異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!? 作:剣の舞姫
異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?
第20話
「次のダンジョン」
智香と梨々子の冒険者デビューは無事に成功した。リザードマン退治を危な気なくクリアして下級モンスター相手ならパーティーさえ組んでいれば戦える事を示した二人はこれからも剣佑達と共に実戦経験を積みつつ、日々の訓練も行って実力を伸ばしていく形で落ち着いたのだ。
そして、二人の冒険者デビューが終われば今度は剣佑とフィリアにとって大事な話し合いの日がやってくる。
王宮に呼ばれて大会議室に通された二人を待っていたのは国王フィリップス、騎士団長スウェンと騎士アンナ、宮廷魔術師エラルドと宰相ロードスという最近ではお馴染みになった顔ぶれだ。
「よく来てくれたなケンスケ、フィリア」
「先日の報告ぶりです、陛下」
「お変わりないようで安心しましたわ」
「ハハハッ! 数日で変わるほど耄碌しとらんよ! さて、先日の報告書は読ませて貰った……手記を見つけたのは大きいぞ」
殆どが読めなかった手記だが解析してみた結果、あの場で考察した通り間違いなく創造神デミウルゴスと創世の女神アクエリアス、そして遺神マリーメイアの名前が書かれている事が判明した。
魔界への手掛かりとは言えないが、8000年前の邪神戦争における何かが書かれていたのは確かだという証拠がダンジョンには今も眠っているのだと判っただけでも手柄としては大きい。
「そこでだ。ダンジョンの奥には守護者と呼ばれる存在がいる可能性が大きいという問題もあるが……現時点でダンジョンの奥、守護者の所まで調査する必要は無いと判断した」
フィリップスの判断で調査にはダンジョンの奥まで行く必要は無いとして、その手前……今回の手記を発見した場所のようにダンジョンの主、かつての邪神軍十二将軍の部屋ないし書斎を発見して手掛かりを見つけるのが主だった目的として方針を切り替えたのだ。
「そこでケンスケとフィリア、スウェン、アンナには近々再び別のダンジョン調査に赴いて貰いたいと思っているのだが、今日はそのダンジョンを何処にするのかを決める為に集まって貰ったのだ」
フィリップスの言葉に続くようにロードスがテーブルの上に地図を広げた。そこには前回の地図同様に大陸に12カ所あるダンジョンが記されており、機能停止しているダンジョン3カ所は青いインクで、今も生きているダンジョンには赤いインクで丸印を描いている。
更に、前回調査したビーストダンジョンの場所には丸印ではなく×で印をされているので解りやすい。
「出来れば生きているダンジョンを調査してもらいたいが……宰相、機能停止しているダンジョンの名は何と言ったか?」
「ライドダンジョン、アックスダンジョン、ベルセルクダンジョンの3カ所ですな」
「うむ、では残るビーストダンジョンを除いたダンジョンは……」
「ソードダンジョン、ランスダンジョン、アーチェリダンジョン、マジックダンジョン、ファイティンダンジョン、デスダンジョン、ラビリンスダンジョン、プリストダンジョンの計8カ所でございます」
今、挙げられた8カ所のダンジョンの内、特に危険だと言われているのはソードダンジョンとデスダンジョンの2カ所だと言われているらしく、そこの2カ所だけは今まで入った者が帰って来た事は一度も無いという。
「ソードダンジョンとデスダンジョンは後回しにするべきかと、いくらなんでも危険過ぎますから……私としてはマジックダンジョンか、プリストダンジョンを薦めます」
エラルドの指さしたダンジョンはどれも距離がある。というより、どちらもルーンメイル王国外、他国に存在するダンジョンだ。
「遠いからこそ、早めに終わらせるべきだと愚行した次第」
「うむ、一理あるな……近場だとランスダンジョンか。それでも南の国境沿い……いや、若干ヘルツ公国寄りになるか」
「国内だと既に機能停止しているベルセルクダンジョンになりますからなぁ」
国外のダンジョンに行くとなると関所を通る必要が出て来るので、行くとしたら国境前の街に転移して関所を通って国境を越え、近場の街のギルドから再び転移するという手間がある。
特に遠い場所にあるダンジョンに行くとなると国を幾つか越える必要があるので、その分の手間が掛かってしまって大変だというのも大きいか。
「ケンスケ、どうする?」
スウェンに尋ねられ、剣佑も改めて地図を見た。近場は正直、後回しでも良いと思うが、一番遠い所にあるのが難易度が高すぎるソードダンジョンというのも面倒だ。
次にエラルドが名前を挙げたプリストダンジョンとマジックダンジョンの場所に目を向ける。プリストダンジョンは西の国を一つ挟んだ向こうの国、ペルシン王国にあり、マジックダンジョンは東のグラムハイト王国とヴェルケン帝国の国境沿い……より帝国側に位置しているので、一度帝国入りする必要があるのが面倒だった。
「ケンスケ殿は帝国が苦手ですかな?」
「ええ、まぁ……帝国人は魔剣ルクスリアを金に物言わせて強引に買い取ろうと迫って来る事が多々あって、苦手ですね。フィリアもだよな?」
「……そうね。エルフ族は帝国では希少だからと、真正面から堂々と愛玩奴隷にならないか、なんて言われた時は思わず射殺してしまいそうになったわ」
「ふん、ヴェルケン帝国など、帝国とは名ばかりの成金国家に過ぎんからな。金目の物、珍しい物は強引にでも手に入れたいという人種が多い国だ。皇帝からしてそういった人種なのだから救いようが無い」
どうやらフィリップス王も剣佑やフィリア同様にヴェルケン帝国に対して良い印象を持っていないようだ。
ヴェルケン帝国とは大陸東の海沿いに存在する大陸最大の国家であり、古くは1000年前より小さな国から侵略戦争で国土を広げて来た武闘派国家だったのだが、数代前の皇帝の頃から肥大化した国家の潤沢な予算にモノ言わせた贅沢を覚えてしまい変わってしまった。
今では帝国とは名ばかりの成金国家と周辺国から嘲笑される上に、他国の物でも珍しい物や価値ある物を金に物言わせて強引に買い取るなどして嫌悪されている始末。
「ケンスケさん、実は帝国にある魔弓グラも元々は南東にあるメルベル共和国にあった物を強引に買い取ったという噂です」
「ってことは、今は魔弓グラは使い手が居るんじゃなくて……」
「コレクションの一つとして扱われているとか」
少なくとも他の魔武装である魔槍イラや魔鎧スロウスは使い手がいる。魔槍イラはグラムハイト王国一の槍の使い手と噂される戦士が所持しており、魔鎧スロウスはルーンメイル王国に使い手が居るという噂だが、誰が持っているのかは剣佑も知らない。
「でもそうだな……嫌な所は早急に終わらせるに限るか」
決まった。次のダンジョン調査はヴェルケン帝国にあるマジックダンジョン、かつては魔将と呼ばれた十二将軍の一人が根城にしていた魔法にまつわるダンジョンだ。
「マジックダンジョンでしたら50年前のマップですが複写した物が一枚だけ残っておりますぞ」
それは助かる。前回のビーストダンジョンは現存するマップが80年前の物で劣化が激しく、複写した物も既に無くなっていたから改めてマッピングを一からし直したが、今回はある程度マッピングされた物が用意されているようだ。
「とは言っても、地下3階までしか無い上に所々が掠れてしまっているので、少し使いにくいかもしれないですがな」
「構いません、助かります」
ロードスからマップを貰って懐に仕舞ったところで次にいつ頃に出発するかという話になったが、これが難航した。
何せ場所が帝国、間にグラムハイト王国を挟んでいる以上、行くには二国の入国許可を出すための通行手形を人数分発行する必要があり、ダンジョン調査がルーンメイル王国の国家依頼ともなれば、その為だけにグラムハイト王国とヴェルケン帝国に根回しをしなければならないのだ。
「グラムハイト王国は問題ない。あそこの王とは国際会議で会う度に毎晩朝まで飲み明かす程の仲だからな。だが、ヴェルケン帝国は別だ」
グラムハイト王国は友好国として親交があるのに対し、ヴェルケン帝国とは友好関係にない。そこがネックとなり、通行手形を用意する為の根回しに時間が掛かるのだとか。
「距離があるから使者を送るだけでも時間が掛かる上に皇帝の御機嫌取りに渡す貢物にいくら掛かるか……」
「大使館とか無いんですか? 確かロッテマリン王国やグラムハイト王国などの大使館はありましたよね?」
「あると思うか?」
「……退去したのですね」
「あの阿呆共め、何がルーンメイル王国如き小国、大使館が無くとも問題無いだ!! こちとら中央諸国最大国家だというのに!」
フィリップス王、ヴェルケン帝国の元大使の態度に大層ご立腹の様子。よくそれで戦争にならなかったものだと思うが、戦争になればグラムハイト王国を巻き込む事になるから噴火しそうになった怒りを何とか抑えたのだろう。
「ゴホン! 失敬……とにかく通行手形を用意するには暫く時間が掛かる故、それまで好きに過ごすと良い。準備が出来次第、屋敷に使いを出すのでな」
「わかりました」
事が事なのでギルドとも連携して使者をトランスポーターで送る事になったが、それでも最短で半月、最長でも1ヶ月は掛かる可能性があると言われた。
外交お疲れ様です。と言えばフィリップス王の頬を一筋の雫が流れた気がしたのは、気の所為だと思いたい。
会議が終わって会議室を出た剣佑とフィリアは一緒に出て来たスウェン、アンナと共に騎士団と魔術師団が合同演習をしているという演習場を見学していた。
そこにはクラスメートの姿もチラホラ見かける事が出来て、どうやら元気そうだと安心する。
「んん? 一人、足りない……?」
クラスメートの人数を数えてみたが、何度数えても騎士団と魔術師団に引き取られた人数と合わない。
誰が居ないのかと一人一人の顔と名前を一致させながら数えて行くと、一人だけ居ない人物の名前が浮かび上がった。
「山田! 山田 太志がいない!?」
聡一達にブタ志と呼ばれていた肥満体型の男子生徒、騎士団に引き取られた山田 太志の姿が無かった。
まさか訓練の影響で痩せて判らなくなっただけかと思ってもう一度確認してみたが、詳しく知らない日本人顔の騎士が居ないので間違いなく太志が居ないのだ。
「ああ、タイシか……」
「スウェンさん、山田の奴、何かあったのか?」
どうやらスウェンが何かを知っているようなので訪ねてみると、スウェンは苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべて、やがて溜息を零す。
「あいつなら、脱走したよ」
「は? だ、っそう……?」
「ああ、俺達がビーストダンジョンに行っている間にな。訓練に耐え切れず逃げ出したらしい」
騎士団の過酷な訓練に耐えられず、女子よりも筋力が無いので剣すらまともに持ち上げることも出来なかった太志はショートソードとバックラーを持たせるという特別措置を取っていた。
しかも、軽いはずのショートソードですら1~2回振っただけで筋肉痛を引き起こすほど酷い有様で、毎日泣き言を言って教育係の騎士を困らせていたらしい。
「それで、逃げ出して……何故か冒険者登録をしていたと報告を受けている」
「は? 騎士団の訓練に耐えられなかったのに、冒険者登録を?」
「うむ、なんでも自分には“ちーと”? とかいうのがある筈なんだと、訓練じゃなくて実戦で覚醒するタイプの“ちーと”なんだと、そう言っていたという話だ」
「……馬鹿なのか? いや、馬鹿だったか」
そういえば学校の成績も剣佑が覚えている限りでは小テストだろうと中間テストだろうと最下位だった筈だ。
勉強も運動も出来ず、典型的なオタクで、肥満の上に風呂嫌いなのか髪は常にフケだらけと嫌われる要素ばかりの少年だったが、まさか性格も変に捻じ曲がっていたとは。
「いや、ある意味で真っ直ぐじゃない?」
「そうか?」
「まぁ、フィリアさんの言いたい事もわかります。自分の信じた事だけに一直線という意味では真っ直ぐなんでしょうけど……」
「そういうの、俺の国では葦の髄から天井をのぞくって言うんだよ」
因みに剣佑、中学生の頃の国語の成績は上位だった。剣道バカかと思われる剣佑だが、実は勉強もそれなりに出来るインテリ武道家だったのだ。
次回から3章となります。