異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!? 作:剣の舞姫
第11話「何やら悩んでいる先生とクラスメート」
異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?
第11話
「何やら悩んでいる先生とクラスメート」
国王フィリップスの指名依頼で受けたダンジョン調査、その最初の調査に出発する当日の朝、剣佑とフィリアは全ての準備を整えて防具類を身に着けた状態で朝食を摂っていた。
共に暮らす梨々子やクラスメート達も前々から話は聞いていたので特に何を言うわけでも無いが、それなりに長期になるであろう依頼で出掛けるという事で心配そうにしてくれているのは判る。
「そうだ先生」
「何?」
「これ、置いていきますね」
そう言って剣佑がテーブルに置いた布袋には青手形が5枚とルーン金貨10枚、ルーン銀貨100枚が入っていた。
日本円に換算すると70万円分のお金、それを受け取った梨々子と、袋を覗き込んだクラスメート達も驚愕だ。
「俺もフィリアも、しばらく帰れないと思いますから当面の生活費です。簡単に無くなるような金額ではないですけど、もし足りなくなりそうでしたら王宮に言って申請してください。一応、経費として落とせるので」
「え、でもこんな大金……本当に良いの?」
「勿論です。それから、もし何かあったら屋敷周囲を常に王国騎士団の誰かが交代で見回ってくれていますので、そちらに言ってください」
何から何まで剣佑が根回し済み、生活費まで大金を用意してくれて、気に掛けてくれているのは判るが、梨々子やクラスメート達は少し複雑そうだった。
特に梨々子は、教師である自分が教え子の稼いでくるお金に頼りきりになっている現状を悩んでいるようで、前は一緒に住む生徒達を守らなければとメイドの仕事を選んでいたが、本当にそれで良いのかと考えるようになったのだとか。
それから、智香も同じく何かを悩んでいるようで、時々王宮図書館から借りてきた魔導書を部屋に持ち込んで読み込んでいるという話を桃花から聞いている。
「それから先生と上田」
「ん?」
「あぅ……え、と、なに?」
「何か悩んでいるみたいだけど、正直今は時間が無い……だから帰って来たら聞かせて欲しい。何を悩んでいるのか、相談くらいはしてくれ、これでも3年はこの世界で過ごしてきた先輩でもあるんだから」
その言葉を聞いて二人は少し安心したような表情を浮かべた。
異世界で3年も過ごしてきた剣佑は日本に居た頃より雰囲気が鋭く、そして冷たさを感じさせる事が多くなったように思えたのだが、根っこの所は何も変わっていない。
梨々子は教師として、智香は入学した頃からずっと見て来たから、だから知っているのだ。剣佑は根が善人で、困っている人には、その人が本気で何とかしたいと願っているのなら手を差し出す人だという事を。
「わかった、じゃあ帰って来たら聞いてくれる?」
「わ、私も……立華くんに、相談、したい事があるの」
「ああ、帰って来たら必ず聞く」
朝食を終えた剣佑はテーブルに立てかけてあった魔剣ルクスリアの鞘にある金具を腰ベルトの金具に引っ掛けて吊るし黒いコートを着る。フィリアもローブを纏って弓を背中に背負ったので、これで二人とも出掛ける準備が整った。
「じゃあ皆、行ってくるわね」
「留守を頼んだ」
「ええ、二人とも気を付けて」
「「「「「いってらっしゃい!!」」」」」
6人に見送られて屋敷を出た二人は王都にある冒険者ギルド本部へ。そこでスウェンとアンナの二人と合流する事になっているので足早に向かう。
しばらく歩くと冒険者ギルドが見えてきて、その入口前では既に見覚えのある男女が待っていた。
「お、ケンスケ! フィリア殿! ここだ!」
「おはようございます、ケンスケ殿、フィリア殿」
スウェンは騎士団支給のいつものプレートアーマーに支給のロングソードと、王国の紋章が入った盾を持った姿で、横のアンナも同じく騎士団支給のライトアーマーに赤いミニスカート、そして腰には先日購入した新しいロングソードを差している。
「流石に騎士団長と次期師団長候補、早いですね」
「それはそうだ、早寝早起きは身体が資本の俺達にとって大事な習慣だからな」
少なくともスウェンが騎士団長になってから自分も、そして部下たちにも早出残業はさせた事が無いらしい。
「それから、実は俺とアンナも冒険者登録をしたんだ」
「スウェンさん達も?」
「はい、冒険者であるお二人と共に行動するのなら私達も冒険者としての身分があった方が都合が良いだろうと陛下から提案されまして」
二人が差し出した冒険者カードには名前と、それからスウェンにはシルバーランク上級、アンナにはシルバーランク中級を示す銀玉が。
どうやら現役の騎士団長と次期師団長候補という事で実力は申し分ないからと、特例でシルバーランクスタートとなったようだ。
「多分、ギルドマスターが何かしたんだろうな」
「でしょうね、あの人の事ですから」
二人の知るギルドマスターは相手の実力を見誤るような人物ではない。
元プラチナランク上級冒険者だった男だ、スウェンとアンナの実力もある程度見抜いて、本来ならゴールドランクにしたかった所を不満を抑える為にシルバーランクに落ち着けたというところか。
「シルバーランクでもゴールドランクが一緒ならトランスポーターは使えるから、問題無いな」
「ええ、行きましょうか」
四人揃ってギルドに入ると受付で王宮から発行された依頼書を提示、ギルド間トランスポーター使用申請を出した。
「はい、確認しました。行先はジェミニオン支部でお間違いございませんか?」
「大丈夫です」
「かしこまりました。こちら使用許可書になりますので、ジェミニオン支部へ転移後、向こうの受付に提出をお願い致します」
許可書を受け取り、ギルド奥にあるトランスポーターが設置してある転移の間へ入ると、部屋の中央にある魔法陣が刻まれたストーンサークル中央へ立った。
「これが噂のギルド間トランスポーターか、話には聞いていたが使うのは初めてだな」
「団長、これ騎士団でも採用出来ませんか? 正直、凄く助かると思うんですけど」
「……予算がな」
世知辛い話はそこまでにして、トランスポーターが起動したのを確認。足元の魔法陣が光り輝いて周囲が光に包まれたかと思うと、四人の姿はギルド本部内から完全に消えてしまった。
ボルドー辺境伯領の国境近くにある街、ジェミニオン。その街にあるギルド支部にある転移の間のストーンサークルが光り出し、部屋いっぱいを光が包み込むと四人の男女が現れた。
「おお、もう転移が終わったのか」
「ええ、ここが冒険者ギルド、ジェミニオン支部です」
転移を終えた剣佑とフィリア、スウェン、アンナは転移の間を出て受付に転移許可証を提出するとすぐに出発するのかと思いきや剣佑とフィリアが依頼書が掲示されている掲示板の方に向かった。
そこに張られている依頼書を一つ一つ確認する二人に、スウェンとアンナは何をしているのかと訪ねてみれば、冒険者になりたての二人には無い知識を持つが故に成程と思わされる回答が返って来る。
「こういった依頼書には偶に他の依頼に関係ある内容の物があったりするんだ」
「特に、ここはダンジョンが近い街だから、依頼の中にはダンジョン関係の依頼があったりするの。そこにダンジョン内の情報が少しでも書かれていれば仕入れておく必要があるわ」
ついで依頼を達成してしまえばお金にもなるので、依頼書の確認は必須だ。
「お、これダンジョン関係だな……採取依頼か」
剣佑が見つけた依頼書を確認してみれば、確かに採取依頼の内容だった。
丁度これから向かう予定だったダンジョン、ビーストダンジョンと呼ばれるダンジョンで採れる苦味苔という青い苔を採取して欲しいと書かれている。
他にもダンジョンにて確認されているモンスターの情報も少数だが書かれており、ビーストダンジョンというだけあって獣型モンスターが生息しているようだ。
「下級だとコボルト、ホーンラビット、クレイジーウルフが確認されていて、中級はホーンベアーを見かけたって書かれているわ」
「ホーンベアーか……獣系中級モンスターならワーウルフとかコカトリス、バフォメットなんかも居るかもしれないな」
それから、中級がいるのなら上級もいる可能性を考慮した方が良いだろう。それに獣系ばかりに気を取られて虫系も居た場合は危険だ。
「ひとまず、この依頼も受けよう。ダンジョン内の苔を採取するだけで良いのなら楽な依頼だろうし」
「わかった、じゃあ俺が受けて来るが……この依頼書を受付に持って行って冒険者カードを提示すれば良いのか?」
「ええ、それから俺達のカードも渡すのでパーティー申請をしておいてください」
剣佑とフィリア、アンナのカードも受け取ったスウェンに依頼を受けに行ってもらい、待っている間にフィリアは腰のポシェットから黒いチョーカーを二つ取り出して片方をアンナに渡す。
「これは?」
「これはダンジョンに潜る際に女性冒険者は必ず身に着けるように義務付けられている自害用チョーカーよ」
「じ、自害用のチョーカー?」
物凄く物騒な物を出して来た。これは首に巻き付けておく事で魔力を流すと首の血管に猛毒が注入される特殊チョーカーで、ダンジョンに入る女性は必ず身に付けなければならない物だ。
「ダンジョンモンスターが昔と比べて増えているって話は聞いている?」
「はい、報告として聞いています」
「このチョーカーが義務付けられているのも、実はそれに関係しているのよ」
モンスターの習性として、一つ特徴的なものがある。それは一部のモンスターを除いて大半が他種族の雌を孕ませて子を産ませる事で数を増やす事が出来る点だろう。
これは自然モンスターだけの習性ではなく、実はダンジョンモンスターも同じで、そしてそれが厄介なのだ。
「自然モンスターが人類に産ませた仔は死ねば自然の摂理に則って大地に還るけど、ダンジョンモンスターが産ませた仔は同じくダンジョンモンスターという扱いになるから、死んでもコアが死骸を回収して再び発生するようになる。つまり、ダンジョン内でモンスターに捕らわれて仔を産むという事はダンジョンモンスターを増やす母体になるという事なのよ」
だから、ダンジョン内でモンスターに捕らわれた女性は速やかにチョーカーを使って自害するよう推奨されている。ダンジョンモンスターを増やすくらいなら死んで阻止しろと。
「私もアンナも、もしダンジョン内でモンスターに捕らわれたら、救助が見込めないようなら自害しないといけないわ。少なくともモンスターを孕まされる前にはね」
それほど、ダンジョンに挑むというのは危険な事なのだ。特に女性は本当に気を付けなければ自ら命を絶つ選択をしなければならなくなるのだから。
「ただいま、何の話をしてるんだ?」
「後で話すよ、スウェンさんにとっては気分の良い話じゃないだろうし」
受付を終えて戻ってきたスウェンを含めて、早速だがダンジョンへ向かう事となった。近くまではギルドが用意した馬車で行けるとの事なので、そちらに乗り込んで移動、1~2時間くらいで到着するらしい。
「……そうか、それほど危険なのだな」
馬車の中で先ほどアンナに渡したチョーカーの事を含めたダンジョンにおける女性の義務についてスウェンにも説明した。
当人も確かに聞いていて気持ちの良い話ではないなと思いつつ、確かに必要な措置だろうと納得もしている。
「そうだな、万が一の時はアンナ……心苦しくはあるが、自害するんだ。勿論、助ける為に全力を出すし、そもそも仲間が捕らえられるようなミスを犯すつもりも無いが」
「団長……はい、王国騎士として辱めを受けるくらいなら、私は自ら死を選びます」
一同、改めて気を引き締めたところで、四人を乗せた馬車は一路ビーストダンジョンへと向かうのだった。
次回はいよいよ最初のダンジョン、どんな展開が待ち受けているのか。