異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?   作:剣の舞姫

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第18話「恋する乙女の決意」

異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?

 

第18話

「恋する乙女の決意」

 

「俺は反対だ」

 

 剣佑のその言葉にテーブルを挟んだ反対のソファーに座るクラスメート、上田 智香の表情が曇った。

 

 剣佑とフィリアがビーストダンジョン調査から戻ってきたのは調査出発から1ヶ月後の事、特に大きな怪我をした様子もなく無事に戻ってきた二人に屋敷に住む全員が安堵して喜んだのは記憶に新しい。

 帰宅した剣佑とフィリアは王宮へ報告に行った後は身体を休めるために丸一日使って休息を取り、ようやく落ち着いたように思える。

 そこで二人がダンジョン調査に向かう前にしていた約束を果たすために屋敷にある応接室に剣佑とフィリア、それから梨々子と智香、智香の付き添いとして親友の桃菜が集められた。

 応接室中央にあるソファーに剣佑とフィリアが並んで座り、テーブルを挟んだ反対側に梨々子、智香、桃菜が三人並んで座って美夜が紅茶をテーブルに並べて退出すると、早速だが智香の相談内容が語られる。

 

「じ、実は、ね……立華くんに、内緒でその……魔術師団の、ところに通ってたの」

「魔術師団って、宮廷魔術師のエラルド卿が団長を務める魔術師団の事か?」

「う、うん」

 

 なんでも、この世界に来て剣佑に引き取られてから定期的に魔術師団の所へ行って魔術の手ほどきをしてもらっていたとの事だ。

 そもそもの発端は本好きの智香が剣佑の屋敷にある書斎で読みたい本を探していた時に、剣佑がこの世界に来て魔法を覚える為に最初に購入した入門書を見つけて読んだ事が始まりだった。

 元より本であればジャンルを問わず読む智香は当然だがファンタジー小説とて読んでいたため、魔法に対する憧れというものはあった。そこに本当に魔法が存在する世界に来て、それを覚えるための入門書が目の前にあれば、読まずにいられなかったのだろう。

 

「それで、入門書で魔法を覚えてから魔術師団の所で更に上達しようと教えを乞うていたと」

「うん……」

「剣佑、確かあなたが最初に読んでた入門書って……補助魔法は書かれてたけど、攻撃魔法は書かれてなかったわよね?」

「あ~……と、確かそうだった、か? 自分の中の魔力を認識する方法から始まって、それから初歩の初歩たる火を灯す魔法や水を出す魔法が書かれてた気がする」

 

 一応、念のために言っておくなら初級補助魔法も一部記載されていた。だが所詮は入門書、魔法を使うための大前提となる基礎知識などがメインで書かれているに過ぎない。

 そして智香はそれを読み込んで自分の中の魔力を認識出来るようになり、火を灯す魔法や水を出す魔法、初級補助魔法の一部を覚えた事で更に魔法への知識欲が刺激されたのだ。

 だけど、魔法を覚えたのも、覚えた魔法を更に鍛える為に魔術師団へ通っていたのも、知識欲だけが全てではない。そこには確かな理由があり、その為に必死になって剣佑達が居ない間も知識を磨き、技術を磨いていた。

 

「ま、魔法を、覚えたの、は……わ、私も、立華くんと、一緒にた、戦いたかった……から。立華くんの役に、立ちたくて……」

「一緒に、戦う……?」

「ま、魔法を、しっかり覚えた、ら……冒険者に、なろうと、思ってるの」

 

 驚いた。彼女は戦えないから魔術師団にも騎士団にも引き取られず剣佑の屋敷に来たはずなのに、それが剣佑と共に戦いたいからという理由で魔法を覚え、わざわざ魔術師団まで赴き修練していたなんて。しかし、だからこそ剣佑は言わなければならないのだ。

 

「俺は反対だ」

 

 冒頭の言葉に戻る。剣佑と共に戦いたいから魔法を覚えて冒険者になるという智香に、剣佑は断固反対した。

 智香は剣佑の戦いというものを知らないのだ。生半可な覚悟で冒険者をやれば確実に死が、下手をすると死よりも過酷な未来が待っている。そんな世界に智香のように大人しいというか……引っ込み思案で気弱な少女が適応出来る筈がない。

 

「立華君さぁ、智香の話もちゃんと聞かないで反対は流石に」

「根岸」

 

 智香が俯いて表情が曇ったのを見て、桃菜が流石に普段の無表情ではなく目を吊り上げて剣佑に文句を言おうとしてきたが、剣佑の黙っていろという視線を受けて押し黙った。

 

「上田、俺の戦いっていうのは当然命の危険があるってだけじゃない。相手はモンスターであることが多いから女性なら攫われる危険性もあるんだ。攫われた女性がどうなるか、お前は知っているか?」

「た、食べられる、とか……?」

「男ならな」

 

 男なら大概が食料扱いだ。だが、これが女性になると話は変わる。勿論、女性でも食料にされる事もあるが、大半は子供を産ませる母体にされるのだ。

 

「こ、子供って……」

「モンスターに犯され、延々と死ぬまで化け物の子供を産む事になる。ダンジョン以外では、自害用チョーカーの着用義務が無いから付けないのが殆どだから……そうなれば待ち受けている未来なんて言うまでもないな」

 

 その話を聞いて梨々子も智香も桃菜も、顔色が一気に青ざめた。自分達がもしそうなったらという事を考えたのだろう。

 

「それに、これが俺としては一番大事な事だが……俺が戦う相手は別に、モンスターだけではない」

「立華君? それってどういう……」

 

 不穏な空気を感じたのか梨々子が尋ねてきた。その表情はまさか……、と信じられないといった表情だ。

 

「当然、人間……というか、人類種だな。が相手という事もある。盗賊退治とか、そういう依頼を受けたりする事もあるから当然、俺もこの世界に来て人を殺した事がある」

 

 この世界に来て最初の年だっただろうか。冒険者ランクが順調に上がって初めて盗賊退治の依頼を受けた時に剣で人を斬ったのは。

 平和な日本に住んでいたら絶対に感じる事の無かったであろう、剣で人を斬り殺す感触は今でも鮮明に覚えている。

 

「最悪の感触だったよ……今でもあの時の感触と、感じた嫌悪感を覚えている。忘れる筈が無い」

 

 この手で人の命を奪ったのだと、強い嫌悪感を感じたあの時の事を忘れず覚えているからこそ、剣佑は道を踏み外さずに外道へ堕ちる事なく戦い続けられているのだ。

 

「上田……お前に出来るか? 魔法で人を殺す事が。剣を使わないから人を斬る感触は無いだろうが、炎の魔法で人を焼き殺せば当然、肉や油、そして髪の毛や爪の燃える臭いを感じるだろう……生きたまま焼かれる人の断末魔の叫びを聞く事になるだろう。それに耐えられるか?」

「っ!」

 

 それは、平和な日本で生きて来た少女にとって一番辛い質問だ。誰かを傷つける事すら躊躇いそうな智香に、人を殺す事が出来るのか。

 日本人として殺人への嫌悪感はどうしても拭えないもの。剣佑は武道家として長い間精神修行もしてきたからこそ乗り越えられるだけの精神力を備えていたが、普通の少女にはハッキリ言って無理だろうと思っている。

 

「ひ、人をこ……殺すっていうのは、正直、怖いけど……でも、わ、私は! 立華くんが戦っている間、平和に過ごすなんて嫌! ま、守られてばかりは嫌! 立華くんの、役に立ちたいって、本気で思ってる!」

 

 初めて聞いたのではないだろうか、智香のこんな大きな声は。

 普段、引っ込み思案で控えめで、そして中々のコミュ障な性格の彼女は人と話す時も声が小さく自分の意思を告げるのにも苦労していた筈だが、この時ばかりは違った。

 剣佑の役に立ちたい。守られてばかりなのは嫌だと、ハッキリと告げた智香の表情は、今も青白いものの、その瞳には確固たる意思が存在している。

 

「剣佑、あなたの負けよ」

「フィリア……」

「トモカは本気であなたの役に立ちたいって思って冒険者を志し、魔法の修練をしていた。その意思をこうしてハッキリ自分の言葉で告げたのだから、私は彼女の意思を尊重するべきだと思うけど?」

「だが、危険だ」

「それも話を聞いて承知した上で、この場で言葉に出したんでしょ? あれで臆してたらこうして言葉に出して意思を表示するなんて出来なかったわよ」

 

 それを言われると、剣佑としては何も言えなくなってしまう。危険だからと、智香には出来る筈が無いからと決めつけて反対姿勢を取り続けるのは彼女の決意、覚悟に対する侮辱に他ならないからだ。

 

「……」

 

 だから、一度目を閉じて剣佑は己に問いかける。智香がもし、自分達のパーティーメンバーとして加わったらという事と、本当に彼女を冒険者にして良いのかという事を。

 確かに、魔法使い一人がパーティーに加わる事のメリットは大きい。

 先日のダンジョン攻略でも前衛三人に後衛一人、しかも全員が物理攻撃主体で魔法は補助程度という構成だったが、もしそこに魔法主体のメンバーが一人でも加われば戦術の幅が広がる。

 デメリットもある。それは智香がまだまだ未熟だという事で、スタートは絶対に最下級のウッドランク下級クラスからになるから、ある程度まで育てるのに時間を使う事になるという点だ。

 メリットとデメリット、その両方を考えて、それから智香を無事に日本へ帰す事も考えて、その上で彼女の意思を尊重するべきかという事を踏まえて出した結論は……。

 

「わかった……俺の負けだ」

「……!」

「ただし、次回のダンジョン調査には連れて行けないと思ってくれ。一緒に行きたければ次々回の調査までに実力を伸ばして、俺が認められるくらいに強くなればだ」

「う、うん!」

「やったねー智香」

「あ、ありがとう桃菜、一緒に居てくれて」

「ううん、私は戦うとか出来ないけど、智香が頑張って魔法の勉強してたの知ってるから応援してるよー」

 

 安心して桃菜に抱き着いた智香の頭を桃菜が撫でるという仲睦まじい光景を眺めていると、もう一人の事が気になった。

 そう、ずっと空気だった梨々子だ。彼女も智香同様に悩んでいたのだから、ここに居るという事はそれについて話してくれるのだろうが……。

 

「立華君、先生もね……冒険者になろうと思うの」

「先生?」

「ずっと悩んでいたのよ……私は、戦えないからとあなたに引き取られたこの子達の傍に居るために、こうしてメイドの仕事をしているわけだけど……」

 

 梨々子の悩んでいた事は今の自分の置かれている状況だった。

 いくら年齢的に高校生という年齢ではなくなったとはいえ、剣佑は間違いなく梨々子にとって教え子の一人、その教え子の稼いでくるお金で生活して、メイドとしてのお給料も教え子の稼ぎから支払われている現状は、梨々子にとって何よりも自分が許せなくなる状況なのだ。

 

「教師が、教え子のお金で生活する……凄く悔しくって、惨めになったのよ。あなたがダンジョン調査に出る前、大金を置いていったでしょ? あれが決定打になったわ……ああ、私は教え子に大金貰って生活してるのかって」

 

 だから、智香が冒険者になりたがっているという話を聞いて思い立ったのだ。前は戦わない道を選んだが、今度こそ戦う道を選び自分でお金を稼いで少しでも剣佑の金銭的負担を減らすべきだと。

 

「気にしなくても良いんですがね」

「気にするわよ! これでも大人で、先生なんだから! いつまでも教え子のお金で生活するなんて耐えられないわ!!」

「それで、空手の腕もあるからと?」

「ええ、これでもトレーニング自体は今もしているから腕は錆びてないつもりよ? 少しばかり勘を取り戻す必要はあると思うけど、身体は動くはず」

 

 全日本空手道選手権優勝の実力があり、総合格闘技にも手を出していた梨々子なら実力は申し分ないとは思うが、それでも実戦向けに調整は必要そうだ。

 智香の前衛として彼女を配置し、暫く難易度の低い依頼でモンスター討伐を経験させればそれも可能だろう。

 

「フィリア、どう思う?」

「一度リリコのカラテ? っていうのを見せて貰ったけど、大丈夫だと思うわよ? 多分、並の相手なら武器を持っていても対応出来ると思う」

「そんなにか……」

 

 ならば良いだろうと、梨々子が冒険者になるのを了承した。元より智香を許可したのに智香より戦える梨々子に許可を出さないというのも無理は話で、何よりも彼女の教師としてのプライドを尊重した形だ。

 翌日には二人を連れて冒険者ギルドへ行こうという話になり、ギルドへ行く前に武器と防具を買い揃える必要があるなと、買い物の予定を立てる。

 新たな仲間の追加に、剣佑は改めて思う。アンナにスウェン、智香、梨々子、冒険者生活3年にして新たに加わった仲間がこんなにもいるという事は、フィリアと二人だけで戦って来た今までにはない経験が出来るのかもしれないと。




次回は智香と梨々子の実戦デビュー!
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