異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?   作:剣の舞姫

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第14話「辺境の温泉地」

異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?

 

第14話

「辺境の温泉地」

 

 ボルドー辺境伯領は隣国ロッテマリン王国との国境を有する領だ。その中でも国境に最も近い街がジェミニオン、国境のある山岳地帯に隣接しているためかジェミニオンはルーンメイル王国でも有数の温泉地として有名であり、訪れる観光客は国内の貴族のみならず冒険者や他国の者もいる程。

 当然だが観光地としても有名で、ボルドー辺境伯の領内で最も納税率の高い街なためか、ボルドー辺境伯もジェミニオンには多額の金を掛けて栄えさせている。

 そんなジェミニオンの温泉宿の一つ、妖精の止り木亭に今回、剣佑達は予約を取って滞在する事となっており、ダンジョン探索1日目を終えた四人はジェミニオンに戻ってすぐにチェックイン、男女二部屋に別れて荷物を置いた後は夕食前に探索の汗を流すため名物の温泉に入る事となった。

 

「……すごい、きれい」

 

 妖精の止り木亭の名物はなんと言っても露天風呂だ。天然温泉に浸かりながら山岳地帯を眺める事が出来る露天風呂は大層な人気を誇り、旅人の疲れを目でも癒してくれると専らの噂なのだ。

 その噂の露天風呂に浸かりながら、アンナは目の前の光景に語彙力を失ってしまっていた。

 

「あの、あまり見られていると流石に恥ずかしいのだけど」

 

 アンナの目の前には今、正にかけ湯をしているフィリアの姿があり、一切の衣服を纏っていない姿は正しく美の芸術と呼ぶに相応しいものだった。

 温泉の湿気で濡れた細く長い金髪は照明魔道具の光に照らされてキラキラ輝いており、染みひとつ無い陶磁器の如き白い肌はムダ毛すら見当たない上に艶がある。

 決して小さくない、でも下品に大きすぎない胸と、キュッとくびれた腰、ハリがあって大きすぎず小さすぎない尻と、同じ女性の目から見ても魅力的すぎるスタイルは正直、羨ましいの一言だ。

 

「やっぱり、エルフ族の方って綺麗な方が多いですよね……それに、スタイルも良い」

「アンナだって、鍛えているからスタイルは良いじゃない」

 

 やっとお湯に浸かったフィリアが湯舟に浸かるアンナの身体を上から下まで眺めて一つ頷いた。

 アンナもまた、他の女性が羨むようなスタイルだ。胸は大きいとは言えないが、小さいわけではなく、腰もくびれが確りある。ヒップは若干小さい気もするが、それも魅力の一つと言えるだろう。

 手足は騎士として鍛えているからかしなやかな筋肉で太くはないが、細すぎもしない。剣を振るのに問題無い筋肉の付き方をしているのが判る。

 

「でも私、胸はそこまで大きくないですし……殿方って、胸の大きい女性が好きって聞いた事があります」

「う~ん……一概には何とも、剣佑は隠しているみたいだけど胸は小さい方が好きみたい。スウェンはどうなのかしら?」

「……どうなんでしょう? 団長、今までお見合いとかも全部断っているって話ですし、好みの女性の話とか聞いた事無いですね」

 

 剣佑が隠している癖を、さも当たり前のように把握しているフィリアに若干の恐怖を覚えつつ、アンナは上司の女性の好みについて何も知らないのだと自覚していた。

 曲がりなりにもスウェンに対して好意を寄せており、出来れば将来的に夫婦になりたいとまで考えている相手であるのに、そんな肝心な事が抜けていたのだ。

 

「同じ騎士団に居れば他の団員とそんな話をしている場面に出くわしたりしないの?」

「他の団員が艶本持ち込んで卑猥な話をしているのを見た事はありますが、団長はそれにも興味を示さず、むしろ説教してましたね」

「……スウェンらしいわ」

 

 その光景が簡単に浮かび上がるくらいにはスウェンという男がどういう人物なのか理解しているつもりだ。

 でも、だからこそ気になる。38という歳になるまで結婚どころか恋人すら居た事が無いというのはリーデンバーク子爵家前当主の三男としてどうなのか。

 

「婚約者は居なかったそうですよ。家を継ぐご長男のお兄様には生まれた時から、次男のお兄様も婿養子に出す事が早々に決まって婚約者は決められていたそうですが、三男の団長はそこまで重要視されていなかったそうです」

「子爵家なら、まぁそんなところなのかしらね」

 

 これが伯爵や侯爵、公爵ともなれば三男、四男であっても婚約者を決めて他家との繋がりを強めようとするだろうが、子爵や男爵などの下級貴族では精々が家の跡取りと予備に一人居れば良いと考えているのが普通なのだ。

 

「アンナの家は伯爵家だったのよね? お兄様方は全員?」

「ええ、長兄のお兄様も次兄のお兄様、三男の弟、私が家を出る前の歳に生まれた四男の弟も、全員生まれた時点で婚約者を決めてました。お姉様も三男の弟が生まれた頃に婚約者が決まってたみたいですし、私は御存知の通りですね」

「大変ねぇ貴族っていうのも」

「本当に、柵ばっかりで平民の方々が思っているほど楽な暮らしなんてしてませんよ。勿論、民の税で暮らしていたわけですから、発生する義務や責任というのもあるのは理解しています。少なくとも民からの税金を湯水の如く使って贅沢三昧の暮らしをする貴族なんてごく一部しかいません」

 

 それでもごく一部は存在するのか、と思いつつフィリアは満点の星空を見上げた。

 自分達エルフ族は森の集落で族長でもある長老の下、平穏に生きて来たと思う。食料は基本的に狩りで、自分達の食い扶持は自分達で採って来るのが当たり前だが、弓が得意なエルフ族で狩りが上手く出来ない者など居なかったから誰一人食うに困らなかった筈だ。

 結婚だって婚約者などという制度は無く、ただ同年代同士で成人後に時期が来たら相手を選ぶというだけ。

 

「そう考えると、森を出て人間である剣佑を恋人にした時点で私は変わり者なのかも」

「あの、フィリア殿……」

「ねぇアンナ、その殿ってやめない? 私も剣佑も普通に呼んで欲しいわ」

「で、ではフィリアさん……剣佑さんとは、どういう出会いをされたのですか?」

「あら、気になる?」

「まぁ、一応……私も女ですし、こういった恋愛話は好きですから」

 

 可愛らしい所もあるもんだと思いながら、フィリアは剣佑との出会いについて語り始めた。

 最初に出会ったブリスト草原での出来事から始まり、冒険者ギルドへ剣佑を案内して登録、そして初の依頼にも付き合った事。

 いつの間にか互いに惹かれ合って、剣佑がゴールドランクに昇格した時に告白されて付き合い出した事まで。

 

「えっと、もしかしてお付き合いを始めたのって、結構最近なんですか?」

「そうね……まだ1年も経ってない筈よ」

 

 そう考えると改めて剣佑のゴールドランク到達の速度の異常性というものが判る。いくら何でも3年でゴールドランクなんて早すぎる。

 ゴールドランク下級に昇格してから中級へ昇級するまで半年と掛かっていないのだから、相当なものだ。

 

「それで? 私は剣佑との出会いから語ったわけだけど、アンナも語ってくれるのよね?」

「か、語るとは……?」

「何が切っ掛けでスウェンに恋しちゃったのか、よ」

 

 一瞬でアンナの顔が真っ赤に染まった。温泉で温まったからではない、羞恥による赤面で真っ赤になった頬を手で抑える可愛らしい姿に思わずキュンとするフィリアである。

 

「その……騎士団に入団してすぐ、団長から新入団員の実力を見たいと言われまして、一人一人模擬戦を行ったのですが……」

「アンナも当然、受けたわけよね?」

「はい、団長との手合わせはそれが初めてでした……手も足も出ずに、完膚なきまでに負けてしまいまして」

 

 それまでアンナは自分の剣の腕に自信があった。

 貴族の嗜みで剣を振っていた兄二人よりもあっという間に強くなった自分の実力に、確かな手応えを感じて自分は強いのだと自負していたのだが、そんな自負は木っ端微塵に砕け散ったのを覚えている。

 

「もう泣いてしまいまして、人目も憚らず大泣きです」

「あらま」

「そうしたら団長が、あの大きな手で頭を撫でて下さって……『お前は見所がある、俺の手で育ててみたい逸材だ』と笑顔で仰ったんです」

「……なるほど、そこで落ちたのね」

「……はい」

 

 可愛らしい反応に思わず抱き締めたくなる衝動を抑えながらフィリアは長い耳をピクピク動かしながら男湯の方へ視線を向けた。

 

「まったく、こんなに可愛らしい子に好かれている癖に気の無いフリして……いつかちゃんと答えてあげなさいよ?」

 

 密かに精霊魔法を使用して呟いた後、ようやく落ち着いたアンナと共にのぼせない内に湯から上がってタオルで身体を拭いた後、露天風呂を後にするのだった。

 

「で、どうなんです?」

 

 そんな女湯の声が丸聞こえだった男湯では、湯に浸かる剣佑が隣で同じく湯に浸かりながら身もだえている偉丈夫に問いかける。

 

「いや……気付いていたんだぞ? あいつの気持ちくらい、すぐに気付いていたとも。でも、俺は38で、あいつは17だ……歳の差結婚が当たり前の貴族でも、流石に21歳差はなぁ」

 

 アンナにはもっと良い男が現れる。自分のようなおっさんではなく、もっと相応しい男と一緒になるべきだと、スウェンは考えているようだ。

 

「スウェンさん……もう敬語無しで話すけど、それは言い訳だと思う」

「うっ」

「別に今すぐに答えを出せとは言わないし、絶対に応えろとも言わないけど……真剣に考えるべきだと思うよ。じゃないと、アンナに対して失礼だ」

「むぅ……」

 

 剣佑の言う事も最もだと言葉が紡げなくなったスウェンは何も言わず頷いた。とりあえず、すぐに答えは出せないが、アンナの事は真剣に考えるという事で合っているのだろう。

 この二人の恋路は、きっとこれから長引きそうだと思いながら剣佑も湯から出て思い悩むスウェンを放置したまま露天風呂から立ち去るのだった。

 

 温泉で汗を流した四人は夕食を摂った後、一度剣佑とスウェンの部屋に集まって明日の予定について話し合う事になった。

 一応、ギルドで受けた苦味苔の採取依頼は達成して既に報告済みなので、明日からは完全に調査一本に集中できる。

 

「今日はこっちのルートを進んだけど、明日は真っ直ぐのルートへ行ってみるか?」

 

 ダンジョン内でマッピングした地図を囲って座る四人、剣佑はその地図に描かれている最初の広間にあった三つの扉のうち、真っ直ぐ正面にあった扉の印を指さす。

 

「構造的に考えて今日行った右の道とまだ行ってない左の道はそれぞれ左右に広がる形になっていると考えて、真っ直ぐの道は……多分、広いスペースが多いのか、それとも無駄に入り組んでいるのか、どちらかだと思うんだ」

「確かに、だとすると考えるべきは広いスペースが多い場合の敵の襲撃数か」

 

 今日も敵の数が多すぎて魔剣ルクスリアの武装スキルを使わざるを得ない状況になってしまった。

 使う分には問題無いが、アレは使用するのに多少なりとも剣佑の魔力を使うので、多用するのも危険なのだ。

 

「でも入り組んでいる場合も罠とかが怖いわね」

「分断するような罠があれば、正直言って不味いかもしれませんね」

 

 そう、もし入り組んだ形になっていた場合、注意すべきは罠の存在だ。特にあり得るのがパーティーを分断するような罠があった場合、その時点で危険度が跳ね上がる。

 

「となると、先に左のルートを調査して、真っ直ぐのルートは別の日に時間を掛けて調査する方針で行くか?」

「その方が無難だろうな」

「そうね、左のルートだって安全とは言い切れないけど、真っ直ぐのルートよりはマシじゃないかと考えてる」

 

 剣佑が改めて明日の方針を定めて確認すれば、スウェンもフィリアも賛成、アンナも何も言わなかったが反対はしていない様子だ。

 

「左のルートから進んで、右ルートと同じように下へ降りる階段があれば降りてみよう。それで同じ様にマッピングしつつ進んで凡その構造を掴む、それで良いかな」

「賛成だ」

「賛成よ」

「賛成です」

 

 これで話し合いは終わり。翌日も朝早いのでフィリアとアンナは自分達の部屋へ戻り、剣佑とスウェンも早々にベッドに入って就寝する。明日の調査は何が起きるのか、どんな戦いが起きるのか各々が考えながら。




次回はダンジョン調査再開
何が待ち受けているのかはお楽しみに
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