異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!? 作:剣の舞姫
異世界転移して3年……クラスメートがクラス転移してきた!?
第7話
「喧嘩と戦いの違い」
日本から異世界に召喚された少年少女達の内、戦えるという事で勇者パーティーになった者達と騎士団や魔術師団に引き取られた者達がいる。
特に旅立ねばならない勇者パーティーですらも最初の1ヶ月程は王都で他のクラスメート達と共にこの世界の文字の読み書きの勉強と戦闘訓練を受けていた。
そもそも武道の経験がある生徒が居なかったので剣はおろか武器そのものを初めて触る者ばかり、握り方から始まって振り方を教えての素振りなどや、魔法を覚える者には王宮図書館に所蔵している魔導書を使った初級魔法の習得と、初日から全員が大忙しだ。
だが、当然そんな訓練にやる気を出せずサボる者も出てしまうのは当然で、特に勇者パーティーは武器の使い方や初級魔法を覚えて直ぐに訓練に出なくなった。
元々、聡一と晴信は日本に居た時から喧嘩が強かったこともあって、他のクラスメートより上だと増長、聡一は剣を、晴信は槍を鉄パイプ代わりにした喧嘩殺法のような戦い方で十分だと豪語しているのだ。
「それで指名依頼ですか」
現在、剣佑とフィリアは王都ギルド本部の応接室のソファーに座り、向かいに座る王国騎士団長スウェンと、魔術師団長を務める宮廷魔術師エラルドから剣佑達二人への指名依頼について話を受けている。
内容は勇者パーティーの4人、特に前衛を務める聡一と晴信をクラスメートである剣佑の手で一度負かして欲しいというものだった。
元より喧嘩が強かった聡一と晴信は、訓練が始まってから何度か行われた模擬戦でも負け知らずで、クラスメート達では相手にならない状態。しかも一般騎士ですら実力の低い者なら負ける事もあり困っているらしい。
流石に騎士団長のスウェンや次期師団長候補のアンナであれば余裕で勝てる程度ではあるが、何かと忙しいスウェンでは頻繁に訓練に顔を出せないし、アンナの場合は女だからと舐められて手を抜かれるという。
旅立ちの日ももう目前、増長したままの状態で旅に出せば邪神復活の前に命を落とすか、再起不能の怪我を負う可能性が高い。王家の影と呼ばれる隠密部隊から人を出して常に監視はするし、いざという時に助けられるようにするが、限界はあるのだ。
「そこでケンスケなんだ。アンナにも勝った実力は確かなものだと知っているからという事もあるが、何よりゴールドランク冒険者という身分は実戦経験という点において信頼と実績が十分にあるという証でもあるからこその人選だ」
「そこまで買って下さるのであれば、俺としては断る理由は無いですね……ところで、俺はわかりましたが、フィリアも指名する理由というのは?」
「うむ、実は生徒さん方の何名かに弓を使いたいという者も居るのだが……騎士団に弓を使える者が居なくてな」
王国騎士団の指定武器は剣、槍、ハルバードの3つ。なので弓を使える者は兵士にしか居ない。
とはいえ、王国兵士団の弓部隊は砦の中から狙撃するという戦い方しかしらないので、弓使いとしての戦い方は本職に教えて貰うのが一番だろうとフィリアが選ばれたのだ。
「それで、この依頼を引き受けて貰えるだろうか?」
「構いませんよ。報酬も十分のようですし、内容も特に問題ありませんから」
「それは助かる。騎士団長から君の話を聞いていたが、やはり聞いていたままだな。話の判る人間のようで助かる」
「お互い様ですよ宮廷魔術師殿」
言いながら剣佑は改めて目の前の宮廷魔術師エラレルドを見た。魔族という種族の吸血鬼タイプの男性、エルフに次ぐ寿命の長さを誇る魔族という種族は色々と大変な種族なのだ。
そもそも魔族とは8000年前に人類と戦った邪神軍の大半を占めていた純魔族の子孫、他種族とのハーフが長い年月の中で交配を繰り返しながら性質変化した種族で、数百年前までは人類の敵の子孫として排斥対象となっていた事もある。
今はそんな排斥という事は無くなり、エラルドも長年ルーンメイル王家に仕える臣下として王族からの信頼も厚い。
因みに魔族の特性として挙げられるのは生きる上で精気を栄養素として定期的に摂取する必要がある点だろう。
吸血鬼タイプなら血液から、夢魔なら夢から、淫魔なら淫行から、タイプ毎に方法は異なるが他者から精気を分けて貰わなければ生きていけないという大変な種族でもある。
「勇者パーティーの旅立ちが10日後の予定で、明日は勇者パーティーが参加予定になっている最後の訓練日、明日の訓練には絶対に参加するよう伝えているからケンスケ殿とフィリア殿も明日の朝、王宮の騎士団訓練場へ来てくれ」
明日の最後の訓練が終われば出発までの間にパーティーなどの催しが開催され、その後は休みを与えてから旅立ち日を向かえる手筈になっている。
「わかりました。では明日の朝ですね」
「頼むよ。ではエラルド卿、帰りましょう」
「ああ、それではな」
二人が帰った後、剣佑とフィリアも受付へ戻って指名依頼を受けた事を報告、屋敷に戻っていつも通りの一日を終えるのだった。
翌朝、剣佑とフィリアの姿はルーン城の騎士団訓練場にあった。以前も訪れた訓練場では変わらず騎士団員が訓練に励んでおり、その中にちらほらとクラスメートの姿も何名か見かける。
「森本と真田、若槻、山田……女子は藤田か」
真面目に訓練に励んでいるようで何よりだと特に話しかける事も無く剣佑とフィリアは騎士団の見知った顔を見かけた為、そちらへ近づいていった。
「騎士アンナ、久しぶり」
「お久しぶり」
「これはケンスケ殿! フィリア殿! 1ヶ月ぶりですね!」
丁度、他の騎士と共に座りながらストレッチをしていた女騎士、アンナ・フォーゲルが声を掛けられて立ち上がる。
「団長からお話は聞いていますよ」
「そうか……因みに騎士アンナ」
「ああ、アンナで結構です」
「じゃあ、アンナ……勇者パーティーはどうだ?」
黙り込んだ。そして非情に渋い顔になった。それだけで言いたい事が理解出来る程度には酷いらしい。
「そのぉ~、なんと言えば良いのか……勇者殿とハルノブ殿は剣も槍も扱いは素人ですが、武器を使った戦闘には慣れていらっしゃるご様子です。ただ、あれを戦闘術と呼んで良いのか疑問ですが……正直に、言葉を選ばずに言うなら、町のチンピラの喧嘩殺法とか盗賊の杜撰な戦闘術とか、そういったものと変わらないかと」
「なるほどな」
「それなのに増長しているって事なの?」
「はい、なまじ喧嘩経験が豊富なのでしょう。それ故に実力の低い騎士には勝てますし、少し上の騎士とも良い勝負は出来ますが、それが余計に増長する原因のようです。自分達は騎士にも勝てるから強い、と……」
増長した結果、態度が横柄になったとの事だ。実力上位の騎士が相手をするから来いと言っても勝負は見えているからと断られ、無理強いするなら邪神討伐しないぞ、と脅される。
「最低ね……」
「完全に調子に乗っているようだ」
これは、少し真面目に叩きのめす必要がありそうだと、剣佑は魔剣ルクスリアを鞘ごとフィリアに預けて訓練用の剣を一本選び鞘に納めたまま腰に吊るした。
その時、ようやく聡一と晴信、それから明日華とめぐみの4人がスウェンに連れられて訓練場に入って来る。
4人とも制服姿ではなく王宮が武器庫から支給した鎧やローブ姿になり、それぞれの武器を持っていた。
聡一は勇者という事で一番目立つ鎧を選んだのか特殊金メッキ加工が施された全身金ぴかのミスリル製プレートアーマーに聖剣マリーメイアを納めた鞘を腰にぶら下げている。
晴信は槍を選んだのかミスリル製の証である青緑色の槍を持ち、同じくミスリル製の青緑色のプレートアーマー姿。
魔法使いを選んだ明日華は制服のブラウスを魔法でピンクに染めて水色のシルクのミニスカートを超ミニで履き、その細い足は白いニーハイソックスに包まれ、鮮やかな赤いローブを纏った姿。更に耳には自前のピアスと首から下げたド派手な金と宝石で彩られた魔法防御ネックレス、手首にもジャラジャラと特殊金メッキの腕輪をいくつも巻き、手に持つミスリル製の魔導杖にも宝石を散りばめている。。
めぐみはサポーターというサポート魔法を専門とする職を選んだようで、同じく黄色に染めたブラウスと赤いミニスカート、黒いニーハイソックスに金糸が入った白いローブを纏い、アクセサリーやミスリルの錫杖には同じく宝石が無数に。
「おお! ケンスケ殿! いらしてたか!」
「ども」
「は? なんで地味男がいるんだよ」
「なんでも何も、最後の訓練日である今日はケンスケ殿にお前たちのお相手をして頂く為にお呼びしたのだ」
スウェンの言葉に訝し気にしていた4人はすぐ小馬鹿にしたかのような表情を浮かべて剣佑へニヤニヤした顔を向けた。
「地味男如きがアタシの彼氏に勝てるとか思ってんの? つけあがんなバァ~カ! ケンドーなんて棒振り遊びしてる程度で聡一に勝てるわけないじゃん!」
明日華だ。相変わらず、明日華は幼馴染の努力を嘲笑い、そして長年努力して続けて来た剣道も棒振り遊びなどと言って愚弄する。
「まぁ、地味男をぶっ倒せばもう訓練終わりで良いんだろ? だったら、さっさと終わらせて遊びに行こうぜ」
「おう! 頼むぜ聡一!」
「カッコイイよ聡一君!!」
「やっちゃえ聡一! 地味男なんてぶっ殺しちゃえ!」
好き放題言ってくれるが、剣佑は何も言わず訓練場のフィールドに立ち鞘から模擬剣を抜くと、真正面に来て模擬剣を肩に乗せながら相変わらずニヤニヤしている聡一に剣先を向けて正眼の構えを取った。
「お得意のケンドーか? そんな棒振り遊びが俺に通用すると思うなよ地味男、明日華もお前は殺しても良いって言ってるからな、死んでも文句言うんじゃねぇえええぞっ!!」
言いながら走り出して剣を振り下ろして来た。とはいえ、その剣筋は余りにお粗末で、速度も遅く、聡一自身の体幹もブレているからか斬撃自体に安定感が全く無い。
だから余裕で回避しつつ剣を持つ聡一の右手の手首を蹴り上げて骨を蹴り折ると、無防備な腹へ鋭く重い一閃を放ち、鎧徹しという技術を使用して衝撃を鎧の内側へ徹した。
「おごっ!? ごげぇええええ!? いっでえええええ!!!?」
「そ、聡一!?」
「う、うそ……」
「な、そ、聡一!? 剣佑あんた、なんてことしてくれてんの!?」
無理も無い。喧嘩殺法が基本の聡一に対し、剣佑は剣道と北辰一刀流剣術をベースに実戦向けに改良した実戦剣術が基本の戦い方だ。
これまで武道や武術なんて未経験で喧嘩しかした事が無かった聡一が、剣道と剣術を長年続けてきて、3年分の実戦経験もある剣佑に勝てる筈が無いだろう。
「よく、この程度で自分が強いなんて思い上がれたな……」
「デ、デメェ……!!!!」
「地味男の分際で!」
模擬槍を持った晴信が怒りに顔を真っ赤に染めながら乱入、剣佑に襲い掛かって来た。その槍にめぐみがエンチャント魔法を掛けて炎を纏わせると、周囲には無数の炎の弾丸が展開される。
「エンチャントファイア!」
「ファイアショット!」
どうやら乱入したのは晴信だけでなく明日華とめぐみもらしい。だから、炎の弾丸を全て斬り捨てて炎を纏った槍を避けると、まずは晴信の後頭部を柄尻で殴り、続いてめぐみの後ろへ走り抜けながらローブのフードを掴んで投げ飛ばす。
最後に勢いそのままに明日華へ接近して足払い、尻もちついた所で眼前に剣の切っ先を突き付けてやれば動きは完全に止まった。
「これが、お前が棒振り遊びだと馬鹿にしてきた剣道をベースに、3年間実戦の中で生き残って来た今の俺の実力だ……無駄に遊んでばかりだったお前たちの喧嘩という名の戦闘ごっこなど、この程度だという事だ」
身体強化魔法も、魔法剣技も使っていない、魔剣ルクスリアを使っていないので武装スキルも使えない完全な手加減の状態でも、聡一達の今の実力では剣佑の足元にも及ばないのだ。
「それまで!」
勝負ありと見たスウェンが試合終了の合図を出した。剣を鞘に納めて冷ややかな目を明日華に向けていた剣佑は直ぐに興味を失ったのか4人には目もくれずフィールドを出てフィリアと雑談を始める。
悔しそうにする晴信、明日華はノロノロと立ち上がってフィールドを出て、同じく悔しそうにしているめぐみは今も蹲る聡一の折れた右手首の骨を治癒魔法で治し始めた。
「ぐ、ち、ぐじょう……!!」
「聡一君?」
「じ、地味男の分際で……っ!! ぜ、絶対に、殺してやる! 絶対に、ぶっ殺してやる……!!」
治療を受けながら顔を起こし、剣佑を睨む聡一の目には、確かな殺意が宿っていた。今まで喧嘩で負けた事が無かった聡一のプライドをズタズタにした剣佑を、いつかその手で殺してやると、殺して隣にいるフィリアをボロボロになるまで犯してから殺すと、そう誓うのだった。
次回はいよいよ勇者パーティーの旅立ち