異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?   作:剣の舞姫

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今回で1章は終わります。


第10話「騎士アンナ」

異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?

 

第10話

「騎士アンナ」

 

 ルーンメイル王国国王フィリップスより指名依頼を受け、大陸に12箇所あるダンジョンを巡る事になった剣佑とフィリアは、最初のダンジョンへ向かう前の準備期間に買い揃えなければならない道具などを購入する為、この日は買い物へ出掛ける事になっていた。

 朝からクラスメート達と共に屋敷の食堂で朝食を摂っていた剣佑達の下に来客があり、対応に出た梨々子が来客予定にあった人物を連れて食堂に入って来る。

 入って来た赤い髪をセミロングにした碧眼の少女は、王国騎士団の一人であるアンナ・フォーゲルだが、いつもの赤いミニスカートに上着はライトアーマーではなく黒いフリル付きの袖無しブラウスと茶色のショルダー鞄を持った姿で、その装いは騎士ではなく普通の少女にしか見えないものだった。

 

「おはようございます、ケンスケ殿、フィリア殿」

「おはよう、アンナ。早いな」

「騎士ですので、早起きは習慣なんです」

 

 既にアンナは朝食を済ませて来ているとの事なので、剣佑とフィリアも早々に食べ終えて出掛ける準備を整えた。

 待って貰っている間に澄香が出した紅茶を楽しんでもらって、剣佑はいつもの黒いズボンと青いシャツ姿、フィリアも緑のミニスカートに白いブラウスと茶色のオープンコルセット姿になって食堂に現れる。

 

「ごめんねアンナ、お待たせ」

「いえ、大丈夫ですよ。参りましょうか」

 

 屋敷を出た三人はまず最初に道具屋へ向かった。剣佑とフィリアがよく利用する道具屋で、王国でも有数の商会が経営している事もあってか商品の数が多く値段も多少お高めだが許容範囲に収まるレベルとあって、人気の店なのだ。

 

「王都で一番人気って言っても良い道具屋なのよ」

「王都一番人気の道具屋……ああ、モリス商会の本店が王都にありましたが、そこですか?」

「そう、そこ!」

 

 流石はフォーゲル伯爵家御令嬢、商会についても詳しいようだ。

 

「あ、いえ……私自身はモリス商会に訪れた事はないんです。ただ、両親が頼んでもいないのに宝石やらアクセサリーやらを買ってきて、貴族の令嬢として、フォーゲル伯爵家の娘として恥ずかしくないようにしなさいと渡してくるんです。それがモリス商会で購入した物だったのを覚えてまして」

「なるほどな、貴族の御令嬢も大変だ」

「ええ、本当に大変でしたよ……挙句の果てに勝手に婚約者を決めて、剣を捨てて結婚しろなどと、あの瞬間に家出を決意した私を褒めてやりたいくらいです」

 

 元々、アンナはフォーゲル伯爵家の次女として生まれた立派な貴族の御令嬢だ。

 幼い頃から伯爵令嬢として淑女教育を受けて来たが、兄達が貴族の息子としての嗜みで剣を振るっている姿を見て興味が湧き、自分も夢中になって剣を振るっている内に兄達よりも強くなった才女。

 当然、いつかは家の為に有力貴族へ嫁がせる予定の娘が剣に夢中になっている事を、彼女の両親が許す筈も無く、剣を捨てさせて早々に婚約者を決めてしまおうとしたらしい。

 それに反発したアンナは家出同然で剣一本持って出奔、そのまま王都入りした際に王国騎士団の新入団員募集の広告を見て即座に入団を決意、今に至るという訳だ。

 

「凄い経歴だな」

「そうでしょうか? 貴族の子弟でも家の方針を嫌って家出する者なんて珍しくありませんよ? 特に三男以降の男子や次女以降の女子などは」

「そうなのね……確か、スウェンも貴族の子弟よね?」

「ええ、リーデンバーク子爵家前当主の三男で、今は長兄であるお兄様が当主を継いでいらっしゃるようです。団長は家を継ぐことは無いからと、早々に騎士団に入団して、師団長へ昇進と同時に騎士爵を陛下より叙爵され独立したそうですよ」

 

 随分と早口で、そしてスウェンの詳しい身の上を語って来るアンナの表情は今までで一番輝いていた。

 それでピンときたのか、フィリアの表情が面白そうな玩具を見つけたとばかりに変化する。

 

「随分と熱心に語るわね~……もしかして、アンナってばスウェンの事を?」

「なっ!?」

 

 図星だったらしい。一瞬でアンナの顔が真っ赤に染まり、狼狽えてしまう様子は誰がどう見ても恋する乙女のソレだった。

 

「確か、スウェンさんって38歳だったか……あれ? アンナ、確か俺より年下じゃ……」

「う、じゅ……17歳です」

「21歳年上に……マジか」

 

 貴族なら歳の差婚も珍しくないのだろうが、それでも限度というものがある。この世界で歳の差夫婦の限度というか、一番歳の差のある夫婦でも一回りが限界だったのに、それを越えて二回り近い年の差の相手に想いを寄せているアンナは……おじコンなのだろうか。

 

「おじ、こん、ですか……?」

「ああ、俺の世界の言葉でな……所謂おじさん、親子ほどの歳の差のある年上男性が好きな女性の事を指す言葉だ」

「な!? だ、団長はおじさんなんて呼ばれるような……歳、でしたね」

 

 40近い男、アンナ程の若い女性から見れば普通はおじさんだ。もしアンナとスウェンが肩を寄せ合って歩いていたら日本では事案だろう。

 

「でも、恋に年齢は関係ありません! わ、私はいつか、団長と添い遂げて夫婦になりたい」

「まぁ、それを言われたら何も言えないか」

「そうねぇ、私と剣佑も見た目はともかく実年齢で言えば相当な歳の差だもの」

 

 そうだ。考えてみれば19歳の剣佑と231歳のフィリア、その歳の差212歳差という脅威の歳の差で付き合っているのだから、何も言えない。

 勿論、エルフ年齢231歳が人間換算すると23歳くらいだという言い訳は通用しないので、あしからず。

 

「着いたわ、此処ね」

 

 話をしている内に目的の道具屋に着いた。白い漆喰の壁が綺麗な立派な佇まいの建物は確かに有名な商会が営んでいるのだと一発で判る。

 王国有数の大商会、モリス商会の王都本店は平民から貴族、果ては王族まで御用達のベビーベッドから墓石まで何でも売っているという触れ込みの商会で、他国にまで支店を展開する巨大商会だ。

 

「それでフィリス殿、ダンジョンに入る際に必要な道具というのは?」

「こっちよ」

 

 店の中に入ると、その店内の広さと陳列している商品の品数に圧倒される。訪れている客も貴族から平民まで様々で、フィリアはその中でも冒険者向けの商品が売られているコーナーへ剣佑とアンナを案内してくれた。

 

「お、ハンタークロスシリーズの新作の解体用ナイフか……悪くないな」

 

 アンナに案内されて店内を歩いている最中、ショーケースに入れられた大振りのナイフが剣佑の目に留まった。

 黒い柄には珍しいミノタウロスの皮が巻き付けてあり柄尻には剣と杖が交差している刻印が刻まれたハンタークロスと呼ばれるシリーズのナイフ、刀身が鋼の鈍い輝きを放つ肉厚であり切れ味も良さそうなソレに、剣佑は思わず財布の紐を緩めそうになる。

 

「剣佑、それは後にして」

「う……でも、なぁ……」

 

 欲しい。本当に欲しいと思うが、今使っているナイフもまだまだ耐久力はあるし、予備のナイフだってまだあるだろうから新しい物は必要無いと、フィリアに怒られてしまった。

 

「ほらこっちよ」

 

 一先ず、今度は一人で来ようと後で店員に取り置きをお願いしておく事に決めた剣佑はアンナと共にフィリアの後に続く。

 案内された先にある商品棚にはランタンが置かれており、ランタンだけでも様々な種類があるようで大型の商品棚一面がランタンコーナーになっていた。

 

「そうか、ダンジョンってだけあって中は暗いのか」

「真っ暗って程じゃないけど、それなりに薄暗いわ。場所によっては本当に何も見えなくなるくらい暗い場所もあるけど、ランタンがあればある程度は解消出来るの」

 

 置かれているランタンも普通に火を灯すタイプから魔法により広範囲を照らす事が出来るタイプまで様々あり、特にフィリアが勧めてきたのは近接戦闘者用の腰にぶら下げるタイプの小型ランタンだった。

 商品説明を見てみれば、小型でありながら火属性の魔鉱石と光属性の魔鉱石を掛け合わせた光が広範囲を照らしてくれると書かれており、その大きさも剣佑の知るスマホサイズという非情にありがたい大きさだ。

 

「これは良いですね! 剣を振る上で邪魔にならないでしょうし、なのに広範囲を照らしてくれるなんて、正に剣士向けの商品です!」

「これを一人一つ持っておけばどんなダンジョンでも対応出来るようになるの。それからこれ」

 

 そう言ってフィリアが手に取ったのは隣の棚にあったチョークのような物だった。

 

「これは魔鉱石を練り込んだチョークで、書かれた印が周囲のマナを吸って光る特殊なアイテムなの」

「ああ、迷わないように印を付けるための物か」

「なるほどです。ダンジョンは迷宮のように入り組んでいると聞いた事がありますので、必須アイテムですね」

 

 その他にもピッケルや斧、簡易トイレなどをピックアップして会計を済ませると、剣佑とフィリアは自前の“収納”バンクルに荷物を収納、アンナも今回の件で王宮から支給された“収納”スキルの付いたブレスレットを持ってきていたのでそれに収納した。

 

「後は毛布なんかも必要だけど、それは新しくしなくても大丈夫よね?」

「ええ、演習で使っている毛布を持って行くつもりです」

「調理器具は持ってるから問題無いとして、携帯食料や保存食、水なんかも用意しておけよ」

「抜かりありません」

 

 他に用意するべき物として考えるなら、スウェンとアンナの予備の武器くらいだろうか。彼女達が使用している剣は王国騎士団支給の物であり、それなりに高級品ではあるが消耗品である以上、予備を持ち歩かない訳にはいかない。

 剣佑とて刃毀れを起こさない魔剣ルクスリアという魔武装を持っているものの、何があっても良いように予備の剣を複数本所持しているし、フィリアも同じく予備の弓を持っている。

 

「まだ時間も余っているし、バルト武具店に行くか?」

「よろしいのですか?」

「良いわよ、アンナも自分だけの新しい剣とかに興味あるでしょう?」

「そ、それは勿論……!」

 

 アンナとて剣士の端くれ、騎士団支給の剣も悪くないが、やはり自分だけの剣というものには憧れがある。

 なので、この機会に気に入る剣があれば買ってしまおうという事になり、三人はバルト武具店へ移動、そこでアンナ用にガードと呼ばれる鍔部分にカスミソウに似た花の金属造花が付いたミスリル製の細身のロングソードを新しく購入する事となった。

 初めての自分だけの剣、しかも高級品であるミスリル製の、腕の良いドワーフが鍛え上げた剣という事もあり、購入して鞘に納められた剣を受け取った瞬間からアンナはずっと剣に頬擦りして止まない。

 

「良かったな、気に入る剣が見つかって」

「ええ! しかも……しかもですよ!? 武装スキル付きだなんて!」

「本当に運が良かったわ。斬撃拡散の武装スキルは人工スキルの中でも中々レアなスキルだから」

 

 そう、アンナが購入した剣には武装スキルが付与されていた。剣に付けられる人工スキルの中でもレアな“斬撃拡散”という、斬った際に斬撃が広範囲に広がるスキルだ。

 

「まぁ、その分高かった……いくらだっけ?」

「ルーン金貨90枚……アンナが青手形を持っていたから買えたわね」

「一応、経費で落とせますので」

 

 ルーン金貨90枚は日本円で90万円相当、青手形とは青い王家の紋章が刻印された手形で、1枚につきルーン金貨10枚に相当する。

 今回の買い物に際し、アンナは王宮から必要経費として青手形10枚とルーン金貨100枚に相当する赤手形という赤い王家の紋章が刻印された手形を1枚持ってきていた。

 道具屋で青手形1枚をつかっているので、今回の剣も合わせて青手形全てを使い切った事になるのだが、大丈夫なのだろうか。

 

「ま、まだ赤手形は使ってないので……」

「そういう問題か?」

「そういう問題という事にしておきましょう……たぶん、アンナは後で怒られるでしょうけど」

「うっ!?」

 

 後で怒られる事になるアンナはさておき、こうして準備は着々と進んだ。

 4日後には剣佑が特注していた防具も完成したので受け取り、全ての準備が整った2日後……ついに出発の日を迎えるのだった。




次回より2章開始!
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