このままじゃ5分後には僕の正体が超能力者である事実に行き着いてしまうはず。それなら記憶消去以外の別の策を講じるまでだ。仕方ない、見せてやろう―――
???????
「えっ!?」
前に明智から「超能力者ですか?」と問われたときに使用したしらばっくれの極み、このおとぼけ顔をな。
超能力以外で数少ない僕の技だ、いくら黒川さんでもおとぼけられては考察の思考が纏まらず超能力者であるとの結論には辿り着かな「私に声をかけてきましたけど……ごめんなさい、誰かと間違えてないですか」
……ふざけてすまない。
「―――アクアさんの知り合い、しかも一緒の事務所の人だったんですね」
僕の名前は斉木楠雄、苺プロ所属のマジシャンだ。よろしくな。
「マ、マジシャン?」(よく分からないけど、さっき感じた変な違和感もこの人がマジシャンだからなのかな……でもやっぱりそれだけとは思えないよ)
そう思っといてほしいぞ?まぁこれで僕がアクアの知り合いでタレントという認識を持ってもらえたから色々聞いても不自然じゃないはずだろう、後言葉に出せない部分もテレパシーで聞けるしな。しかし大きな問題は、それを僕が聞いた所で黒川さんに何のアドバイスが出来るのかという点か。
チッ、昨日の今日で考える時間が無かったな。一応関わりを持ったものの、どうするべきかと僕が悩んでいると黒川さんは俯きながら遠慮がちに。
「あの、斉木さんは今ガチっていう恋愛リアリティショーを知ってますか?アクアさんもメンバーの1人で出演していて」
ああ、もちろん知ってるぞ。僕は合わなくて1話の中盤で切ってしまったが、ルビーやかなが色々と騒いでいたな。やれやれ。
今の発言で特に変な所はないはず、しかし「かな」という名前を聞いた途端に黒川さんの様子がおかしくなり始め彼女の周りにはドス黒いオーラが漂っている。急に何なんだ、ダークリユニオンの仕業か?
「そのかなって子、もしかしてかなちゃ……有馬かなじゃないですよね??」
この僕でさえ思わず一歩引きたくなるほどの凄まじい威圧感だと……いや全然本題に進めないんだが、もう誰でもいいから何とかしてくれ。
(私石油王デス、前は旅行デシたが今は仕事で日本に来ていまス。デモ、またもや妻との大切な結婚指輪をナクシテシマイマシタ)
は?
「私石油王デース!指輪見つけてクレタヒトには―――ってそこのアナタ!もしかして前に指輪をあっという間にサガし出してクレタヒトデスネ!?」
「……何が起きてるんだろう」
もう誰でもいいからとは言ったが、6話に出てきた石油王が来るなんて予想できるわけないだろう。かなはとんでもない地雷だったらしく、まるで覇王色の覇気を出していた黒川さんも流石にあのときのツクヨミと同じく呆然としていた。
石油王は笑顔で僕達の元へ駆け寄ってきて。
「二度も頼むのモウシわけと思うのデスガ、いくら自分で探しても全然見つける事がデキズ。お金は出しマス、だから私の指輪をまた探してくれないでしょうカ?」
困ったぞ……前回は一緒にいるのが僕の正体を知っているツクヨミだったから、超能力を使い簡単に見つけられた。でも今回は能力を使おうものなら一瞬で答えを導き出しそうな黒川さんだ、それに彼女とはこの場でしなきゃいけない話があるのに離れるわけにもいかない。
これから起きる問題を考えても優先するべきなのは黒川さんであり、悪いが石油王の頼みは断ろうと決めたそのとき。
「―――あの、よければどんな指輪か教えてもらえませんか?」
冷静に、しかし確かな意志を込めて黒川さんはそう言った。
「指輪を探し出してくれてアリガトウゴザイマース!まるでミステリードラマを見ているみたいデシタヨ、感動しまシタ!」
「い、いえ全然そんな」
「謙遜しなくていいんデスヨ、アナタは素晴らしい才能の持ち主デス。最初にアナタを見た時はどこか落ち込んで元気がないように見えましたが、もっと自信を持ってくだサイ!」
「……」
石油王は僕達に手を振りながら「もう無くしませーン!」と嬉しそうに去って行った。
僕は横で見ているだけだったが、黒川さんは能力を持たないにも関わらず本人から聞き出した性格や人間関係に今日の行動など。それらの情報を手に持ったメモ帳に書き込み脳内で構築する、その過程をテレパシーで聞いていたが驚きしかない。何故ならまるで石油王を完璧にトレースし……いや石油王をトレースするという表現はとても変だが実際その通りだぞ。
指輪があったかというと、フラっと買って本人ですらすっかり忘れていた自販機の下に落ちていた。トレースした後にその自販機の元へ迷わず歩いて行ったんだ。
今は自分に自信が持てなくなっているのも大きく、石油王からの言葉をどう捉えていいか分からないのか複雑な感情のまま黒川さんは無言で立ちすくんでいる。
(今の自分に自信なんて持てないよ、番組では影薄くて全然目立てない。そのせいでマネージャーにも、だから目立つために過激な事をしなくちゃって……これがおかしいって私も分かってる。でもどうすればいいのかな)
結局事務所に入っているとはいえ、僕の性格と芸能界はあまりにかけ離れすぎている。それが恋愛リアリティショーなら尚更か、だから黒川さんへ何を言うべきか決まらなかったが……感じた事を表せばいいのか。もう既にこの世界でもルビーやツクヨミにピエヨンなど特殊な存在には自分の正体はバレているしな?僕も考え方が変わったものだ。
(次の撮影で私はやっぱり(自分で不向きだと分かっているならしなくていいと思うぞ、黒川さんにはさっき石油王も褒めてたものがあるだろう))
「今の声、斉木さん!?」
黒川さんは驚いたようにこちらへ振り向く。
ああ、だって僕は超能力者だからな?今のはテレパシーで脳内に心の声を送ったんだ。
色々聞いていたがその悩みを理解出来るとは当然言わない、だが一つ伝えるなら……黒川さんの才能。それは超能力者の僕から見てもすさまじいものだ、それを活かせばいいんじゃないか?
「―――才能を、活かす」
数日後、今ガチ撮影日。僕とツクヨミはちょうど人から見えずカメラにも映らない、そして半径200mの死角に隠れていた。
「彼女はどうするかな?」
それを今千里眼で見ている、集中したいから悪いが話しかけないでくれ。
「随分寄り目だね、ウケるよ」
何笑ってんだ、今は黒川さんと森本くん?が校舎外で話している所だぞ。
そう言うとツクヨミの表情が一気に引き締まり。
「……もうすぐ例の場面じゃないか」
出会ってすぐに僕を怪しんでいたように、超能力者と伝えても黒川さんは受け入れるのが割と早かった。僕の言葉や行動がどう響いたのかは分からないが、ただ信じるしかない。
「ケン!ラブラドール好きって言ってたよね、あっちにデッカイのいた!」
「えっ、マジ!?」
(……斉木さん、私頑張って戦うよ)
なっ!?
「君凄い顔になってるよ!?」
僕はテレパシーという能力自体は黒川さんに言ったが、それを受信するには半径200m範囲内にいる必要があるとは話してないぞ。どうして分かったんだ……いやまさか。
黒川さんは走って2人の元へ駆け寄り。
「―――やれやれ」
「……は?」
「あ、あかね?」
「やれやれ、ボクもラブラドールが好きなんだ。だから2人だけで見に行くのはやめてくれ、一緒に見に行こう。それで放課後はコーヒーゼリーでも食べに行かないか?美味しい店を知ってるぞ」(過激な事はやらずにインパクトを残す方法を考えてね、もういっそ大胆なキャラ変でもしてみようと思ったんだ……それでネットで調べてみたら偶然ボクっ娘?っていうのが人気だと知って。だから私なりに斉木さんの口調や性格を色々考察してみたよ、どうかな?)
テレパシーの受信範囲だけに限らず、コーヒーゼリーまで分かるとかどうなってるんだ?ボクっ娘の辺りはもはや頭が痛くなってきたので、僕はツクヨミに一つだけ聞く。
何かもう出来事がめちゃくちゃだが、黒川さんはこの世界線でもちゃんとアクアを好きになるよな。
「な、何が起きてるのか分からないけど彼の事だから間違いないよ、それは安心していいポイントさ。それで……その、一体どうなってるんだい?」
やれやれ、こうとしか言えないぞ。
黒川さんのインパクトあるキャラ変は「おもしれー女」と視聴者の間で話題になり、無事受け入れられて人気を博し炎上もしなかった……まぁよかった。のか?