異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!? 作:剣の舞姫
第1話「あれから3年、元気に冒険者してます」
異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?
第1話
「あれから3年、元気に冒険者してます」
人里から少し離れた薄暗い森の中、本来であれば静寂が支配する場所で獣の叫び声と高速で動き回る足音が響いている。
時折金属音のような音と共に火花が散り、森に住む野生動物が慌てて逃げ出しているのも気にせず動く……人影。
「剣佑! 次は右を!」
「ああ! フィリアは左の奴を頼む!」
森の中を駆ける剣士が標的の二足歩行する魔獣モンスター、ブラックワーウルフの懐に飛び込むと右手に持った剣を一閃、上半身と下半身が泣き別れしたブラックワーウルフに眼もくれず剣士の意識は既に奥に居る片目に傷のあるブラックワーウルフに向けられていた。
すると、振り抜いた剣の美しい漆黒の刀身が赤いオーラ……魔力に包まれると剣士はそれを上段に構えて勢いよく振り下ろす。
「断頭一閃!」
剣を振り下ろした瞬間、赤い魔力が刃となって飛び出し、奥のブラックワーウルフへ襲い掛かった。
しかし、そんな一直線の飛ぶ斬撃など回避するのは容易。ブラックワーウルフは迫り来る赤い魔力の刃を横に跳んで回避した……のだが、回避した瞬間目の前に迫る矢、左のブラックワーウルフを倒したフィリアが放った矢を視界に入れた時には既に遅く、額を貫かれ脳を破壊された事で絶命するのだった。
「ふぅ、ナイスだフィリア」
「ええ、剣佑もね」
近づいてきたエルフの女性……フィリアとハイタッチした剣士、立華 剣佑はこの異世界に転移して既に3年が経過していた。
あの日、突如異世界に転移した日から3年、18歳になった剣佑は身長も伸びて顔つきも少年から青年と呼べる程になり、服装も学生服から冒険者らしい黒いズボンに紺のシャツの上に蒼銀のライトアーマー、黒地に赤いラインの入ったコートという姿になっている。
右手に持つ両刃のロングソードは3年の間に手に入れた愛剣で、黒い刀身は光の屈折加減でワインレッドのようにも見える特殊な剣だ。
その剣を腰の鞘に納めながらコートの内側から無骨な大型ナイフを取り出すと、鞘から抜いて倒したブラックワーウルフの心臓の位置を切り開き、中からモンスターの証である魔核石と呼ばれる紅い石を引っこ抜く。
「そっちは回収したか?」
「勿論よ。今、剣佑が回収したので最後ね」
彼女、フィリアとは3年前に出会って冒険者ギルドに案内して貰ってからずっと共にいる。最初は冒険者としてのイロハを教えてくれて、それからこの世界の事や生き抜くすべなど、様々な事を教わったものだ。
そんな彼女とパーティーを組んで3年、もうすっかり無くてはならない大切なパートナー、相棒とも呼べる存在になった。
「後はこの魔核石をギルドに提出したら依頼完了か」
「そうよ、これでゴールド中級へ昇級が決まったわね」
「フィリアもゴールド上級へ昇級だろ」
近くの町に向かって森の中を歩きながら話す二人、実は今回の依頼達成で二人の冒険者ランクのクラスアップ、早い話が昇級する事が決まっていた。
なので今夜は近くの町の宿で一泊して、翌朝にはギルド支部にあるギルド間トランスポーターで王都のギルド本部へ転移、依頼報告をする事になっている。
その報告が完了すれば二人は昇級するので、明日の夜には王都のレストランで祝おうと予約を入れているのだ。
「それにしても……剣佑と出会って3年、随分と強くなったわ」
「そうか?」
「そうよ……最初は少し剣の腕が立つって程度だったのに、あっという間に腕を上げて、普通3年でゴールドランク到達するなんて不可能なのよ? 私だってゴールドランクになるのに30年掛かったのに」
「出会った時は確か、シルバー上級だったか」
懐かしい。3年前、まだこの世界に来たばかりの頃は剣道インターハイ準優勝という実績もあって剣の腕に覚えがあったというのに、実戦では多少剣の腕が良い程度でしかないと思い知らされたこともあった。
だが、剣佑には才能があったのか、剣道の太刀筋を実戦向けに改良しつつ実戦経験を積んだ結果、メキメキと腕を上げて僅か3年で上級冒険者の入口と言われるゴールドランクの下級クラスへと昇りつめ、そして今回の依頼で中級へと昇級する事になったのである。
「でも昇級早すぎて色々やっかみとかあるんだけどな」
実際、ギルドへ行けば低ランクの冒険者から嫉妬の眼差しを向けられたり、妬みの混じった陰口を叩かれたりする。
剣佑自身はその程度の事は気にもしていないが、剣佑がギルドに入ると途端に空気が悪くなるのは流石にギルド職員に対して申し訳ない気持ちになるのだ。
「言わせておけば良いのよ。そういう人達って大抵は実力が無い上に強くなる努力もしないのに、その癖して努力して昇り詰める人を妬むのだけは一丁前なんだから」
フィリアはそう言ってくれるが、やはりギルド職員に対してだけは申し訳なくなるので、いつか何とかしたいとは思う。
そんな剣佑の内心を察したのか、優しい笑みを浮かべて見つめて来るフィリアに対して照れ臭そうに剣佑は頬を掻いた。
「優しいんだ。普段は他人に対してドライな癖に、ホント根は善人というか、優しいわよね」
「……揶揄うなよ」
「ふふふ」
この3年で、すっかり剣佑の人と成りを、性格や考え方を理解したフィリアには勝てそうにない。
いや、そもそも人生経験が違うのだ。まだ18年しか生きていない剣佑に対してフィリアは200年を越えて、今は確か231歳だったか。
「剣佑」
「……はい」
「女性の年齢について考えるのはマナー違反よ」
「失礼しました」
因みに本当にフィリアは231歳だ。エルフは長命種と言われており、その平均寿命は1000歳と長く、成人年齢も人間族の15歳に対してエルフ族は200歳なのだとか。
当然、そんな長命種族だからフィリアは200歳を越えると言っても人間換算すると23歳くらいとの事で、見た目もまだまだ若々しい。
エルフにしたら231歳のフィリアはまだ若造、小娘と呼ばれる年齢なのだ。
「そういえばまだ一度も聞いた事無いんだけど、フィリアの故郷……ケルトウッド大森林にあるエルフ族の集落は最長老って何歳くらいなんだ?」
「最長老様? えっとぉ……確か、1010歳……いってたかな?」
「曖昧だな」
「だって仕方ないじゃない。最長老様とはそこまで関りあるわけじゃなかったし、ケルトウッド大森林出たのも30年くらい前なんだから」
余談だがケルトウッド大森林の集落の最長老は現在全てのエルフ族の中で最年長なんだとか。
20年ちょっと前くらいに別の森の集落の最長老をしていたエルフのご老人が亡くなり、それ以来ケルトウッド大森林の最長老が最年長となったらしい。
「お、町が見えて来た」
「そうね、今の時間だと公衆浴場は開いてるかしら?」
「まだ大丈夫だと思うけど、少し急ぐか」
「ええ」
宿に戻る前にせめて汗を流したいと町にある公衆浴場へ向かう二人、その後無事に入浴を済ませる事が出来て宿で遅めの夕食を食べた後、用意されていた部屋へ戻り早々に寝てしまうのだった。
翌日、朝早くに宿をチェックアウトした二人はギルド支部のギルド間トランスポーターを使って王都のギルド本部へやって来た。
剣佑の姿を見た冒険者達が一様に舌打ちしたり卑屈そうな視線を向けてきたりする中、受付カウンターで依頼完了報告と回収したブラックワーウルフの魔核石を提出、受け取った受付嬢が暫く依頼書の内容と受け取った魔核石を検査魔道具にセットして確認するのに少し時間が掛かった。
「お待たせしましたケンスケさん、フィリアさん、依頼完了の確認を致しましたので冒険者証の提出をお願いします」
言われて二人は青いカード型の冒険者証をカウンターに置く。
この冒険者証は持ち主の名前と年齢が書かれている下に小石サイズの紫色の魔石が付いているのだが、その魔石が所謂記憶装置のようなもので、石に刻まれた特殊な魔法がこれまでの依頼達成、未達成、失敗の全てを記録しているのだ。
更に冒険者ランクはカード右上角の所に空けられた穴に、それぞれのランクを示す物がはめ込まれクラスに応じたラインが掘られている。
まず、そもそも冒険者ランクについて説明すると、全ての冒険者はギルドで登録すると最初はウッドランクの下級クラス、略してウッド下級と呼ばれているランクからのスタートだ。
そして依頼の達成状況に応じてギルドでクラスアップ、ランクアップの手続きを行いウッド中級、ウッド上級と上がっていく。
因みに冒険者ランクは下から順にウッド、グラス、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンドとなっており、最上級のダイヤモンドとなると世界に両手の指で数えられる程しかいない。
剣佑の現在のランクはゴールド下級なのでカードの穴には小さな金の玉が付いており、下級を示すラインが1本縦に引かれている。
「はい、それではお預かりしましたカードをお返ししますね。おめでとうございます! 今日からケンスケさんはゴールドランク中級クラスに、フィリアさんはゴールドランク上級クラスに昇級です!」
そう言って受付嬢が手渡してきた冒険者証カードのランクを示す金の玉には中級の証である2本目のラインが引かれており、フィリアのカードには上級の証である3本目のラインが引かれていた。
「次にフィリアさんが目指すべきはプラチナランク下級クラスへの昇格、ケンスケさんはゴールドランク上級クラスへの昇級です。またここからが長いですけど、無茶はしないで着実に成果を出して、そして無事に昇格・昇級出来る事を祈っています」
「ありがとう」
「またその時はお願いね」
冒険者証カードを受け取って懐に仕舞うと、揃って受付から離れて依頼掲示板の方へ向かう。
途中、やはりと言うべきか昇級した二人、特に剣佑への嫉妬の視線を向ける者が多く、それは先ほどよりも強くなっていた。
「チッ、たかだか3年しか冒険者やってねぇガキが生意気な」
「あのすかした態度、ホント気に食わねえ」
「フィリアさんに寄生してるだけの害虫の分際でよ……」
そんな声が聞こえて来るが、実際に剣佑に正面から喧嘩を売る馬鹿はいない。何故なら昔、そんな馬鹿を実力で叩き潰して二度と冒険者として活動出来なくなるくらい再起不能にした事があるからだ。
だから腕に自信の無い下位の冒険者はこうして陰口を叩くだけで、正面から喧嘩を売るような度胸は無い。
「次の依頼、何か良いのあるかしら?」
掲示板の前に来た二人は並んでいる依頼書を一枚一枚確認して何か目ぼしい依頼は無いかと確認する。
王都の冒険者ギルド本部は地方のギルド支部よりも依頼の数が豊富で、難易度の種類も低難度から高難度まで多岐に渡るから割とチェックに時間が掛かるのだ。
「何か良いのあった?」
「いや……討伐系はあまり良いのが無いな」
「う~ん……あ、これなんてどう?」
フィリアが指さした依頼書を見ると王国騎士団からの依頼のようで、討伐系の依頼ではないのだが報酬がそれなりに高い。
「何々……『騎士団員への戦闘訓練の相手を募集、条件は冒険者ランクがシルバー中級以上、ゴールドランクの方は報酬を上乗せします』か……」
そういえば時々、ギルドに王国騎士団の人が出入りしている事があったが、この依頼の為なのだろう。
定期的に出されている依頼のようで、今回も今までと同じように報酬を出して冒険者から戦闘訓練の相手を募集しているらしい。
「王国騎士団の依頼って事は場所は王宮の敷地内でって事だよな」
「そうなるわ」
「ふむ……」
報酬も悪くないし、訓練程度なら別に問題無いだろうと依頼書を掲示板から外して受付へ持って行き冒険者証カードの魔石に受注登録をする。
これで用事は終わりだとギルド本部から出た二人はレストランの予約をしている夜まで時間がある為、着替えなどもしなければいけないから一度王都にある家へ帰宅する事にしたのだった。
世界の何処かにある真っ暗な空間、そこにポツンと存在する巨大な紅色の水晶。明らかにただの水晶ではないソレが一度ドクンッと脈打った事を知る者は誰もいない。
初のオリジナル、今だドキドキですが、ぜひ感想をお聞かせ頂ければ幸いです。