藤田ことね「高度育成高校?」   作:桜霧島

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プロローグ

 

 

 あたしの名前は藤田ことね、15歳。世界一可愛いアイドルを目指して13才で初星学園中等コースに入学しました。

 優秀な成績とは間違っても言えないものの、何とかかんとか高等部へ進学が決まり、今は春休みに入ったところ。

 みんなレッスンとか、高等部進学への準備とか、同級生と遊びに行ったりとかしているのだけど……

 

 

「十王会長……あたしなんかにぃ……どのようなご用でしょうか……」

 

「私のことは星南と呼んでくれていいわよ、ことね!」

 

「えぇと……それは、その……あたしごときが憚られるといいますか……初対面ですよね、あたしたち?」

 

「私は気にしないわ! さぁ、星南と呼んで!」

 

(あたしが気にするんだよぉぉぉぉぉっ!! 初対面で「ことね」って、何なのこの距離の詰め方……。ホント話とか聞いてないし、人の気持ちを全く考えていないなぁ、この人は!)

 

 

 そう、あたしは春休みに入ったばかりのある日、高等部の十王星南会長に大きな圧をうけつつ呼び出しを受けたのだ。

 

 数多のアイドルを輩出する初星学園のナンバーワン、『一番星(プリマステラ)』と称される彼女は今年、高校3年になるはずだ。十王星南はあたしがアイドルを目指すきっかけになった憧れで、目標とする存在―――だったのだけど、まさかこんな人の話を聞かない人だとは……。

 

 生徒会室に入ると星南会長とその後ろに年上らしき謎のイケメン男性が控えており、色々と質問する間もなく、あたしが入室するや否や先のやり取りになってしまった。

 

「えっと……じゃあ……星南……会長……」

 

「もう一声!」

 

「星南……先輩……」

 

「先輩―――。う、む……まぁ、いいでしょう」

 

「それで、中等部を卒業したばかりのあたしに『一番星(プリマステラ)』が一体どのようなご用なのでしょうか……? 正直に言いますと、マジでビビッてマス……」

 

「―――ことね、あなたには才能があるわ」

 

「はい?」

 

「私には視えるの。あなたには私を超えるアイドルの才能があるってことを!!」

 

「はぁぁぁぁぁぁ!? ちょっ……いきなり何を言ってるんですかー!」

 

「うふふふふ……だからね、ことね。あなたには高育(こういく)に行って欲しいの!」

 

「だから? こういく? 行く? あたしが?」

 

(ダメだこのヒト、順を追って話をするというのが出来ないのかー!!)

 

 頭の中はすっかりパニックだ。

 

「星南さん、相変わらず説明が足りません。そこから先は私が補足しましょう」

 

 あ、さっきから気になってた謎の男性だ。第三者がいて本当に助かります……。

 

「申し遅れました。私は星南さんの何というか……マネジメントのお手伝いをしている人間で、初星学園のプロデューサー科に所属する者です。本日藤田さんをお呼びだてしたのは、折り入って学園からお願いがあったからです」

 

「学園からのお願い、ですか……?」

 

 何だろう、嫌な予感がする。というか、嫌な予感しかしない。

 

「はい。実は星南さんのお祖父様である十王会長に対して、かねてから交流のあった『東京都高度育成高校』、通称・高育の理事長から国内留学として新一年生1名を派遣して欲しい旨の打診があったのです」

 

「こういく……高度育成高校……ですか……」

 

「それで星南さんは会長から派遣する候補者を選定するよう指示を受け、今年中等コースから進学する生徒の中でも藤田さんに声をかけた、ということです」

 

 やっぱり厄介ごとの匂いがプンプンする。何でこーゆーときの嫌な予感って当たるんだろ……。

 

「え~っと、色々と疑問があるのですが……そもそもどうして私が……? はっきり言って成績は良くないですし、中等コースでナンバーワンユニットのSyngUp!のメンバーとか、適当な人は他にも色々といると思うんですケド……」

 

「そうね。でも、ことね、あなたには他の人にも負けない才能があるわ!!」

 

「ヒエェェェェェッ!?」

 

 いきなり顔を近づけて大声出すなよ~っ!!

 

「星南さん、ステイ」

 

「……はい」

 

「藤田さん、こう見えて星南さんにはアイドルの才能があります」

 

「はい、そっちはもう存分に知ってます」

 

 こんなコミュぽんこつだとは知らなかったが、十王星南のアイドルとしての才能は他者を寄せ付けない。初星学園でも圧倒的な強者だ。

 星南先輩はプロデューサー(?)の顔を見ながら何か言いたげな表情をしているが、先ほどの注意を受けて口は開かないようだ。

 

「ですが、星南さんにはもう一つ、プロデューサーとしての資質も兼ね揃えているのです」

 

「へー……やっぱり星南会……先輩はすごいんですねぇ~」

 

「―――私には視えるの。みんなの才能が歌唱力、ダンス力、ビジュアル、大まかにはその3つの分野で、数字になって」

 

 星南先輩が口を開く。

 

「才能の……数字……いや、でもあたし、さっきも言いましたけど成績そんなに良くないですよ?」

 

「私がさっき言った3つの項目――すなわち歌唱力、ダンス力、ビジュアル――この項目であなたより数字が上の存在は確かにいるわ。但し、現時点でね。だけど、ことね。人にはね、潜在能力というのがあるのよ。伸びしろ、あるいは―――スター性と言ってもいいわ」

 

「スター性……」

 

「そう、いわば才能の上限値ね。私が視た限りではことねが今年の高等部新入生では一番よ」

 

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 いや~無理があるっしょ! でも星南先輩が言うのなら本当なのかなぁ……? 才能が数字になって視えるとかどんなゲームの世界なんだよって感じ。

 自分の数字が視えたらどんなに楽か……あっ。

 

「それって、星南先輩ご自身のも視えたり……?」

 

「―――そうね、見えるわ……私の数字が。その限界も」

 

 あっ、やばっ。ちょっと地雷ふんじゃったかも。あからさまに星南先輩は暗くなったし、プロデューサーさん(仮)も貼り付けている一瞬笑顔が崩れかけた。

 

 星南先輩の限界。初星学園の『一番星(プリマステラ)』の限界値。私には想像がつかない。でも地雷っぽいからその話題は変えよう。

 

「いやぁ……でも……留学、ですか……ちょ~っとあたしには向いてないと思うんですケド……」

 

「プライベートなことに踏み込んで失礼ながら、藤田さんは家庭事情に少し悩みを抱えていますね?」

 

「!?」

 

 初対面でがっつり踏み込んできたのは男性の方も同様だった。本当に失礼だな。

 

 あたしの家庭事情。自分でもあまり直視したくなかったもの。

 

 あたしの家は裕福ではない―――はっきり言って貧乏だ。

 

 その理由は大きく分けて2つ。

 

 

 失踪した父。

 

 金食い虫のあたし。

 

 

 小学生のあたしは愚かだった―――今もかもしれないけど。アイドルになれればお金持ちになれるなんて漠然とした思いで初星学園に入って、入ったその先のことなんて考えてなかった。

 現実は甘くない。ここは基本的に中高一貫の私立学校だから授業料も高い。しかも寮生活をしているため二重に生活費がかかる。

 高等部に進級したらアルバイトが出来るようになるため、あたしが春休みに入って真っ先にしたのは求人情報誌を手に入れることだった。

 

 それに肝心のアイドルのレッスンだってそれほど順調じゃない。

 多少ルックスとダンスには自信があるけど、この学園で上位を争うものかと問われたら―――難しいだろう。歌唱力に至っては良く見積もっても下の上程度だ。

 

 こんなあたしに、才能があるって? 何の冗談だってーの。ちょっと腹が立ってきた。返す言葉にも棘が出る。

 

「あたしの家庭事情なんてよくご存知ですねぇ!」

 

「ええ、高度育成高校へ推薦するにあたって、少し調べさせてもらいました」

 

 なんて、すました顔で言いやがる。

 

「じゃあ、余計あたしに星南会……先輩が言うような才能なんて無いってハッキリわかったんじゃないですかぁ!?」

 

「私も最初は半信半疑だったのですが、調べるにつれて……藤田さん、私もあなたにはアイドルの才能があると思うようになりました」

 

「へっ!?」

 

 何を言い出すんだ、この男まで!

 

「―――あなたには才能があります。ですが家庭事情によって、その才能が大きく制限されています」

 

「だったらどうしろってーの! うちが貧乏なのをどうしろって言うのっ!?」

 

「落ち着いてください。だからこそ、高度育成高校なのです」

 

 うん? だからこそ?

 

「高度育成高校は様々な分野で全国から一流の学生を集めています。卒業生は官僚や弁護士、あるいはスポーツ選手など、幅広い分野で活躍をしています」

 

「そんなところにあたしが行って、何のメリットがあるんですかねぇ……?」

 

「いくつかありますが、まず学費がタダです。そして完全寮生活で、水道光熱費も無料です」

 

「……なんと!?」

 

「そして一番のメリットですが―――なんと完全進路保証なのです」

 

「それって……つまり『アイドルになってデビューしたい!』って言ったら、させてくれるっていう……コト……ですか?」

 

「ええ、しかも国の保証付きで」

 

 何それ。そんな美味しい話があるの……?

 

「それが本当なら初星学園に通うのと同じくらいメリットが……あ、いや、でもレッスンとかは受けれないんですよね……そしたら肝心のアイドルになったとしても……」

 

「ご安心ください、そのための私です」

 

「はえ?」

 

「私が高度育成高校に同行します」

 

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 

 思わず大きな声をあげてしまった。

 

「私はプロデューサー科の人間です。多少不得手なものもありますが、一通りのレッスンは出来る自信があります。無論、この学園の一流の講師に比べると劣るでしょうが」

 

「つまり、あなたが、その、私の専属プロデューサーになるってこと……ですか……?」

 

「ええ、藤田さんがこの話を受ける場合、臨時事務員として高度育成高校に勤めることになります。多少行動に制約がかかるようですが、アイドル活動のアシストをするのに支障は無いでしょう」

 

 これは困った。この人たちは断る理由を潰してからあたしに声をかけてきている。

 

・学費、生活費がタダ

・進路が保証されている

・専属のプロデューサーが付く

 

 以上のメリットは全て私が望んでいるものだ。しかし―――

 

「お話を聞く限り、かなりあたしにメリットがあるように聞こえます……が、あえて聞きます。行った場合のデメリットは何でしょうか?」

 

「やはりあなたは賢い―――はい、そちらもいくつかあります。先ほど申し上げた一流の専門の講師によるレッスンが()()()受けられなくなること。招へいするにもかなり制限がかかるでしょう。そして次が一番大きいのですが―――外部との連絡は基本的に不可能となります」

 

「えっ……そしたらあたし、初星学園……いや、家族にも連絡が取れないということですか!?」

 

「はい、そうなります」

 

 外部との連絡が出来ないだなんて、なんという学校だ。こんなこと、あたし一人で決められる話でもないな……お母さんやちびどもと会えなくなるだなんて……。

 

「―――少し、考えさせてください」

 

「ええ、ですがそれほど多くは待てません。そこでどうでしょう、私が同行しますのでご家族と話し合いを設けてみませんか?」

 

「それは、その、助かりますが―――」

 

「私も行くわ!」

 

 星南先輩が声を上げた。

 

「「いいえ、結構です」」

 

 私とプロデューサーさん(仮)の声が重なる。当たり前だ。

 

「星南さんが来るとややこしくなるので却下です」

 

「何でよ!!」

 

「なら、プロデューサーとしてアイドルの1人や2人、スカウトに成功してみてください」

 

「それは……難しわね……」

 

 あ、多少なりともコミュぽんこつに自覚はあったんだ。

 

「なのでここから先は私と藤田さんの領分です。ご安心ください、とりあえず星南さんの役割は果たし終えましたよ」

 

「そうですか……」

 

 一瞬悲しそうな表情を浮かべた星南先輩だが、私に振り向くと一転して決意を固めたような顔で語りかけてきた。

 

「ことね、安心して。部活動で学園の外にでられることは確認しているし、アイドルとして学外のオーディションを受けることも可能よ」

 

「だけど、家族とは会えないんですよね……?」

 

「いいえ、会えるわ」

 

「えっ!?」

 

「あなたがアイドルとしていち早く活躍して、テレビやコンサート会場で元気な姿を見せてあげればいいの。直接話すことは難しいかもしれないけど……家族なんでしょう? きっと、お母様や弟さん妹さんも、あなたの顔を見れば元気かそうじゃないかくらいわかるわ」

 

「そう……ですかね……」

 

「ええ、そうよ。そしてことね、あなたに重要な任務を託すわ」

 

「重要な任務ですか?」

 

「―――私は今年で初星学園を卒業するわ。その最後の年にあなたのような才能の原石を見つけることが出来たのは至上の喜び……なのだけど」

 

「だけど?」

 

「本当はあなたを見つけたとき、私の手であなたを育てたかった。そして、『一番星(プリマステラ)』の称号をあなたに託し、私はプロデューサー業に移行していく……そんな夢を見ていたわ」

 

 星南、先輩……。

 

「私はこの学園が好き。今も昔も誇りに思ってる。でも、この学園では出来なくて、高度育成高校でしか出来ないこともあるわ」

 

「あっちでしか出来ないこと……」

 

「ええ、それは『多様な価値観に触れる』ということよ」

 

「『多様な価値観』……?」

 

「極論を言えば、アイドルというのは歌って踊れて可愛ければ、それなりに人気は出る。だけどよく考えてみて? 人生って、アイドルを辞めてからの方が長いの」

 

「アイドルを、辞めてから……」

 

「アイドルというのは人生の青く輝く春の一瞬に煌めき瞬く星々……聞こえはいいかもしれないけど、その先の保証をするものはこの初星学園にも無いわ。あなた好みに言えば……そうね、20代以降の稼ぎ方について私たちは何も教えられないのよ」

 

「それは……困りますね」

 

「アイドルを続けるにしろ、タレントになるにしろ、他の何かになるにしろ、アイドルのその先を決めるのは、個人の『人間力』が必要になる。そう考えたとき、多様な人材がそろっている高度育成高校というのはある意味で理想的な環境なの。だからことね、あなたに与える重要なミッションは、そうした多様な価値観に触れ、人間力を育成し、『一番星(プリマステラ)』にも負けない―――いいえ、それを超える輝きを放つこと」

 

 

 アイドルになった後の話なんて、考えたことも無かった。言われてみれば確かに初星学園のOGだって、いつの間にか消えて行ったりしている。中にはタレントになって、そのうち担当プロデューサーと、その……結婚して……子どもが出来て、ママタレになったりして……っていう人はいるけど、長く活躍している人なんて本当にごく一部だ。

 それに、あたしが『一番星(プリマステラ)』に勝つ、だなんて……。

 

「あまり……想像できません」

 

「そうでしょうね。だからことね、一つ提案があるの」

 

「提案、ですか?」

 

「ええ。今年のN.I.F、あなたも出場しなさい。そして一年の総決算……H.I.Fで、私と勝負しなさい」

 

「え、えぇぇぇぇぇぇぇ!? む、無理ですよぅ……」

 

「これはあなたが高育に行こうが行くまいが、考えたことよ。あまり大声で話してほしくは無いのだけど、私は高等部でアイドル活動を辞めて、プロデューサーになるつもり」

 

「―――!? それはっ!?」

 

「『一番星(プリマステラ)』としての十王星南はいずれいなくなる。誰かにこの座を譲るなら……あなたがいいわ、ことね。私が見つけた、誰よりも輝くことの出来る星の原石」

 

 十王星南が高等部でアイドルを辞める!?

 今日聞いた話の中でも特大のニュースじゃんか……。あたしの国内留学なんてそれに比べればなんてことない。

 

 N.I.Fというのはだいたい夏の終わり~秋ごろにある"Next IDOL FESTIVAL"の略で、新人アイドルの登竜門とも呼ばれる公開オーディションだ。H.I.Fは"Hatsuboshi IDOL FESTIVAL"の略で、その名の通り初星学園のトップを決める戦い。これに勝った人が、『一番星(プリマステラ)』の称号を得る。言うまでもなく、十王星南は昨年の優勝者だ。

 

 それと勝負しろだなんて……。

 

 でも……譲られるって言うのは性に合わない。

 

「星南先輩……高度育成高校に行くというのは今お返事できませんが、一つだけ言いたいことがあります」

 

「なぁに、ことね?」

 

「譲られた『一番星(プリマステラ)』なんてあたしは要りません! あたしは自分の力で『一番星(プリマステラ)』をつかみ取って見せます!!」

 

 

 

 なめんなちくしょー!!

 

 






 思いついたので書いてしまった。
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