異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?   作:剣の舞姫

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3月ですねぇ。


第16話「剣術」

異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?

 

第16話

「剣術」

 

 ダンジョン調査二日目、地下3階まで降りた剣佑達一行は夕方になる時間まで探索と戦闘を行った結果、見つけた罠や隠し通路の無い小部屋で一晩明かす事となった。

念のため扉には簡易的なロックを掛けておき、ランタンを部屋の四方に設置すれば真っ暗な部屋を明るく照らしてくれる。

 部屋の中央では焚火と、空気が無くならないように風の精霊が常に空気をリフレッシュして呼吸に困らないようにしているのはフィリアが剣佑から聞いた知識によるものだ。

 密閉空間で火を焚くと酸素を消費してしまい、人間が呼吸出来なくなって窒息してしまうという話を以前したことがあるので、フィリアもそれを覚えていたのだろう。

 そうしてキャンプスペースを確保した後は、フィリアが夕食の用意をしている間に、剣佑がアンナに剣を教える傍ら、スウェンがそれを見学していた。

 

「握り方は問題無いから次は構えだな……基本となる構えはこう、正眼の構えって言うんだが、剣先を相手の正中線に向けて」

「こう、ですか?」

 

 剣佑が魔剣ルクスリアを持って正眼の構えを見せると、それに習うようにアンナもミスリルの剣で正眼の構えを真似てみた。

 流石に剣士として長いだけあって構えはほぼ完璧、実際にそれで素振りをして貰えば特に剣筋がブレる様子も無い。

 

「剣の基礎が出来てるから正眼の構え自体は問題無いか……一応、上段と下段の構えも教えるべきだろうな」

 

 剣佑の修める北辰一刀流は一刀流の流派らしく基本の構えは正眼だが、状況に応じて自由に構えを変えてよいとしている。

 なので剣佑も様々な状況を想定して、多種多様な構えを習得させられたものだ。その中でも特に難しかったのが鶺鴒の尾の構えだった。

 

「これが上段、天の構え」

「こう……これは、隙の多そうな構えですね」

「そう見えるだろ? でもだからと言って無暗に突っ込んだら頭上から最速の振り下ろしで脳天から真っ二つにされるから、割と慎重にならざるを得ないんだ」

 

 更に下段、地の構えも教えたところで北辰一刀流についての説明を始める事にした。剣佑から剣を学ぶ上で、これは覚えて欲しい知識だからだ。

 

「まず北辰一刀流について改めて説明すると、俺の生まれ故郷、日本で大昔に千葉 周作という人物が実家である千葉家家伝の北辰流、北辰夢想流と小野派一刀流を統合して創設した流派だ。基本的に稽古は掛かり稽古で行われるが……今は状況を考えると掛かり稽古は不味いな」

 

 北辰一刀流の稽古は基本、竹刀と防具を用いた打ち合いだ。攻め手と受け手に分かれて防具に対しての打ち込みを行う掛かり稽古を重視しており、特に受け手は鬼籠手と呼ばれる特注の分厚い籠手を着用して行われる。

 

「北辰一刀流の剣は“一撃必当”を旨としていて、敵の一瞬の隙を狙う電撃殺法を持ち味としている流派だ。鶺鴒の尾の構えなんて正にソレを体現しているだろう?」

「確かに、相手に隙を生じさせて、そこを狙って攻撃する……理に適ってますね」

 

 そう、だからこそ北辰一刀流は突きや小手返しが得意な流派なのだ。敵の隙を突いて間合いを詰め、突きや小手返しの一撃で仕留める。

 勿論、突きや小手返し以外にも胴や上段の技もあるので、一概に突きと小手返しだけとは言えないが、少なくとも剣佑は正眼と上段以外には突きを練習していた。

 

「その突きも三段突きを習得する前にこっちに来たから、割と中途半端なんだよなぁ」

 

 三段突きといえば天然理心流の沖田総司が得意とした三段突きのイメージが強いが、北辰一刀流にも三段突きは存在する。

 それを習得する為に日本に居た頃は突きを鍛えていたものの、習得する前にこちらへ来てしまったので、完全な習得には至っていないのだ。

 一応、こちらの世界に来てからも鍛錬は怠っていないし、稽古もしているが未だ三段突きを習得出来ていない時点でその難易度の高さが伺える。

 北辰一刀流は本来、習熟するのに5年と言われている。そして剣佑が北辰一刀流を学び始めたのは13歳の頃、それで剣佑の習得の遅さはやはり中伝を教わっている途中という中途半端な時期に独学になってしまったが故の弊害だろうか。

 

「その、中途半端な状態でこちらに来たというのは大丈夫なのですか? 奥義伝授ですとか、そういうのは……」

「元の世界に戻らないと無理だろうな。奥伝は勿論、奥義と言われている星王剣の伝授も」

 

 北辰一刀流の奥義、星王剣は剣佑も見た事が無いので再現すら出来ない秘奥だ。なのでこちらの世界にいる間は絶対に習得出来ない。

 だから剣佑が3年間で考えたのは北辰一刀流と剣道をベースとして、魔力を組み合わせたオリジナルの奥義開発だった。

 

「おお! オリジナルの奥義ですか!」

「断頭一閃も、一応はオリジナルの技の一つだな。上段、天の構えから放つ技として開発したものだ」

 

 それから、スウェンのスピニングバーストを見てイメージを掴んだから新しい技も考案中だ。

 

「是非、断頭一閃を教えて頂きたい!」

「それなら、天の構えを完璧に習得してからだな」

 

 断頭一閃を使うには天の構えを完璧に習得する必要がある。ただ上段の構えを真似て構えただけでは使えない難しさというものがあるのだ。

 剣佑の技は基本的に魔力を織り込んでいても剣術の術理を理解してなければ猿真似すら出来ないものばかり。

 なのでアンナが断頭一閃を教えて欲しいというのなら、とにかく天の構えを完璧にしろと伝えた。

 

「剣術の術理か……正直、そこまで考えた事が無かったな。勿論、剣の振り方とか握り方とか、そういうのは教えるし、俺だって教えて貰ったが、敵を倒すためのテクニックとか、そういうのを頭で考えながら戦うというのは中々」

 

 早速とばかりにアンナが上段、天の構えでの素振りを始めたのを見計らって、見学していたスウェンが剣佑の傍に歩み寄って話しかけて来る。

 その話の内容は確かにこの世界に来て剣を使う者達を見ていて剣佑が思った事を的確に現していた。

 

「これは俺の持論なんだが、剣術というのは剣を振るだけでは剣術とは言わない。頭を使って如何に剣を上手く扱い、敵を効率良く殺すか、それが剣術というものだと思っている」

「確かにその通りだ」

 

 この世界にも剣術というものはある。だが、日本の剣術ほど優れているとは言えないものだ。

 日本の剣術ほど、握り、振り、斬り方、足運びや身体運びに伴う体重移動、等々の様々な事を叩き込み、無意識で出来るようにした上で頭を使うなど、この世界では考えられない事だった。

 

「俺も少し意識してみるか……先ずは構えだが、盾持ちだとなぁ」

「流石に盾持ちの構えは知らないぞ? 剣を片手に持った構えなんて、それこそ二刀流の構えくらいしか知らない」

「二刀流? なんだ、そんなものまであるのか」

「北辰一刀流ではないけど、日本には二刀流の流派もある。一応、基本的な構えくらいなら教わったから出来るぞ」

 

 そう言って剣佑は予備の剣を出して右手に魔剣ルクスリア、左手に普通のロングソードを持った二刀流スタイルになり、左手の剣を中段に、右手の剣を左脇の下へやって身体で隠す。

 これは日本において二刀流で有名な宮本武蔵の使う流派、二天一流の五法之構えの一つ、左脇構えという構え方だ。

 

「教わったのはこれと中段の構えだけ。でも盾持ちだとこの構えはちょっと厳しいだろ?」

「左手の剣を盾に置き換えてなら……難しいか」

 

 それにスウェンは既に長年騎士として戦い、鍛え上げて来た技術があるので、今更剣術を習った所で元々の戦い方が崩れる可能性の方が高い。

 なので、下手に新しい技術を取り入れるよりも、スウェンは今のスタイルを突き詰めて極める方が向ている。

 

「勿論、取り入れるべき所は取り入れて貰って構わないけど」

「そうだな、足運びや体重移動とか、そういった体術関係は非常に有用だったから取り入れてみよう」

 

 少し盾と剣を構えて貰って足運びや体重移動の注意点を教えてみれば、先ほどまでよりもずっと盾を構えた状態からの攻撃への動作がスムーズになった。後はこれを身体が覚えるまで反復練習をしていけば、スウェンの力になるだろう。

 

「ところでケンスケ、ケンスケはその二刀流? というスタイルで戦えないのか?」

「無理、長年一刀流で来たから今更一本増えても困る。一応、出来なくはないというレベルでしか修めてないから、正直実戦で使える程ではない」

 

 二天一流の構えも他流派の術理も理解しておけという師範の言葉に従って教わっただけで、剣佑自身は己が二刀流で戦えるほど器用な方ではないと思っている。

 一応、日本に居た頃は剣道の方で二刀流を試してみようと道場の稽古中に小刀竹刀を持ってみた事もあるが、全くと言って良いほど使い物にならなかった。

 

「ほう? ケンスケの事だから出来ないままにしておくのは我慢出来ないからと、二刀流の稽古もしていたのかと思ったが」

「……時々な。メインは北辰一刀流だからそっちばかりだったけど、二刀流も時々だけど稽古してはいた」

 

 その結果が出来なくはないというレベルまで鍛え上げられた現在なのだ。

 

「それにしても」

「ん?」

「アンナは本当に筋が良いな」

「だろ? アイツが騎士団に入ったばかりの頃からずっと思っていた事だが、アイツは才能の塊だ」

 

 今も素振りをしているアンナを見ていて、そんな感想が出た。彼女の太刀筋を見ていると、スウェンが直に鍛えたがった理由もよく判るというもの。

 何せ、このごく短時間での天の構えからの振り下ろしの素振りで、既に太刀筋を己の物にしようとしているのだから、驚愕するしかない。

 

「これは、もう断頭一閃を教えても良いかもしれないな」

「頼むわ。アイツが強くなるのは俺としても大歓迎だ」

 

 とはいえ、そろそろ夕食も出来上がったらしいので教えるのはまた明日以降にという事でアンナにも稽古終了を伝えた。

 汗を流したいというアンナに衝立を用意した上でフィリアがウンディーネにシャワーを頼むと、衝立の向こうでアンナがシャワーを浴び始めた。

 アンナが汗を流している間に夕食の用意が整い、サッパリした顔で戻って来たアンナも交えて夕食を食べ始めた四人だったが、一つだけ剣佑は伝え忘れていた大事な事をアンナに伝える。

 

「良いか、剣術を習い、そしてそれを鍛えて極めようとするという事は、それ即ち人を殺す技術を習い、鍛えて極めようとする事だという事だ。これは俺が師範から一番最初に教わった剣術の基本中の基本、剣術の根幹部分であり、けっして忘れてはならない心構えだという事を覚えておいてくれ」

「人を殺す技術……」

「そうだ。剣術なんてお綺麗な名前で呼んでいるけど、所詮は人が人を殺すための技術に過ぎない。それを忘れた者は最早剣士ではなく人ですらない、修羅……モンスターと同じだという事だ」

 

 師範からも、それを忘れた時は己が剣佑を殺すと言われた。だから、剣佑も師範から贈られたのと同じ言葉をアンナに贈る。

 

「それを忘れた時は、お前に剣術を教えた者として俺がお前を殺す……肝に銘じておくように」

「……はい!」

 

 こうして、アンナは剣佑から正式に北辰一刀流(異世界適合Ver.)を学ぶ事となり、そのスタートを切った。

 一応、弟子のようなものができた剣佑も教える事で己も学べるだろうと、自身の更なる成長の糧とする。

 剣佑と、そしてアンナのこれからの成長がどれほどのものになるのかは、まだ誰も知らない。




次回はダンジョン調査3日目、そろそろ何かしら動きがある? かもしれない。
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