異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!? 作:剣の舞姫
異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?
第19話
「魔法の才能」
剣佑の屋敷に引き取られた六人の内、クラスメートの上田 智香と副担任である楠木 梨々子の二人が冒険者となった。
二人は勇者パーティーというわけではないので特別ランクは与えられず、冒険者になる誰もが必ず最初に与えられるウッドランク下級クラスからのスタートとなる。
智香は魔法使いとして、梨々子は拳や蹴りを主体とした拳闘士として登録し、剣佑とフィリアのパーティーに登録して育てる事で報告された。
そして、早速二人の為に最初に受ける事となったクエストが、初心者冒険者の定番である下級モンスター退治の依頼、今回はリザードマンの巣がいつの間にか作られているという湿地で大量繁殖があった為、その討伐をして欲しいという依頼だ。
「二人とも、準備は良いか?」
「は、はい」
「大丈夫」
依頼を受けて王都から馬車で一日の所にある湿地に来ていた剣佑とフィリア、智香、梨々子の四人は既に臨戦態勢を整えており、特に初めての依頼となる二人も特に臆している様子は無さそうだ。
智香の装備は黒い膝丈スカートに白のブラウス、その上から裏地が赤い紺のローブと同色のブーツ、それから身の丈はある木製の杖という典型的な魔法使いスタイル。
梨々子は動きやすさを重視したもので、オレンジ色のミニスカートに黒いスパッツ、上着も白いシャツの上から茶色の袖なしジャケットを着て、足には爪先に鉄が仕込まれたブーツと同じく鉄を仕込んだ膝当て、更に両腕を覆う鉄のガントレットに鉄を仕込んだ肘当てという拳闘士ならではのスタイルだった。
「ガントレットを付けて戦うってことに少し違和感があるけど」
「慣れて下さい。それある無しで打撃時の破壊力が変わりますから……それに、防具も兼任している装備ですので重要な物ですよ」
「わかってるんだけどねぇ」
湿地を歩きながら両手を覆うガントレットを眺める梨々子に苦笑しながら剣佑は腰の鞘に納めている魔剣ルクスリアに目を向けた。
そういえば、自分も最初は刀ではなくロングソードを使う事に違和感があったな……と。剣道も北辰一刀流も、修練では竹刀や木刀を使っていたが、元来刀を使う事を前提にした物、剣佑も刀の扱いなら自信があったがロングロードは勝手が違いすぎて慣れるのに時間が掛かったものだ。
「そんなに違和感あるものなの?」
「凄いわよ~。フィリアさんも私達の世界のコンパウンドボウとか使ってみたら解るかも?」
「確かにな、機械的に弓を引くコンパウンドボウはフィリアだと最初は違和感覚えるかもしれない」
「へぇ~、皆の世界にはそんな物があるのね」
この世界でも作れなくはないと思うが、流石に剣佑もコンパウンドボウの原理は知っていても作り方までは知らない。
それよりもそろそろ湿地の奥に辿り着くが、周囲へ意識を向ければ既にリザードマンらしき気配がチラホラと。
「上田」
「はい」
「連携のおさらいだ。前衛は俺と先生が、後衛は上田とフィリアが務める。先生のフォローは今回は最初だからフィリアが入るから、俺のフォローには上田が担当してもらう」
「わ、私が立華くんのフォロー……」
「そうだ、魔法で俺の後ろとかから近づく敵を撃つ。まずはそれだけで良い」
いきなり全てをやれと言っても無理なので、出来る事から始めさせる方針だ。幸いにして智香は攻撃魔法を下級だけだが修めているので援護射撃自体は問題無く出来る。
「来たぞ」
話している内に湿地の向こうから人型の蜥蜴……リザードマン10体が曲刀と呼ばれる剣とバックラーを装備して歩いてきた。
舌を出して先端を振るわせている様子を見るに、こちらを威嚇しているようだ。その視線はこちらへの殺意に満ちており、初めて殺気を向けられた梨々子と智香の顔色が少しばかり悪くなる。
「先生、上田、落ち着け」
「深呼吸して、初めての殺気に驚いてると思うけど、落ち着けば大した事ないから」
フィリアの言う通りに二人が深呼吸して落ち着いたのを確認すると、まずは剣佑が魔剣ルクスリアを抜きながら前に出て、それに続くように梨々子も拳を構えながら前に出て来た。
後ろでは弓に矢を番えるフィリアと杖を構えて魔力を練る智香の姿が、全員戦う準備は万端だ。
「行くぞ!」
リザードマンがこちらの臨戦態勢に気付いて走り出したのと同時に剣佑も飛び出した。その後ろから梨々子も慌てて飛び出しているが、気にせず先ずはこちらに向かってくるリザードマンの一体を下からの斬撃で斬り伏せると、その横のリザードマンの構えたバックラーごと腕を斬り落とした。
「セイッ!!」
剣佑の横では梨々子も曲刀を左のガントレットで受け流しつつ腰の入った鋭い拳を鳩尾に叩き込み、その場で回転しながら振り上げた蹴りでリザードマンの側頭部を蹴り砕く。
流石に隙が出来て襲い掛かろうとしたリザードマンがいたものの、それはフィリアが放った矢を頭に受けて絶命したので問題は無さそうだ。
「サンダーニードル!」
更に剣佑が腕を斬り落としたリザードマンの身体に智香が放った魔法、サンダーニードルという雷の針が複数刺さって電流を体内に流す事で絶命させたので、その隙に剣佑は別のリザードマンへ斬り掛かった。
「へぇ……」
リザードマンの身体は硬い鱗に覆われており物理にも魔法にもある程度の耐性を持っている。そんなリザードマンにサンダーニードルとは中々考えたものだと思わず感心してしまった。
サンダーニードルとは雷の針を飛ばして敵に刺し、体内に電流を流す魔法だ。その特性を理解して鱗の薄い所を狙って放つというのは中々難しいだろうに、智香はそれを事も無げにやってみせたのだ。
「もしかして、魔法の才能が高いのか?」
そういえばまだ彼女がどれほどの魔法を使えるのか聞いていない気がする。初級の攻撃魔法は使えるようになったとは聞いているが、中級魔法に手を出しているのかなどは聞いていなかった。
「って、うん……?」
戦いながらも智香の魔法について考えていた剣佑はふと、周囲に毒の煙が発生していることに気付いた。
魔剣ルクスリアの武装スキルは無色透明の毒の気体なので紫色という毒々しい色の煙は剣佑が発生源ではないのは確かで、でも自然発生したものではないのも間違いない。
「ポイズンクラウド!」
智香だった。初級補助魔法のポイズンクラウドという、簡単に言えば対象に毒の状態異常を与える魔法、それに気付いて剣佑は残るリザードマン全てが毒殺された事で改めて智香の方を向いた。
「上田……お前、もしかして攻撃魔法と補助魔法、両方を修めているのか?」
「う、うん……どっちも、初級は全部、お、覚えたよ?」
「マジか……」
普通、魔法使いとは攻撃魔法を主体とした攻撃魔術師か、補助魔法を主体としたサポート魔術師のどちらかを選ぶものだ。
勿論、攻撃魔術師だからと補助魔法が全く使えないわけではないし、サポート魔術師も同じく攻撃魔法が全く使えないわけではない。とはいえどうしても主体としている魔法がメインで、もう片方は片手間に使える程度でしかないのが普通なのだが。
智香の場合はどちらも満遍なく使えるようになっているというのだ。つまり智香一人で攻撃魔術師とサポート魔術師、どちらも兼任出来るという事に他ならない。
「まるでエラルド卿みたいな事をする娘ね、トモカってば」
「だな。噂でしか聞いた事ないけど、エラルド卿と同じタイプだ」
宮廷魔術師のエラルド・オーバンも智香と同じように攻撃魔法と補助魔法、どちらも最上級魔法まで修めて極めた魔法使いの頂点、そんな彼の下位互換とはいえ智香も同じタイプだというのだから驚くしかないだろう。
「凄いわ上田さん! あの立華君が驚くような魔法を使えるなんて!」
「い、いえ……その、えっと……あぅ……」
梨々子に褒められて照れて真っ赤になる智香を見ていると、そんなに凄い存在には見えないが、だが間違いなく彼女の魔法の才能は一級品だ。
これから育てて行けば確実に彼女は化ける。それこそ宮廷魔術師エラルドのように全ての魔法を修めてしまえば大魔術師を名乗れるくらいには成長出来る。
「これは実戦で魔法を使わせて、とにかく魔力を増やす方針で行くべきだろうな」
「それと、魔力攻撃の上昇するアクセサリーや補助魔法のブーストが可能なアクセサリー、両方を買い揃えないとね」
とにかく、智香の育成方針は決まった。攻撃魔法と補助魔法、両方を扱う万能の魔法使いに育て上げてパーティーの要とする。
魔力は魔法を使って使って使いまくって、魔力切れを何度も起こせばその度に総量が底上げされるから、実戦の中で彼女をサポートしつつ魔力切れになるまで魔法を使わせれば確実に成長するだろう。
「依頼が無いときはエラルド卿の所へ通わせて中級魔法を覚えさせるか」
「それは今もしているみたいよ? 聞いたところによるとエラルド卿からも筋が良いって褒められて、既に攻撃魔法も補助魔法も中級を教わり始めているんですって」
「凄い成長速度だな……となると俺達の役目は上田の魔力総量を増やすためと、実戦経験を積ませるために、とにかく実戦の場へ連れて行く事だけか」
最初は智香が冒険者になる事は反対していた。だけど、こうして彼女の才能を目の当たりにすると許可して良かったと思ってしまう。
むしろ、彼女の存在は、その才能は、これからの戦いに必ず必要になるものだ。早い段階でそれに気付けたのは幸運だった。
「トモカの才能、活かすも殺すもパーティーリーダー次第よ? 頑張って」
「だから、何で俺がリーダーなんだよ」
今回もパーティーリーダーは剣佑で登録されてしまった。剣佑としては何故自分なのか、冒険者歴の長いフィリアがリーダーになるべきではないのかと思ってしまう。彼女の方がゴールドランク上級と冒険者ランクの階級は上なのだから。
「適材適所よ。生憎私は自分がパーティーリーダーを務められる器じゃないって20年以上前に理解して、それからは二度とリーダーにはならないって決めているの」
フィリアの昔の話、そういえば未だにフィリアから昔の……彼女が冒険者になってからの話について詳しい話を聞いた事が無い。
精々が新人の頃に所属していたパーティーの人から色々教わったという事と、その子供達や孫達と今も親交があるという程度しか知らないのだ。
フィリア自身が自分の昔話をしたがらないから、話したくなれば話してくれれば良いと今まで聞かずにいたけれど、彼女との今後を考えると一度腰を落ち着けて聞いてみるべきなのかもしれないと、そう思う。
「行きましょう剣佑、トモカを早く成長させてあげなきゃ」
「……ああ」
今は余計な事を考えている暇は無い。今やるべき事は依頼の達成と、智香と梨々子の成長、この二つなのだから。
そして、二人の成長の為に剣佑も心を鬼にする覚悟は今日の戦闘によって決まった。二人の才能、センスがあれば育て方次第で戦力として十分になる。
だからこそ、先輩冒険者として……平和な日本で過ごしてきた彼女達にとって最大の試練を与えるべきなのだ。
日本人にとって最大の禁忌、人を殺すという……冒険者として生きる上で絶対に避けては通れない試練を。
次回で2章は終わりです。